植物生理生化学特論 第2回講義

さまざまな吸収測定

第回の講義では、解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:NMRでATP の相対定量が可能であることを知った。これを利用すると赤血球の寿命が測定できるのではないかと考えた。赤血球の寿命は約120日といわれているが、取り出してきた赤血球が残り何日で寿命を迎える細胞であるかは判断できない。赤血球内のATP濃度が減少すると赤血球の細胞表層にeat meシグナルが発現することが知られているため、赤血球内のATP濃度が低い細胞ほど残り寿命が短い細胞であると相対的に判断することが可能である。各細胞の寿命が推測できれば、赤血球の分化段階ごとに受容体発現の有無を評価できるかもしれない。

A:赤血球の寿命がATP濃度(つまりエネルギー代謝)で決まっているのを初めて知りました。面白いのですが、やや説明不足かなと。レポートとして求められる最小限の要素は満たしていますが、もう少し膨らませてもよいと思いますし、たとえば最後に出てくる受容体は、背景を知らない読者には何のことだかわかりません。シングルセルのMNRは技術的に極めて困難だと思いますが、その点は気にすることなく論じても許容範囲です。


Q:核磁気共鳴(NMR)について考える。NMRは1H、13C、31Pというようなスピンをもつ原子核に対する分光法のことである。そのような原子核に磁場をかけると、ゼーマン分裂が生じ、電子のエネルギー準位が2つに分かれる。分かれた核スピン準位間のエネルギー差がラジオ波に共鳴する。化学シフトにより分子結合を把握することができる。また、水分含有量、ATPやADPの相対濃度、生体内のpHが測定でき、タンパク質の一次構造が分かっている場合は三次構造を推定することができる。以上のような特徴を持つNMRの応用例として、異物が混入されている場合の検査が挙げられる。睡眠薬や麻薬などの異物混入による事件が起きた際、異物混入の事実確認及び異物の特定が求められる。そうした場合にサンプルを採取し、NMRで検査を行うことで異物の構造を特定し、異物を決定することができると考える。また、食品管理における安全性の評価にも応用できると考える。食品に異物が混入している場合や添加物の有無、加工法など、分子結合の有無から評価することができる。これにより安全な商品を出すことができる。安全性の評価は必要なフェーズであり、NMRの活用が望まれる場面の一つなのではないかと考える。このようにNMRの応用領域は広いが、NMRの普及が必要である。NMRが広く普及させるためには、小型化の検討が必要なのではないかと考える。一般の企業がNMRを採用するには装置が大きいこととコストの問題が生じる。小型化によりコストも軽減できるので、これらの問題を解消できると考える。小型化に対応するために試作品をたくさん用意し、それらが十分に性能を満たしているのか実験を行う必要がある。まず、従来のNMR装置で用意したサンプルの解析を行う。次に試作品で同じサンプルの解析を行う。このときの結果を比較し、同様の結果が得られることを確認する必要があると考える。
参考文献:1. 日本分析器工業会, 核磁気共鳴装置の原理と応用, 2012, https://www.jaima.or.jp/resource/jp/basic//pdf/basic_17.pdf

A:まず、この講義のレポートとしては、「以上のような」より前に書かれている講義内容を繰り返した部分は評価対象外なので必要ありません。内容に関して言えば、求められるのは論理性です。異物混入の特定、異物の構造決定にMNRを使える、ということ自体はよいのですが、なぜ使えるのか、他の方法に比べてどのようなメリットがあるのか、という点を説明しないと、他の方ではだめなのかどうかがわかりません。装置の小型化に関しても、「小型化しても性能は必要である」ということは自明な気がしますから、もう少し、考察を深めてほしいと思います。


