植物生理生化学特論 第6回講義
クロロフィル蛍光測定
第6回の講義では、最初に熱発光について触れたのち、クロロフィル蛍光と光合成の関係について解説しました。
Q:今回の講義では、特殊な蛍光とパルス変調測定について学んだが、その中でパルス変調測定について考えたことを論じる。講義ではクロロフィルの蛍光測定を例に、連続光のみを測定光として用いた蛍光測定とパルス光を用いた蛍光測定を比較し、パルス光を用いる利点について説明されていた。ここで、クロロフィル蛍光以外の蛍光測定、例えば細胞の自家蛍光測定は、薬剤添加後などの細胞の傷害度評価等に利用されているが、そういった測定にパルス光を用いることが有意義なのではないかと考えた。自家蛍光測定は連続光による励起で光傷害が起こることが分かっているため、パルス光励起によってその光傷害を軽減することができると考えられる。
A:確かに、蛍光測定において色素の退色が問題になる場合などにも、パルス変調測定を導入することは有益だと思います。ただし、蛍光の収率を測定するだけの場合は、比較的簡単ですが、イメージングをしようとすると、かなり大がかりな機器になりますから、お値段もそれなりのものになります。
Q:今回の講義内容のうち,パルス変調を利用した光化学消光・非光化学消光の定量化を含めたクロロフィル蛍光の挙動測定について,電子回路の類い以外へのPAMの応用例を余り知らなかったこともあり深く感動を覚えた。その中で,光合成電子伝達系と呼吸電子伝達系の同一膜上における共存またプラストキノンプールの共有により,飽和パルスを照射しても正しい結果が得られないというシアノバクテリアの話は更に興味深い。調べてみるとシアノバクテリアはフィコビリソームから光化学系Iへのエネルギー分配も消光に寄与しているとのことでもあるようなので,以下の手法によりこれを改善出来ないかと考察した。先ずはエネルギー分配に関与するPsaK2の破壊。Synehocystis sp. PCC 6803ではPsaK2がフィコビリソームから光化学系Iへエネルギー伝達に関与していることが示唆されていること[1]から,PsaK2のKOまたはKDによりそのエネルギー分配を大きく制限出来る筈である。続いて呼吸によるプラストキノン還元量の推定。これは呼吸速度を測定することで代用可能と考える。シアノバクテリアにおける呼吸速度の測定は実際に考案されている[2]ので,NdhBの破壊などを利用できる可能性がある。あるいは,緑色硫黄細菌のデータが参考となる可能性もある。この細菌の電子伝達系は未解明な経路の存在も示唆されているが,光合成系Iに類似した反応中心のみを有することから,バクテリオクロロフィルから光化学系Iへのエネルギー伝達の最大値を見積もる程度には利用できるのではないだろうか。
[1] Fujimori, T., Hihara, Y. and Sonoike, K. (2005) PsaK2 subunit in hotosystem I is involved in state transition under high-light condition in the cyanobacterium Synechocystis SP. PCC 6803. J. Biol. Chem. 280, 22191-22197.
[2] 「原核光合成生物シアノバクテリアにおける呼吸と光合成の相互作用の研究」
A:最後のところ、緑色硫黄細菌については、バクテリオクロロフィルがクロロフィルとは吸収・蛍光とも、波長が異なるという問題点があります。測定領域が赤外になりますので、原理的には可能だと思いますが、実際の測定はかなり難しいでしょうね。
Q:今回の講義ではクロロフィル蛍光強度が時間変化とともに複雑に変化するコーツキー効果現象を学んだ後、光合成系には影響を与えずにクロロフィル蛍光を測定するパルス変調クロロフィル蛍光測定法について学びました。そして次回はシアノバクテリアを用いたクロロフィル蛍光挙動データベース解析の話をして頂けるということで来週の講義も楽しみです。それにあたって受講前に自分が考えるデータ解析の課題や難点を考えました。園池先生のホームページも見させて頂いたのですがおそらくシアノバクテリアの機能欠損株での蛍光挙動をlight 0時間目から経時的に測定し比較していくお話が聞けると思います。しかしシアノバクテリアは増殖ステージに応じて細胞内制御機構や代謝系の活性が大きく変動することも知られています。そのためControlの取り方が難しく、ビックデータを解析する際に障害となってしまうと考えます。またビックデータの解析も変数が多すぎて劣決定問題となってしまい予備的実験の域を超えないとも言われています。こうした問題について対応策を考えようとしたのですが正直詰まってしまい解決できませんでした。
参考文献:統合ゲノミクスのためのマイクロアレイデータアナリシス、I.コハネ・A.コー・A.ビュート著、星田有人訳、発行元:丸善出版(株)
A:増殖ステージの問題は確かにあって、異なるプレートの間での比較は、事実上困難でした。これに関しては、必ず同じプレート上の野生株と遺伝子破壊株を直接比較することである程度解決しています。
Q:今回の授業では、パルス変調クロロフィル蛍光測定法などについて主に扱った。このとき、クロロフィル蛍光測定については、光合成の系Ⅱで酸化還元状態がクロロフィル蛍光収率に与える影響が大きく、系Ⅰでは影響は少ないということであった。では、系Ⅰの蛍光について詳しく調べるにはどうしたらよいか。まず、系Ⅰの蛍光収率を最大限上昇させて測定しやすくするため、エネルギー保存の法則から考えて、励起した分子が余分な熱変化や電子移動などを起こさないようにし、分子がほとんど蛍光に向かうようにする必要がある。また、系Ⅱの影響を少なくするため、系Ⅱの電子受容体がよく働くようなエネルギーが積極的に使用される環境を避ける必要がある。これらを踏まえると、系Ⅰの蛍光を測定するには、励起した分子や植物体内のエネルギーが活動的にならない、極端な低温状態が望ましいのではないか。
