植物生理生化学特論 第4回講義
特殊な吸収測定・発光測定の基礎
第4回の講義では、特殊な吸収測定について、ESR、NMRなども含めて解説したのち、発光測定の基本的な部分について、主に生物発光を中心に解説しました。
Q:今回の講義では、特殊な分光学測定と発光測定について学んだが、その中でも生物発光について論じる。講義ではホタルを例に生物発光メカニズムが説明されていた。ホタルの発光はルシフェラーゼの触媒によって酸化されたルシフェリン(オキシルシフェリン)が安定した状態になるために放出したエネルギーが光となることで起こるが、この光はふつう波長560 nm付近の黄緑色である。しかし、この黄緑色というのに生理学的意義があるのか、というところに疑問を感じた。例えば、深海生物にも青白く発光生物は存在し、捕食や威嚇に用いている例はあるが、これは青白い光が海水中でよく透過するためだと考えられている。このことをヒントにすると、幼虫の時期を川で過ごし、成虫の時期を陸で過ごすホタルの黄緑色の光は、周囲にある水草や陸上植物の葉がよく反射するため、同種の個体に効率よく光を認識させられるという利点があって黄緑色を用いているのではないかと考えられる。
A:葉の上で目立つ光を使う、という推論は説得力がありますね。ただ、僕はホタルの生態は専門外ですが、幼虫の場合の発光は「同種の個体」に対するものではないのでは?あと、ホタル以外でもメカニズムは違うのに発光は黄緑色であるものが多い理由がこれで説明できるかどうか、気になりますね。
Q:蛍光と発光と聞いて,私にはまずFRETが想起された。そこで,今回解説された内容とFRETを組み合わせた計測方法が出来ないか考察してみたい。安直に考えて,ストップドフロー分光法と組み合わせるのが早いだろうか。例えばあるタンパク質がサブユニットA, Bに分かれているとして,そこにCという基質が組み合わさり,Dという物質に変化する酵素反応を追跡することを考える。まずA, BにそれぞれCFPとVenusを融合させて抽出し,懸濁液とする。それらの分量を調節しながら混合器に送り,基質Cが吸収する波長(700 nm以上であることが望ましい)とCFPの励起波長の2成分からなる光を照射する。照射後は回折格子で基質Cが吸収する波長,CFPの蛍光波長,Venusの蛍光波長を分光し,それぞれの強度を計測する。これにより,3分子の挙動を同時に追跡することが出来ると想定される。またCFPとVenusは両者間の距離が10 nm未満でないとFRETを起こさないから[1],サブユニット間の距離変化なども同時に計測できるのではないだろうか。
[1] Brossard et al., Nature Protocols 8, 265-281 (2013)
A:アイデアは面白いですね。このような方法が役立つのは、サブユニットの相互作用によって活性が変わる、もしくは基質との反応によってサブユニットの相互作用が変化するときでしょうか。単に、サブユニットが結合していれば活性があるのであれば、FRETの方は時間変化を追跡する必要がなくなってしまいますから、同時測定の意味が失われてしまいますね。
Q:発光レポーターを用いたアッセイは比較的手軽に目的遺伝子の発現の様子を確認できる方法ではあるが、簡易的ゆえに考えなければならないポイントがいくつかある。1つは発光レポーターを導入したことによる遺伝子発現変化の可能性。もう1つはルシフェリンなどの基質投与による吸収・分布・代謝・排泄への影響である。どちらの場合も発光レポーターを導入する前のサンプルと導入後のサンプルの目的遺伝子の転写レベルでの変化や生理活性の変化などを比較しなければならない。また話は少し逸れるが、ハワイ周辺に生息するダンゴイカは共生生物である発光細菌の影響によって体内時計を獲得しているという話を聞いたことがある。このように本来光を発しない生物にとっては自らの発光が生体になにかしらの影響を与える可能性があるわけである。それでも目で見える形で遺伝子発現リズム等が見られる画期的な方法であることに変わりはなく、このような問題点も意識しつつ上手に利用していきたいと考えている。
A:話としては面白いのですが、話題が分散していますね。この講義のレポートとしては、もう少し焦点を絞ってロジックを前面に押し出してください。
