植物生理生化学特論 第5回講義
蛍光タンパク質
第5回の講義では、下村先生のノーベル賞で有名になったGFPなどの蛍光タンパク質と、その応用について解説しました。また、光学フィルターの種類と仕組みについても触れました。
Q:今回の授業にて、様々な種類の蛍光タンパク質が作り出されていることを知ったが、その中でも特に、紫外線を吸収して蛍光を青色の可視光として放出するものが存在することに興味を持った。これは植物や藻類の表面にこうした蛍光タンパク質を発現することができれば、紫外線を吸収して細胞内部を保護しつつ蛍光によって光合成が行なえるのではないかということが考えられたからである。現在、地球はオゾン層によって紫外線から保護されているが、南極ではオゾンホールが形成されているということが知られている。今後これが拡大した場合、極地の光強度が小さいことを組み合わせると、極地付近に生息する光合成生物が進化してこうした蛍光タンパク質を獲得した場合、紫外線防御能力、光合成能力の増加から生存において優位に立つことができるのではないかと考えられた。さらに遺伝子導入によって作成すればそもそも光に紫外線が多い宇宙空間での培養に役立つかもしれない。ただ光合成に関しては蛍光が吸収した光と比べてエネルギーが非常に小さいということから、クロロフィルaの短波長側の吸収と蛍光波長の吸収との関係を調べて、蛍光とどちらの効率が良いかを調べる必要がある。
A:太陽光の利用に際して、その幅広いスペクトルの全域を使うというアイデアについては、いろいろな方法が考案されています。紫外線の部分は太陽電池のような用途に使い、残った可視光を藻類の培養に使うなどという方法も提案されています。レポートで提案されている例で、どれだけエネルギーが稼げるかは、蛍光の収率に依存しますが、もし、紫外線による阻害をこれによって回避できるのであれば、それだけでも十分に意味があるかもしれません。
Q:日常的に写真撮影を行う趣味があり、ND100000などのフィルターも所有している。従って今回の光学フィルターを中心とした話題は普段にも増して親しみのある話題であった。その中でも特に興味を惹かれたのは、ダイクロイックフィルターである。どうもバンドパスフィルターとの違いがよく理解出来なかった(恐らく自身の聞きそびれによる)ので、少しまとめてみたい。調査にはセラテックジャパンやシグマ光機のカタログを用いた。違いは透過性とその手段にあるのだろうか。バンドパスフィルターは反射式のもの吸収式のものとどちらも存在し、選択性が高い。一方でダイクロイックフィルターは基本的に誘電体膜を用いた反射式であり、比較的広い透過性を持つことが特徴のようである。しかしコーティングする誘電体を工夫すれば選択性の高いダイクロイックフィルターも作製可能であろう。また誘電体を用いるのであれば少なからず誘電体吸収を起こすのではないかと想像される。今回は調査により芳しい結果が得られなかった為、次回以降の講義で再度、あるいは参考になる図書を紹介頂ければ幸いである。
A:ダイクロイックフィルターは、バンドパスフィルターに比べて波長依存性がシャープなので、いろいろな面での使いやすさという点だけで言えば、圧倒的にダイクロイックフィルターがおすすめです。一方、バンドパスフィルターの場合、単なる色ガラスフィルターでも実現できるので、比較的価格がお手頃です。ただ、波長依存性はシャープではありません。日本では、昔は東芝が一連の色ガラスフィルターを作っていましたが、現在では多くが品切れです。現在、色ガラスフィルターを主に作っているのはコーニング社でしょうか。
