植物生理生化学特論 第9回講義

植物の低温感受性

第9回の講義では、植物の低温感受性について、まず動物との環境応答の戦略の違いについて考えたのち、凍結障害と低温障害の違い、そして、低温障害を解明していくための必要条件などについて解説しました。


Q:冬野菜は寒さに晒されると、スクロースやアミノ酸合成が促進される。針葉樹などの越冬植物も冬は葉内に含まれる可溶性炭水化物量が急激に増加することが知られている(Adams et al.2001.2002)。こうした炭水化物の蓄積は低温下で生存する植物にとって、生体内の保護に繋がっていると考える。本講義を聞いて、数時間の低温下ではホウレンソウの光合成速度が低下しなかった理由について糖の蓄積の観点から仮説を立てた。ホウレンソウの葉をcold-girdlingによって葉柄に冷処理をすると転流が阻害されて、葉の炭水化物含量が増加することが報告されている(Krapp.1993,1995)。このように、低温に晒されるとホウレンソウは葉に糖を溜め込むメカニズムが働き、師管における糖輸送の阻害から、従来の光合成速度を上げなくても必要量の糖を生成するために現状の光合成機能を保護・維持することで低温耐性を獲得していると考える。

A:温度変化による転流の自動調節というアイデアは面白いですね。ただ、その場合、お天気が悪くて(もしくは温度が低すぎて)あまり光合成ができないときには、保護されないことになりませんかね?


Q:今回の講義では、植物が低温に晒されることで細胞が破壊されてしまう事や細胞内の酵素活性が低下することを防ぐための仕組みを学んだ。特にサゼンソウの肉穂花序が発熱する仕組みについては興味を惹かれた。肉穂花序は有機物を分解する事で、発熱をしているという事であったがその有機物源はどのようにして得ているか疑問に思った。受粉前の状態も発熱するということは、発芽の為の栄養となる有機物も残す必要があるはずである。つまり、ザゼンソウは気候が寒冷化してからあるリミットまでに受粉できなければそこで枯れてしまう事を良しとして有機物を利用しているか、それとも授業で見せられた花弁と肉穂花序が見えている状態においても光合成を行い有機物を合成しているという2つの仮説が考えられる。そこで、それを確認する実験手法も考える。鉢植えで育てたザゼンソウを二種用意し、箱に入れる。片方は自然界における気体の割合で空気を供給し、もう片方には二酸化炭素を含まない空気を供給する。これらを、低温環境下に置き数日栽培する。その後、肉穂花序内の有機物量を測りその差を見る事で、この2つの仮説のどれが正しいのか、それとも2つとも間違っており別の真実があるか確かめることができるのではないかと考えている。

A:ザゼンソウが花を咲かせるのは、まだ雪が残っているような季節ですから、光合成でバリバリ稼ぐことはいずれにしてもできないでしょう。ただ、ザゼンソウのような多年生の植物は、根に光合成産物を蓄積しますから、基本的には、根からの有機物供給に頼っているのだと思います。


Q:今回は植物と温度の関係性についての講義であった。植物はそれぞれ生育するのに最適温度というものが存在すると思われるが、昼夜の環境変化などにより一日の中で気温が大きく変化することが考えられる。では、動物のようには動くことができない植物はどのようにして昼夜の温度変化に対応しているのだろうか。ひとつとしては温室植物のように物理的に温度から守る方法である。ただ、そのような構造を持っていない植物はどうしているのだろうか。候補の一つとしては概日時計機構による遺伝子の発現調節である。概日時計の特徴の一つとして温度補償性が挙げられ、概日リズムの周期のQ10の値が1に近いことが知られている。そのため、概日リズムは気温の変化の影響を受けにくいと考えられる。また、概日時計機構の役割としては環境の変化を予測して遺伝子の発現の時間のピークを制御できることである。例えば、高温に対する働きを持つ遺伝子の発現は昼にピークを示し、夜には低温に対する遺伝子の発現が上昇するということが考えられる。このように概日時計を介した温度ストレスへの適応に関するシステムというものが環境変化に対する植物の生存戦略なのではないだろうか。

A:面白い考え方でよいと思うのですが、温度の日周変動はかなり不安定なのではないでしょうか。だからこそ、概日時計の調節も光を使っているわけですし。明け方に最高気温が記録されることもしばしばありますから、概日時計に頼って温度変化を予測するのは、かなり危険が伴うような気がします。


Q:講義内において、Uncoupling proteinというタンパク質が紹介された。このタンパク質は、電子伝達系によって形成された膜間のプロトン濃度勾配を、解消(浪費)する働きを持ったタンパク質である。講義では、このタンパク質は、ATP合成を阻害するが、一方で化学エネルギーを熱エネルギーに変換することができるため、熱産生の目的で使用される、という事を学んだ。私は、講義内では触れられなかったが、このUncoupling proteinが、熱産生以外の目的でも使用される可能性があるのではないか、と考えた。例えば、植物において、低温ストレスにより光化学系と炭素同化にアンバランスが生じた場合に、そのアンバランスを解消するために用いられることはないだろうか。低温ストレス環境においては、炭素同化の速度が低下し、光化学系が過剰に働いてしまうことになる。しかし、この状態においてUncoupling Proteinを発現すれば、光化学系が過剰に吸収してしまったエネルギーを熱として浪費し、アンバランスを解消できるのではないだろうか。

