生物学通論 第3回講義

アミノ酸とタンパク質

第3回の講義では、生体を構成する要素のうち、多様な役割を果たすタンパク質の構造と、その材料であるアミノ酸の特徴について解説しました。


Q:この授業では、タンパク質の構造について学んだ。タンパク質は、20種類のアミノ酸の事を言う。アミノ酸の基本構造にはL型とD型とがあり、それは鏡像関係にある。生物の体内にもアミノ酸は含まれるが、いずれもL型をしている。しかし、大気の放電など無機的に形成されたアミノ酸はL型、D型両方とも作ることができる。この偏った点はとても興味深い点で、その原因はいまだ解明されていない。しかし、予測として今日に至るまで偏光のあたる状態があったため、あるいはアミノ酸が地球外から来たものであるなどが挙げられる。アミノ酸には複数の性質を持っていて、脱水結合、凝集、変成に弱い性質がある。基本的に複数のアミノ酸が結合(脱水結合)することで構成され、そのおかげで多様な機能を持つことができる。一方、アミノ酸には水溶性と脂溶性の性質を持っており、アミノ酸によって安定な状態がどちらかであるかが異なる。また、アミノ酸には特定の部分に凝集するという性質も持っており、たとえば生卵をゆでると水溶性のアミノ酸が脂溶性の部分を保護しようと周りのアミノ酸と凝集する現象が起こり白身が硬くなるのである。最後に、変成に弱い性質は狂牛病から明らかになっており、変成したプリオンと正常なプリオンを混ぜると清浄なものが変成してしまい、脳に障害を与える性質が起こる。

A:最初にも言ったと思いますが、この講義では、講義の内容をまとめただけのレポートは評価されません。


Q:私は高校生物は一部しか学んでいないため、アミノ酸やたんぱく質の話は化学でしか聞いたことがなかったが、狂牛病の話などはニュースなどで話題になっていたし、身近で考えやすかった。人間に必要なアミノ酸はたった20種類なのに、配列によってできるものが膨大な数あって、それによって現れてくる性質がそれぞれ違う、という話を聞いて、先生が専門として生物を選んだ理由について、生物は新しい発見がいくらでもある分野だから面白いとおっしゃっていたのを思い出した。人がもともと持っている性質が遺伝子の情報としてその配列に入っていて、それなのに全く同じ人はいないこと、たんぱく質もアミノ酸の配列でいくらでも種類があることなど、まさに新しい発見の連続なのだろうし、狂牛病で発見された、変異のメカニズムもそのひとつなのではないだろうか。日本科学未来館の展示に人間の身体についてのところで、将来、遺伝子情報をその配列から読み取って、それに合わせて個人個人に最も合った薬を調合できるようになるかもしれない、というものがあったのだが、研究が進めば本当に可能なのかもしれないと思った。

A:これも感想になってしまっていますね。レポートとしては、自分なりの論理を展開するようにしてください。


Q:授業内では、タンパク質を構成するアミノ酸には親水性のものと疎水性のものがあり、それらが結合してタンパク質ができているので、親水性のものは親水性のものどうしで集まり、親油性のものは親油性のものどうしで集まって3次構造を作る、ということだった。ここで、私は石けんの構造に似ている、タンパク質でミセルの形成はできないのかと考えた。石けんといえば、体などの洗浄に使われるが、そのときには水分中の油脂をミセルの中に封じ込めることで油汚れを落とすことができる。同様のことがタンパク質でもできないだろうか。石けんで体を洗浄すると、弱塩基性なので皮膚の表面のタンパク質を変性させてしまうが、もしタンパク質で洗浄ができれば皮膚を傷めることもないだろう。しかし、実際にはないということは理由があるはずである。その理由を考える。まず、産業的に考えて、コストの問題が考えられる。石けんのほうが古くから作られているものだと思うので、技術も向上しているだろうし、そもそも石けんは手作りできるぐらいなのだからコストも安いと考えられる。それから、構造の面からも考えてみる。石けんは鎖状で存在するが、タンパク質は三次構造を取った場合塊状である。一次構造を取った場合は鎖状だが、二次構造、三次構造のほうが安定しているので、鎖状でいるとは考えづらい。三次構造を取った場合、疎水性を持ったアミノ酸残基は親水性のアミノ酸残基の内側に入ってしまうため、ミセルは作れない。ただし、熱を加えた場合は三次構造が崩れるため、ミセルの形成は可能かもしれない。仮に熱を加えてミセルを作れたとしよう。石けんは常温でミセルを形成、洗浄能力を発揮するので、石けんのほうが圧倒的に使いやすい。また、熱を加えなければ洗浄できないとすると、体の洗浄には使えない。そう考えると、タンパク質で洗浄するメリットはなくなってしまう。以上の理由から、タンパク質を石けんのように洗浄に使うのは、不可能、または利点がないと考えられる。

