植物生理生化学特論 第3回講義
続・吸収測定の方法
第3回の講義では、吸収測定の原理の解説の続きとして、分光器の設定項目やセルの選択など、実際の測定を行なう場合に知っておくべき知識について解説しました。
Q:今回の講義で印象に残ったことは、温度によって蛍光強度が変化するということ、また温度が吸収に関係しているということである。低温(約-196℃)は室温に比べてシャープになる。ここで私が疑問に思ったことは、実際に分光器を使用する場合多くの人がより鮮明な情報を欲しがるが実際の現場ではどのような対策を行っているのかということである。毎回毎回サンプルを低温まで下げるのは不可能であるし、温度を毎度一定に保って再現させることも不可能である。その対策に近いものとしてSHIMADZUの分析計測機器を知った。SHIMADZUの製品技術解説によれば「蛍光は温度が上昇すると、分子間衝突が増大し、無輻射遷移失活の度合いが増大するため、その強度が低下する特性があります。その特性の程度はサンプルによって異なり、常温付近で1℃の温度上昇につき約5%も蛍光強度が低下するものもあります。従って、検出器のフローセル部へ流入する液温が高くなるほど、蛍光強度が低下します。このため、室温の変化がある場合には、蛍光強度が変化し、その結果、サンプルの定量性、再現性に影響を与えます。しかし検出器のフローセル部へ流入する液温を一定温度に保持することで、これらの問題は大幅に低減することができます。」となっている(1)。低温にすることや温度を一定にすることでより正確な再現性が得られるということである。また、もう一つの疑問として低温にすることによるサンプル(生物)自体への影響はないのなということである。これに関する資料を見つけることは出来なかったのだが、考えとして自分の研究室では-80℃にして生物を保存し細胞内状態を維持させようとしているので影響はそれほどないのかと思う。
参考文献:(1) http://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/lib/lctalk/43/43tec.htm
A:著作権法上、他人の著作物の引用が認められるには、いくつかの条件が必要です。1.引用元を明示すること、2.引用が過半を占めないこと、3.引用部が他の部分から明確に区別されていること、などです。元のレポートでは、この1,2は満たしていましたが、3を満たしていなかったため、ここでは、それを修正した形で掲載しました。以後注意してください。また、疑問点について調べてみる、というのは普通の講義へのレポートでは評価されると思いますが、本講義へのレポートの場合は、単に調べましたでは終わらずに、なるべく自分なりの論理を展開するようにしてください。
Q:今回のテーマとして、安価で簡易的なOD測定器の設計について考察する。このテーマは、既存の分光器では測定できない、あるいは難しい形状の対象を測定したいという欲求に端を発する。たとえば90mmプレートを用いた寒天培地上の測定機器は当研究室には存在せず、測定の自動化も難しい。しかし安価かつ簡易的な自作吸光度測定器であれば、モジュールの追加や形状・パーツの変更を行う事が容易であろうと推測できる。まず発光・分光部分については単色LEDとレーザーが考えられる。単色LEDは基本的に安価で扱いが容易だがピークの幅が若干広い。また、現在は選択可能な波長の製品がかなり多い。レーザーは指向性、強度、分解能に優れており、半導体レーザーは比較的低価格のパーツも存在するものの、波長の選択幅がLEDに比べて少なく、波長帯によっては非常に高価になる。つまり基本的にはLEDに指向性を持たせて用いることになるが、赤色や緑色の吸光度が低い対象であればレーザーを用いる方が良いといえる。次に吸光部について、フォトダイオードを利用するのが妥当と思われる。非常に安価な上、既知のスペクトルから吸光度の低い波長選択するため、スペクトルの解析と異なり感度の高さを必要としないためである。