植物生理生化学特論 第8回講義

植物と水・温度

第8回の講義では、導管を通した蒸散の仕組みと、発熱する植物や温室植物について紹介しました。


Q:今回の講義でエンボリズムによる植物の分布制限の話があった。エンボリズムは導管径と負の関係があり、逆に生産性と導管径には正の関係がある。現状は生産性を捨てて導管径を細くすることで対応する、また冬季に葉を落とすことによって対応する方法がある。そのため、寒冷地域には針葉樹、もしくは落葉樹が多く分布していると講義で説明があった。しかし、生産性を失うことは成長を遅らせ、全くもってメリットはないため、生産性を保ちつつエンボリズムに対応する方法を考えたい。ここで理想の状態とは、常緑広葉樹且つ導管径が大きいという事である。1つ目の対応策としては、導管を2種類用意するという事である。片方は大きく、片方は小さくし、温度感受的に開閉を行える弁のようなものを付ければ、温度(季節)によって使い分けを行え、生存かつ成長に適応し得るのではないだろうか。2つ目の対策方法としては、導管を絞る機能があれば解決できると考えられる。導管周囲の組織を、水圧によって大きくしたり小さくしたりできるようにし、導管内の水の移動を圧力のみではなく物理的に絞ることによる空気の押し出し(運搬)を行うことができれば、そもそもエンボリズムの心配をする必要がない。感知としては空気感受センサーがあれば事足りる。以上が今回の講義を受け自身が考えたことである。

A:これは面白いですね。対策の一つ目は導管作成コストが倍以上かかるけれども、なにか非常に特殊な環境の植物に見つかるかもしれない希望があるように思います。二つ目の対策の方は、なんとなく動物的な感覚で、あまり植物は採用しそうもない気がしました。


Q:葉が濡れた状態で光があたるとルビスコ量が半減することがわかった。こうしたカルビル回路機能の低下に伴い、過剰な還元力が蓄積されることによって活性酸素を生じると考えられる。活性酸素が生成された場合、光化学系Ⅰの電子受容体として働く鉄硫黄クラスターが破壊され、光化学系Ⅰが阻害される。しかし、実際には光化学系Ⅱと光化学系Ⅰの活性は雨処理後も変わらず、シトクロムb6f複合体の阻害が示唆された。このような結果から、濡れた葉(光があたる条件)ではルビスコ量の半減に伴い、過剰な還元力から活性酸素が生成されることを防ぐため、P700酸化システムが働くことで光化学系Ⅰを保護しているのではないかと考える。つまり、雨処理後も正常な光化学系Ⅱからの電子伝達により、プラストキノンが還元されることで起こるRISEと、チラコイド膜のプロトン濃度勾配の形成を促すことでシトクロムb6f複合体の活性が低下したと考える。従って、雨処理後の全電子伝達系の活性が低下した原因は、活性酸素の生成を抑えるためのシトクロムb6f複合体の活性抑制であると考える。

A:植物の低温感受性の話は、これからやる予定ですが、光化学系Ⅰの光阻害は、低温と間欠光以外のストレスでは報告されていないと思います。一般的に、ストレス条件下では活性酸素が生成するにもかかわらず、低温と間欠光だけで光化学系Ⅰが阻害されるとしたら、それはなぜなのか、まずその点を考える必要があるでしょう。


Q:今回の講義のテーマは「植物と水」であった。一番衝撃を受けたのは、葉っぱは濡れてしまうと光阻害を受けやすくなってしまうということだ。よく晴れの日に、自分の家の庭に植えてある植物たちにホースで水をまいている光景をよく目にするが、あの行為は植物たちにとっては逆に迷惑ということになってしまう。なぜ葉が濡れると光阻害の閾値が下がってしまうのか。これは、葉が濡れると気孔が閉じ二酸化炭素の供給が絶たれてしまうので、晴れの日と同じ光量では強すぎるからということだったが、他にも2つ理由を考えてみた。葉が濡れるということは雨が降っているということなので、植物からするとあまり日光量は期待できない。そうであれば最初から光合成に必要なタンパク質量を節約しておこうという。これは、濡れ処理を行った後の遺伝子発現を見れば確認できる。葉が濡れると葉の表面に水滴が溜まる。この水滴がレンズの役目をして、水滴の下部に光が集められてその部分の葉緑体に光阻害をもたらしてしまうのではないか。これは、水滴大のガラス玉を葉の上に置いてみて、同じことが起きるかを見れば確認できるのかと思ったが、水とガラスでは屈折率も異なり、さらにガラス玉を葉の上にどうやって定着させられるかという問題も出てくる。いずれにしても、葉はどのようにして「濡れ」を感知しているのだろうかという疑問が残る。濡れ刺激は虫などの物理的刺激とは区別されているのだろうか。葉枕にかかる重さの変化や気孔がふさがれたことによるガス交換の阻害などが考えられるが、これは別で議論してみたいので、とりあえずここで筆をおくことにする。