Q:今回の授業では、前半に特殊な分光法について、後半に発光について学んだが、その中でも生物発光について興味を持った。これは生物体内で起こる化学発光のことだが、生物種によりそれぞれが持つルシフェリン−ルシフェラーゼが異なることは特に興味深かった。このルシフェラーゼについて考察したい。ルシフェラーゼでの発光は、発光に励起光が不要なため、光毒性や自家蛍光など生物体自身が持つ蛍光による影響が少なく、観察に便利である。だが、授業ではルシフェラーゼの注意点として、ルシフェラーゼ量の反映度合いがあげられていた。これを解決することはできないだろうか。発光がルシフェラーゼ量を反映しないことがある点について、観察時にルシフェラーゼ自身の作用による発光で観察を行うのではなく、ルシフェラーゼが反応するときに他の蛍光タンパク質などと融合してより大きな蛍光を発するといったように、ルシフェラーゼが働くとそれに連動した別の発光機構が作用するような仕組みを作るとよいと考えられる。
A:これは、そもそもなぜルシフェラーゼ量が反映されない場合があるのかを考えないといけませんね。例えば、ホタルのルシフェラーゼの場合、ルシフェラーゼもルシフェリンも、十分に存在する状態でも、ATPが存在しなければ発光しません。ATPが律速になっていれば、ルシフェラーゼの量が変わってもそれは発光の変化には反映されないわけです。つまり、融合タンパク質でもっと光らせようとしても、それだけではうまくいかないのではないかと思います。
Q:様々な吸収測定法と蛍光について少し学んだ。生物発光について考える。生物発光をする生物はたくさんいるがその中でもホタルはエネルギー変換効率がとても良い。人間が作り出したLEDが約30パーセントに対し、ホタルは約88パーセントだそうである(1)。だがエネルギー効率が良いだけであの小さな生物があれだけ強い光を発することができているとは考えにくい。あの強い光はホタルの尻の形にも秘密があるのではと考える。ただ丸いだけでなく光が干渉するように上手く組まれているのではないかと考える。その他に発光する時期が初夏の夜なのは比較的涼しい時期を選んで発光している。これは温度依存性が関係していると考えられる。
(1)「蛍の光」は環境・人類を救えるか??生物史から、自然の摂理を読み解く
http://www.seibutsushi.net/blog/2009/08/852.html
A:これも、ややロジックが弱いですね。論理的な文章は、単に「考える」だけではだめで、根拠が必要です。「体が小さいのに光が強い」から「尻の形に秘密が」と言われても、あまり腑に落ちません。もう少し推論を積み重ねる必要があるでしょう。
Q:今回の授業で蛍光について学習した。その中で生物発光について興味を持ちました。授業中では蛍について取り上げていました、これはルシフェリンがルシフェラーゼの触媒作用によりATPと反応することにより起こるということでした。そして疑問に思ったのが蛍の発光は黄緑色が一般的だと思いますが、赤みがかったものもあるということに気が付きました。これはどのような原理に基づくのかを調べました。調べてみるとあっさりその答えが見つかりました。「発光前のエネルギーの高い状態から安定な状態に変化するとき、その差が大きいと放出するエネルギーが大きく、発光は波長の短い黄緑色になります。しかし、変異型ではオキシルフェリンが動く自由度があるために、エネルギーの一部が光ではなく熱(振動)として無駄に使用される結果、発光色は波長の長い赤色になるのです。」とありました。
Spring8 大型放射光施設
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_26/
A:これだけだと、中学・高校の調べ物学習になってしまいます。「あっさり答えが見つかった」ら、この講義のレポートでは、その先を考えるようにしてください。
Q:今回の授業では、分光光度計と蛍光について学んだ。生物発光する生物としてホタルや、クラゲ、ホタルイカなど動物のイメージが強く、自ら発光する植物はあまり存在していない。生物が発光する理由は多岐にわたり、中には生殖の為に目立つよう行っている生物もいると考えられる。その点植物も虫や動物に目立つように花を蛍光で夜光らせることを行ってもよいはずである。そこで夜に花がつき、その花が蛍光を発した場合生物が花によるのか、寄るならばどういった種類の生物なのか気になった。花を光らすのは、GFP等を組み込んだ人工物を作製し励起波長を当てることでできるが、夜に咲かせるのは概日リズムなどから難しそうである。よってヨルガオのような夜咲く花で形質転換を行うことで、評価できると考えられる。観察した結果、蛍光で光らせなかった時と寄ってくる生き物が変化しなければ、蛍光は植物に寄る生き物に観測できない波長であることや、夜に活動している生物種が少ないなどが考えられる。変化があった場合、なぜ生物発光を獲得した生き物がほぼないのか考えるきっかけとなると考えられる。
