植物生理生化学特論 第3回講義

続・吸収測定の方法

第3回の講義では、吸収測定の実際について、スリット幅など各種の設定項目をどのように選択するのかという点や、微分スペクトル測定、差吸収スペクトル測定、積分球を使っての散乱試料測定などについて紹介しました。


Q:今回の講義の中で,自分が特に興味を持ったのは,微分スペクトルから,吸収スペクトルの成分をより細かく調べる方法と,それによって明らかになった,クロロフィルの吸収極大がいくつかの成分によって構成されていたという事実です。そして,これらはクロロフィルがタンパク質と相互作用をすることで吸収が動くことによるものだということも学びました。そこで,この測定を用いることで,一枚の葉や微量な組織などの限られた試料から,その光合成生物の情報を得ることが出来るのではないかと考えました。タンパク質との相互作用により吸収が動くのであるとすると,細胞内に存在するタンパク質の種類や量が異なれば,それだけ動く吸収も異なると思います。植物(光合成を行うバクテリア)の種類によって,タンパク質の構成は異なると思うので,吸収測定から,その植物の種類や原産地などを特定することも不可能ではないと考えました。ただここでいくつか気になることがあります。まず一つ目に,クロロフィルが相互作用をするタンパク質は決まっているのかということです。もし,光化学系周りの特定のタンパク質のみが影響を与えるのであれば,吸収スペクトルのシフトが,どのタンパク質がどれだけ影響を与えたことによるものかが分かるため,微分スペクトルの成分比などを求めることで,ある程度査定することが出来るのではないでしょうか(ただ逆にそうなると,種ごとの差異というのも生まれにくくなるため,全て同一のスペクトルということになってしまうかもしれませんが)。逆に,ランダムにあらゆるタンパク質と相互作用をしてしまい,それがスペクトルの差として表れてしまうのであれば,影響を与えているタンパク質を特定することも難しく,また表れてくるスペクトルも非常に複雑になると考えられるため解析することも困難になると思います。2つ目に,それらが細胞レベル(もしくはチラコイド膜レベル)でもはっきりと見られるものなのか,それともクロロフィルを抽出した際に見られるものなのかということです。おそらく,タンパク質との相互作用が必要ということであれば,細胞以上のレベルで観察しないと見えないと思うのですが(それともクロロフィル抽出作業をしても,なお,相互作用をしているタンパク質の影響が見えるということでしょうか?),抽出作業が必要な場合,それだけ時間も労力もかかると思うので,何か別の物質の量などを指標にした方が良いということになってしまうかもしれません。また,抽出作業をすることで,タンパク質には何かしらの影響を与えてしまうと思うので,種ごとに常に決まったスペクトルを得るということが難しくなるかと思います。理想的には,(1)微分スペクトルの差異が細胞レベルで見える,(2)それらが,ある特定のタンパク質の影響によって生じる,(3)そのタンパク質の構成比は,種によって異なる,という条件が揃っていてくれればいいのではないかと思います。種ごとに差はないけれども,生育させる際の光量,光ストレスにより差が生じるというのであれば,また別の応用もできると思います。

A:タンパク質の光合成色素との相互作用は、タンパク質と色素が複合体を作っていれば見られますが、有機溶媒などで色素が抽出されると消えます。したがって、単離複合体、チラコイド膜、細胞などのレベルでは相互作用が観察できます。光合成色素は特定のタンパク質と結合しており、反応中心を構成するタンパク質の配列保存性は通常高いので、それにより種間差などを見るのは難しいでしょうね。ただし、アンテナの役割を果たす色素複合体は多様性があるので、藻類などでは色が分類の基本となっています。また、色素複合体の量は環境条件によってそれぞれ異なる制御を受けますから、個々の複合体のスペクトルは変化せずとも、全体としての吸収は変化しますから、それにより環境変動の影響を解析することは可能です。


Q:今回の授業では、光スペクトルやシアノバクテリアや高等植物がもつ光合成色素の違いについて学んだ。授業を聞いていて疑問に思ったことは、進化的に劣るシアノバクテリアが、緑色など500nm付近の波長の光を吸収する光合成色素を持っているのにも関わらず、高等植物はそれを持っていないということである。海面と陸上における、太陽光からの透過光のスペクトルの違いが関係していると仮説立て、海面での透過光のスペクトルと陸上での透過光のスペクトルを比較してみた。その結果、海面では陸上に比べ、青色の波長の透過率は400nm付近をピークに急激に減少していき、赤や紫外波長の光が陸上での透過率よりも少ないことがわかった。高等植物は赤色や紫外波長の光をより多く使用できるため、緑色付近の波長の光を吸収できる光合成色素が不必要になり、失っていったという事が考えられる。

