植物生理生化学特論 第14回講義

植物と水・温度

第14回の講義では、植物と水や温度のかかわりについて、蒸散の大きさ、光化学系IIにおける水分解、植物の発熱現象、温室植物などを例に解説しました。


Q:スイレンやザゼンソウがミトコンドリアの脱共役タンパク質を利用して発熱するという話題は非常に興味深いと同時に、何故他の植物はそのような生存戦略を採用していないのかという疑問を抱いた。芳香物質を発散させて虫媒を促進するのであれば、種子植物の多くが(特にスイレンは種子植物として原始的なものである以上は)それを用いていておかしくないはずである。そもそもザゼンソウの肉穂花序が発熱する際に発現する脱共役タンパク質としては、SfUCPbが知られているようである[1]。但しこのタンパク質は他の哺乳動物などで確認されてきた脱共役タンパク質と様々な性質が異なっているらしい。そこで、SfUCPbの配列(BAA92173.1)を元にBLASTを実施した。すると相同性の高いタンパク質がミズバショウ、ナツメヤシ、ナンヨウアブラギリ、ウメなど、種子植物に広く存在することが判明した。ザゼンソウと同じオモダカ目に限らず、系統樹的に離れたキントラノオ目やバラ目にも主に保存されているとは予想外であったが、その多くは特徴的なにおいを持つことで知られるものであった。これは即ち、やはり花粉の媒介を虫に依存する植物では芳香物質を積極的に発散させる機構を有しているのではないのかという期待を抱かせる結果であると同時に、ザゼンソウの持つ発熱機構は元々芳香物質を発散させる為のものであり、融雪能は子房などその他の部位と共役した結果として獲得したものであると示唆する根拠とすることは出来ないだろうか。
[1] 伊藤菊一「ザゼンソウの発熱制御システム」http://photosyn.jp/journal/sections/kaiho36-2.pdf

A:確かに、ある生物である機能を持っているタンパク質が、別の生物でも同じ機能を持っているとは限りませんね。「今あるものでまかなう」というのが生物の進化の際の一つの方針のようですから。芳香物質の放散が先で、その他の機能はあと、という可能性は十分にあると思います。


Q:今回の講義では多様な植物が見せる外気温変化との上手な付き合い方や、植物にとっての水(雨)の役割などを中心にオムニバス形式で話をしていただきました。その中で蒸散の役割について考えてみようと思いました。蒸散の役割として葉温の維持や蒸散流の発生による効率的な物質の運搬などが挙げられます。一見すると蒸散は能動的な反応のように思えます。積極的に蒸散を行うため気孔を開口しているといったところでしょうか。しかしその一方で、光合成反応に必要なCO2を取り込むために気孔を広げた結果、蒸散が受動的に行われているようにも思えます。植物にとって蒸散が能動的な反応なのか受動的な反応なのか気になるところではありますが、気孔の開閉制御機構などもいまだわかっていないということなので現時点では判断できないのだろうと思いました。それに付随して、孔辺細胞の周りに水滴を付着させたとき気孔の閉口運動が起こり、蒸散および光合成反応が停止するということも講義で習いました。孔辺細胞の周りに水滴がついたことで植物が光合成反応を行えない雨天時だと錯覚するために起こる反応なのか、はたまた葉温のさらなる低下を防ぐために蒸散を起こすまいと起こった反応なのか、水滴の付着という物理的接触が孔辺細胞を刺激することで起こった反応なのか・・・わからないことだらけです。物理的接触という点を排除するために霧吹きから常に水を吹きかけるといった手段をとられているという話を聞いたときはなるほどと思ってしまいました。葉温の低下を防ぐための反応であるとしたら、水滴の温度を対象植物の葉温と同じくらいの温度にすることで気孔の開閉運動が異なる挙動を示すかもしれないと考えました。光合成反応が行えない環境下だと錯覚してしまっているのであれば同一の実験を暗条件化と明条件化で行った際に違いが出てくるのではないかと考えました。
 半年間に及んだ植物生理生化学特論という講義、大変面白かったです。大学院での講義というものは初めてだったのですが、授業において教授との距離が非常に近いことや、自主的な参加が求められるという点で学部の頃とはまた違った緊張感のあるものでした。半年間ご指導いただき大変有難うございました。

A:「気孔の開閉制御機構などもいまだわかっていない」というのは、やや誤解です。ここの因子については、授業で紹介したように青色光受容体、植物ホルモン、光合成活性などの関与が、かなり詳細に明らかになっています。ただ、ある意味で役者が多いのと、シグナル伝達の経路がどの程度オーバーラップしているのかを判断するのが難しいので、全体像をクリアに明らかにする段階にはもう少しかかりそうだ、ということだと思います。


