植物生理生化学特論 第7回講義
ステート遷移
第7回の講義では、2つの光化学系の間での光エネルギーの分配の仕組みであるステート遷移について解説しました。
Q:光化学系の調節について講義を受けた。酸素発生型の光化学系には、利点だけではなく2つの系を協調させる必要があることがわかった。自然界では、植物の周りの環境は刻々と変化するが、光環境が変化したときには、光エネルギーを調節するための機構が働き、このうちのひとつをステート遷移という。植物にとって、光合成を効率よく最大限に行うことが重要なのだと思っていたが、自然界の多くの状況では、様々な要因が植物にとってストレスとなりうる。そこで光合成を最大限に行う状況よりも、光合成を維持するために働いている状況の方が多くなってくるのだろうと思った。
A:その通りです。自動車の速度と似たようなものかもしれません。普通に売っている車でも時速200 km/h近く出るのだと思いますが、実際に使う条件では平均時速はおそらく30 km/hにも満たないでしょう。うっかりするとアクセルよりもブレーキを踏む回数の方が多かったりします。それと同じようなことでしょう。
Q:今回の授業ではシアノバクテリアの光化学系のステート遷移について学んだ。ステート遷移に関係するPsaKサブユニットのうち、PsaK2は強光条件下でおいてのみ発現が上昇し、エネルギー伝達が促進されるということだった。そこでPsaK2遺伝子の発現の増加はどのような制御機構を介して起こるのかと疑問に思った。ひとつに光受容体による発現制御が考えられるが、この光受容体には閾値が存在し一定の強度以上の光によってのみ励起されることで強光と弱光を区別しているのかもしれない。あるいは強光ストレスにより発生した活性酸素の酸化力により特定の反応が進行していき最終的にPsaK2遺伝子の発現が誘導される等が考えられる。
A:よく考えていますね。光受容体と活性酸素というのは、確かに光環境を調べるのによくつかわれる手です。その他に、電子伝達成分の酸化還元状態をモニターするという方法があり、これをレドックス調節と呼びます。
Q:フィコビリソームについて考察した。シアノバクテリアは光化学系Ⅰ、光化学系Ⅱがあり、光化学系Ⅰではアンテナが特にないのに対して、光化学系Ⅱではフィコビリソームがある。フィコビリソームはステート遷移によって光化学系Ⅰにエネルギーを分配する。シアノバクテリアが緑色光合成細菌と紅色光合成細菌の細胞融合から生まれたのだとしたら、フィコビリソームも緑色、紅色による光合成効率が変化するはずである。緑色波長は約550~580nm、赤色波長は750~800nmである。各波長をフィコビリソームにあて、光合成効率を測定すれば、どちらでより効率的に光合成を行なうフィコビリソームをもつかが分かる。この結果から各個体のフィコビリソームが緑色光合成細菌由来か紅色光合成細菌由来かが分かるかもしれない。
A:実は、フィコビリソームは光合成細菌には存在せず、シアノバクテリアになって初めて生まれたアンテナのシステムです。フィコビリソームはシアノバクテリアから真核藻類の紅藻には受け継がれましたが、陸上植物の先祖の緑藻には受け継がれず、陸上植物もフィコビリソームを持っていません。