A:面白いと思います。植物ではありませんが、キノコの仲間には光るものがたくさんありますよね。そのあたりとの比較から考察することもできるかもしれません。
Q:今回の講義内容で驚いたことは、蛍光という現象があくまで紫外線などの短波長の光が可視光に変換される現象であり、何らかのエネルギーによってそれ自身が可視光を放つ発光とは明確に区別されるということでした(まぎらわしいことに、蛍光という言葉の語源となったホタルの光は、酵素の化学反応により生じるエネルギーを励起源とする発光であることから、蛍光灯などの紫外線等が可視光へと変換される広義の蛍光とは微妙に異なる現象のようです)。ということは、蛍光測定と発光測定ではその意義にもわずかな差異が存在すると考えられます。現在遺伝子標識に広く用いられているGFPは、緑色蛍光を発するタンパク質ですが、発光バクテリアなどが持っているlux遺伝子も細胞に導入しやすく負担になりにくいことから、「蛍光」ではなく「発光」するバイオセンサーとしての可能性を秘めているそうです。ただ、蛍光、特に緑色の光を放つ緑色蛍光は人間の眼にとって明るさを感じやすく、標識に適しているという利点があり、発光バクテリアの場合は温度やpHなどの条件に左右されやすいという可能性を考えたところ、必ずしも発光測定が蛍光測定より優れているとは言えないと思います。実際に、前述の発光バクテリアは現在、遺伝子標識よりも毒物センサー、あるいは環境センサーとしての利用が主流のようです。
A:着目した点はよいと思います。調べたことを自分の視点で持って整理し直して一つの文章に構成している点は評価できます。ただ、どちらかと言うとエッセイに近くて、論理的な展開は少し弱いかもしれません。
Q:今日の授業で、生物発光の例としてホタルの蛍光が出てきた。ホタルはルシフェラーゼによるルシフェリンの酸化により蛍光を発している。このようなルシフェリン発光反応によるコンストラクトの一つに、わたしの研究室でも用いている自己励起蛍光タンパク質がある。これは、ルシフェラーゼによるルシフェリンの生物発光によって蛍光物質を励起状態にし、蛍光を発するタンパク質であり、基質であるルシフェラーゼを加える事で発光する。すなわち、外部照射光なしで光るタンパク質である。このタンパク質を用いて、植物の細胞内は暗闇でどのようになっているか観察することができるのではないだろうか。例えば、非光合成下における転流の様子は、転流物質と自己励起蛍光タンパク質との融合タンパク質を暗闇下で観察することにより解析できるのではと推察できる。近年、蛍光タンパク質による細胞内イメージングは細胞内観察の主流である。それだけでなく、このような自己励起蛍光によるイメージングを行うことで、細胞を様々な角度で解析する必要があるとわたしは考える。
A:面白いアイデアです。ただ、自己励起によって励起光が必要ないと言っても、蛍光が出れば暗闇ではなくなりますよね。何を観察するのかによりますが、蛍光が観察する対象に与える影響を考慮する必要はありそうですね。
Q:今回の講義にホタルの生物発光が登場した。ホタルは仲間とのコミュニケーションのために発光するのだと言われているが、その手段が他の昆虫のよう音やにフェロモンでないのは何故だろうか。「発光の方がエネルギーや物質のコスト節約になるから」で説明がつくとは考えにくい。発光の方が圧倒的にコスト消費が少ないのであれば、昆虫は光るものばかりが多く生存競争を勝ち抜いてきているはずである。また特異性という観点から見ればフェロモンが他二者に比べ圧倒的に高く、その上音や光では仲間以外、例えば天敵に自分の居場所を知らせてしまうことも考えられる。これは光によるコミュニケーションの欠点であり、とすれば、その欠点を補って余りある利点が発光にはあるのだと考えられる。ではホタルの生息する環境という点から見るとどうだろうか。ホタルの生息域は空気中である。空気中での伝達速度を考えると、フェロモンよりは光や音の方が速い。さらにはフェロモンでは放出するかしないかの0/1でしか情報を伝えられず、音も基本的にはそれほど多様なものを出せるわけではない(複雑な声帯や叩くことで大きな音を出せる手足などの発音手段を持つ哺乳類等と比べ、昆虫では多様性は低いだろう)。だが光なら頻度やオンオフの速さによって多様な意味を持たせられると考えられる。またホタルの活発に活動する夜というのは、光が天敵から目立ちやすいのも事実だが、同種に対して目立つのもまた事実である。ホタルがコミュニケーションに発光を用いるのは、そうした利点がホタルの絶滅を妨げる程度には有益であったためと考える。
A:これは非常によく考えていると思います。特に、情報量に注目した点は素晴らしいと思います。