Q:授業では、植物と温度や水の関係について学んだ。特に水との関係では、蒸散により失われる水分量に対して光合成で分解される水分量が著しく少ないことに驚いた。また、雨により葉が常に濡れた状態だと植物はストレスを感じて光合成活性が低下することも興味深かった。私は、自分の実験でシロイヌナズナを育てる際に、たまに葉が黄色に変色することがある。シロイヌナズナが枯れる際には、葉が緑から黄色、茶色と変色していくが、今回疑問に思っているこの変色は生育して間もない個体でたまに起こる。これは今回の雨によるストレスのような、葉の乾燥度合いに関する応答なのではないかと考えた。雨ストレスは葉が常に濡れていることが原因だったが、この黄色は逆に葉が乾燥しすぎているからではないかと考えた。だが、いくつか個体を植えたときに、すぐに変色する個体と全くしない個体があることから、生育後まもない時期での乾燥だけが原因とは考えにくい。ここで考えられる他の原因は、光の当たる度合いが個体によって微妙に異なることである。人工気象機で生育しているため大きな違いはないが、光の直下とそうでない場所では、個体に与える影響が異なるのではないかと考えられる。光に向かって植物は伸びるが、浴びすぎると光化学系が壊れる原因にもなる。そこで、葉が黄色に変色する原因は、最適湿度よりも乾燥気味であることと、そこに光が当たりすぎていることではないかと思われる。改善するには、湿度を上げ最適湿度に保つこと、そしてこまめに配置を変え光の当たる度合いを適切に保つことが大切だと思う。

A:前回の講義で植物における光とそのほかのストレスの相乗効果について話しましたが、乾燥と光に関しても同様のことは十分に考えられます。その意味では、一般的にはどの植物でも根が十分に発達していない芽生えの時期は、やや弱めの光で育てるほうが良い場合が多いですね。


Q:雨の植物に対する影響を学んだ。私は雨の土壌呼吸に対する影響について考えてみようと思う。土壌呼吸とは根呼吸と土壌微生物呼吸を合わせたものである。雨の場合、1.土壌含水率の上昇。2.地温が下がるの2つの変化が考えられる。まず根呼吸について考えてみる。1の場合、土壌含水率が上がり根が水に浸かるようになってしまうと水に含まれる酸素を吸収して呼吸するしかなくなる。そのため根呼吸は減少すると考えられる。2の場合、地温が下がるほど呼吸は下がると考えられる。次に土壌微生物呼吸について考えてみる。1の場合、土壌が柔らかくなり土壌から大気に気体が放出されやすくなる。だが水が土壌表面に溜まるほどになってしまうと蓋をしてしまうようになり気体が放出されにくくなる。2の場合、土壌微生物は地温が低くなるほど活性が下がるため呼吸も下がると考えられる。よって土壌呼吸は雨が降ると減少すると考えられる。

A:おそらく、土壌微生物の生育自体に対する水分の影響をもう少し考えたほうが良いように思いました。ほとんどの微生物では、乾燥してしまうと生育や代謝の活性は大幅に低下しますから。


Q:前回の授業で、植物における水の役割について学んだ。水は化学反応の場として、膨圧の維持・運動や蒸散流、光合成の基質となることを知った。植物が高いところまでみずを運ぶことができるのは気孔から蒸散することが理由と習ったが、木など高いところにある葉からおこる蒸散が、地中にある根で吸収される水を引っ張ることに驚いた。確かに切り花でも水を消費するが、へちまのつるとかを切ったときに下から水が出るのは何か気になった。単に切ってすぐ出てくるので、蒸散による流れの途中であったことが考えられる。もしくは、根で水を吸うと、その周辺のみ濃度が下がるので自然と濃度を薄めるために上に上がっていくことによることが考えられる。

