植物生理生化学特論 第2回講義
生体のエネルギー
第2回の講義では、解糖系や酸素呼吸など、エネルギー代謝の基本的な部分について解説しました。
Q:私は生物I・IIを高校時代に履修していましたので、光合成や窒素固定の範囲を一通り勉強していましたが、久しぶりの内容になかなか記憶を引き出だせず、ハッとさせられる講義となりました。生物学の授業では、どちらかというと“役者”に焦点が当てられ、なかなか化学反応式に立ち返って原理を理解することは少ないように思います。今回の講義でとり上げられた「アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌、硝酸還元細菌を共存させることで、地球のエネルギー問題は解決するのでは?」といった問いかけに対しても、一見妥当性があるように思われますが、実際に酸化還元反応の原理に立ち返れば、発生した熱量は水の合成に消費され、そのような夢物語は現実的でないと判断されます。生化学の授業ではつい忘れがちとなってしまいますが、生命活動はあくまで物理化学法則に基づいて営まれていることを常に意識しつつ、植物を見ながら「生命とは何か」について語れるよう、自分なりに考察を深めていければと痛感致しました。高校生時代に学習した内容もあるかとは思いますが、学部・院生時代に勉強してきた知識(特に数理科学や工学分野)を総動員して、もう一回り広い視野でより深く理解していけるように心掛けていきたいと思います。
A:そうですね。なるべく、背後にある「なぜ」という疑問を掘り起こすような講義をしていきたいと思います。日本語の文章としてきちんとまとまっていて感心しましたが、レポートとしてはもう少し「論理」が欲しいところですね。
Q:今回の講義で、生体のエネルギーと代謝経路を学び、その無駄の無い構成に、深く感心しました。生物は一見複雑ですが、代謝される炭素の数や、回路の複雑さなど、生物を構成する個々の現象は全て化学や物理現象に基づいており、理論的に説明可能であることが理解出来ました。私は、高校の時に、物理・化学を学び生物学を履修していませんでしたが、DNAのらせん構造の美しさに感動し、大学で生物を学びましたが、今回改めて生物の面白さに気付きました。
A:僕も大学受験は物理化学で入って、研究から生物に入りました。「面白さ」というのは、研究にとって極めて重要な意味を持つと思います。そのあたりを紹介していけたらと思っています。
Q:今回、初めて代謝に関する授業を受けました。これまでは代謝といえば代謝マップのイメージしかなく、単に反応経路を暗記するものだと考えていました。しかし、今回の授業で代謝に対するイメージが変わりました。特に、生物がわざわざ細かい反応ステップを踏むことでエネルギーを効率よく得ていること、プロトンを膜外に排出することで化学的な濃度勾配を作り出し、物理的にATP合成酵素を回転させることでATPを合成する仕組みに感心しました。細かい反応経路にも、脂質膜の存在にも重要な理由があった事にも納得しました。また、ATP合成酵素が物理的に回転することによってATPを生産する話は面白かったのですが、なぜATP合成酵素だけ回転によりATPを合成する必要があったのかが疑問に残りました。わざわざ回転するという事は、それなりの理由があるとは思うのですが。
A:なぜ回転をするのか、というのはある意味新鮮で、またある意味もっともな疑問ですね。できれば、その疑問が浮かんだときに、なんでも良いので、1つでも回答に対する自分なりの予想を立ててみてください。それがサイエンスにとっては非常に重要です。講義でも少しふれましたが、そもそも回転説の根拠となったのは触媒部位を持つサブユニットが3回対称に配置されている一方、1つしかないサブユニットもあることです。3つの触媒部位に対して1つしかないサブユニットが均等に働くためには、「回転する」ことが解決策になりえます。ただ、「では他の方法では実現できないのか」というとそうでもないでしょう。そもそも触媒サブユニットを1つにすることだってできるはずです。このような進化的な疑問は「正解」があるわけではないので、自分なりに考えてみることが大切です。
Q:代謝系に関しては高校生のときに始まり、学部でも学習したはずだが、かなりの部分を忘れていたので、光合成を勉強する前に代謝系を復習するよい機会になりました。その中で今まで何となく感じていた疑問がひとつ解決しました。クエン酸回路などでわざわざ長い炭素鎖を扱う理由です。食物から得られる糖類はグルコースなど確かに炭素鎖が長めです。わざわざアセチルCoAに炭素を2つ付け加え、長いまま少しずつ形を変えて回路を回すのはエネルギーを無駄遣いしているのではないかと思っていました。しかし、実は熱という形ではなく必要なエネルギーとして取り出すために重要な過程だったのだと理解できました。また本筋からは少しずれますが、ATP合成酵素が回転している動画は非常に印象的でした。その理由は、微小な、生命の基本ともいえるような現象をこんなにも分かりやすく捉えることができることに素直に驚いたからです。アクチンフィラメントを取り付けることで回転する様子をはっきりと観察でき、その長さによりトルクの大きさもわかります。現在、私も顕微鏡を扱っています。人に理解できる快感を与えられるような映像を撮影したいと強く思わせてくれる映像でした。
A:確かに、今の時代、映像によって成果を人にわかりやすく伝えるということも非常に大事です。その場合にも、単に見た目が美しいというだけではだめで、何が重要かを考え、その重要なポイントを一番わかりやすく表現する、という姿勢が必要でしょうね。
Q:呼吸における電子伝達系では、NADH、FADH、ユビキノン、シトクロムc、水といった具合に酸化還元電位の高いものから低いものへ順番に反応している。私は、ここでいきなりNADHから水へ反応を起こした方が、効率よく合理的なのではないかと疑問を感じた。そこで、この点について私は2点考察した。1点めはいきなりNADHから水へ、いきなり電位の差があるものを反応させると、生体内で処理できない点である。それ故に、結果的には中間産物を介して少しずつ反応させる機構が発達したのではないかと考えられる。2点めは中間産物が他の経路に必要な物質を産生する点である。 電子伝達系について改めて調べてみると、FADHの過程でコハク酸をフマル酸に変換する過程がある。確かにフマル酸は糖新生に使用されるため必要ではある。しかし、フマル酸の供給源は尿素回路など、他にもある。そこで、中間物質を産生する意義もあるかもしれないが、それよりも1点めの理由が主となっているのではないかと考えた。この結果を実証するための実験として、例えば真核生物のミトコンドリアにインジェクション法により、NADHデヒドロゲナーゼの働きを阻害する物質と酸化還元電位を下げる効果を与える物質を入れた状態のもの、NADHデヒドロゲナーゼを入れた状態のものと、水のみを入れた状態のものを比較してみるという実験が考えられる。この実験により、最初に挙げた系で他の系と比べて著しくミトコンドリアに異常が見られたならばこの考察が正しいと証明できると考えられる。
A:最後の実験系の論理が完全に理解できませんでしたが、一番レポートらしいレポートですね。中間代謝産物が最終産物に劣らずに重要である例は確かにいくつかあります。クエン酸回路などが代表的な例でしょう。光呼吸についても、その意義について同様の議論がありましたが、こちらは中間代謝産物自体が非常に大きな意味を持っているわけではなさそうです。