Q:光学フィルターは特定の波長をカットする。光学フィルターにはカットオフフィルター、バンドオフフィルター、NDフィルターなど様々な種類があることを学んだ。カットする働きと聞いてカットして欲しい光にブルーライト(青色光)がある。ブルーライトはパソコンやスマートフォンの液晶画面から出ているものである。ブルーライトは波長が380-500nmである。(1)ブルーライトをカットする方法としてブルーライトと補色関係にある黄色のガラスを画面にかければ防げると考えられる。だがそれを行うと画面に映っている色も変わってしまうためブルーライトをカットするメガネや黄色のサングラスをかけるのが良い。ただメガネをかけるのが嫌な人のためにコンタクトレンズでブルーライトをカットするものが作れないかと考えた時に単純に黄色のコンタクトレンズを開発すれば良いと考える。
(1)ブルーライトとは ブルーライト研究会、http://blue-light.biz/about_bluelight/
A:以前から思っているのですが、モニターの側で色を決めているのは今は三原色のLEDでしょうから、ほんのわずかな手間で青のLEDの出力を少し落とす青色低減ボタンを実装するのは簡単だと思うのですがね。サングラスよりは手間が省けそうです。
Q:今回の授業で、様々な蛍光たんぱく質について学んだ。自分が実験を行うときに、励起光の波長を分光でわけるのではなくフィルターで、波長を狭める形式の顕微鏡で行うことが多い。すると、染色した細胞壁の蛍光がGFPのチャンネルで観察しているときに邪魔をして来たり、クロロフィルや道管が自家蛍光で強く光ったりすることがよく見られる。より透過させる光の波長の範囲を狭めるフィルターを用いると改善されるが、完全に解決されたとは言い難い。そこで、自分が通したい範囲の波長に設定できるようなフィルターがあったらよいと思う。1つのフィルターのみで行うと難しいので、フィルターを何重に重ねても観察しやすいフィルターや、フィルターを設置する装置を備えている顕微鏡や、30種類ほどのフィルターを内蔵し、そのうち使用したいフィルターを選択できるような顕微鏡もよいと思った。また、全部通さないフィルターから、通したい波長のみを通せるように顕微鏡内で加工できるようになると、蛍光イメージングの質が向上すると考える。
A:昔の分光学の研究室には、フィルターが何十種類も置いてあったものです。今でもうちの研究室は少しずつ透過波長を変えた干渉フィルターを山ほど持っています。
Q:今回の講義では様々な蛍光タンパク質の亜種を学んだが、気になったのは、ホタルやGFPのそれに始まり、カエデやドロンパが通常の状態で放つものに至るまで、多くの蛍光物質が緑色の光を放っているということだった。例えば植物の葉が緑色に見えるのは、クロロフィルが赤色(680 nm前後の光)と青色(430 nm前後の光)の光を吸収することにより、 残りの緑色の光が反射されたり、散乱されることで人間の眼には緑色に写るからである。しかし何かしらの蛍光物質の蛍光が緑色に見えるとき、その物質は緑色スペクトルにある 525nmにピークのある 475~700nmの範囲に蛍光を放出しているから緑色に見えるのであり、つまり端的に言えばその物質自体があえて緑色の蛍光を放っているともいえる。オワンクラゲに至っては、体内に存在するイクオリンの青白い発光をそのまま用いることはせず、複合体を形成するGFPが受け取ることで緑色の蛍光として変換している。ホタルといいオワンクラゲといい、生物が緑色の蛍光にこだわるには何かしらの理由があると考えられる。生物が光を放つ理由として考えられている説の多くが、「繁殖」あるいは「威嚇」のどちらかに帰結する。前回のレポートで触れたとおり、緑色は人間の眼に最も鮮やかに写る色である(故に遺伝子標識にはGFPのような緑色蛍光タンパク質が重宝される)が、蛍光を放つ生物が同種の異性へのコミュニケーションや捕食者への警告に緑色の光を選択してきたならば、緑色の蛍光は、人間以外の生物の眼にも他の色と比べて鮮やかに写っているという可能性が考えられる。
A:面白い考え方ですね。よく考えていると思います。ここまで考えたら、あと一歩、人間とそのほかの視物質の吸収スペクトルが同じか違うか、という点に触れてもよかったように思います。