Q:第2回の講義では様々な吸収測定と光を用いない分光法について学んだ。私の所属する生体分子集合科学研究室では紹介されたほとんどの測定技術を合成した化学物質の同定やマテリアルの評価に用いてる。1H-NMRの場合、測定によって得られるスペクトルを図1に示す。図1は実際に自身で測定したデータでありBocK3COOHと呼ばれる物質のスペクトル図である。NMRでは横軸は化学シフトとなり、縦軸はピークの相対強度である。化学物質の同定を行う際には化学シフトとピークの積分値を考慮することでプロトンを基準に化学式を考察する。主にピーク面積が水素原子の数、ピークの分裂数が隣接する水素原子の数を示し、化学シフトがその原子の電子的環境を示す。具体的には化学シフトが小さい方が電子リッチである。NMRの測定における溶液中の化学物質の同定にはNMRのピークの解析が有効であるが、実際にはある程度の構造が分かったうえで帰属を考えるのが一般的である。この点においてNMRのみによる物質の同定には限界がある。そこで、赤外分光法などと併用することで化学物質の同定を確実にできると考える。赤外分光では主に官能基の同定を行うことで、より容易にプロトンを基にした化学物質の同定を行えると考える。実際にBocK3COOHの構造式と図1に示したピークからの帰属を対応させて図2及び図3に示す。図2及び図3ではピークと帰属を対応させてある。同定する物質がある程度予測できた中でこれを行うことで帰属を決定できる。物質の構造や組成が特定できない場合は分光法ではないが、マススペクトル(質量分析)などを行うことで分子量を確定させ、NMRと組み合わせることで組成を決定できる。実際には既に存在するデータベースを参照することでも同定が可能である。こうした背景を考慮すると物質中の水分量をプロトンから推察するという講義内で紹介された手法を理解できる。H2Oは極性分子であり、プロトンの存在がスペクトルに反映されるNMRではH2Oの電子的環境に依存した化学シフトの位置に特異なピークが出現することからサンプル中の水分含有量を推定することができると考える。(園池注:元のレポートに掲載されていた図はここには転載していません)

A:実際の解析例の紹介として一般的にはよいレポートだと思う一方で、この講義のレポートとしては、論理的な展開にやや欠けるように思います。できたら、一般論ではなく、何か自分なりの独自のアイデアに基づいたロジックでレポートをかけると、高く評価することができます。


Q:『さまざまな吸収測定』で紹介されていた分光器の設定項目の一つ、レスポンスについて理解したい。講義で、レスポンスは時間分解能に関わるパラメータとして紹介された。講義とほぼ同様の内容であるが、『光合成の森』での説明によると、レスポンスとは、信号の変化にどれだけ早く追随するかの指標であり、レスポンスが速すぎるとノイズが大きくなり、レスポンスが遅いと信号が変動した時の見かけ上の変化が小さくなる。ここで、レスポンスの値が何の値でどのようにデータに関わるのか、調べた限りでは分からなかったため、以下の2通りの予想をした。一つは、レスポンスとは測定の時間間隔を表しており、測定の時間間隔を狭めれば時間分解能と応答性が上がり、時間間隔を広げれば小さな変動が反映されずノイズが減るという考えである。この方法が取られていることを確かめるならば、レスポンスだけを変えてスペクトル測定を行い、データのポイント数が増減するかどうか調べれば良い。もう一つは、そもそも原理上検出される信号が実際の光量の変動に完全には追いつかず遅れるものであり、ソフトウェアで追いつかせる補正を行っていて、レスポンスはどれくらい追いつかせるかを表す数値である、というものである。この場合、あるピークについて、測定値が上昇する場合は速く上昇する補正が行われ、下降する場合は速く下降する補正が行われるため、ピークの山や谷は全体に左側(測定開始側)にずれると考えられるので、レスポンスのみを変えた測定で山や谷の位置の変化を見ることで確かめられる。
参考:園池公毅. “生物試料の分光測定”. 光合成の森. 2017.7.20 https://www.photosynthesis.jp/proto/bunkou.html (2022.4.24)

A:自分ではあまり考えたことがありませんでしたが、このレポートを読んで、もともとのレスポンスの概念は、アナログの電気回路に基づいていることを認識しました。昔の記録計(レコーダー)というのは、電圧信号をペンの位置に置き換え、記録紙を一定の速度で送ることにより、シグナルの時間変化を記録するものでしたが、その際に、回路の抵抗値などを変えることにより、シグナル変化に対するペンの位置変化の追随速度を変えることができました。これがもともとのレスポンスですね。近年は、このようなアナログ的な方法も一部で残っている一方、デジタル(離散的)に取り入れた信号を後から一定の測定点数ごとにまとめて平均化することによりノイズを減らしている場合もあります。


