植物生理生化学特論 第9回講義
光環境応答
第9回の講義では、主に光環境の変化に対して植物がどのように応答しているかについて解説しました。
Q:植物は過剰な光から光合成機能を守るために、葉緑体の光定位運動や活性酸素の消去,励起エネルギーの消去、光化学反応系の選択的な破壊などを行っている.葉緑体の光定位運動のなかでも、強光が消えてから葉緑体が強光が当たっていた場所に集まる現象が興味深かった。いったいどのようなメカニズムで光を感知し、移動しているのだろうか。また、強光からの逃避命令をどのように覚えているのか不思議に思った。強光条件に置かれている、高地の植物などでは葉緑体がどのように並んでいるのかみてみたい。
A:「興味深い」「不思議に思う」「みてみたい」というのは、サイエンスの出発点としてはよいと思いますが、大学院生のレポートとしてはちょっと・・・。
Q:今回の講義のなかで印象に残ったことは、光が植物にとってエネルギー源でありながら最大のストレス源であるというところでした。ほとんどの環境ストレスにおいて光との相互効果が認められ、暗黒下のストレスは植物に影響を与えないことが多い。例えばきゅうりは夏野菜であるが、低温に弱いのではなく低温化で光を浴びることがストレスになるとのこと。そのような重要な環境要因である光は、環境要因の中で最も短時間で激しく変化するもので、その変化に対応するために植物は多様な進化を遂げました。では植物を生育するのに最適な光条件、つまり植物にストレスを与えない光はどんなものでしょうか。光が当たることで得られる熱エネルギーが植物のストレスになっているのではないでしょうか。輻射によって伝わる熱を植物に伝えない方法としてたとえばアルミ遮熱シートがありますが、原理から言って光を通しながら輻射熱を遮断するには光の波長をゼロにする必要がありますがそれが葉緑体に当たっても光合成を行うことができないので、結局ストレスのない光というものは存在しないということだと考えられます。
A:このレポートで一番重要な仮定は「熱エネルギーが植物のストレスになっている」という点ですが、なぜそのように仮定するのかが書かれていないのが残念です。また、それに対する対策としても、熱がいけないのであれば、葉を冷やすようなシステムをつけたらどうなるか、など考えればいろいろな議論ができると思います。そのあたり、もうひと工夫ほしいところです。
Q:葉緑細胞の一部に弱光を当てた場合には葉緑体はその場所へ集まるように移動し、強光を当てた場合には直接光があたっている場所を避けるようにしてその周辺部に集合するということだったが、この葉緑体の光逃避運動はどのようなメカニズムによって起こっているのかが気になった。細胞膜に多く局在するフォトトロピンを介しているということや、葉緑体の表面には繊毛や鞭毛は存在しないため自身では移動できないことから、この葉緑体の移動は自律的なものではなく、他からの制御を受けて移動させられていると考えられる。また、細胞小器官の配置や移動には細胞骨格が大きく関わっていることからこの反応にも細胞骨格が関与していると考えられ、ひとつの仮説としてはフォトトロピンによって弱光を認識した細胞膜近傍から伸びた細胞骨格がシグナルを受けて葉緑体を引っ張っることが考えられる。
A:弱光時に引っ張られる方はなんとなく想像がつくと思いますが、強光回避の方はどうでしょうね。そのあたりが頭の使いどころです。
Q:光環境応答について調べてみたところ、フシナシミドロの光屈性は光強度が低いときは光に向かう正の屈曲をし、光強度がある値より高くなると、光から逃れる負の屈曲が起こる。このような正負の反応の切り替えは高等植物では見られない、ということがわかった。では、植物プランクトンなどは、余計な光を吸収しない術はどうするのであろうか。体内が高次の生物よりも複雑ではないことから、体内の光を吸収する器官を光があまり当たらないように動かしているとも考えることができる。
<参照> http://www.ige.tohoku.ac.jp/outou/outou-j/Thema-j.html
A:プランクトンの場合、ほとんどが単細胞ですから、「体内の」というのは「細胞内の」と同じになります。その場合、陸上植物の葉緑体の定位運動のように葉緑体がお互いに影になるように動かすぐらいしか手はないと思いますが、一般的に藻類の1細胞あたりの葉緑体の数は陸上植物などに比べると少ないので、なかなか難しいように思います。
Q:植物は過剰な光を受けると光合成量を調節しようとする。過剰量の光を調節するには、葉の向きをかえる光量調節がある。光環境変化の制御機構の解析として向きを変えることで植物内の光合成に関連した因子がどのように変化するかGFPによって蛍光観察することを考えた。強光条件下でのストレス応答による変化をリアルタイムに観察するには適していると考えた。しかしGFPは強光条件下後に蛍光を発することはないと考えられる。そこで、一度強光条件下で育てた植物とコントロールを蛍光量で比較すれば、強光条件下での挙動をリアルタイムに観察することが可能であると考えられる。
A:葉緑体の場所であればクロロフィルによって自然と蛍光が出ていますから、なにもGFPをつけなくても、観察できます。葉緑体の中の特定の「光合成に関連した因子」を調べようとした場合は、葉緑体の中の位置を見るのはなかなか難しいでしょうから、量の増減をみることになるでしょう。一方で講義でも説明しましたが、光の強さは1秒より短い時間で100倍変わったりするわけです。その場合、光合成系も秒とまではいかなくてもせめて分単位ぐらいでは応答しないといけない場合が多いでしょう。そうするとGFPでそのように速い消長を追いかけるのは難しいでしょうね。
Q:キュウリの葉が光のある環境で低温により障害を受けるが、暗黒下ではその影響を受けないという話を聞いて、学部生のときに授業で聞いたことを思い出しました。聞き漏らしているだけかもしれませんが、植物はすべて光によって環境応答しているのでしょうか?また活性酸素の話もありましたが、ヒトなどの動物の細胞も活性酸素を発生させて代謝を行うと思いますが、それも植物同様にわざと活性酸素を発生させてよりスムーズに代謝を行うような仕組みなんでしょうか。考察というより単なる疑問ですみません。
A:光が引き金になる環境応答はもちろん多いのですが、完全な暗黒化で環境に応答する場合ももちろんあります。活性酸素は、近年、動植物を問わずシグナル伝達のメッセンジャーとして働いている例が数多く報告されています。その意味では「わざと」発生させていると言えるでしょうね。次から考察も期待しています。