植物生理生化学特論 第5回講義
蛍光タンパク質
第5回の講義では、さまざまな発光測定の原理を、熱発光や電界発光、遅延蛍光などすこしマニアックな測定手法なども含めて解説しました。
Q:今回の講義において遷移は非常に大事な要因である。半導体は遷移を利用したものであり、LED等の発光にも用いられる。しかし、有機ELに関する電界発光のように、他分野では大きく貢献している一方で、生物学ではあまりぱっとしないという現状もある(と講義でこぼしていた)。そこで、半導体に関する遷移を生物学に応用する方法を考えてみようと思う。単に、遷移といっても「直接遷移」と「間接遷移」が存在する。これは、伝導帯の底と価電子帯の頂が一致するか否かによる。一致することによって余計な消費無しに正孔と電子の再結合が生じ、発光が起きるため、一般的に発光はこれらが一致した直接遷移の方が強い光が生じやすい。しかしこれは、精密に調整された機械であれば問題はないが、様々な要因が入り組む生物体の中への応用は難しそうである。一方で間接遷移は発光には向かないが(フォノン等の助けが必要)、発光をさせる方法は存在する。今回調べたところ、アイソエレクトロトラップと呼ばれる手法が存在することがわかった。この方法は、「不確定性原理と、波数と運動量の関係から位置xが決まれば波数kが自由な値を取ることができ、今回であればガリウムリンの中に窒素Nを混ぜ、より電気陰性度の高い、位置xを固定することで、電子と正孔の再結合をフォノンの助けなく起こし、発光するまでに至る。」(文献①参考)という原理を用いたものである。この原理を用いれば、対象物質を直接蛍光・発光させる(例GFP)必要はなくなり、単に元素で標識するだけで、対象物に精密に直接照射する必要もなく、ある程度のずれを許容しつつ発光させ、生物体、もしくは内部構造への影響を最小限にしつつ観測を行えるのではないか。さらには、その元素もしくは物質を変えることで電子を拾う範囲を変えることも生物学への応用へつながるのではないかと考えた。
参考文献①http://oweb1.osakac.ac.jp/labs/matsuura/japanese/lecture/semicondic/a/a001.pdf 5/19
A:若干消化不良の気が・・・。まず、使うのが半導体だとすると、それを生物とどのようにドッキングさせるのでしょうか。それとも、対象物質というのは半導体ではなく、生物体なのでしょうか。この発光自体は、分離した電荷の存在が必要ですが、その電荷分離状態をどのように作るのかも含めて、もう少し具体的なイメージがないとコメントがしにくいですね。
Q:本日の講義では、いろいろな発光、またそれらの発光の利用例などについて学んだ。講義の中で、りん光は生物の研究でほとんど用いられていないというお話があったので、りん光を用いた実験方法を考えてみた。そこで、ある物質のりん光の波長に吸収波長をもつ物質があれば、3種類の物質の相互作用を調べることができるのではないかと考えた。つまり、ある物質Xの蛍光波長に吸収波長をもつ物質YとXのりん光波長に吸収波長をもつ物質Zを用いると、励起光を照射している間は、X, Y,Zのすべてが励起されるが、励起光を消すと、Xの蛍光は瞬時に消えるが、寿命の長いXのりん光がZのみをしばらくの間励起させた状態になる。つまり、励起光をoffにした時にまだ蛍光を発している場合は、XとZのついている2分子の相互作用が分かりそうだとかんがえた。励起光がonの時に蛍光を発していたが、offにすると蛍光がきえた場合はXとYがついていた2分子の相互作用が分かりそうだと考えた。
A:明記はされていませんが、後半に「蛍光を発して」とありますから、Y,Zに関しては、これらも蛍光が出る物質であって、共鳴エネルギー移動により励起を検出するということですね。面白い考え方だと思います。ただ、手間はかかりそうなので、YとZをそれぞれ別のFRETで検出する場合に対して、同時測定をすると、どのような点で有利なのかを示すと、より説得力が増すと思います。
