植物生理生化学特論 第6回講義
光合成産物
第6回の講義では、炭素同化の続きの話をしたのち、主に光合成の産物の転流について解説しました。
Q:C4植物は細胞の種類を分けることでCO2濃縮機構を持っているが、その役割を昼と夜の時間帯で分担するCAM植物というものが存在することを学んだ。ここで高校の生物で、植物は夜間に光合成よりも呼吸をしていると学んだことを思い出し、CAM植物は夜間に光合成のためにCO2を取り込み、さらに呼吸のためにO2も取り込まなくてはならないはずだと考えた。CAM植物は時間帯で機能を分けることで耐乾性を持つようになったが、呼吸(糖代謝)のために取り込んだ酸素により光呼吸が起こりやすい状況が生まれているのではないか。もしそのような状況が起こっているとしたら、どうやって2種の気体を区別しているのだろうか。葉緑体へ取り込む際に何か輸送体があるかもしれない。その他に、CAM植物として発見された弁慶草やサボテンでは多肉質な葉に水分を貯蓄しやすくなっていることを考慮すると、水への溶解度は二酸化炭素のほうが酸素よりも高くその差を利用している可能性を考えてみた。あるいはそもそも糖代謝は昼間に細々と行っているのかもしれない。
A:光呼吸の原因は、ルビスコが基質として酸素と二酸化炭素を両方使うからです。一方でCAM植物における最初のCO2の取り込みは、C4植物と同じでREPカルボキシラーゼが行ないます。その違いを考える必要がありますね。
Q:圧流説の話がありましたが、植物では、導管・師管が動物における血管に相当し、浸透圧が心臓のようなポンプの役割を果たしていると考えると面白いなと思いました。また、管の幅は輸送量に大きく影響を与えるのではないかと考えました。例えば、針葉樹は導管を細くすることで導管液の凍結融解によるエンボリズムを防いでいるように、環境に応じて管の太さを変化させたりする機能などもあったらおもしろいなと思いました。
A:「面白いな」だけだと、大学院の講義のレポートとしてはちょっと物足りないですね。
Q:今回の講義では光合成産物であるデンプンが昼に合成され、夜に分解されることについて触れられました。この夜間のデンプンの分解について、概日時計による制御の結果として夜明けまでにデンプンが消費されるように調節されているという報告がされました (Graf et al., PNAS, 2010)。この論文において、28時間周期で管理したシロイヌナズナは夜明け前にデンプンが枯渇し、17時間周期で管理したシロイヌナズナは40%のデンプンを残した結果が得られています。ここで、シロイヌナズナの周期が何時間まで変化させられるかは定かではありませんが、仮に17時間から28時間の範囲の周期に同調可能であったと仮定すると、デンプンは24時間周期の時と同様に夜明けごろ(それぞれ、暗期8.5時間目と14時間目)までに消費されるべきではないでしょうか。同調の限界が判らない為、更に細かく同調させる周期を変化させ、デンプンが夜間に消費される速度を測定すべきであると考えます。この測定で、同調可能な周期の範囲で夜明けごろまでに消費される結果が得られなければ、概日時計による制御よりも、明暗応答による影響が強いように考えます。
A:講義で話したように、CAM植物では、夜間に蓄積したリンゴ酸を使い果たすと、夕方には通常のC3光合成を始めます。これを考えると、確かに概日時計によって制御というよりは、光条件に応答しているだけのように思いますね。
Q:光化学系IとIIを結ぶシトクロムb6f複合体の機能により、チラコイド膜内外に形成されたプロトン勾配は、ATP合成に使われるとともに、pH勾配が高くなると熱散逸機構を誘導する。過剰光条件下では、電子伝達系において光障害の原因となる活性酸素の生成を招くことになるが、熱散逸機構によりクロロフィルが吸収した光エネルギーを熱に変換して逃すことで、活性酸素の生成を軽減することができる。シトクロムb6f複合体はチラコイド膜内のpHによって電子伝達活性を制御し、老化葉では発現量を下げることで電子伝達活性を抑制することから、シトクロムb6f複合体の機能が電子伝達経路の活性に重要な鍵を握るのではないかと考えた。
電子伝達経路には、直線的電子伝達経路と循環的(サイクリック)電子伝達経路の2つが報告されている。C3植物では、フェレドキシンを経由するFQR経路と、NDH複合体を経由するNDH経路の2つが働くことが知られているが、シロイヌナズナを用いた研究から、特に前者の活性に関与する生体分子としてPGR5が同定され、循環的電子伝達は光合成に必要なエネルギーのバランス調節や光障害の防御に関与していることが明らかにされた(Y.Munekage.
et al.:Cell,110:361-371,2002)。これらの見解を踏まえれば、例えば強光条件下といった環境変化において、循環的電子伝達と直線的電子伝達を必要に応じてスイッチしている可能性が示唆され、光障害を回避できる循環的電子伝達経路への転換は、ストレスを未然に防ぐための有効な手段だと見て取れる。
以上より、「任意の環境変化に対する電子伝達経路の最適化は、シトクロムb6f複合体により行われる」と考えることができないだろうか。例えば、単細胞緑藻クラミドモナスでは、光化学系IIのみにエネルギーを与え続けると、光化学系Iで行われる循環的電子伝達経路の効率が著しく向上することが知られている。この状態では、光化学系Iばかりではなく、シトクロムb6f複合体などの直線的電子伝達に関係するタンパク質が分子量150万程度の超複合体(CEF:Cyclic
Electron Flow)を形成し、それ自身に循環的電子伝達経路を含んでいることが分かった(M.Iwai.
et al.:Nature,464:1460-1463,2010)。この発見により,循環的電子伝達は直線的電子伝達経路を構成する生体分子を再配置したタンパク質複合体であることが明らかにされた。
高等植物において、通常は特異な環境変化が起きているわけではないので、循環的電子伝達と直線的電子伝達のスイッチ機構が存在するかは疑問の余地が残る。これを検証するためには、例えば環境ストレス(強光、乾燥など)前後での葉から抽出した膜タンパク質のプロテオーム解析を行うことで、具体的な生体分子(複合体)の変化を解析すればよいだろう。また、光合成活性の変化を測定することも重要であり、例えば光化学系Iの反応中心の酸化還元レベルを測定することで、ストレス条件下において電子の流れが光化学系IIとIの間で制限されているかを判断することができる。また、光化学系Iの電子受容体であるmethyl
viologen(MV)を浸潤させたリーフディスクを用いて、MV処理がプロトン透過量に影響を及ぼすか解析すればよい。具体的には、ストレス条件下でのチラコイド膜のプロトン透過量および電子伝達量との関係を、カロテノイド吸収のECS測定とクロロフィル蛍光測定を使用することで、光化学系Iに依存しない循環的電子伝達系が活性化し、この経路に依存したプロトン流入が増大するかを評価できる。
A:このレポートは講義のどの部分についてのものなのかがわかりませんでした。