A:いろいろ考えていてよいと思います。タンパク質の節約に関しては、1週間雨が降り続くようなときにはよいかもしれませんが、短時間で降ったりやんだりするときには、むしろコストが余計にかかるような気がしました。


Q:雨で葉が濡れる事によって植物の光合成にどのような影響が現れるかという実験を例にしながら講義では水と光合成の関係性を学んだ。水は化学反応の場であり、光合成の基質として利用される為、光合成において重要な役割を担う。自宅で育てているサボテンに水を与えた時に、「水が存在しない乾燥地域に生息するサボテンのような植物の光合成がどのようにされているのか」そして講義と同様で「水で濡れた時の光合成の状態がどのようになっているのか」ということがふと気になったので考察してみたいと思う。
 サボテンのような植物は、通常の植物とは異なって夜中に気孔を開けて二酸化炭素を取り込み、日中は気孔を閉じて二酸化炭素を固定するようなCAM型と言われる仕組みを取る[1]。日中、気孔を閉じるのは内部の水分を蒸散させないためだと考えられ、また茎の形状も太く、水分を貯められるような厚い構造を取っていることから水分を効率良く使用して外部へ逃さないような戦略を取っていると考えられる。更に調べて行くうちに面白かったのが、生えている棘は光の散乱を発生させているということだ[2]。つまり、強光が当たった時はストレスにならないように、そして水の蒸散も防いで効率よく光合成が行えるようなシステムになっているのではないかと考えられる。もちろん棘があることで外敵に捕食されにくいオマケもついてる為、生存も更に有利になるのではないだろうか。
 サボテンが生息するような乾燥地域でも雨はもちろん降るので、濡れた時の光合成の影響も考えたい。自分の体験に基づく意見になるが、サボテンに水を与えた時に表面が濡れるようなことは滅多にないように見える。おそらく表面がクチクラ層などで覆われているために水を弾くと考えられる。また他の植物と違って地面と平行方向に向かって伸びることもなく、垂直方向に伸びるものがほとんどだ。故に水が弾かれてはすぐ地面へ落ちるため、落ちた水が地面に染み込み、根から水を吸収できるような作りになっていそうだと推測する。更に棘がバリアのような役割を果たしているようにも考えられる。つまり、水がサボテンの表面に直接付着しないように守り、濡れずに光合成ができる仕組みを持ち備えているのかもしれない。これを確かめるために棘を持つサボテンと棘を予め抜き取ったサボテンで同様の光合成解析を行い、その活性を比較すると良いのではないかと考える。ただし、棘を抜き取ることでサボテン表面の温度が上昇してしまうことを抑えなければ実験条件が変わってしまうのでそのことについては考えなければならないことである。
[1] 光合成事典 ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)http://photosyn.jp/pwiki/index.php?ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)
[2] 新潟県都市緑花センター 植物Q&A http://www.greenery-niigata.or.jp/qa/detail.php?plant_id=274

A:よく考えていますが、短いレポートの中では、もう少し論旨を整理したほうがよいかもしれません。サボテンの中では、棘に加えて毛のようなものを生やしているのがありますが、棘よりもこの毛の方が、光の散乱やバリアの役割により合っていると思います。毛で実験する方が、明確な結果が出るかもしれません。