A:提案されている考え方は、系Ⅰの蛍光を測定する、というだけの目的であれば、ある程度よいように思います。ただ、おそらく実際には、細胞内の状況が変化した時に系Ⅰのどのような影響があるのかを調べたくて、系Ⅰの蛍光を測定する場合の方が多いでしょう。そうすると、細胞内の状況が反映されない条件というのは、必要な情報が得られない条件ですから、ちょっと困りますね。ただ、例えば系Ⅰの量を定量する、というだけであれば、適した方法だと思います。
Q:キサントフィルサイクルとはキサントフィルであるビオラキサンチンが強光下でゼアキサンチンに変換されること。一方、弱光下ではゼアキサンチンはビオラキサンチンに再転換される。これらをそう呼び、強光下で過剰光エネルギーの受容を回避し弱光下で量子効率を下げないために重要である(1)。ゼアキサンチンは過剰光エネルギーの受容を回避するために気化熱で熱を放出する。地球温暖化が進行した場合、土壌中の水分率が低くなり強光下時に気化熱で熱を放出できなくなる。そのためキサントフィルサイクルが上手くできなくなる。しかしゲリラ豪雨など一気に大量に雨が降ることが増えると予想されるため長く土壌に水分を留めておいて利用するか、植物が多くの水分を必要とするために根が深く伸びる種より横に伸びる種が生き残ることが予想される。
(1)キサントフィルサイクル-光合成辞典、http://photosyn.jp/pwiki/index.php?キサントフィルサイクル
A:これは、どこまでが調べたことで、どこからが自分の考えなのかがよくわかりませんね。科学論文では、過去の知見と自分の発見を明確に区別することが要求されます。この講義のレポートでも、それにならって、どこが自分の意見なのかを明確に示すようにしてください。
Q:今回の授業の初めに、熱発光というものを学習した。これは低温において光を照射した物質を熱する際に放射される光のことである。生物界においては光合成系に特有な現象であるとあったが、これを工業的にもっと利用できることはないかと考えました。まず、電離放射線を使用しないと電子が励起しないのでこれは必須条件です。放射線があるところとして思いついたのが宇宙です。宇宙であれば放射線があるのでこの熱発光の原理を利用できるのではないかと考えました。といっても、宇宙で熱をおこすことは容易ではないと思いました。そこで、熱発光の工程を逆から行えたら宇宙で熱を取り出せるのではないかと考えました。ある物質が励起状態にあり、それが安定状態に戻るとき余ったエネルギーを熱として取り出せるのではないかと考えました。
A:光を吸収して励起され、それが基底状態に戻るときに熱を出すのは、黒い服に太陽の光があたってぽかぽか暖かいのでも一緒です。熱発光がそれとは違うのは、準安定状態が低温で固定される点にあります。ですから、考えるとしたら、エネルギーや信号の貯蔵といった方面への応用かもしれません。
Q:今回の授業では、光合成活性の測定方法をいろいろと学んだ。特にパルス変調法では、測定は同じ周波数の蛍光だけを測定することで、連続的な励起光により生じた蛍光は無視できることを知った。光合成だけでなく、様々な実験において自分が得たいと思う値に関係のない値をどう取り除いていくのかが大事になると思う。また、何か違う値を含んでいることに気付かず結果としてしまう危険性があると感じた。自分は最近GFPを励起する光で葉緑体の自家蛍光に苦戦している。今回の授業で、クロロフィルの蛍光の大きさは光合成速度によって変化するとあったので、光合成速度を小さくするような状態において観察すると、蛍光の大きさが小さくなるかもしれないと考えられる。
A:確かに、光合成の大きさによって蛍光の大きさは変わるのですが、一般的に植物切片などのGFP蛍光を測定するような場合は、切片の作成によって光合成活性がかなり落ちているのが普通です。単細胞生物をそのまま顕微鏡観察する場合はよいのですが。やはり、励起光および蛍光の光学フィルターをうまく設定することの方が早道かもしれません。
Q:今回の講義で気になったのは、酸素発生の4周期振動だった。暗順応した葉に飽和強度の閃光を連続で照射すると、3,6,10回目……と一定の回数ごとに、酸素発生量が極大を示すとのことだったが、実際に閃光の回数と酸素発生量を軸にしたグラフを見てみると、酸素発生量は閃光の回数が大きくなるにつれて、極大値が小さくなっていることが分かった。なぜこのようなことが起こるのか、講義でも示された「Kokの酸素時計」を参考にしながら考えてみる。Kokの酸素時計によると、一分子の酸素を発生させるためには4回の電離分離が必要となる。ここでふと気が付いたのだが、一回の閃光によって「全ての系Ⅱ」に「確実に一回だけの電離分離」を引き起こすことが可能なのだろうかということだった。更に調べたところによると、暗所においてS3やS2のマンガンクラスターの状態は不安定であり、酸素を発生する前にサイクルを逆行してS1まで戻ってしまうこともあるという。恐らくサイコロを振って、ある一つの目が出る確率が一定の値に収束していくように、酸素発生量もこれらの不確定要素によって、ある一定の値に収束していくという説も考えられる。
参考:東京大学光合成教育研究会 「光合成の科学」 東京大学出版会,2007
A:これはまさにその通りです。