生物学通論 第13回講義
生物の進化
第13回の講義では、生物の進化について、自然選択説を中心としたいわゆる進化論について紹介しました。今回については、日本人の男女の行動について、「進化」という切り口から説明が可能かどうか、という点をレポートの課題としました。
Q:女性しか子供を産めないので、日本人の男女の「行動」は生物の進化と切り離すことはできないと思う。しかし、生物の進化に伴いその境界はあいまいになってきていると思う。仮に人間が自由に性別を成長してからも選べる時代が来れば境界はなくなると思う。そのような技術が生まれて初めて本当の意味で男女の壁がなくなると思う。例えば男女両方の性を兼ね備えているインターセックスと呼ばれる人が存在することから、それを人工的に生み出す技術が発達すれば、生まれた時は両方の性を有することが当たり前になる。そうなった時に、人間は大人になってから自分の性別を主体的に選択できるようになる。
A:この場合、技術自体は発達するかもしれませんが、それが社会的に受容されるかどうかはまた別問題です。さらに、その技術が発達した時に、結果として子孫を残していくのがどのような人たちなのか、そこまで考えないと、進化を論じたことにはなりません。
Q:人間の進化は戦後戦前を見ても明らかである。特に顕著に表れているのは、身長であると思う。有名な歴史上の人物の身長などを見ても150cmなどがほとんどで、もし現代にいたら非常に低い部類である。現代の日本人は180cmあれば高いほうであるので、これから何十年か後には200cmあれば高いほうなどのような基準に変化する。オリンピックの記録などを見ても、年々世界新記録などが出ており、人間の進化を感じられる。こういったことから人間はこれからも進化を続ける。
A:講義では、進化は、遺伝子の変異を伴う変化である、という話をしたと思います。一方で、身長は、栄養条件によって大きく左右され、その場合には遺伝子の変異を伴いません。戦前と戦後を比べる場合、栄養条件を一定にして比べないと進化によるものであるかどうかはわからないわけです。もっと言えば、遺伝子の変異が選択されて起こるのが進化ですが、人間の場合、一世代は20年ぐらいかかります。とすると、戦前と戦後で進化が進むはずはない、ということがわかるのではないかと思います。
Q:今回の授業では進化を扱った。課題については先生が例として提示していただいたレディーファーストについて考えてみようと思う。レディーファーストとは公共の場において男性より女性の立場を尊重するような時の表現である。例えば昔の日本人は、今ほど女性に優しくなかったとすると、優しい男性はパートナーを見つけやすくなる。これが続くと世代を重ねるに連れて優しい男性の遺伝子は日本じゅうに広がって行くことになる。こう考えるとレディーファーストは十分に進化の影響を受けているといえる。しかし、優しい男性がパートナーを見つけやすいという前提は少しあやふやな部分でもあるので一概に進化とは言えないかもしれない。
A:レディーファーストという概念が、外国から持ち込まれたものであると考えると、日本人の進化を、昔と比べて議論するにはあまりよくないのではないかと思います。むしろ、そのような概念が持ち込まれた結果、今後どのような影響があるのか、という点に注目したほうが進化を議論しやすいように思います。
Q:今回は進化について学んだ。そこで、今後人間が進化していくのかどうかが気になった。まず、なぜ進化する必要があるのかというと、より環境に適応した方が有利であるからである。しかし、その環境を変える能力を獲得すれば進化は止まる。例えば、近年問題となっている地球温暖化を何の対策もとらずそのまま進行させた場合、地球の平均気温が上がるので、それに適応するような体になっていくのではないだろうか。しかし、人間は地球温暖化に対して可能な限り対策をとるであろうから、進化しないのではないだろうか。また、平均気温が上がるようなことがあっても、人間は恒温動物であるから、ある程度の気温の変化には適応できるし、服装なので体温調整ができるので、よっぽどのことがなければ進化しないのではないだろうか。今回は地球温暖化に対してに限った話なので、他の要因で進化していく可能性はあるかもしれない。