Q:私は現在理工学基礎実験のTAを担当しており、合成したナイロン66を確かめるために赤外分光法を用いる。本講義でも紹介されたように赤外分光法は分子の振動と回転を観測することにより、化合物の各原子の結合状態を情報として得ることができる。しかし赤外分光法だけではナイロン66を断定するには甘い条件ではないだろうか?もちろん基礎実験室にはナイロン66が示すべき観測結果が示されているが、赤外分光法だけではナイロン66が合成できたと断定することは難しい。並行して、合成したナイロン66と市販のナイロン66の引張強度試験も行なうが有効数字1桁で計算するため当てにならない。私の研究室で赤外分光法は一切使わないが、有機化学系研究室では合成した有機化合物を特定するために赤外分光法のほかに、NMRなどを同時進行すべきなのではないだろうか?実際に確認するとガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ、NMRを駆使することによって生成した有機化合物の混合物を適切に分離しながら特定できるようである。また化合物の構造を特定するために質量分析も使用されていた(『有機化合物の成分分析』http://tri-osaka.jp/kankou/news/No54/K2.html)。一方で観察したい有機化合物が芳香族であることが分かっていたりした場合、赤外分光法によって官能基の種類や結合位置を考察することは容易であるように感じる。

A:ある程度考えていて視点もしっかりしていてよいと思いますが、話の流れとしては、疑問に思ったことをWEBで調べてみました、という形になっているのが少し残念です。WEBで調べた内容について、少しでも自分なりの論理を使って議論できるともっと良いレポートになるでしょう。


Q:今回は、通常の分光光度計による測定では難しい条件での吸光度測定における工夫と、光を使わない分光法について例を学んだ。自分は、あるヒスチジンキナーゼの野生型と変異型の自己リン酸化活性を比較することを計画している。おそらくSDS-PAGEによってリン酸化しているものとしていないものを分離し、染色して色の濃さを比較することになるだろう。しかしこれでは微小な違いを検出できない。そこで、赤外分光法を利用できないだろうか。赤外分光法でリン酸化ヒスチジンキナーゼと非リン酸化ヒスチジンキナーゼの量比、もしくはATPとADPの量比を定量的に比較することは不可能ではないように思われる。問題は、新たに赤外分光分析装置を買うコストに合わないことだろう。

A:コストもさておき、このレポートの眼目は赤外分光によるリン酸化の検出だと思います。そうであれば、リン酸化が赤外分光にどのように反映されるはずだと考えるのか、という自分なりの考えをレポートに書くと高く評価できるレポートになります。


Q:今回の講義を視聴して、ストップト・フロー分光法が代謝工学の分野で有用なのではないかと考えた。具体的には、吸光スペクトルによって検出できる物質を合成する場合に、酵素の適切な混合比を調べる過程を効率化できるのではないかと考えた。ストップト・フロー分光法は酵素の反応速度の測定などに利用される分析法であるが、高感度であり必要とする試料量が少ないとされている(大西, 1986)。代謝工学の分野ではプロトタイピングとして、in vitroで代謝経路の酵素と基質を混合し、各酵素の量を振ることで適切な混合比を調べることがある。このプロトタイピングでは手作業で酵素や基質を混合する場合、詳細に検討しようと考えると、混合する酵素の種数だけ検討するべき条件が増え、時間がかかる。そこで以下のようなストップト・フロー装置を用意することで、酵素の適切な混合比をより効率的に調べることができるのではないかと考えた。まず試料を混合するための管を、混合したい酵素の種数と基質の合計だけ用意する。そして各管の流量を調整することで、溶液が混合される管における酵素の混合比を設定する(ただし液体の流速が変化しないようにする)。最後に分光光度計を使用して生成物の生成速度を測定する。この装置では酵素の流量の調整や吸光度の測定を、コンピュータ制御で自動化する。このような装置があれば酵素や基質を各管に投入するだけで酵素の混合比を振ることができ、効率良く酵素の混合比ごとの生成物の生成速度を調べることができるのではないかと考えた。
参考文献:大西正健, ストップトフロー分析法, 化学と生物, (1986). https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/24/8/24_8_550/_pdf/-char/ja, (2022年4月13日閲覧).

