植物生理生化学特論 第11回講義
光化学系量比調節
第11回の講義では、シアノバクテリアにおける光環境応答の一つとして、光の質や量の変化に応じて光化学系の量比を調節するメカニズムの研究例について紹介しました。
Q:今回の講義では、シアノバクテリアの光環境応答について学んだ。強光下で培養し続けることで遺伝子に変異(欠損)が生じ、細胞サイズが大きくなった変異体について少し考えたことを述べる。この変異体(PmgA欠損株)は、光とグルコースがともにある環境下(光混合栄養条件下)で致死となるが、強光独立栄養下では野生型よりも光合成速度が大きい、光阻害に強いなどといった性質をもっていることが説明されていた。ここで疑問に思ったのは、なぜ光混合栄養条件下で致死となるのか、ということである。このことについて、授業の最後に説明された「この変異体は短期間では生育速度が大きいが、長期間では生育速度が低下する」ということと「光混合条件下でほとんどのPmgA欠損株が致死となる中でみられた疑似復帰変異体の多くが、NDH-1複合体のサブユニットに変異を持つ」(埼玉大学, 環境応答研究室)という知見を参考に以下の仮説を考えてみた。PmgA欠損株は光合成の下方調節ができないことから、強光条件下で光合成が盛んに行われ、呼吸基質であるグルコースがどんどん作られる。さらにグルコース存在下では細胞外からグルコースを取り込み、呼吸基質が細胞内に蓄積していく。細胞内に蓄積した大量の呼吸基質を消費して還元力がどんどん作られる一方で、窒素などの栄養を取り込んで行う生合成の速度は、栄養が制限されているために一定の速度で飽和する。還元力が生合成速度に対して過剰になると、活性酸素が発生し細胞に傷害が生じ、致死となる。疑似復帰変異体では、NDH-1複合体サブユニットの変異によってCO2取り込みを制限し、光合成による有機物の合成量を少なくすることで呼吸基質の蓄積量を減らすことで細胞の致死を回避していると考えられる。
参考:埼玉大学 環境応答研究室 日原グループ、http://www.res.titech.ac.jp/~biores/STARVE.html、東京工業大学 化学生命科学研究所 田中・今村研究室、http://park.saitama-u.ac.jp/~kankyo/hihara/research.html
A:まず最初に、細胞のサイズとコロニーのサイズは全く別物ですから注意してください。さて、ここで述べられたような還元力過剰説は有力な仮説です。ただ、CO2の取り込みを制限した場合に、確かに呼吸基質の生成は少なくなりますが、光合成の電子伝達においては、むしろ還元力が余るようになりますよね。そこは、どのように説明するのでしょうか。
Q:Synechocystis sp. PCC 6803の野生株が持つ強光下において積極的に系Iを分解し敢えて光合成量を抑制するという性質は、一般的な高等植物が光呼吸を起こして光阻害を防御しているという説、また植物が低温にさらされた際に系Iの能動的な分解を行うという事実と照らし合わせれば、類似した「自然な」反応と言える。ところで、シアノバクテリアの光順化と聞くとシアノバクテリオクロムによる補色順化の話が想起される。フィコエリスリンを持たないSynechocystisは補色順化は起こさないと考えられるが、PmgAの活性あるいは強光はどの程度ゲノムワイドな変化をもたらす変化なのだろうか。即ち、pmgA依存のプロモーターはpsaAのもの以外にどのようなものがあるのだろう。調べた限り光化学系の量比調節能を欠損する原因遺伝子としてはsll1961, nblA ccmK2などがあるとの記述は見られるが、その関係性までは調べきることができなかった。
A:光化学系Iの遺伝子の強光条件下における発現抑制については、特定の転写因子の関与に加えてnon-coding RNAによる転写御調節がかかわっていることが最近分かってきました。どうも適切な発現調節をするために二重の制御をかけているようです。
Q:授業では、光環境の変化による光化学系量比の調節と、実験室内で起こった野生株の適者生存説に基づいた進化について学んだ。実験生物の野生株の進化について非常に興味深かったので、考察したい。シアノバクテリアの野生株は、発見当初から考えると系統樹が描けるほどに特徴の異なった多様な株が存在する。一言で野生株を使用して実験したと言っても、完全に同じ特徴を持った野生株を使ったとは限らず、学名では同じ野生株でも実験結果が全く違うことも起こり得る。これはシアノバクテリアだけの現象ではなく、全ての実験生物に起こる可能性がある。では、もし実験室内で継代培養している細胞を使用して何度か再現実験を行う時に、この進化が進行してしまったならば正しい結果が期待できないのではないか。いくら元の株をグリセロールストックなどで保存していても、保存期間の限界はある。また、実験室内での進化は自然環境での進化と同義に考えてはいけないように感じる。そこで、この進化をできるだけ食い止める手段はないのか考えた。そもそもこの進化はシアノバクテリアの場合、WS株とWL株のような大きさの違い、運動性の違いなどで明らかになったものの、研究者が意図的に毎回遺伝子配列を調べない限りは進化による新たな株と元の株との違いだとは気づきにくい。変化の過程がわかりにくい上に継代培養することでどんどん進化は進んでいく。だが、この進化が起こるには突然変異した野生株が生き残るのに最適な環境であること、つまり適者生存、が必要条件である。ならば実験室内でもシアノバクテリアが発見された当初の環境(カリフォルニアの淡水)を気候、水質などほぼ完全に再現することで、そもそもの突然変異が起こることを最小限に抑えることができると考えられる。また、定期的な元の株の保存や遺伝子配列の解析も同時に行う必要があるが、発見当初の環境とほぼ同じ状態で起こった進化については、野生株の自然環境で起こる進化と同じと考えて問題ないと考えられる。