A:地球温暖化に関しては、進化以外の影響があまりにも大きいので、これも題材としては難しいですね。温度が上がるだけではなく、そのほかの様々な影響が考えられますから。
Q:人間の肌の色は遺伝によって受け継がれているが、授業でもあったように肌の色が異なる場合でも種分化が起こらない限りは同一の種である。違う肌の色の人間で交配が可能である点から、人間の肌の色も他の生物の進化による色の変化と同じように進化によって起こったものであると考えられる。人間が進化をした過程としては、超大陸が形成されていた時代は全人類が同一の色をしていたが、プルームテクトニクスにより超大陸が分裂した後、各大陸で進化が起こり肌の色の多様化(さらにいうと顔つきや骨格など)が起きたと仮説を立てることができ、これは進化が個体ではなく集団で引き起こされることと、物理的に隔離された大陸それぞれで人間の肌の色が違うことから推測できる。ただ、女性らしさや男性らしさ(女性は優しくて男性は強いイメージなど)が肌の色と同様に遺伝と進化の過程を得て引き継がれている、とは考えにくい。なぜならそのような性質は世界的に普遍的なものであり、社会的なイメージを抜きにして考えると一部の集団が特別な性に対するイメージを持つことはないからである。
A:着目している点は面白いと覆います。ただ、論旨としては、肌の色から性に対するイメージに話題が移っていて、その2つを対比させるのが目的なのか、それとも後半の議論をするための比較対象として前半を使っているのか、そのあたりがやや不明です。結論をしっかり立てて、その結論を導くのに一番良いように論旨を組み立てなおす作業をすると、論理的なレポートを書くことができます。
Q:現代の日本人男女の行動様式の違い、これを生物学的進化の側面からの視点で考えるにあたり、家庭単位における男女の行動形態、思考を題材にしたいと思う。本講義でも扱ったように、世界では一夫一妻、一夫多妻は多くあるが、一妻多夫の家庭は少なかった。この背景として、男女の生殖機能の違いが強く関連しているように思える。雄は生物進化の過程で大量の精子を生成し、多くの雌の中に種を残し、できるだけ多くの子孫を後世へと受け継がせてきた。また、一度ある雌の中に種を残せば、次の雌の中に種を残すまでの時間は長くかからず、効率よく子孫を繁栄させてきた。これに対し、雌は比較的数の少なく、貴重な卵の中に優れた雄の精子を取り入れ、時間をかけてはぐくんできた。つまりこの男女の生殖機能の違いによる効率が一夫多妻のシステムに関係している。そして、現代の日本での一夫一妻の形態にも、このプロセスは根強く関連していると思う。男性は上にも挙げたように数多くの精子を持っていて、生殖の機会が多くあるが、これに対し女性は一度受精卵を宿したらその受精卵が成長するまで時間をかけてケアしていく。子を産む際の肉体的な痛みも伴い、女性のほうが子に対する愛情は強いものだと思う。実際に、母親が親権を持つ可能性が比較的高いという背景にもこれはあると思う。男女の現代の違いにはやはり生殖機能の違いが裏付けられていると再実感できた。
A:きちんと考えられています。ただ、やや一般論で、最後の親権のところに特徴がみられるぐらいでしょうか。この講義のレポートとしては、もう少し自分なりの独自の論理が欲しいところです。
Q:世界的に女性の社会進出は進んでいる。男性が仕事、女性が家事という以前の役割のようなものがなくなっている家庭も多くある。OECD(経済協力開発機構)加盟国34か国で労働時間のランキング(2012年)によると日本は第20位の短さであった。これは決して労働時間が少ないとは言えない。したがって、女性が社会進出をして男性と同じように働くには体力が必要であると考えられる。今まで男性が労働してきたのは男性の方が体力があるという背景もあった。したがって男性と同等に働く女性の身体能力は高くなっていくのではないかと考えられる。また、睡眠時間も今後減少するのではないかと考えられる。総務省の「社会生活基本調査」(2011年)より日本人の1986年~2011年にかけて睡眠時間はわずかに減少している。減少した要因は様々あるだろうが、このことからいずれ睡眠時間がさらに減少しても生きていけるようになるのではないかと考えた。しかし、それには限界があると思う。睡眠時間は男性も減少している。男性もともに変化しているので女性の体力が男性と同等になることはないのではないかと考えた。したがってこの先もすべての職業に対して男女格差をなくすのは難しいのではないかと考えた。(参考文献blog.livedoor.jp/aokichanyon444/archives/54552497.html )