A:なるほど。僕は一読して納得してしまいました。うまく使えば、確かに混合比を連続的に変えることにより一測定で条件設定が完了するように思います。ただ、酵素反応のメカニズムではなく、反応速度を求めるだけであれば、時間分解能はそれほど必要ないと思いますので、いわゆるストップトフロー装置を使わなくても、HPLCの流路につけるような普通のUV可視検出器でも十分なのかもしれません。


Q:入射スリットと出射スリット:出射スリットの幅が狭い方が純度の高い特定の光を取り出すことができるとありましたが、入射スリットと出射スリットとの間のプリズムもしくは回折格子などに、特定の波長の光のみを通すフィルターのようなものを設置すれば、さらに特定の光のみを取り出すことができると考えました。また、フィルターを置くことにより、入射スリットが広くなっても特定の光を取り出すことができると考えました。
 NMRで得られる情報:NMRでは、タンパク質の一次構造が分かっていれば三次構造の推定が可能とあるが、1次構造からNMRによって推定、特定することができれば、情報0の段階からタンパク質の3次構造を推定することが可能であると考えました。そのためには、まずプリンとピリミジンの判別ができるようになり、塩基の識別ができるようになると、1次構造を分析することができる。

A:前半については、スリットの代わりにフィルターを置くのであれば、そもそも回折格子が存在する必要がないのではないでしょうか。後半については、よく意味が取れませんが、もしかしたら1次構造と核酸配列を混同していませんか?


Q:今回は様々な要望に対する測定技法や磁場でスペクトルを測定するについて学んだ。サンプルに対して酸化剤などを加え、それによって引き起こされる微小な吸収スペクトルの変化を測定する方法について、通常は溶媒をリファレンスに置くが、それを試料に置き換えるという手法を取る。これは本来見たい変化が微小であるために、吸収スペクトルが大きく異なるリファレンスよりも同じスペクトルを持つ試料をリファレンスに置くことで相対的に変化を大きくすることができるという手法である。しかし測定したい株によってはダマになりやすいものもあり、それらは同じ試料としてリファレンスに設定した場合でも光の散乱によってリファレンスとしてうまく機能しない可能性が考えられる。そのため適切なリファレンスの設定として、様々な段階に希釈した試料の測定を行い、そのスペクトルを解析、調整することによって人工的にリファレンスとしての吸収スペクトルを合成することで行うことができるのではないかと考える。希薄試料で得られたスペクトルを基準とし、一定以上の「ダマになる」現象が起きやすいと考えられる濁度で得られたスペクトルから希薄試料のスペクトルを差し引くことで不均一性がスペクトル上のどの位置にどのように表れてくるのかを解析する。それらのデータを加味したうえで近似スペクトルを描くことによって、対象の試料の不均一性によるノイズを考慮したリファレンススペクトルを得ることができ、これをリファレンスとして測定することで微小な変化を解析できるのではないかと考える。ただし問題点として、このリファレンスデータを作製するためにはかなりのサンプルのn数を稼がなければ近似スペクトル自体がかなりの誤差を生み出す原因になってしまう点や、サンプルは測定タイミングごとに変化していくものなので近似スペクトルを作製したとしても基本的にはその測定にしか使用できないといった点が挙げられるため、もし行うのであればこれらを行うためのマクロを事前に組んでおき、迅速に実験を行う必要がある。

A:着眼点はユニークで面白いと思います。ただし、僕の経験上、不均一な試料を苦労して測定するよりは、同じ苦労を試料が不均一でなくなる方法の開発に向けた方が、最終的には得になると思います。


Q:本講義において引っかかりを覚えた点が1点あった。それは、低温での吸収スペクトルの測定である。本講義において説明していた「低温」は、液体窒素温度の-196℃と説明されており、この条件下では吸収スペクトルを測定するために溶かしている溶媒が凝固してしまい、測定できないもしくは測定できたとしてもノイズが生じてしまうのではないかと考えた。溶媒として液体窒素をそのまま利用するためにはクロロフィルを精製する際に、クロロフィルそのものだけを取り出すことは不可能に近く、必ずバッファーなどの液体とともに溶出すると思われる。そのため、クロロフィルをアセトン沈殿・濃縮エバポレーターにより固形物質として析出させるという案が考えられる。しかし、空気中に存在する水蒸気がクロロフィルを液体窒素に入れる際に氷となって付着してしまう可能性があるためノイズが発生してしまう。もう一つの考えとしては、クロロフィルの入った溶媒と、クロロフィルの入っていない溶媒をブランクとして取り、両者をよく混ぜ合わせた状態から急速に凍らせるというものだ。このことにより、両者の条件は試料が入っているか、入っていないかのみとなり評価することができるのではないかと考えた。
 NMRによりタンパク質のアミノ酸配列から、アミノ酸残基の相互作用を検出し、3次元構造を推定することが可能という点に興味を持った。しかし、現在の技術ではNMRでは小さいタンパク質で測定するにとどまっている。タンパク質は分子量が大きいものが比較的多く存在することから、何とか工夫して分子量の大きいタンパク質の3次構造の推定もしたいと思った。私は分子量の大きいタンパク質を測定することができない理由として、大きすぎると測定を行った際に3次元構造が複雑になり、相互作用のないアミノ酸残基が構造の関係で偶然近くにあるものまで相互作用があると勘違いしてしまうことが原因となっているのではないかと考えた。そこで、タンパク質をトリプシンなどの消化酵素でペプチド断片にしてから測定を行うことにより、小さい範囲のアミノ酸相互作用は測定することができるようになると思われる。また、他の消化酵素で同様に測定を行い、データをまとめるとおおよその構造は見えてくるのではないかと考えた。しかし、この方法では配列の離れた部分での相互作用は見ることができないため、不完全だと思われる。
参考文献 1.“水といくつかの物質のデータ比較表”http://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/Physicaldata_water.pdf (2022/04/23)