A:野生の状態に近づけて培養すればよいのではないかという意見ですが、実は問題点が一つあります。それは野生の状態の一番の特徴が「一定でない」ということです。植物における変動する環境への応答の重要性は、ここ数年でクローズアップされた最新の研究課題です。
Q:今回の授業では、光化学系量比調節について学んだ。光質によって光化学系量比が変化しているなど、光合成の複雑なメカニズムを垣間見た。その中で光合成の過程で抑制するような、火事場の馬鹿力を出しすぎないようにする仕組みがあることを知った。自然界の中では必要だが人の手によって整備された環境であったら常に火事場の馬鹿力を出してもよいのではないかと思った。そういった植物体をつくると成長速度が速くなるのか、植物の大きさが大きくなるのか、見た目は変わらず果実だけが大きくなるのか分からないができたらバイオマスや食糧不足の問題の解決の糸口になるかと思った。
A:その通りでしょうね。生物は自然環境に適応していますから、単に生育をよくしようと努力しても、うまくいく可能性は低いでしょう。そこで、考えなくてはいけないのは、自然界で抑制されている能力を解放するという方向性でしょう。
Q:今回の講義のテーマは「光化学系の量比調節」ということだったが、後述の、講義の最終的な結論を見ても分かる通り、前回の「光阻害」の続きとして捉えても違和感はなかった。今回の講義での最終的な結論は、「自然条件下では強光下において光合成を抑えることが重要である」(先生の言葉を借りれば、『植物の世界でも働きすぎはよくない』)とのことだったが、強光下といっても世界には、地域によって様々な環境条件が存在するわけで、例えば砂漠のような極端に強い日光に晒される植物、例えばサボテンなどは、どのようにして光阻害から身を守っているのかという疑問を抱いたので、実際に調べてみた。結論から言うと具体的な光阻害への対応策を把握することはできなかったが、興味深い事実を知ることができた。一般的に乾燥地に生えるサボテン科、パイナップル科、リュウゼツラン科、ベンケイソウ科、トウダイグサ科などの植物は、CO2の取り込みを夜に行い、昼に還元するという特殊な光合成を行っている(このような植物はCAM植物と呼ばれる)。この機構は、元々は高温に晒される昼に気孔を閉じることで、貴重な水分の損失を防ぐためのものだとされているが、昼間の光合成を夜間にため込んでおいたCO2のみで行うということは、強光下における過剰な光合成による、光阻害の抑制にもつながるといえるだろう。尤も、CAM型光合成を行う植物は必然的にCO2の取り込みが夜間のみに限られるため、成長速度などに関しては、通常の光合成の方に軍配が上がるかもしれない。
参考:「CAM型光合成」『Wikipedia』、https://ja.wikipedia.org/wiki/CAM%E5%9E%8B%E5%85%89%E5%90%88%E6%88%90、(2016/07/02 更新) [2016/07/09 閲覧]
A:レポートの内容について悪い点があるわけではありませんが、やはり、CAM植物の紹介が主要なポイントになっているので、考え方の独自性という観点(この講義のレポートの評価基準)からすると、やや物足りないですね。
Q:今回の授業で、扱ったpmgA変異株に興味を持った。この変異株は光合成速度も光阻害耐性も野生株に比べて高い。これだけ聞くと、この変異株を、バイオエネルギー生産に応用したいと思える。しかしこの変異株は寿命が野生株に比べて短い。つまり、効率よく大量培養はできない。この変異株をバイオエネルギーとして応用する研究を考えた。この変異株を長生きさせる方法の研究だ。授業ではこの変異株から「働きすぎは体に悪い」という教訓が紹介されていた。確かにこの変異株は無理な仕事をしているように思える。無理な仕事をして寿命が縮んでいるということは、休ませることで長生きさせることができるのではないかと考えられる。休ませる方法としては暗所においたり、光合成阻害剤を加えるという方法が考えられる。どちらにしても、休ませることで野生株より合計の光合成量が下回ってしまったら意味がないので、野生株より合計の光合成量高く、長生きもできるような境界を見つけることが重要であるのではないか。
A:でも、野生の生物は、皆、そのバランスを求めて長い年月の間進化を重ねてきたわけですよね。それを考えると、現在の野生株がそれを実現している、と考えるのが妥当ではないでしょうか。
Q:今回の授業では、植物は光化学系の量比を調節することにより光環境に適応することを学んだ。pmgA変異株は野生株と比べて強光下でも光合成を抑制しないおかげで生育速度がはやいが、長期間の強光で顕著な生育阻害を受ける。このことから、もし顕著な生育阻害を受けるまでの期間を長引かせることができれば、植物の生育速度をより増大させ、バイオマス増産につなぐことができるかもしれない。pmgA変異株は系1を減らさないことにより光化学系の量比調節がうまくいかず生育阻害された。つまり、系1と系2の量比が保たれたままどちらも活性化することができればよいのではないか。そのような植物体は、強光が最適条件となり、生育することにより光合成速度が増加、植物の大型化が見られるのではないだろうか。
A:これも、上のレポートと同じで、その最適条件を野生型が実現し詠るのではないか、という疑問に、何らかの形で答える必要があると思います。