最後に両者の接続部について、つまり対象をおさめる容器についてであるが、OD、つまり散乱光はプレート測定の場合は何度も寒天培地やコロニーを通過することで正確な値の測定が難しいと推測される。しかし前段落でも述べたようにODを測定する時は吸光度が低い波長域を用いるため、吸光をある程度無視できる領域であるり、散乱光はほぼ入射光から透過光を引いた値とるので、透過光の測定を行えば良い。逆に散乱光が透過光に混入する事を防ぐため、対象を収める容器は内部を遮光し、また対象と光源・検光器間を遮光素材で作成した長い管を用いることで、発光部から出て測定対象を透過した平行な光のみを選別することができる。但し設計の注意点としては、前述の管がなるべく平行である必要がある。基本構造は上記のとおりであるが、例えば培養器内でこの装置にプレートの入れ替え装置を加える事で、シアノバクテリアのように培養に光が必要な種でもOD経時測定の自動化が期待される。
参考文献・サイト:・LED-ON http://www.led-on.jp、・秋月電子通商 http://akizukidenshi.com/、・横井利彰 2006 「視覚と表示技術」武蔵工業大学環境情報学部紀要 第八号
A:アイデアは面白いと思います。ただ、このような技術開発は、その測定を何のために行なうのかという点が重要です。プレート上の微生物のODを測定することを目的としていますが、その測定自体の目的は何でしょうか。生育状況・生育速度を見積もることが目的なのかな、と思いますが、その場合、生育状況・生育速度の見積もりにODが一番適しているのかどうかの検討がまず必要です。液体培養では細胞数に比例するODですが、散乱の大きいプレートの場合にもOD測定が一番よいかどうかは疑問です。また、コロニーを形成している場合にどのようなシグナルが検出されるのか、といった点について想像してみることも重要でしょう。
Q:葉の構造に注目して考察します。葉は基本的に柵状組織と海綿状組織を持ち、それぞれ集光と気体交換の役割を担っています。もっと光合成効率の良い葉の形について考えていたところ、「単面葉」というものがあることを知りました。ネギやアヤメは単面葉を持ち、その働きは一般的な葉でいう裏側の性質と同様であるとのことでした。単面葉はどのようにして集光を行っているのでしょう。一般的な葉、両面葉は太陽光に対して垂直に位置しています。集光において効果的であるこの位置取りは、複数枚葉をつけると重なってしまい、自ら影になるという弱点もあります。一方で、単面葉は太陽光に対して平行に位置しています。集光には不利ですが、葉が多くなっても影になりにくいという利点があります。以上より、単面葉をつくることで密集して生育した場合でも生き残れるような工夫をしているのだと考えられます。また単面葉が両面葉の裏側の性質を持つという事実から、葉で優先されるべき組織は柵状組織ではなく海綿状組織であると考えられ、意外性があり面白いです。柵状組織はあくまで集光の効率を上げるためだけの組織であり、葉緑体さえ持っていれば海綿状組織でもある程度の集光効果は望める、ということなのでしょうか。
A:単面葉の「働きは一般的な葉でいう裏側の性質と同様である」というのは、「起源的には一般的な葉でいう裏側に相当する部分が外側に面して光を集めている」の誤りではないかと思います。「働き」が裏と同じなのではないはずです。自分の論理ではなく、調べたことの場合は必ず参考文献を挙げてください。そうでないと、元の情報が間違っているのか、解釈が間違っているのかが区別できません。いずれにせよ、間違った前提で論理が展開されると間違った結論にたどりついてしまいます。
Q:二つのスペクトルの似た試料A,Bの微小な吸収量の差を図る際には、バックに水ではなく試料を用いると、微小な差が見えやすくなるということを扱った。これについて、少し問題点は残るのではないかということを考えてみる。アブソーバンス(以下abs)については、以下の式で与えられる。