Q:今回の講義でFRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を学び、低温蛍光スペクトル測定における高濃度のクロロフィル試料での光化学系IIの自己吸収が浮かんだ。クロロフィルの赤色部の吸収波長(670-680nm)と光化学系IIの蛍光波長(685nm)が近いことから、クロロフィルから発光した蛍光が別のクロロフィルに吸収されることで、光化学系IIが見かけ上少なくなるという現象である。葉の状態では局所的なクロロフィル濃度が非常に高いことから、in vivoでは常に光化学系IIの自己吸収が起こっている可能性が高い。従って、光化学系IIは光化学系Iに比べてエネルギー変換効率が非常に高いと考えられる。弱光下では照射光だけでなく蛍光も余すことなく他のクロロフィルが吸収できるため、光合成に利用可能なエネルギーは増えるメリットがあるが、強光下では過剰なエネルギー状態に陥り、阻害の要因になる可能性がある。よって、光化学系IIが光化学系Iより阻害され易い理由の一つとして、クロロフィルの自己吸収力が関与していると考える。
A:これは、別に学んだ二つの現象を結び付けて考えていて非常によいと思います。ただ、生体内でのクロロフィル蛍光の収率はせいぜい1%程度ですから、エネルギー変換効率の変動割合も1%以下となって、実際的な影響はかなり限定的であると考えられます。
Q:今回の授業では、熱発光を学んだ。その際に疑問に思った事と、それに対する解決策について論じてみたいと思う。光を照射し、低温下に置かれた物質に熱を与えていく事で発光を促し、発光に至るまでの温度差から準安定状態とのギャップを求めるという事が授業では解説されていたと私は解釈した。しかし、低温に置かれた物質に熱を与えていく過程で、準安定状態へ至るまでに、与えられる熱の一部も発光だけではなく熱として損失し、余計にカウントされてしまっているのではないのかと考えた。そのため、熱発光における準安定状態との差についての測定において、その発光を測定するだけではなく、例えばサーモグラフィ等による熱の収支変化についての測定も必要だと考えた。サーモグラフィのように、熱の収支変化についても測定することによって、発光するまでの過程における物質の熱の放出等も測定し、より正確な準安定と励起状態、基底状態のエネルギーのギャップを導き出すことが出来るのではないかと考えた。
A:これは面白いところに着目しましたね。このような点をきちんと考える姿勢は評価できます。ただ、実際に重要なのは、与えた熱量ではなく、試料の温度なのです。与えた熱エネルギーが、電荷の再結合を促すのではなく、温度の上昇を促し、ある一定の温度になったときに再結合がおきます。そして、その温度がエネルギーのギャップの目安になるわけです。
Q:クロロフィル蛍光は、光合成中心が励起してそのまま基底状態に戻るときに発生するが、遅延蛍光は一度QAに電子が移動した後、電荷再結合により再び光合成中心に戻ってきて基底状態に戻るときに発生する。この事から、クロロフィル蛍光と遅延蛍光を同時に測定すれば、電子がどここでつまっているのか、より詳細な情報が手に入る。遅延蛍光は普通の蛍光よりも長時間持続するので、どの発光がどちらの光なのかの区別もつく。さらに、クロロフィル蛍光が概日リズムを持つことから、遅延蛍光も概日リズムを持つはずである。この測定によりQAの酸化具合が1日でどのように変わるのか、それはクロロフィル蛍光で分かる系Ⅱの酸化具合とどう違うのかを知ることができる。
A:次回説明しますが、蛍光の発光収率は、まさにそのQAのレドックス状態によって変動します。その意味では、蛍光だけでも情報が得られることになります。とはいえ、遅延蛍光にも、特有の情報があることは確かで、浜松ホトニクスでは、そのような研究をしています。
Q:今回の講義は前回と同様に発光測定について学んだが、クロロフィルの蛍光と光合成活性について論じる。クロロフィル蛍光は光化学系IIで吸収されたエネルギーのうち光合成反応に利用されなかった一部が光に変換されたものであり、光合成系の動向を知る指標である。光合成によって得た光エネルギーとH2Oを用いて植物やシアノバクテリアなどの微生物はATPとNADPHを生成する。NADPHは還元剤として生体内の様々な器官で用いられており、例えば生体内に蓄積した活性酸素の還元などに用いられている。つまり、クロロフィル蛍光を測定することはNADPH量すなわち還元力を測定する指標にもなり得るのではないかと考えられる。
