植物生理生化学特論 第6回講義

続・光合成の測定

第6回の講義では、光合成の測定の続きとして、主に、酸素電極による光合成の酸素発生および光合成電子伝達の部分反応の測定について解説し、最後に、液体窒素温度におけるクロロフィル蛍光測定を用いて光化学系の情報を得る方法についても説明しました。


Q:授業内で、水中で酸素電極を使い、酸素濃度を量る理由として、水中では酸素濃度が空気中に比べて希薄なため、増減を感知しやすいからということをお聞きしました。その話を聞いて気になったのが、水中に棲む水生植物や藻類などの呼吸についてです。確か水中での酸素濃度は1%に満たない程度だったと思うのですが、このような条件下で生物は酸素を使った呼吸でエネルギーを得られるのでしょうか?もし仮に、植物の呼吸での酸素消費量が非常にゆっくりであり、水中の酸素濃度の低下に応じて、空気中の酸素が溶け出すとすれば(平衡状態を保つため)、そのような心配は無いのではないかと考えました。今回授業で扱った酸素電極を使って、光を当てない状態で水中の植物の酸素取り込み量を量れると思います。その際完全に密閉された容器の中に水を完全に満たしておき、水中の酸素濃度の変化(低下)を、酸素電極を使って測定し、植物に取り込まれた酸素量を測定します。またそれとは別に、低酸素濃度の水を用意し、それを大気に触れさせた際に水中酸素濃度の増加速度と濃度の関係を測定します。両者を比較して、植物の酸素取り込み速度と酸素の水への溶解速度の関係を調べられると思います。それと同時に、植物を通常よりも高酸素濃度で飼育し、その際の酸素濃度の低下量と水中の酸素濃度の関係を明らかにすることも必要だと思います。これによって、植物の通常の水中での呼吸速度が、酸素濃度依存的であるのか、それとも呼吸系の反応速度が律速になることに依っているのかが分かると思います。ただ、もしこれらの結果から、1)植物の呼吸速度が酸素の溶解速度よりも非常に速く、短時間で水中の酸素を消費し尽くしてしまう、2)植物の呼吸速度は酸素濃度依存的に決まり、基質となる酸素の濃度によってエネルギー生産量が大きく左右されてしまうとしたら、光合成が出来ない夜間ではどのようにしてエネルギーを得ているのでしょうか?一種の休眠状態のようになるのでしょうか?陸上植物ではそのような心配は無い様に思われるのですが。

A:確かに水中では呼吸気質としての酸素濃度が生命活動の律速段階となる可能性を排除できないと思います。それに対する対応策は様々で、えらなどの酸素交換器官に大量の水を通すというのもその一つでしょう。光合成生物の場合、運動のためのエネルギーがいらない場合が多いので、基本的には呼吸速度はそれほど大きくありません。また、微細藻類であれば、大型生物に比べて体の体積当たりの表面積が相対的に大きくなりますから、その意味でも外部からの酸素吸収に有利です。酸素濃度の影響はむしろ大型動物の場合に大きく表れるのだと思います。


Q:系Ⅱの吸収波長である680nm付近では自己吸収を行うためにクロロフィルが近接していると680nmでの蛍光が減少してしまう。このことからクロロフィル濃度を下げれば良いが、それでも自己吸収する可能性はおおいにある。よって私はクロロフィル1つのみで測定するのはどうかと考えた。クロロフィル1つのみを、取り出す前の生理状態に保つことが出来ないなら細胞1つで測定すればよい。これで自己吸収からの蛍光の減少は防ぐことができ、精確なスペクトルを描くことが出来る。おそらくここまでは誰でも考えつくことで、この測定法が行われていないことから、クロロフィル1つのみでは蛍光が弱すぎて感知出来ないのだと考えられる。このことは光電子増倍管の精度に限界があるのだということを意味する。

A:クロロフィル1分子を生理的な条件を保って分離することはできないでしょうね。クロロフィルタンパク質複合体においては、クロロフィルの存在自体が構造の安定性に大きく寄与していますから。一方、細胞1個というのは、単にクロロフィル濃度を低下させた極限に過ぎません。濃度依存性をとってみて、ある程度のクロロフィル濃度以下では自己吸収が一定になれば、その濃度で測定すれば細胞1個の場合と変わらないことになるでしょう。