abs = log(I0/(Is+p*Id))、I0:測定光、Is:直進成分、Id:散乱成分、p:散乱光捕捉率
ここで試料がそれなりに大きくつぶつぶとしたものを含む場合、散乱光捕捉率pは多少なり変化する。また積分球を用いて一定の捕捉率を保てていたとしても、捕捉するまでの光の移動距離に応じてIdの値はこれも多少なり変化する。試料が水である場合は試料に顆粒状のものを含まないため以上の現象は起こらないが、試料が顆粒状の細胞器官を含む場合、abs値が一定に落ち着くことはなく必ずばらつきが発生する。バックに試料Aを用いてそれを基準とし試料Bのスペクトルを図った場合、バックに水を置いた場合と異なり、バックにも測定試料にもスペクトルのばらつきが生じているため、スペクトルのグラフには本来のばらつきの幅よりも二倍に近い誤差範囲をもつばらつきが生じることとなる。よって二つの試料の微小な吸収量の差を見たいのにもかかわらずこの差がこのばらつきによって見かけ上存在していないようにみえたり、逆に吸収量に差がない波長においてばらつきによる微小な吸収量の差が生まれてしまったということも起こらないとも考えられない。少なくとも水をバックにとった場合よりもばらつきの幅は二倍に広がるので、その意味ではバックに試料を置いたスペクトルのグラフは必ずしも二つの試料間の微小な吸収量の差を反映できるとは限らない。この問題を解決するために、測定時にはなるべくばらつきの幅が小さくなるよう積算回数をなるべく多く積み重ねることが大切だと思われる。
A:まず、ある幅のばらつきが2つ重なった結果のばらつきの幅は、2倍になるのではなく約1.4倍です。もし、2倍になるのだったら、信号と誤差は同じ割合で増えますから、積算平均をしても、S/N比の改善にはつながらないことになってしまいます。次に、このような議論をする場合は、定量的な(と言っても非常に大雑把なものでよい)考察が必要です。1個の粒が動いていることによって散乱光捕捉率がある幅変動したと考えた場合、半分の大きさの2個の粒がランダムに動けば、その変動幅は1/1.4倍になり、n個になれば、ルートn分の一になります。まさに積算平均した場合と一緒です。例えば何かの細胞懸濁液を測定したとした場合、その細胞数を考えると、散乱光捕捉率の変動幅がどうなるかは、想像がつくと思います。
Q:講義を聴いて考えたのが、吸光度測定において試料中の溶媒や分子の動きが測定結果に与える影響が少なからず存在しているのではないかという事である。身近でかつ極端な例を挙げてしまえば、蛇口から流れ出てくる水(動いている液体)の中にある物体を見るときと、コップに入れた水(ほぼ止まった液体)に沈めた物体を上から見るときでは、たとえ物体までの距離が等しくとも、その像の歪み方や大きさは違っているように見える。ここでは入射光の屈折率や散乱の変化が生じているのではないか。また、止まっているように見える液体においても液温と気温に差があれば対流が生まれている可能性があるし、そもそも絶対零度下でない限り分子の熱運動を完全に静止させる事は出来ない。つまり程度の違いはあれ、上の流れる水における像の歪みと同様の現象が、吸光度測定を行なう際にも常に起こりうるのではないだろうか。この試料中の流れによる測定結果への影響を避けるためにいくつかの事に気をつけるべきだと私は考える。第一に、物理要因での試料中の流れの発生を防ぐため、試料のセルへの注入、測定器への設置の際に丁寧に扱う事。第二に、液温と気温の差による対流の発生を防ぐために、試料の温度と実験機内の気温との差に注意する事である。
A:講義の中で紹介した低温吸収スペクトル測定においては、まさに分子の熱運動の影響を減らすことにより、スペクトルのバンドをよりシャープに捉えることができるわけです。そのあたりと結び付けて議論できるとよりよいレポートになったでしょう。
