植物生理生化学特論 第3回講義

発光測定の方法

第3回の講義では、発光測定の原理と蛍光分光光度計の仕組みについて解説しました。


Q:今回の授業の中に、生物発光の触媒であるルシフェラーゼについて触れられていましたが、それを聞き私は植物が自身で発した光で光合成を行うことができるのかと疑問にもちました。植物の葉には葉緑体が並んでおり、その配列から柵状組織や海綿状組織と呼ばれています。葉の表側の方に葉緑体が多く存在しているのは日光が葉の表側に注がれるからです。つまりあの薄い葉でも表と裏では受けられる日光量に差がでるということです。その葉の内側に自身が発光する組織や細胞を入れることができるなら光合成の効率が大きく上がるのではないかと考えました。ここで問題となるのは、ただ光る植物を考えればいいわけではなく、発光に用いられるエネルギー量が光合成によって得られるエネルギーより少なくなくてはならないということです。それができてようやく植物が自身の発した光で光合成ができるということができるのではないでしょうか。しかし、調べてみましたが、葉緑体の光合成効率と光強度の具体的な数値や、生物発光を担う成分(たとえばツキヨタケならジヒドロイルジS、デオキシイルジンM 、ランプテロフラビンなど)が発光するのにどれくらいのエネルギーを消費しているのかを示すデータを調べることができませんでした。さらにはそれら発光物質をどのように植物の葉に葉緑体と同居させるのかも思いつきませんでした。

A:世の中にはエネルギー保存則というのがあり、さらに、その中で利用可能な自由エネルギーは常に減少していきます。したがって、化学エネルギーを光エネルギーに変え、その光エネルギーを用いて光合成をして化学エネルギーにした場合、どうやっても元のエネルギーからは減少してしまいます。ですから、そのままでは有効利用になりません。ただ、例えば入射する光エネルギーの一部を、蛍光によって別波長のエネルギーに変換すれば、色素の吸収スペクトルに合わせて光の利用効率を上げることが可能かもしれません。


Q:試料セルの温度が低温なほど吸収スペクトルの山がシャープになるというのは興味深かった。分子振動が抑えられることによってそうなるのだろうということはわかるがなぜ低温になると全体的に吸収が抑えられるのではなくピークの周辺部のみが抑えられるのか疑問に思った。そこで本来完全に静止した分子に光が当たっても特定の波長の光しか吸収しないが熱振動をした分子になると周辺域の波長の光も吸収するようになると考えた。よって絶対零度の状況下ではピーク周辺の傾きが無限大に限りなく近づくのではないかと考えた。

A:まあ、大雑把な理解としてはよいかと思います。考えていることもわかりますが、もう一息、自分なりの新しい発想をレポートに盛り込んでもらえるとさらによいでしょう。


Q:以前自分の研究で免疫染色を行った際,抗原を認識して抗体が染まる以外にエサとして与えているホウレンソウの自家蛍光が強くて,結局どの程度染まったのか判断できませんでした.今回の授業でルシフェリンルシフェラーゼ反応により蛍光するということを学び,遺伝子を組み替えてタンパクを発現しないようにしてエサを与えたら自家蛍光はなくなると考えました.他に酸や塩基で変性させる方法も考えましたが,目的とするタンパク以外も変性してしまうので適さないと思います.自家蛍光を全くなくさないにしろ少しでも抑える簡単な方法はないのでしょうか?

A:ホウレンソウの自家蛍光はクロロフィルから出ており、ホウレンソウはそのクロロフィルによる光合成で生きているわけです。遺伝子組み換えによりクロロフィルの合成を止めることは可能だと思いますが、その時には、ホウレンソウは生きていく糧を失いますから、成長できなくなってしまいます。「免疫染色」なるものがどのようなものかにもよりますが、蛍光は、色素の励起によって起こりますから、クロロフィルが励起されない(つまり赤や青の光が当たらない)条件を光学フィルターなどで作ってやれば自家蛍光を減らすことは可能かもしれません。


Q:今回の授業で印象的だったのは微分スペクトルだった。微分することではっきりと見えなかった成分を検出できるという考え方は非常に面白く、自分が研究している生態学の分野でも使えるのではないかと考えた。例えば、森林の土壌呼吸の日変化を微分してみたら、ひとつのピークだと思っていたのが二つのピークで構成されていた、など。もちろん野外で測定すると様々な要因が入ってしまうので、実際に利用できるのかはわからない。もう一つ授業を通して考えたことがある。生物発光は基質の量や酵素の量などで発光時間を制御することが可能であり、蛍光の寿命は短い、というように授業で習った。しかし、時計の文字盤などに使われている蛍光塗料は比較的長い間淡い光を発している。ということはこれらに利用されている蛍光物質は光エネルギーをなんらかの形で長いスパンで蓄積して(高いエネルギー状態を維持して)、ゆっくり放出しているということが考えられる。

A:微分スペクトルの欠点は、もとのスペクトルにノイズがのっていると、それによって非常に大きく妨害される点です。ですから、非常に滑らかなスペクトルの場合は微分によって情報を得ることができますが、ノイズが多いとかえって何が何だか分からなくなります。とすると野外の実験データなどでは難しいでしょうね。なお、後半の話ですが、蛍光塗料が出すのは蛍光ではなく、燐光の場合が多いと思います。燐光は蛍光よりもだいぶ寿命が長くなりますから。


Q:分光フィルターについてです.授業内でNDフィルターやバンドパスフィルター,カットオフフィルターなどたくさんのフィルターを扱いましたが,まず分光においてたくさんの種類があるということに驚きました.イメージとしては機械で自由自在にどんな波長も簡単に抽出できるものだと勘違いしていました,ですが種々のフィルターを用いて細かに抽出するということを学びました.さらにカットオフフィルターについて,波長を短波長側から吸収していくということに疑問を持ちました.短波長のものの方が高波長のものよりエネルギーは大きいはずだから吸収されずらいのではないか?と考えました.そこで少しカットオフフィルターについて調べてみたところ,カットオフされやすい波長は周期における凹凸が短いものとのことでした.原理は難しくて理解できなかったのですが,イメージとしては凹凸間が短い波の方がフィルターに物理的接触をする回数が多くて通過し難いと考えました.(参考:http://www.olympus.co.jp/jp/insg/ind-micro/special/ols_roughness/ana/index_10.html)

A:カットオフフィルターは確かに短波長をカットするフィルターがほとんどで、長波長側をカットするためには、ダイクロイックフィルターなどが必要となります。ただ、なんで長波長側をカットするのが難しいのかは、僕もよく知りません。基本的に波長の短い光ほど散乱されやすいのですが、それと関係するのでしょうか。参考として挙げられているサイトの話は、ちょっと違う話だと思います。フィルターという言葉は、光学だけでなく、電気の分野でも使われます。