生物学通論 第2回講義
生体を構成する物質
第2回の講義では、生体を構成する元素についての一つの表からどれだけの情報をくみ取ることができるのかを紹介しました。
Q:第二回の授業では生き物の構成元素、細胞を構成する物質から人体と植物(マツ)との構成の違いについて考えました。授業が終わって復習をしているときに硫黄と窒素の関係について疑問に思いました。人体では窒素の物質量(約0,214 mol)が硫黄の物質量(約0,0313 mol)に比べて約6.8倍であるのに対して、植物では窒素の物質量(約1.63×10-3)が硫黄の物質量(約2,14×10-3)の約1,3倍であることに疑問を抱きました。窒素はタンパク質と核酸に使われ、硫黄はタンパク質にのみ使われていることから、人体は植物によりも核酸が多いのだろうと推測できるが、これでは人間の三大栄養素の一つであるタンパク質が植物よりも少ないということになってしまい、矛盾してしまう。そのためここで考えられることは、タンパク質を構成しているアミノ酸に違いがあるのではないかということである。硫黄が使われているアミノ酸はシステインとメチオニンの二つであるから、植物に対して人体はシステインとメチオニンの量が少ないと推測することができる。
A:面白い考察だと思います。ただ、「三大栄養素」だから多いはずである、という論理展開は、正しいかどうか立ち止まって考えてみる必要があると思います。場合によっては、取り込み量も多いが、排出量も多くて、結果として留まる現存量は少ない、というケースも考えられますよね。経済学で言うところのストックとフローは区別して考える必要があるでしょう。あと、物質量の単位がmolになっていますが、これは実際には相対値かな?
Q:授業の感想としては、あんな情報の少ない表から、授業でやったことほどの内容が読み取れるというのは凄いと思い、感動しました。僕が疑問に思ったことはクラーク数(参照:http://sulect.web.fc2.com/kura-ku-su/ 2014/04/19アクセス)を見たときに第7位にK(2.40%:重量%以下同様)が来ていて、第16位にN(0.03%)がきているのに対して、植物(マツ)の組成を見てみると、K(0.006%)、N(0.03%)になっていることです。植物が地中の物質を吸収する際は、水と一緒にイオンという形で吸収すると思います。Kはイオンになりやすく地中にたくさんあるのに、水にとけにくく、地中にそれほど多く含まれないNのほうが体を構成する要素として多いのは、なんとも言えません。確かに、体を構成する細胞として、タンパク質があるので、多くなるとは思いますがそれを根からすべて取り込んでいるというのは、難しい気がします。そこで自分が思ったのは、Nが多く含まれているのは空気中なのですから、空気中から取り込んでいるのではないかということです。
人間が酸素を取り込むのは、酸素に結合しやすいものを血中に巡らせて結合させているのですから、植物がNと結合しやすいものを体に巡らせていれば取り込めると思います。 それを、確かめるのには、ある植物を密室で空気の中からNを抜いて植物の成長に関係のない気体を代わりに入れて育てたもの(A)、通常の空気で地中からNを抜いて育てたもの(B)、同様に両方から抜いたもの(C)、通常の状況で育てたもの(D)の生育具合を調べればわかると思います。AとD、BとCの生育具合が同じであれば、この仮説が間違っていることになります。AとBを比べて、Bのほうが育っていて、AとCの生育具合も等しければ、この仮説が言えるのではないでしょうか。
A:確かに、存在量からすると空気の主成分は窒素ですから、根から取り込むよりもずっと楽なはずです。ただ、残念なことにN2という窒素分子は極めて安定で、なかなか他の形になりません。窒素分子からタンパク質を作ろうとすると、多大なエネルギーと還元力の投入が必要な数多くの反応段階が必要になります。一部のバクテリアは、そのような能力を持ちますが、残念ながらそのような生物の種類は多くありません。窒素を空気中から得ることができるメリットよりも、反応を進めるコストが大きいということでしょう。もっとも、窒素分子が不安定だったら、空気を呼吸するのが危険になるでしょうから、人にとっては窒素分子は安定な方がよいかもしれません。
Q:今回の講義で、植物と人間の構成物質の割合は、光合成をするか否かで異なっているということを学び、からだを支えている人間であれば、骨の構成物質はリン酸カルシウム、植物であれば細胞壁などの表面を構成している物質は炭水化物と、摂取のしやすさや体内における物質の作り出しやすさが、物質の割合に影響をおよぼしてしているのだということを理解できた。ここで私が疑問に感じたことは、同じ植物どうしを比較した際に、同じ炭水化物でできた表面のかたさにも個体差が生じているのではないかということである。人間の骨においても骨密度などに差が生じているように、植物の骨格である表面にも密度などに差が生じており、かたさや丈夫さの差異が生じうるのではないかと考えたのである。またこのかたさや密度の違いを調べたのちに、乾燥重量パーセントを調査すれば、かたさに影響を及ぼしていると判別できるようになるH,C,Oの量の差はどの程度であるか、またはH,C,O以外の物質がかたさや丈夫さに影響を及ぼしている可能性はないかなどの実験ができると考えた。
A:着目点は面白いですね。せっかく、面白い点を思いついたのですから、身近な例で考察すると、論理に説得力が出ると思います。例えば、草と木では硬さがまるで違いますよね。草と木では何が違うだろうか、と考えることは、生物学を専門としていなくてもできるでしょうから、そのあたりを考察の出発点にするとよいのではないかと思いました。
Q:人間と植物の構成物質を見て思ったことは、人間であれば食事をすることによって得られるものしかなく、植物は光合成と根から得られるものしかないと思った。人間に関して、はじめは、こういった食生活によって人間のからだの構成物質ができていると考えていたが、そのような構成物質だからこそ食生活が今のスタイルになったのだと思うと納得がいき、食生活から人間のからだにとって大事なものが何かがわかると思った。スライドでは、普通の植物があげられていたが、ほかの食虫植物などの場合は構成物質が植物と人間(動物)の中間になるのではないかと思う。
A:植物にとっての「栄養」というのは2種類考えられます。一つは根から吸収する無機塩類で、硝酸イオンやアンモニウムイオンとしての窒素、硫酸イオンとしてのイオウ、リン酸イオンとしてのリン、カリウムイオンなど「無機栄養分」で、もう一つは、光合成によって作った有機物(有機栄養分)です。これに対して、動物の場合は、他の生物が作った有機栄養分が「栄養」です。食虫植物が虫から得ているのは、実は、主に無機栄養分です。つまり、根から吸収する代わりに無機栄養を虫から取り込んでいるので、これは、動物が有機栄養分を取り込むのとは全く異なります。その意味では、食虫植物は、普通の植物とその働きがあまり変わらないかもしれません。