A:根圧の話は植物生理学の講義でやったと思うのですが。水ポテンシャルの説明をしたように思います・・・。


Q:最後の講義では植物の様々な環境応答について学んだ。自らの体から熱を発することは恒温動物の特権だと考えていたので、スイレンの花が、サーモグラフィーを通して真っ赤になっている写真には驚かされた。尤も、感染・免疫学特論で学んだことによると、肉体が高い温度を保つことは病原体の温床になりやすいというデメリットも含んでおり(それ故に哺乳類や鳥類の免疫機構は他の生物と比べて格段に複雑化している)、実際スイレンの花もアブラムシ、ヨトウ、葉巻虫、ユスリカの幼虫などの害虫の発生が非常に多いという。それでもスイレンが花の開花時に高温を発する理由は、スイレンの植物体が基本的に水面に浮いていることに起因すると考えられる。例えば訪花昆虫がスイレンの花の花粉を採るには水の上を飛行する必要がある。だが昆虫にとって水はかなり厄介な障害であり、一度水の上に落ちれば魚に捕食されるか、そうはならなくても羽が水を吸ってしまい、溺れ死んでしまうかの二択だろう。そうなると、スイレンは他の陸上植物の花にはない、訪花昆虫が訪れたくなるような特徴——例えば温暖な環境となる部位など——を持つ必要が出てくる。また、植物体がずっと水に触れているということは、当然そうではない植物と比べて体がよく冷えるということである。特に花のような繁殖器官などの重要な部位を低温のままにしていくのは具合が悪いだろう。スイレンの発熱機構は、水中という特殊な環境下に適応するために発現したものなのかもしれない。
参考:「温帯スイレン栽培方法」『スイレン&ハス販売サイト』、宮川花園、[2016/07/29 閲覧]

A:このように、スイレンの花が発熱して、そのほかの多くの花が発熱しないならば、スイレンに特有の事情が何かあるに違いない、と考察するのは、生物学としては非常に重要です。よいと思います。


Q:今日の授業では植物における水の役割や雨の中における光合成について学んだが、私が最も興味深かったのは植物の発熱現象である。授業で紹介のあったザゼンソウは寒冷地帯に生息し、春になると1週間という長期間にわたって発熱し、体温を20℃前後に維持している。こうすることにより植物のまわりにある雪を溶かし、低温障害を回避している。ザゼンソウの発熱にはもう一つ理由があり、それが熱により香り成分を効率よく拡散し、虫を誘い受粉を促すためである。ザゼンソウは虫の好む(人間にとっては悪臭の)においを発する。熱によりにおいを倍増させているのだ。現在ザゼンソウの研究が進んでおり、低温に弱い作物の耐寒性を高めたり、寒さに優れた植物を作ることができるのではないかと期待されている。それだけではなく、私はにおいを強く発する植物を作ることができるのではないかと考えた。植物の発熱にはミトコンドリアが大きく関わっており、ミトコンドリアの呼吸速度が増加すると熱が発生することがわかっている。ザゼンソウは非発熱植物に比べミトコンドリア量が24-360倍多い。これらの結果から、例えば観葉植物ではポピュラーなバラなどは、家に飾っていても家全体に香りが拡散することはないが、品種改良により野生型よりもミトコンドリア量の多い個体を作製すれば熱が発生し、より香りの強いバラができるのではないだろうか。また人間では感知できないほど微弱なにおいをもつ植物も、このようにして香りを強めることによって新たな香りを発見できる可能性もある。

A:面白い考え方だと思います。芳香物質を増やすのではなく、温度を上げて芳香をつよくするというのはアイデアとしては良いのですが、物質の合成量が同じままだと、すぐに芳香物質が枯渇してしまうかもしれませんね。あと、特に定量的な数値を出す場合には、出典を明記してください。


Q:講義で扱われた実験では雨が光合成に与える影響を調べるということで葉の濡れを操作していたが、土の含有水分量も影響が大きそうだと思い私ならそちらを調べてみたいと思った。一口に土の含有水分量と言ってもその変化によって植物に生じる変化は3 つ考えられる。すなわち、①根からの水分吸収量の変化、②植物が根から栄養を吸収する時は水に溶かされた状態で吸収することから栄養吸収効率の変化、③土の含有水分量が異なれば根に接する気体量も異なるであろうことから根の呼吸の変化、の3つである。よって実際に実験をする際には、土の含有水分量以外の条件を統一するだけでなく、これら3 つのうち2つの統一にも気を遣わなければならない。だが根からの吸収においては吸収水分量と吸収栄養塩量の片方のみに違いをつけることは難しいため、本レポートでは③の影響を検討する実験について考える。③のみの影響を検討するには、チャンバーに土をふんわり詰めた場合とぎっちり詰めた場合とを比較すれば良いと考えられる。ただし土の密度が異なると根の伸長具合(長さや本数)が異なって根の表面積が異なってしまうことが予想されるため、栄養成長期が終わるまでは同一条件で育てた個体同士を比較するべきと考えられる。

A:土壌の場合は、条件を切り分けるのがさらに難しそうですね。根の伸長具合もさることながら、例えば、根毛の密度なども変化しそうです。そのような影響も含めて「影響」と考えるべきなのかもしれませんが。