A:ある測定が、いろいろな生理反応を反映する、ということは、汎用性が高いように見えますが、一方で、どの生理反応に由来するのかを見分けることができなければ結局あまり役に立ちませんよね。そのあたりの切り分けが、解析手法としては重要になります。
Q:前回のレポートで複数の蛍光物質を経由してストークス効果を大きくすることを書いたが、今回の講義で触れられたFretを利用することである程度のことが実現可能だと納得ができた。Fretはタンパク質間の相互作用などを確認するために利用する方法だと講義では触れられたが、ふと生物の生体内でもこのFretのシステムが利用されていないかどうか?という疑問が生じたので考察してみた。生存する植物は様々な光合成色素を持っていて、この組み合わせは種によって異なる[1]。どうやら進化の過程で共生を繰り返し、様々な光合成色素を獲得したり退化させたりしたのだと考えられている[2]。これは現存する植物が生息する環境に適応するために光合成色素の選択をしてきたとも考えられる。複数の光合成色素を持つ植物は、ただ吸収する光の波長領域を拡大するために進化をしたと言うよりは、吸収した光を通して蛍光を発し、別の光合成色素にその蛍光を伝えることで効率よく光合成ができるように、つまりFretのようなシステムを生体内に取り入れるために進化してきたのではないかと考えた。以上のことから、複数の光合成色素を獲得したことで環境が変わって吸収する光の波長領域が変化したとしても、すぐに適応できるように進化を遂げたのではないかと推測する。
[1] 光合成の森 光合成色素 https://www.photosynthesis.jp/shikiso.html、[2] 色素体/葉緑体の成立と多様性 http://natural-history.main.jp/Algae_review/Symbiosis/Symbiosis.html
A:発送は面白いのですが、もう少し具体的に考えられるといいですね。電磁波の中で、生き物が使いやすいのは何といっても可視光です。その場合、それ以外の光を吸収して可視光の蛍光として放出する色素があれば、役に立ちそうです。ストークス効果を考えると、それ以外の光に赤外線を使うことはできませんから、実際には紫外線を吸収して可視の蛍光を出す物質ということになります。そうすると、自然界にそのような物質があるかな、とちょっと調べると、より具体的な議論に持って行けると思います。
Q:今回の講義内で燐光に関する話が出たが、燐光を研究で利用できないかを考えてみる。まず私はin situ hybridizationを用いた組織切片内の特定の遺伝子の局在を蛍光色素による発色で判断している。切片の観察の際には蛍光顕微鏡で確認をするのだが、観察時間が延びるほど蛍光の退色が心配になり、特に貴重な試料等の場合はなおさらである。そこで照射後も光る燐光を使えば照射時間を短くしつつも観察時間が確保でき、退色を抑えることができると考えた。しかしこの技術が実用化したとしても蛍光に比べて光がはっきりとしないこと、色が大きく変化できないことが問題点となってくる。この方法では細部の発現量の違いが重要となることが多く、光はっきりしないと違いが見極めにくくなる可能性が高く、燐光を使用する意味が薄くなる。また違う遺伝子を二色の蛍光で識別することもあるが、その方法が採用できなくなることがかなりの痛手となるのである。よって現段階では蛍光の退色を防ぐ方法として燐光を使用する方法の実用化は難しいと考えられるので、照射時間を短くするか、蛍光退色防止をうたっている製品を使用することが一番の方法である。少なくとも光が強い燐光を発する素材がなければ厳しいものとなる。
A:確かにその通りでしょう。講義では触れませんでしたが、光合成の分野にとって重要な酸素濃度を燐光によって測定するシステムがあります。生物の測定とは言えないかもしれませんが、生物学分野で用いられる測定方法とは言えるかもしれません。
Q:本講義では様々な蛍光タンパク質や光の種類について取り扱ったが、その中でも時計の文字盤などが夜暗所で光り続ける仕組みがとても興味深かった。燐光と呼ばれる現象で、通常の蛍光が一重項励起状態になって見える光で一瞬なのに対し、より安定である三重項励起状態になって、光を発しながらゆっくりと基底状態にもどる性質から得られる光であった。しかしこの原理から、当然蛍光よりも燐光の方が光は弱いものとなってしまう。この光を強くするためには、基底状態から励起状態へのエネルギー差を大きくすること、そして一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差を限りなく小さくして、三重項励起状態から一重項励起状態にエネルギーを加えて変化させることで可能になるのではないかと考えた。