Q:気相の酸素濃度変化を酸素電極で調べる時、試料室中の空気の酸素濃度が大気と同じ21%であると、酸素濃度の変化量が相対的に小さくなり、測定が困難である。この問題について、光合成、呼吸によって変化する酸素量を相対的に大きくするために、試料室中の酸素を減らすのではなく、変化する酸素量を増やす方法はとれないかと考えた。すなわち、試料室中の酸素濃度を2%程度にまで減らす代わりに葉の量を10倍に増やせば、試料室中にもとから存在する酸素量に対し、変化量は相対的に大きくなる。しかし、10倍に量を増やした葉が全て試料室に入るのか、という問題が挙げられる。また、10倍量の葉を試料室に入れることができたとしても、試料室中の空間のほとんどを葉が占め、閉鎖した空間に葉が非常に密集して存在した状態となることが予想される。この方法は、試料室中の酸素量を減らす方法と同様、自然条件を再現した方法とは言い難い。しかし、試料室に入れる葉の量を増やすほど、光合成により発生する酸素量は増え、かつ葉が試料室中の空間を占める割合が大きくなるのでもとから存在する酸素量は減少する。よって、気相型の酸素電極を用いる時は、試料室に入れる葉の量を多くすることで、酸素濃度の変化がある程度は測定しやすくなると考えられる。

A:基本的な方向性はその通りでしょう。ただ、光合成測定の場合は、呼吸の測定などと異なり光を当てないと測定ができません。すなわち3次元的に試料を詰め込むことはできないのです。2次元に広げるだけだと実用的な測定としては限度があるでしょうね。


Q:果実の光合成で、鞘の中の豆の光合成効率が低い可能性の理由として弱い光に適応している可能性があるとあるが、鞘に外界から光源を差し込んで光を当て続けたら順応するのか気になった。自然界では鞘の中への光が増大することは考えにくい。しかし外敵や嵐などで鞘が傷ついたり、突然変異で鞘の皮が薄くなってしまうこともあると思う。これらのように通常より強い光にさらされることとなった個体は死滅せずにある程度は適応するのではないだろうか。傷が付いた鞘とはいっても豆へ到達する光が極端に増えることはないだろう。傷口により酸素や二酸化炭素といった気体の条件も変動するはずだ。人工的に豆への照射光を強くしたときの豆の光合成能力の変化が気になる。

A:レポートは講義で話した内容について書くようにしてください。


Q:酸素電極では、陰極でO2 + 4H+ + 4e-→2H2Oの半反応が起こるために電流が流れる。そのためこの電流を測定することで酸素濃度を測定するわけだが、もし酸素よりも酸化力の強い物質が測定液中に存在していた場合はどうなるのだろうか。この反応でのO2の標準電極電位は+1.229だが、これよりも電位の高いもので生体試料に混入しそうなものとなるとなると、例えばH2O2 + 2H+ + 2e-→ 2H2O での過酸化水素の+1.763やCl2 +2e-→2Cl- での塩素の+1.358が考えられる。こういった酸素よりも還元されやすい物質が試料液中に含まれていたとすれば、電流が多く流れ、酸素濃度を高く算出することになると考えられる。
参考資料:国立天文台 編,理科年表 平成20年(机上版),146P,2007,丸善

A:実際問題としては、酸化還元電位によらず、電極液中のイオン環境が変化すれば電流は変化してしまいます。そのために電極をテフロン膜で覆って試料と隔離することにより防いでいるわけです。酸素はテフロン膜を通るのですが、同じようにテフロン膜を通るような非イオン性の物質の場合は確かに妨害する可能性があるでしょうね。


Q:何故光合成の反応の中に、明反応と暗反応が共存するのか不思議だと思った。そして何故、系が2つ存在するのかも不思議であった。反応中心が2つ存在することにより、片方がなんらかの異常でなくなった場合にも反応が続けられるのだろうか?しかしそういう意味でもないと思う。進化の過程でも理由はよくわからないとのことである。もし片方が失われた場合、その細胞での光合成はそれ以上進行しないだろう。やがて死に至り、その細胞も復活することはない。そうして淘汰され、進化の過程で厳選されてきたのだと思った。

A:光合成の測定の話は、光合成のメカニズムについての基礎知識がないと難しかったかもしれませんね。ただ、学部の講義と内容を重ねるわけにもいかないので、難しい所です。