A:海面ではなく、海中ですね。また、「進化的に劣る」という表現は生物を研究するものとしてはちょっとどうかと思います。「他の色が使用できるから緑色は吸収しなくてもよい」というのは、少し論理の飛躍があるので、そこを丁寧に説明した方がよいでしょう。「他の色を使用するのに加えて、緑色も吸収した方が得ではないか」という疑問に対しての説明が必要です。


Q:電子の基底状態から励起状態に遷移する際のエネルギーを検知するのがスペクトルだと分かった。そのスペクトルを精確に見るにはゼロKが理想だが、それはありえないので77Kの液体窒素を用いる。この77Kでクロロフィルの吸収スペクトルを測定した場合、かなり波打っていることが分かり、これは複数の電子が励起され重なりあっていることを意味する。このことから、測定温度を一定にしてスペクトル測定を長年やっていると重なっている個数が分かるようになるのかもしれない。これは理想であって実際には吸収である高さが異なるとおのずと幅も変化するため、こんな簡単な方法で分かるわけ無いのだが、これからスペクトル測定をする身として知っておきたい知識である。

A:どうも意味がよくわかりません。「波打っている」というのはスペクトルにピークが複数あるという意味でしょうか。「長年やっていると」というのは「経験を積むと」という人間的な意味でしょうか。「重なっている個数が分かる」というのは電子の話でしょうね。もう少し理系のレポートらしい明晰な文章を書くように努力してみてください。


Q:葉の吸収スペクトルと、細胞(シアノバクテリア)、チラコイド、クロロフィルの吸収スペクトルが大きく違う、ということについて考えていく内に、測定方法について2点、疑問が生じました。(1)光が通る試料の長さと(2)検出器の感度の2点についてです。(1)は吸光度の大きさに関わる問題でスペクトルの形に影響は出ないと考えられますが、(2)はスペクトルの形に関わってくる問題のため、葉の吸収スペクトルだけ他と大きく違うのは構造のためと言えるのかどうか、疑問に思いました。まず、(1)について、各試料の測定の仕方は、葉はそのままの形で、他の3つは試料液をセルに入れて測定すると思います。その際、分光器の光源から出た光が通る試料の長さ(葉の厚さ、セルの幅)が大きく異なります。吸光度は光の通過距離に比例するので、もし上記のような方法で測定した場合、統一された条件下での測定と言えるのかどうか、気になりました。葉の吸光度については、測定値に、葉の厚さ/セルの幅を乗算することで求めるのでしょうか。次に、(2)についてですが、葉をそのまま測定した場合、吸収が非常に大きく、普通の分光器では光電子増倍管の感度の限界を超えてしまうのではないでしょうか。そのため、葉の吸収スペクトルだけ他と大きく違うのは、本来ならば見えるピークが小さくなったためではないか、と考えましたが、各試料で色素量を統一しているので、その可能性は無いと考えられます。感度の高い検出器を用いる、あるいは光源を強くすることで、この問題を解決しているのでしょうか。

A:吸収の大きさは、光路の長さと試料の濃度に比例します。ということは、光路を半分にして、濃度を倍にすれば吸収は変わりません。つまり、光の通る面積を一定にした場合は、吸収の大きさは物質の量に比例し、希釈して光路を長くしても、濃縮して光路を短くしても同じになるわけです。色素量をそろえて比較していたのはそのような理由によります。その意味では統一された条件であると言えます。ただし、試料の厚みと光路長は、透明試料では一致しますが、散乱試料では光路が曲がるために一致しません。葉の構造により吸収スペクトルが大きく変化するのはここに原因があります。
 二番目の問題については、散乱試料では透過率が低くなり、積分球の利用自体も検出器に届く光の量を減らすことになります。以前は、それが大きな問題となる場合もありましたが、最近の分光器では検出器の感度も上がったのか、問題なく測定できるようです。


Q:光電子増倍管の感度を上げるためには光電面の量子効率の向上が必要だ。最近は、従来の高価な金属に代わりシリコンが使われているようだ。しかさらに、SiCウエハーという素材が注目を集めているようだ。従来のシリコンウエハーに比べ耐電圧性能が10倍、電力損失は2分の1という特性であるようだ。光電子増倍管が使用されている装置の小型化や低価格化へ向け役立つかもしれない。

A:アナウンスをしたと思いますが、この講義では、は単に調べたことを記述しただけのレポートは評価しません。「役立つかもしれない」だけでは感想の域を出ません。きちんと自分なりの論理を表現するようにしてください。