A:これもきちんと考えていると思います。体力と睡眠時間の2つの話題が扱われていますが、この2つは直接は関係なさそうなので、どちらかに絞って、その分深く考察するとさらによくなると思います。
Q:今回の授業は生物の進化に関する授業だったが、レビューでは現在の男女の性差を生物の進化から説明できるかということについて考察せよということだったので、そのことについて考えることにした。現在の脳科学の成果により、男性の脳は空間把握能力に長けている傾向があり、一方女性の脳は言語・コミュニケーション能力に長けている傾向があることがわかっている。これを生物の進化からどのように説明するかというのは難しいところだが、私は現在に至るまでの男女の役割を考えると説明できるのではないかと考えた。現代のような文明が発達する以前の社会では、男性は外で狩り等をして食糧をとってくること、女性は家庭で子どもを育てることが主な役割とされていた。そして、狩りをするには当然空間把握能力は高い方が有利にきまっているし、子供を育てるには言語・コミュニケーション能力が優れているほうがうまくいくだろう。さらにダーウィンの自然選択説により、そのような能力に優れた人種が生き残り、他は淘汰されていったのだと考えれば、やや強引ではあるがなぜ男女の脳になぜそのような差があるのか説明できているのではないかと思う。
参考文献:性差科学の最前線 京都大学シンポジウム
A:これも、一般的に言われていることなので、独自性という面でやや物足りないものを感じます。調べると出てきてしまうような結論だと、論理とは言えないと思いますから。
Q:離婚した日本人男女の再婚率は男性のほうがわずかに高い。この現象も授業で扱った、男性は多くの女性と接点を持ったほうが、女性は一つの家庭を大事にしたほうが、子孫を残すためには効率的だということに関係しているのではないだろうか。たとえば、離婚した男女の間に子供がいたとすると、男性の場合、新しい女性を探さなければ新たな子孫を残すことはできないが、一方女性の場合は、親権があり、元夫との間の子供を引き取っている場合が多い。それゆえ女性は新たなパートナーを見つける手間よりも、いまいる子供を大切に育てたほうが効率的である。しかしながら、離婚した人の約半数が再婚しているというデータもあることから、離婚を大きなハンディキャップと考える必要はなさそうである。
A:これは、独自の視点が感じられるように思います。ただ、最後のところ、「離婚を大きなハンディキャップと考える必要はなさそう」というところは、何にとってのハンディキャップなのかが読み取れませんでした。
Q:今回の感想では、日本の男女の行動も生物の進化から解釈できるのかという課題が出ました。では、まず日本の男女の行動について考えてみたいと思います。あくまで、メディアの印象付けによる、個人的なイメージかもしれませんが、現在の日本の男女で良く言われていることは、草食系男子(恋愛におく手で女性に対して積極的にアピール出来ない男子)が増えたことと、腐女子(BL [Boys Love] と言われる男性同士の恋愛に関する本・漫画などを好む婦女子)が増えたことだと思います。以前も、このようなタイプの人たちはいたかも知れませんが、近年その取り上げられ方は顕著だと思います。草食系男子については、そのままの通り、女性との関係を持とうと思っていないので、出生率の低下、種の個体数の低下に繋がっていると思います。腐女子について、男性同士の恋愛を好きになることは、物語の中にあまり女性を登場させないことで、女性としての役割を忘れられるから、という考えもできます。男女間の恋愛だとどうしてもそこに、関係を持つということが関わってくる。それを忘れるということは、子孫を残すことを忘れたいということです。また、物語を重視するあまり、現実の男性に失望するということもあり得ます。なので、腐女子も種の個体数の低下に繋がっていると思います。このどちらも、種の個体数を減少する傾向にあると思います。これは、生物的にみると一件おかしなことに思えます。
