植物生理生化学特論 第4回講義

続・続・吸収測定の方法法

第4回の講義では、通常の吸収測定とは少し異なる、ストップドフロー分光法、閃光分光法、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)、円偏光二色性(CD)の測定などについて解説しました。


Q:今回の講義で印象に残ったのは、円偏光二色(CD測定)です。この分光法は、キラルな物質は旋光性を示しますが、その旋光角は波長によって変化することを利用しています。これにより、タンパク質の高次構造やDNA,RNAなどの構造解析にも使用できると学びました。そこで私が考えたのは、DNA,RNAでは温度を上げることで熱変性がおこり二重らせん構造がほどけることが分かっているので、これを利用し分光器内で温度を上昇させ二重らせんをほどいた状態でCD測定を行えばより細かい一本鎖構造の解析が可能になると思いました。また、ストップド・フロー分光法とPCR法を混合させて、片方にポリメラーゼやプライマーなどPCRを行うときに必要な試薬を入れ、もう片方に二本鎖DNAを入れて、液が混合してから管を区間に分け螺旋状にし、温度調節を行えば、PCRの各段階(温度)でのCD測定を行うことが出来るのではないかと思いました。DNAポリメラーゼが合成を行うさいに1塩基ずつを確認することは難しいにしても数塩基を複製するした際に測定は可能になると考えられるし、また相補的なDNAを一本合成するのにのにかかる時間などが分かるのではないかと思いました。

A:面白い。後半はストップドフローというよりは、マイクロ流路というべきかも知れません。現在は1つのチップに、色々な流路を作って溶液を混合したり反応させたりする技術が発達してきています。それに分光法を組み合わせるのは良いアイデアだと思います。


Q:今回の講義で気になった話題として、ストップトフロー分光法がある。ストップトフロー分光法では流路で二種の薬品を混合するが、この時流速を変化させることで混合後の時間を調整させると授業で聞いた。しかし、時間と流速を対応させて本当にいいのだろうか。流体力学は専門ではないので推測だが、流速の変化による乱流・層流のスイッチングが挙げられる。これらはストップトフロー分光を行う機器では問題になるのではないだろうか。この疑問点から私が授業中に考えた代案は、流速ではなく測定位置を変更する手法であった。流速を上げる事により起きる、混ざり方のバラつきが抑えられると考えたためである。しかし調べてみると、乱流は管が細い程起きにくい。ストップドフロー分光器の管径は残念ながら不明だが、サンプル使用量が少なくて済む事から細いと思われる。それどころか、乱流が起きる条件下でも一定距離までは層流が続くため、測定位置を混合位置から遠くする過程で層流・乱流の切り替わりが懸念される。やはり流速を上げる方が妥当なようである。

A:おそらく細管の中の流れは、管の内壁の形状や素材によっても大きく影響されるはずですから、実際の機器においてはそのあたりにも工夫が凝らされているのではないでしょうか。特に、混合部位でどれだけ素早く混合できるかどうかは重要なポイントのはずです。2つの流路が合流しても、いつまでも層流だったら混合しませんからね。


Q:ストップドフロー分光法について考察します。アイディアは非常に面白いですが、様々な問題点を抱えているように思います。まず、反応に用いられる物質が分離できなければこの方法を用いることができません。したがって多様な物質が同じ場所に存在しているときの生体反応を見ることは困難です。次に、混合しただけで完全に反応しなければいけません。その時々の試料生物のコンディションによって生体反応は変化します。ただし、試料生物の精密なコンディショニングと実験を複数回重ねて統計をとることでこの問題は幾分か解決できるかもしれません。また、反応開始部位とセルとの間に距離がある場合、測定部位であるセルで観測したい反応がちょうど見られるか、という点についても疑問です。理論的に何秒後にこの反応が見られると推測できても、推測と少しでも異なれば反応を見ることができません。しかし、この疑問についても実験回数を増やす、反応開始部位をセルに合わせる、などの方法で解消できる可能性はあります。以上の疑問は、あくまで生体試料を使う場合を考えたものです。おそらく、多くの実験は化学反応を見るためのみに使われるものと推測されます。生体試料に薬剤を添加して反応を見る、などの実験系として用いるには解決しなければいけない問題が多そうです。
(参考)http://iac.kuma-u.jp/equipment/details/pdf/22.pdf#search='%E3%82%B9%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%97%E3%83%89%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%BC%E5%88%86%E5%85%89%E6%B3%95'

A:「理論的に何秒後にこの反応が見られると推測できても、推測と少しでも異なれば」という点については、講義の中でも話しましたように流速を変えることによって対応可能です。実際には、生化学の分野では、酵素反応の研究に使われる例が多いのではないかと思います。たとえ混合物であっても、基質が枯渇した状態にしておいて、そこへ基質を混合すれば、反応を開始させることができますから。