Q:蛍光ペンや蛍光灯など、日常的に「蛍光」というものには触れていますが「蛍光性物質は測定光があたると蛍光を発すると」いう原理を考えたことがありませんでした。しかしこれに基づいて考えると、ノーベル化学賞で話題になったオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質の働きも、少しですが理解することができました。彼のクラゲは興奮すると発光するそうですが、そのように興奮する理由は、おそらくは交尾のための誘引か、警戒のためであろうと思われます。水中で発光するということで、その光は「散乱と同じように四方八方に向かう」という蛍光特有の性質のためにさらに拡散され、その効果が増大されると考えられます。そう考えると、「海洋」の生物にオワンクラゲの他にも発光する種が多く存在する理由の一つとして説明できると思いました。この緑色蛍光タンパク質は長い年月をかけて進化してきた結果今のような形に至ったのだと思いますが、もしその光の拡散具合によって繁殖成功度が変化するだとすれば、その生息場所の水質によって発光の強さや蛍光タンパク質の質もしくは濃度もかわってくるのかという疑問が浮かびました。ある程度は光らなくては子孫を残していけないのであれば「吸収は濃度に比例する/濃度が高すぎると吸収が高くなる」という規則から考えると、オワンクラゲの蛍光タンパク質濃度は周りの海水の濁りと相関を持ち、同じ種でも場所によって発光の強さが違う可能性が考えられます。そこで、いかにして生育環境(水質)の違いによってクラゲの緑色蛍光タンパク質の濃度が変化するかどうかを確かめるかを考えました。しかし生きた状態のクラゲでの実験は難しいと思い、その前段階として海水の汚濁度に対する緑色蛍光タンパク質の透過度を調べる実験系を考えてみました。まず、塩分濃度などの異なる海水を満たした球形の入れ物をいくつか用意します。そして、その中に蛍光タンパク質の入ったセルを入れて測定光を当てたときの、蛍光の透過率を測定します。また、この試料セルも蛍光タンパク質の濃度を変化させて、水を透過する光の測定を行います。そのことによって、ある一定の透過率を得るにはある状態の海水においてどの程度の緑色蛍光タンパク質の濃度が最適か、また、どのような海水であればオワンクラゲおよび他の発光性質を持つ生物が生息し易いのか、といったことが推測できるのではないかと思いました。

A:もう少し焦点を絞った方がよい文章になるように思います。自分で考える姿勢は読みとれて評価できますが、少しずつ話題がずれて行ってしまうと全体としての印象がぼけます。例えば、発酵した蛍光が海水中をどの程度透過するかを進化を絡めて議論したいのであれば、1)クラゲの発光には適応的な意義があるはず、2)発光は海水が濁っていれば届きにくくなるはず、3)クラゲは海水が濁ると発光を強める仕組みを持っているかもしれない、といった論理展開で、あとはその仮説を証明するための実験系を組み立てるとすっきりしたレポートになります。


Q:今回の授業では低温吸収スペクトル法を扱った。この測定の際、液体窒素温度77Kでは酸素(沸点90K)や水が凝縮するため、霜が試料あるいはセルに付着し測定を妨害することがある。これを防ぐ方法について考えた。一つは以前研究室で用いていた、“試料への励起光照射と蛍光の測定に石英の光ガイドを用い、この光ガイドを試料に密着させた上で、試料ごと液体窒素に浸す”という方法があるが、この方法は試料セルを直接液体窒素に入れる方法では使えない。そこで液体窒素温度よりも沸点の低いヘリウム(沸点4.2K)のガスを試料セルに充填するという方法を考えた。ヘリウムをセル内の空気と置換し密閉することで結露による妨げなく測定ができるだろう。また試料セルの内の気体は体積にして2ml程度であり、これを置換するのに必要なヘリウム量はそう高価ではないだろうから、安価に実験の精度を上げることができるだろう。

A:あまり考え(and/or文章)が整理されていない印象を受けます。問題としているのは、セルの内側の霜でしょうか、外側の霜でしょうか。内側には試料があるので、その部分は霜がつかないように思います。外側には霜がつきますが、それはセル内の気体を置換しても関係ないでしょう。むしろ液体窒素を入れるジュワー瓶は内側は霜が入りやすく、外側は結露しますが、そのことでしょうか。


Q:葉の向軸側・背軸側からの、透過・吸収・反射スペクトルに随分差があることに驚きました。葉の色により吸収スペクトルが異なるのであれば、草原を写真として撮影し、そのスペクトルを取れば容易にどの植物かの判別ができるのではないかと思います。しかし実際に見た色と写真に写った色は違うし、実際に行うのは無理そうです。吸収スペクトル測定を生態学にどのように応用することができるか、2週間にわたり考えましたが、二酸化炭素測定の際に利用する以外は厳しい面が多いのではないかと思いました。

A:ちょっとあきらめがよすぎるのでは。写真を使う方法は無理そうですとあきらめていますが、「見た色と写真に写った色は違う」となぜ「無理そう」なのかがわかりません。「見た色」というのは人間の感じ方ですから、それが、客観的なデータと食い違ったとしてもデータの利用に問題が生じるようには思えません。実際に人工衛星リモートセンシングによる植生調査などでは植物の反射スペクトル特性を利用してさまざまな情報を得ています。もう少し考える努力をしてください。