A:後半については、基本的にその通りだと思います。前半については、あまり講義できちんと説明しませんでしたが、よくやる方法は、試料(バッファー)に最終濃度60%のグリセロールを添加することにより、液体窒素で凍らせた際にガラス化させるというものです。実際にはそれでも、固化した試料に亀裂が入ったりしてノイズの原因となることもありますが、うまくやれば、かなり透明な状態で測定が可能になります。


Q:今回の講義で室温よりも低温のほうが吸収スペクトルのピークがシャープになることを習った。しかし、例えば液体窒素下のような低温での測定結果には注意する必要があると考える。なぜなら低温下では試料中の水分が凍ることで、タンパク質の立体構造が破壊される可能性があるからである。よって低温下で現れた新たなピークは試料中のタンパク質が変性した結果の可能性がある。この可能性を考慮して、低温下で測定した後に再度室温下で吸収スペクトルを測定し、低温下前の室温における波形と比較して確認する必要があると考える。

A:なるほど、これは短いけれどもきちんと考えているので評価できます。凍結によるタンパク質の変性は、小さい水溶性のタンパク質ではそれほど大きな問題にならないことが多いとは思いますが、確かに無視できない影響を与える可能性は考慮すべきだと思います。


Q:NMRについて取り上げる。NMRは固定することなく生体試料内の計測、タンパク質の三次構造などの構造解析からATPの相対濃度の測定、pHの測定まで行えるため、固定することなく実際の生体内と同様の状態で測定できる点で、生体試料や生体分子の解析、測定において万能であると考えられる。しかし、実際生体分子に関するデータにNMRを使用した例はあまり多く見かけない。そこで、自分はNMR計測にはなにか欠点があると考え、それについて疑問を持った。三森文行氏の核磁気共鳴法を用いた生体計測という総説では、in vivo NMR法のさまざまな限界要因について記載があった。中でも、“NMRが宿命的にかかえる感度の悪さにより,測定にかかるのは生体内に~1 mM程度以上存在する主要代謝物に限られる”という点が大きな問題であると考えており、微量で生体内に存在する分子に関しての測定ができず、NMRの測定ではある程度情報が得られている分子に対してのみ有効であることが欠点であると考えられる。よって、NMRはMRIなどの生きたままプロトンによって水分含量を測定することで人体の内部構造のイメージングには適しているが、ATPやpH、未知の生体分子の測定に関しては試薬を用いた発色による解析の方が適していると考えられる。

A:調べた結果に、短いながら自分の考えを付け加えているので、この講義のレポートとして条件はクリアしています。総説を引用した場合には著者名だけでなく、書誌情報をつけてください。