Q:今回の講義では、海綿状組織による光の散乱によって入射光の光路長を数倍に拡大し、光の吸収率を高くしていることが紹介された。単に光の吸収率を大きくしたいだけであれば、わざわざ柵状組織と海綿状組織という構造を用意しなくても、1枚の葉に含まれる葉緑体数を多くすればよいはずである。しかし、実際には葉は柵状組織、海綿状組織を形成するように進化したのであるから、葉緑体数を多くすることには何か生育に不利な点があるはずである。以下では、葉1枚当たりの葉緑体数が多いと、生育にどのように不利になるかを考察する。カルビン回路で生じたトリオ—スリン酸(TP)は葉緑体包膜に存在するリン酸トランスロケーターによって葉緑体ストロマから細胞質へ輸送される。その輸送反応は無機リン酸を細胞質から葉緑体ストロマへ輸送する反応と共役している。より多くの葉緑体を含む葉において、全ての葉緑体が高い量子収率で光合成を行う場合、通常の葉よりも無機リン酸の消費量が多くなる。土壌中に含まれるリン原子Pの量は少ないから、根から吸収されるリンの量を増加させることは難しい。よって、一枚の葉で消費される無機リン酸量が多くなれば、必然的に1個体あたりの葉面積は小さくなる。葉面積が小さいと、他の葉面積の広い植物に光をめぐる競争で敗れてしまう。したがって、葉1枚当たりの葉緑体数が多い葉は、栄養素(無機リン酸)が制限されている環境中において、光の当たる面積(葉面積)を確保できない点が生育に不利になると推測される。参考文献:東京大学光合成教育研究会編、 「光合成の科学」初版、東京大学出版会、2007
A:トリオースリン酸の輸送量は、すなわち葉緑体が細胞質へ輸送する「光合成の稼ぎ」の量です。このレポートでは、葉緑体の量と、光合成量をごっちゃにしてしまっています。光合成の稼ぎが多ければリンの必要も多くなるということ自体は間違いありません(ただし、トリオースリン酸に同じ量のリンが含まれている点には考慮を払う必要があります。葉緑体内でリンが消費されるわけではありません。)。ここで論じたいのは、光合成量が同じレベルで葉緑体数を増やしたらどうなるのか、ということではありませんか?
Q:講義では、植物の葉の表と裏で吸収率・透過率が異なることを学んだ。今回は一般的なC3植物の葉についてであったが、トウモロコシなどのC4植物の葉ではどの様な変化があるのかを考察する。C4植物では柵状組織・海綿状組織の他に維管束鞘細胞があるので、吸収・透過の仕方に何等かの変化が起こることが予想される。まず、維管束鞘細胞は形が丸いという点で柵状組織と異なっている。ここから、全反射する割合が柵状組織よりも小さいことが考えられる。一方、細胞同士がくっついている点・物質量当りの界面が小さいという点では共通している。ここから、乱反射する割合は柵状組織と変わりはないことが考えられる。まとめると、維管束鞘細胞が存在することで吸収率が低下するものの、透過率は変化しないことが考えられる。しかしこれでは吸収率・透過率を合計して100にならない。透過率が上昇する他の要因として、C4植物では効率的に大気中の二酸化炭素を取り入れる為に、葉肉細胞において柵状組織・海綿状組織の区別がないという点がある。海綿状組織の細胞間隙が増えることで乱反射の割合が上昇し、透過率が上昇したと考えられる。結論として、C4植物ではC3植物と比較して吸収率が低下し、透過率が上昇すると考えられる。なお、C4植物では葉肉細胞の形状が表と裏で変化しないことから、C3植物で見られる様な表裏での吸収率・透過率の変化は見られないと考えられる。
A:書いたレポートは、一度読み返して文章がわかりづらい点を遂行した方がよいでしょう。例えば、最初の方で「C4植物では柵状組織・海綿状組織の他に」と言っておきながら、後ろでは「柵状組織・海綿状組織の区別がない」と言っているのは明らかに矛盾しています。また、区別ない理由として「効率的に大気中の二酸化炭素を取り入れる為に」となっていますが、二酸化炭素がなぜ組織の区別をもたらすのかの論理が示されていません。また、前半と後半で結論が違うために、全体としての論理が見通しづらくなっています。もう少し他人にわかりやすい論理展開を心がけてください。