Q:講義では、植物の導管におけるエンボリズムについて扱った。講義では主に凍結によるエンボリズムを取りあげたが、ここでは乾燥によるエンボリズムについて考察してみたい。ケッペンの気候区分において、樹木が生育可能な区分の内、最も厳しい乾燥にさらされるのは、サバナ気候である。サバナ気候に生育する代表的な樹木として、バオバブ属やアカシア属がある。バオバブ属の種は、乾季に葉を落とす落葉樹であり、樹高は30mを超えるものもあるが、アカシア属の種は、常緑樹で、樹高が10mに達しない種が多い(アンブレラアカシアのように樹高が20mを超すものもある)。これは、大気圧下で水を真空ポンプで引き上げられる限界高度が約10mであることと関係があるのではないか。すなわち、もしエンボリズムによって導管内の水が途切れてしまったとしても、10mまであれば、蒸散による陰圧で水を引き上げることができる。サバナ気候に低木が多いのは、導管内におけるエンボリズムも関係しているのではないだろうか。

A:着眼点は非常によいと思うのですが、少し説明が不足ですね。バオバブ属が落葉樹、アカシア属が常緑樹、と説明しただけで十分だと考えたのだと思いますが、科学的な文章においては、行間を読ませずに、「だからバオバブ属の場合は得のぼりズムをあまり気にしなくてもよい」という論理展開をきちんと示した方がよいでしょう。


Q:寒冷地域には針葉樹が多く、温暖な地域には広葉樹が多い。これらの針葉樹は裸子植物、広葉樹は被子植物に分類できるが、なぜこのように気候によって裸子と被子の割合が分かれているのか、その進化的な要因は今回の講義で出てきたエンボリズムへの適応が大きく関わっていると私は考えた。まずそれぞれの導管に関して調べてみると、「仮導管は、針葉樹では5~80 μm」(1)、被子植物は「導管は直径が10から500 μm」(2)あり、被子植物のほうが大きいと言え、導管のサイズがそもそも異なっている。これを踏まえて各植物が地球に誕生した時期を調べると、裸子植物の出現は3億6000万年、現生している針葉樹やイチョウ、ソテツは2億9000万年前であり(3)、この時期は氷河時代にあたるがその後5000万年ほどは氷河時代のままであった(4)。一方で被子植物は1億4000万年前に誕生しており(3)、すでに氷河時代から1億年ほど過ぎた温暖な気候であり、その後も1億年近くは温暖な気候である(4)。つまり誕生した段階から周囲の環境に大きな違いがあり、かつ長い間環境が大きく変動しなかったといえる。裸子は誕生した時から約5000万年は氷河時代のかなり寒い気候であり、導管を細くしなければ生き残ることができず、結果細いものが多く残り裸子植物の形質として引き継がれていった。一方の被子は誕生から長いこと温暖であり、成長の遅い細い導管より成長の早い太い導管が有利となり、成長速度の差から細い導管は駆逐され、被子植物に太い導管が多くなった。その結果として現在においてそれぞれの適応した環境に近い土地、つまり寒冷地と温暖な地で裸子植物と被子植物の割合が違っているようになったと考えられる。
1 “仮導管(仮道管)”、日本光合成学会、光合成事典(Web版)(2018年6月15日参照)、http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E4%BB%AE%E5%B0%8E%E7%AE%A1%EF%BC%88%E4%BB%AE%E9%81%93%E7%AE%A1%EF%BC%89
2 “ 導管(道管)[vessel]” 日本光合成学会、光合成事典(Web版)(2018年6月15日参照)、http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E5%B0%8E%E7%AE%A1%EF%BC%88%E9%81%93%E7%AE%A1%EF%BC%89
3 “第3部 生物の多様性と進化 第3章 生物の分類と系統 第4節 植物の分類と系統” 、生物Ⅱ(改訂版)、啓林館(2018年6月15日参照)、http://www.keirinkan.com/kori/kori_biology/kori_biology_2_kaitei/contents/bi-2/3-bu/3-3-4.htm
4 “過去の気候変動”、東京大学 大気海洋研究所 気候システム研究系(2018年6月15日参照)、http://ccsr.aori.u-tokyo.ac.jp/old/paleo/