Q:MRIが吸収測定をイメージングしたものだと初めて知り驚いた。MRIと並び体内の造影に用いられる技術としてCTがある。CTは体の周囲からX線をあてて、体の中の吸収率の違いをコンピューターで処理し、体の断面を画像にする[i]ものである。MRI同様吸収測定を応用した技術であるものの、CTはX線を用いることを知った。胸のレントゲン撮影を健康診断でするとき、X線源あるいはX線検出器が具体的にどこにあるのかはわからないが、機械で上半身を挟まれるのでおそらく撮影対象である身体からかなり近い距離にあると推測する。対してCTスキャンの場合、レントゲンとは違い機械が身体と接触しているイメージはない(実際にCTを撮ったことはないので不明ですが、、、)。X線源、撮影対象、検出器の間の距離について考察することにした。CTスキャンの場合X線はX線焦点から放射状に広がる。撮影対象よりもX線が広がってしまった場合、撮影対象を通る線量が減ってしまうのでS/N比が小さくなってしまうと考えた。同様に生体内を通ったX線が検出器設置範囲から外れてしまっては画像に反映できる情報量が減ってしまう。またX線焦点が大きいとある一点に複数の方向からX線が入射する可能性がある。この場合、像を結ぶ際に精度が落ちるのではないかと考えた(入射スリットの幅の話から)。上記を鑑みて、撮影対象・撮影部位・画像に求める詳細さに応じてX線源、検出器の位置を移動できることが望ましいと考えた。CTスキャン機の身体と接触しない構造はX線源、検出器の位置を可変にしておくためのゆとりのためなのかな、と思った。胸部レントゲン撮影の場合は、X線源を対象の近くにおくために詳細な画像が得られないことを、確実にX線を照射することで大きくなるS/N比、解像度でカバーしているのかなと思った。
[i] がん情報サービス、“CT検査とは”、国立研究開発法人国立がん研究センター、https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/ct.html、4/24/2022閲覧

A:僕もレントゲン検査に詳しいわけではないので、よくわかりませんが、X線源と言っても、その指向性は様々なのではないでしょうか。レーザーのような線源ではなくても、ある程度の指向性があれば、「精度の落ち」をそれほど心配しなくてもよいのかもしれません。


Q:「さまざまな吸光測定」においてストリークカメラおよびそれによって取得される時間分解過渡吸収スペクトルのデータの紹介があった。ストリークカメラにおいて吸収スペクトルの時間的変化の時間軸として、電子の軌道を電場をかけることで徐々に曲げ、到達点をずらすことで取っているものであるが、最終的には蛍光面を用いて光に変換した上でイメージインテンシファイヤによる明るさの増幅が行われたものをデータとして取得する仕組みであり最終的に得られるのは光である。そのため、その光を取得する直前にさらに光の飛ぶ位置を引き離すことが可能になれば分解能を向上させることができると考えられる。具体的には一定速度で回転する鏡を挟み、ストリーク像の時間軸を縦に引き延ばすことで分解能を向上させることができると考えられる。

A:面白いところに目をつけていると思います。ただし、蛍光には指向性がなく、基本的には色素から四方八方に光が出ますから、輝点から距離を置けば置くほど位置情報が失われてしまいます。そのことを考慮に入れると、このレポートのアイデアを実装することは極めて困難だと思います。


Q:本授業では吸収測定を行う上での、サンプルに対する適切な各種パラメータの設定と、光を用いない特殊な測定方法について学んだ。その中で、ストップド・フロー分光法について論じたいと思う。この分光法は化学反応による吸収の変化を高感度で測定できる点にあるが、試料の混合から観測セルまでに反応は進み、観測セルに混合溶液が到着してからシグナルが安定するまでに時間があり、実質的な測定までに不感時間が存在するのが問題となっている[1]。前者の溶液の混合器から観測セルまで移動する間に反応が進む点について、混合器と観測セルを一体化することで解決できるのではないかと考えたが、実際にそのような機構を持つ装置が確認できなかったため、この理由を考察する。このストップド・フロー分光法は名にもあるように、混合した溶液の流れを急激に停止させた直後に反応観察することで、反応経過をリアルタイムで記録することができる。それを混合器と観測セルを分けずに行うと、溶液の流入の停止が迅速に行われず、混合にムラが発生する可能性がある。それを観測セルに混合液が流れ込む形をとり、流入をセルで独立して行うことで混合されていない溶液が観測セルに混じるのを防ぐことができると考えられる。また、混合液のムラを防ぐために搭載した混合器のミキサーの存在により、光の散乱、吸収が起こり、正確なデータが得られないと考えられる。
[1]ストップト・フロー法を用いた速度論測定 - 日本蛋白質科学会,https://www.pssj.jp/archives/protocol/measurement/StoppedFlow_01/StoppedFlow_01.html

A:混合の均一性が問題になるという点は、その通りだと思います。あと、原理的には流路の長さを変えることにより、異なる時点での反応を観察できるという可能性もあると思います。これは、実際の機械がどのように実装されているのかにもよりますが。