Q:今回の授業でストップドフロー分光法や閃光分光法などの吸収の時間変化を見る事が出来る分光法について知り、これらの分光法を利用して吸収スペクトル測定の時間変化を三次元のグラフにして見てみるのも面白いのではと考えました。この測定を用いればサンプルの反応が段階的に起こる場合や可逆的に3つ以上の反応が起こるような場合に、各反応段階にある分子の存在比の変化を1回の測定で見るといった事が出来るのではないかと思います。

A:「この測定を用いれば」というのは、時間変化を三次元グラフで見るということでしょうかね。そうだとすると、普通に用いられていると思います。もうひとひねりほしい所ですね。


Q:今回の講義では電子スピン共鳴(ESR)測定の原理と、測定により得られる情報について解説された。低温科学 光合成研究法によると、ESR法によってチロシンD**を測定することで光化学系II量を、P700+を測定することで光化学系I量をそれぞれ定量できる。つまり、ESR法を用いることでシアノバクテリアなど光合成生物の光化学系量比を測定できる。以下では、ESR法による光化学系量比測定にはどのような利点と欠点があるかを考察する。クロロフィル蛍光スペクトルから光化学系量比を測定する場合、試料のクロロフィル濃度の大きさに気を使わなければあまり正確な値を測定できない。しかし、ESR法では試料が濃くてもチロシンD**とP700+の信号の邪魔となるような不純物(ラジカルなど)が試料に含まれていなければ、正確に光化学系量比を測定することができる。以上が利点である。次に、欠点について述べる。光合成生物の細胞内には通常ラジカルが含まれているから、ESR法では生細胞試料を用いて光化学系量比を測定することは困難である。ESR法によって光化学系量比を測定する場合、「試料を破壊して精製する」必要がある。よって、ESR法は試料の量に余裕のない場合には不向きな測定法であると推測される。以上が欠点である。
参考文献:北海道大学低温科学研究所・日本光合成研究会共編 低温科学 光合成研究法 vol.67 2008, pp.437-479

A:実際には、明暗差スペクトルを測定すれば、不純物による測定困難は生じません。P700を例としてとれば、ESRで検出できるのはP700+の形の酸化型のものです。従って、通常の測定では、試料に光を当ててP700をP700+に変化させ、その際のシグナルの変化(差)をP700量とします。P700+以外にシグナルを出す不純物が混ざっていても、それが光によって変化するものでない限りにおいて、明暗差を取れば、シグナルには影響しないことになります。


Q:NMRを授業で扱いましたが,溶液中の低分子のタンパク質の立体構造解析ができるのが興味深かったです.植物や動物ではタンパク質は溶液にあるので,リガンドとレセプターなどを調べると構造がそのまま分かるので,結晶の場合よりもより生体に近い可能性が高いので結合の部分などがわかりやすいかと思いました.

A:言いたいことは感じ取れますが、もう少し日本語を書く練習をした方がよいですね。短い文章の中に、自分の主張を論理的にまとめる能力は、どのような分野に行ったとしても必要となりますから。


Q:今回の講義では、電子スピン共鳴(ESR)の原理を利用して不対電子を持つ物質を定量する方法を教わった。そこで、ESRを用いた活性酸素の定量法について考察する。講義ではスーパーオキシド(・O2-)がラジカルを持つことから測定が可能とのことであったが、活性酸素はその他に、一重項酸素(1O2)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)等がある。ESRではラジカルを持つ物質のみを測れるので、この中ではスーパーオキシドとヒドロキシラジカルしか測ることが出来ないことになる。ここから、実際に植物の過酸化状態を測る際は活性酸素種全てを測定している訳ではないことが考察される。そこで文献で活性酸素について調べてみた。それによると活性酸素は、・O2- + H+ → HO2、2 HO2 → H2O2 + O2、H2O2 + Fe2+ → OH- +・OH +Fe3+、と生体内で段階的に反応していること。またこれらの反応は、還元型遷移金属イオン、SOD酵素の存在下で引き起こされていることが記されていた。活性酸素種によって酸化力は異なるので、厳密に生体内の過酸化状態を測る場合・個々の活性酸素種の量を測る場合は、そのまま試料を測定すると正確な結果を得るのは困難と考えられる。よってこれらの場合、上記の金属イオンや酵素の変異体を用いてESR測定を行えば良いと考えられる。
参考:「植物生理学概論」桜井英博、柴岡弘郎、芦原坦、高橋陽介 著、培風館

A:ESRによる測定において、ラジカルは全て同じシグナルを出すわけではありません。ですから、それぞれ特徴的なシグナルを出すラジカルであれば、複数のものを同時に測定可能です。一方で、活性酸素のようなラジカルは寿命が短いので、そのままでは、測定中に消滅してしまって測定ができなくなります。とくにヒドロキシラジカルのような反応性の高いものは極めて寿命が短く、測定が困難です。そのような場合は、スピントラップといって、寿命の短いラジカルと反応して自分が(寿命のより長い)ラジカルとなる物質を入れてESR測定をすることにより、間接的に検出を行ないます。