しかし、ここで日本の人口密度について考えてみると合点がいくことがあります。ある種について、その種の個体数がある範囲において爆発的に増加すると、そのまま増え続けるのではなく、ある程度で何らかの個体数を減らす要因が働き、横ばいもしくは減少します。これは、限られた土地、限られた餌のなかで個体数が増え続けると、住む場所や餌がなくなってしまい、それが原因での大幅な個体数の減少を防ぐためだと思います。現代の日本も、爆発的に人口が増え、人口密度が大きくなってしまいました。なので、前述の通り、日本の男女のなかで、個体数を減らそうという本能が湧いて、その結果、草食系男子や腐女子が増えたのではないでしょうか。なので、種の均衡をたもつという部分で、日本の男女の行動は生物の進化から、解釈できるのではないでしょうか。
A:これは、このような議論は過去にあるとはいえ、十分に独自性が感じられますね。しかも草食系男子とBLという2つの要素が、出生率の低下という一つの結論にまとめられていて、論理的にしっかりしています。評価に値するレポートだと思います。ただし、「個体数を減らそうという本能」なるものが、進化とどのような関係にあるのか、という点を本来は考える必要があります。
Q:今回は生物の進化について学び、レビューシートの内容は日本人の進化と社会との関係についてを書くということでした。そこで、日本人だけではないと思うが筋肉を使う仕事には男性のほうが多いということについて進化の面から考えたいと思います。人間がまだ定住ではなく移動していたころ、男の人が食料を取ってきて女の人が家にいました。男の人は武器を使って動物などと闘ったり、木の上に登ったり、海を泳いだりしたため筋肉を女の人よりも使っていた。また、これにより遺伝的に男の人に戦う力をつけさせたのかもともとそのような遺伝子だったからこのように男の人が狩猟にでていたのかはわかりませんが、これがあったからいまでは遺伝的にも男の人のほうが筋肉量が多く、そのような仕事につくことが多いのだと思います。
A:これだけだと、進化ではなく、講義で紹介した獲得形質の遺伝の話のようです。進化、というもののイメージがもう一息伝わらなかったかな。
Q:現代の日本人の男女の行動が生物の進化から解釈できるのか。日本では男女ごとの年齢別人口構成を表す人口ピラミッドから、産業の変化に伴い、多産多死、多産少子、少産少子と変化してきた。これに追随して、現在少子高齢化社会となり、これに伴い、政府は生産力を確保するために女性も働きやすい環境を作っていこうとしている。そしてこれに伴い、我々国民は女性も働き、男性も育児をするという行動をとるようになってきている。このような現代の日本人の行動は生物の進化から解釈はできない。なぜならば、ヒトの進化のスピードよりもはるかに社会環境の変化のスピードの方が速いためである。つまり、現代の日本人の行動は社会環境の変化に対する個体の生物の馴化であると考えられる。また、女性も男性も働き、育児をするという社会は、ヒトという種全体では安定であることから、ヒトという種は進化していかない。ヒトの行動から進化していくためには、強いヒトが生き残り、弱いヒトが死ぬというような自然選択がなされる要素がなければならない。しかし、現代社会の日本人の行動では、自然選択の考え方に沿うことはありえない。
A:これも、きちんと自分の考え方を述べていてよいと思います。ただ、最後の部分、自然選択は個体が死ななくても働きます。つまり、男性が特定の性質を持つと、女性から人気がなくなって、子孫を残すチャンスが失われるとすれば、その男性がどんなに強くて生き残っても、その性質を受け継ぐ子孫はいなくなります。講義の中で、個体は進化しない、という話をしましたが、個体の生死そのものは、進化の原動力ではないのです。