A:考え方としては十分にあり得るでしょう。ただし、現実には、植物の多くが、過剰なエネルギーの存在の指標としてプロトンの濃度勾配を利用しているので、濃度勾配を解消してしまうと、本来濃度勾配によって引き金を引かれるはずの保護メカニズムが作動しなくなってしまいます。


Q:今回の講義内で植物の寒冷適応の一つである温室植物の話題があった。その温室植物でもセイタカダイオウはとびぬけて大きかったが、なぜ温室植物の中でもセイタカダイオウは高くなったのかを疑問に思ったので考察する。まずセイタカダイオウの写真を見ると、特徴である白い葉が幾重にも重なっていることが分かるが、この葉は互いの隙間を埋めるように交互についており、明らかに熱を逃がさないようになっており、蓄熱を重要視した構造であると考えられる。であれば背が高い理由を熱の保持の観点から考えると哺乳類におけるベルクマンの法則と似た理由があるのではと考えた。哺乳類は寒い地域では熱の放散を抑えるために体積当たりの表面積を減らす、つまり体を大きくして熱を保持しているが、これと同じように内部の空気の体積当たりの表面の葉の面積を減らし、放熱の割合を減らして温室効果による蓄熱を最大限に活用するための進化の結果としてあのように非常に高くなったのではと考えた。もちろん背が高いと花が多数つけられることなどのほかの理由も考えられるが、熱を保持することを重点的にしているといえるあの構造からはこのような理由が一番理にかなっていると考えずにはいられない。

A:非常に面白い考え方ですね。ただし、同じ形であれば、大きい方が表面積の割合が小さくなりますが、セイタカダイオウのような円錐形の形は、あまり表面積を最小化しているようには思えません。表面積だけを考えるのであれば、もう少し丸くしたほうがよさそうですが。


Q:今回は植物と温度について学んだ。発熱したり温度を変えるというのは動物のみであると思っていたのでスイレンなどの一部の花が発熱することには驚いた。この現象は虫をおびきよせるためとなっていたが、もしそうであれば虫媒花である植物の花はすべて発熱する仕組みを取り入れても良いのではないかと考えた。なぜ一部の花だけなのだろうか。この理由としてスイレンは花が水面に浮いているからではないかと思った。常に水面にあるが故、日光により温められても他の植物よりも冷えるのが速いと予想する。また虫にとっても水に濡れてしまったり水中に落下するという危険性もある。従って水面に浮いているスイレンは少しでも虫をおびき寄せられるように発熱するという仕組みを持っているのではないか。

A:水面という環境に着目したのは面白いと思います。その場合、水は比熱が大きいですから、水がない環境に比べて温度がどうなるかは、よく考えなくてはいけないでしょう。また、本当に虫をおびき寄せるためなのかどうかについては、議論があるようです。


Q:今回の講義で、移動できない植物は基本的に外部温度と体温が同じであり、その変化する温度に対して植物体を変化させて適応させているということであった。しかし例外もあり、スイレンやザゼンソウは脱共役剤の働きによって花が発熱しているという。またセイタカダイオウは花を白い葉で覆うことによって温室のようにし、中の花の温度を上げているそうだ。ここでなぜセイタカダイオウは白い葉で花を覆うのか、緑にした方が光合成もでき、さらに白よりも熱を吸収しやすいのではないかと疑問に思った。セイタカダイオウの白い葉は柵状組織や海綿状組織がなく、上下の表皮の間に少量の細胞が散らばっているという造りをしている。細胞をつくるには光合成でつくられた糖ももちろんだが、様々な栄養塩も必要である。そのため細胞をつくるには多くのコストがかかるということである。ゆえにセイタカダイオウの白い葉は光合成をする緑の葉よりも低コストでつくれるというメリットがある。セイタカダイオウが生息しているのは高山であり、光も弱い。そのため高コストで光合成ができる葉をつくっても十分に光合成ができるとは限らない。それならば低コストで花の覆いとしてだけの葉をつくった方が無駄がなかったのではないであろうか。さらに細胞と細胞の間に空間があれば保温効果も期待できる。そのため高山に生息しているセイタカダイオウの花は緑の葉ではなく白い葉でおおわれているのだと考えられる。

A:目の付け所がよいと思います。あと、もう一点考えるべきなのは、おそらく必要とされているのは内部の花の近くの温度であって、覆いの葉の表面温度ではないという点です。葉が緑色の場合は、確かに光の吸収は上がるかもしれませんが、内部に光が入らないため、表面温度は上がっても、内部の温度が上がるとは限らないように思いますから。