A:これは、全く異なる複数の情報を合わせて考えることによって、新しい結論を導いているという点で、高く評価できます。


Q:今回の授業では、針葉樹林が冷温帯に多く存在する理由として、冬の低温・凍結によるエンポリズムが影響するということを学んだ。その一方で温帯に針葉樹林が存在する理由について考える。温帯では凍結することによるエンポリズムの影響は殆ど無いと考えられる。その生育場所について考えると、海岸・乾燥などの環境要因に依存するとかんがられる。従って針葉樹林は生育に不適切な環境において広葉樹に対して有利に生育できると考えられる。

A:これだけだと、結局「そこで生育している以上、そこで有利なのだろう」というだけですから、一般論で終わってしまいます。もう少し生態学的な思考が欲しいところです。


Q:今回は植物と水の関係について学んだ。特に蒸散で失う水の量は光合成で分解する水の量より多いことと、葉が濡れると気孔が閉じ光合成活性が低下することに注目する。昨年、人工気象機でコナラの実生を育てていたが、葉が茶色や黄色に変色し成長量が小さくなってしまうものが多くあった。これは土壌中の栄養塩不足ということで結論づけていたが、今回の講義を踏まえると水の影響もやはりあると考える。水をやる際に植物の上から水をかけ、しかも水をやる頻度は多かったためコナラの葉は濡れている状態であることが多かった。従って葉の光合成活性が低下し成長量が小さくなったことが理由として挙げられる。しかし野外の植物についても雨が上から降ってきて葉が濡れることは当たり前のことであり、室内の人工気象機で育てたコナラについてだけこの理由が当てはまるわけではない。他の要因を考えると、変色している葉は植物体の上部に多かったことを思い出す。上部にある葉は他の葉の阻害を受けず光を多く浴びることが出来る。従って、葉が濡れることにより光合成活性が低下するとともに、光が多く当たることによる葉の乾燥の影響で変色してしまったのではないかと考える。

A:症状からすると、根の発達不良である気がします。その発達不良の原因まではわかりませんが。


Q:水が葉に付着した際に強光が当たると、光阻害が起きることを学んだ。それが頻発するところに生育する植物は、水をはじくなどの適応をしていると考えられる。この阻害が起きる可能性のある状況について考える。まず、天気雨など晴れているのに雨が降る、もしくは雨がやんですぐに晴れた場合などだ。これは頻繁に起きることではないことといえるため、わざわざこのためだけに適応する植物がいるとは考えづらい。しいて言うならば、天気が変わりやすい山などで該当する可能性があるかもしれない、といった程度だ。次に、水場について。そもそも水草は気孔をもたず、水中で二酸化炭素を得るため、気孔が閉じることによる阻害は発生しない。また、気孔をもたない一部のシダ植物も同様に濡れることを前提としているといえる。気孔とクチクラ層をもったうえで、水しぶきを受ける可能性のある場所に適応した植物があるならば、おそらく水をよくはじくのではないか。次に、人口的な水の散布を受ける、芝草について。これは、品種改良の結果、水をはじく品種の生育が良くなり、育てられたという背景があるのかもしれない。最後に、雨のあと、自分より背の高い植物から落ちてくる場合だ。ただこの場合、自分の上の植物が強光を遮るため、弱光しか受けない植物が多いだろう。あまり影響があるとは考えづらい。水をよくはじく植物が上記に挙げた場所に多く生育しているか確認できれば、水をはじくという形質が優位に働いているということができるだろう。
参考:光合成の森 FAQ 水草も気孔から二酸化炭素を取り込むのか?、https://www.photosynthesis.jp/faq/faq11-4.html
 話が変わるのはよくないと自覚しているが、気になったことを一つ書いておく。強光で還元力が蓄積して光化学系Ⅱが破壊されること、低温弱光でカルビンベンソン回路が低速化し光化学系Ⅰが破壊されることは納得がいく。しかし、水にぬれて阻害が起こる場所がシトクロムb6/f複合体である理由がわからない。どのような状況でシトクロムb6/f複合体が阻害されるか知らないため、今回の阻害の実態がつかめなかった。

A:いろいろ考えていて、そのそれぞれの考え方は非常によいと思います。ただ、前半部分に関しても、羅列的な雰囲気になっていますから、もう少し全体として結論に収束していくような論理構成をとったほうが科学的な文章になると思います。最後の、話が変わった点は、まさにその通りで、僕にも理由がわかりません。いまだにその阻害の実態はつかめていないのです。