A:もしかしたら、光の色と量をごっちゃにしているのかな、と心配になりました。「基底状態から励起状態へのエネルギー差を大きくする」というのは、「吸収する光をより短波長にする」のと等価で、発光の強さには(直接的には)関連しません。発光の強さに影響を与えるのは収率ですから、例えば、三重項励起状態のエネルギーレベルが非常に低くて一重項励起状態に戻る確率が低い方が、燐光の収率は上がります。
Q:室温におけるクロロフィル測定について、光化学系Ⅱの酸化還元状態は蛍光の収率に大きな影響をもたらし、光化学系Ⅰは大きな影響を与えないということであった。従ってクロロフィル蛍光の変化は系Ⅱの状態を反映しているため、系Ⅰの状態を知ることは難しいのかと疑問に思った。系Ⅰの蛍光を調べる方法を考えたときに、蛍光におけるエネルギー保存則を用いると、蛍光として放出されるエネルギーを多くするために吸収したエネルギーのうち熱になったエネルギーを減らす方法が挙げられる。また系Ⅱより系Ⅰが積極的に蛍光を発するような環境であることが必要だと思う。従って、低温下で測定することで系Ⅰの蛍光を測定できるのではないかと考えた。しかし低温状態にすることによって細胞内の状況が実際のものと異なったり、細胞内の状況が変化したときにどのように蛍光が変化するのかを正確に調べることができないという問題点が残ると思う。
A:確かに、生理的な条件下で系Ⅰの蛍光を解析することはなかなか困難です。それでも、レポートでは、無理やりでもアイデアを出してもらえるとよいのですが。
Q:今回、植物に光を照射したときに複雑な蛍光挙動を示すコーツキー効果を学んだ。ここで私が心配になったのは、飽和パルスを当てた際の蛍光は、本当に最大の蛍光を示しているのかということだ。これほど複雑な挙動を示すため、最大の蛍光を示しているときでさえも、実は電子伝達や熱放散系がはたらきはじめているのではないか。なぜそう感じたかというと、最大値を長時間示していて減少がしばらくないならば、電子伝達や熱放散が始まっていないということができるが、コーツキー効果は曲線で、最大値を一瞬しか示していないようにみえるからである。実際には無視できる値なので考慮しないのか、それとも原理的に電子伝達や熱放散が発生していないということができるのか、どちらかなのであろう。
A:これは、むしろ、実際にも無視できない場合がある、というのが正解です。陸上植物の場合は、「実際には無視できる値」にすることが可能なのですが、藻類の場合には、無視できずに、うっかりすると最大値が取れない場合もあります。蛍光測定は、測定手順自体は非常に簡単なのですが、本当にその測定法でよいのかを考え出すと案外大変です。
Q:今回の授業でクロロフィル蛍光について学んだ。クロロフィルは光を吸収すると励起し、大部分を光合成に、過剰分を熱エネルギーに、そして一部を蛍光に使う。しかしクロロフィルが光合成に使う光のアンテナであるため、せっかく吸収した光を蛍光にする必要はないのではないかと考えられる。それでも蛍光を出している理由として次のことが考えられる。クロロフィルは光合成に必要な光を吸収することが仕事である。しかし強光下では過剰な光エネルギーが強光阻害を起こすため、その分の光エネルギーは熱エネルギーにして放出する。しかしあまりにも過剰分が多いと放出される熱エネルギーが多すぎてしまい、植物体の温度が上がり、水分不足や酵素の失活など不調をきたす可能性がある。そこで過剰な光エネルギーを熱エネルギーのほかに蛍光にもして放出しているのではないであろうか。しかし蛍光が多すぎるとクロロフィルの周りの色素がその蛍光を吸収してまた強光阻害に陥る可能性があるために、過剰な光エネルギーを熱エネルギーと蛍光の2パターンに分けて放出しているのではないであろうか。
A:これも、面白い考え方ですね。ただ、実際には、植物のクロロフィル蛍光の収率は最大でも1%程度ですから、量的な問題を蛍光で解決するのには問題が大きそうです。