Q:今回の授業で出てきた様々な特殊な蛍光色素はとても興味深かった。カエデ、ケイマ、ドロンパはどれもサンゴから見つかった色素である。ではなぜサンゴはこんなにも多くの珍しい色素を持っているのだろうか。これらの色素を持つことによるサンゴにとっての生物学的意義を考えることにした。サンゴは体内に藻類共生させその藻類が光合成で得た産物をほとんどサンゴのためのエネルギーとして使っている。したがって、それらの藻類は光合成により得たエネルギーを自身の成長に使うことがほとんどできていないようである。一見して、これらの藻類にとってサンゴに共生する利点はないが、これらの特殊な蛍光色素によって元の太陽光では光合成に使えなかった波長の光もこれらの蛍光色素により波長がかえられ光合成に使うことができるようになっているのではないだろうか。
A:「カエデ、ケイマ、ドロンパはどれもサンゴから見つかった色素」というのはやや誤解を招く表現です。もともとは、もちろん生物由来ですが、蛍光プローブとして使いやすくなるように改変が加えられているのです。
Q:今回の授業では、様々な蛍光タンパク質の種類について学んだ。そこで、更に最新の蛍光タンパク質がないかどうか調べたところ、理化学研究所、大阪大学、北海道大学共同研究によって細胞内の分子混雑状態により色が変わる蛍光タンパク質「GimRET(Glycine inserted mutant fRET sensor)」が開発されていることがわかった。これは、今まで計測することのできなかった生きた細胞内の分子混雑状態を定量的に評価する方法で、今後これまで議論できなかった分子混雑と細胞機能の関連について議論が可能になる見込みである。GimRETは、蛍光タンパク質の円柱構造に、アミノ酸を挿入することにより穴を開け、さらにFRET法を適用することにより、分子混雑が上昇すると黄色から青色に変化する。この蛍光タンパク質を用いて、わたしは植物細胞における分子混雑状態別の細胞内交通について解析したい。GimRETを発現させた植物細胞に、GFPなどを融合したミオシンを発現させる。タイムラプスで細胞内のミオシン移動速度をGimRETにより発光する色別で調べることにより、分子混雑状態別の細胞内交通を解析できるのではないだろうか。
A:良い考えだと思いますが、もし、研究のアイデアのプロポーザルとして見た場合は、混雑状態が交通に及ぼす影響を解析する意義を一言入れたほうが良いと思います。「解析できる」から解析するのではなく、「○○を明らかにするために解析したい」と書いたほうがインパクトがあります。その場合、○○は、「混雑状態が交通に及ぼす影響」ではだめですよ。
Q:今回の講義にFRETというものが登場したが、その際咄嗟に、FRETを利用すればある程度自在に任意の励起波長・蛍光波長を持つタンパク質が得られそうだと思った。つまり、例えば最大励起波長400nm・最大蛍光波長500nmのタンパク質と最大励起波長500nm・最大蛍光波長600nmのタンパク質の融合タンパク質を作製することにより、400nmで励起し600nmの蛍光を発するストークスシフトの大きいタンパク質を得るというものである。蛍光イメージングにおいては、ストークスシフトの大きい蛍光タンパク質を用いることで、マーカーの蛍光を拾う際に励起光が入り込むことをなくし、またサンプルの自家蛍光とマーカーの蛍光が区別しやすくなる。また同じ励起波長で異なる波長の蛍光を出すものをいくつも作製することでKeimaとGFP等を合わせた場合のようなマルチカラーイメージングを可能にし、だがその場合と異なりひとつの波長で全ての融合タンパク質を最大励起させることが可能と考えられる。しかしこのような融合タンパク質については、作製自体は容易であろうが、そもそも思い通りの材料タンパク質の組み合わせが都合よく揃うとは限らない。また多量体となるため、観察対象の生きた動きを追うには不向きと考えられる。
A:面白いアイデアで、ある程度までは実現可能なのではないでしょうか。ただ、蛍光の収率は100%ではありませんから、段階数が増えると、光はどんどん弱くなっていくでしょうね。