A:これは、タンパク質に親水性の部分と疎水性の部分があるということから、石鹸の構造との類似性に気づいて、タンパク質の石鹸としての利用の可能性を考察していて、評価できます。このように人にはなかなか思いつけない自分独自の論理を展開したレポートは評価が高くなります。


Q:今回の授業では、動物の筋肉などを構成するたんぱく質とその構成物質であるアミノ酸について学んだ。特に、生体のたんぱく質を構成するアミノ酸はほとんどがL型アミノ酸であるのはなぜかという疑問に対して、生命の源となったアミノ酸は宇宙空間で生まれ、隕石に付着して地球へやってくる際にD型だけが偏光によって分解されたためにL型のみを生命は選択した、という仮説は非常に興味深いものであった。ここで私が疑問に思ったのは、アミノ酸が隕石に付着して地球へやってきたとき、地表へ落ちた衝撃でアミノ酸が全て壊れてしまわないのだろうか、ということである。隕石の衝突時の衝撃は凄まじいものであるから、隕石に付着した量が少ないと全く残らないのでは、ということである。そこで、そのことを検証する方法として、岩石と水、および岩石と岩石の衝突の際に発生するエネルギーの計算を提案する。生命が誕生したとされる時代には地球表面の一定の面積は水で覆われていたであろうから、これら二つのケースを想定して計算しなければならない。計算結果のうちどちらか一方でもアミノ酸が壊れるエネルギーを下回っていれば、その仮説は正しい、ということになる。この実験の利点は、エネルギー計算による数値比較なので統計学的に解決することができる点で、問題点は隕石の成分や地表に降り注ぐスピードなどのランダムな条件が多く、定量化することが非常に困難な点である。

A:アミノ酸のL型とD型については、数名がレポートで取り上げていて、それ自体は独創性あふれるテーマではありませんが、ここでは地球突入の際の破壊に焦点を絞っているという点で独自性を出しています。


Q:タンパク質は20種類のアミノ酸が鎖状に連結されて構成されており、その種類と配列から多くの種類のタンパク質が存在する。それぞれタンパク質は独自の配列をもっているため、タンパク質は多様な機能をもつことになる。例えば10種類のアミノ酸から10兆通りのタンパク質の種類を考えることができる。この多様性から私達の生命に多く含まれ、生命を作る大きな役割を果たしているのだと考えられる。

A:これは、最後の1文がもしかしたら多少自分の考えを反映しているのかもしれませんが、これだけでは論理とは言えませんから、評価の対象にはならないレポートです。


Q:アミノ酸にはL体とD体という鏡像異性体が存在し、化学合成によってアミノ酸を合成するとL体とD体の両方が作られる。L体あるいはD体のみの合成は現在の技術でも困難であるが、地球上の生命のたんぱく質はほぼLアミノ酸の残基のみから構成されているということが分かっている。ここで、L体とD体のアミノ酸は光学的な性質が異なるようである。生命を形作るうえで、LあるいはDの片方に偏って存在することが必要であるならば、その光学的な性質の違いを検出できるような光学センサーを使って地球外生命の探査ができるかもしれない。たとえば特定のアミノ酸のLかDのどちらかのみが吸収する波長帯が分かれば、その波長帯に特化したセンサーをつくって飛ばせばよいだろう。LあるいはDの偏りが検出されれば、そこには生命が存在する可能性があるということになる。

A:光学異性体の存在が生命の特徴として使えないか、というアイデアは、ある程度の独自性があってよいと思います。ただ、光学異性体を吸収で見分けられると考えてしまう点はやや問題かもしれません。実際には、偏光などを用いて地球外の生物探査をできないか、という議論はなされています。


Q:今週の授業では、タンパク質について取り扱った。その話の中で、タンパク質は脂溶性の部分を疎水性の部分で覆いタンパク質同士で凝集するというものがあった。これを聞いて人間の体の中にタンパク質の摂取のしすぎでできる結石と同じ仕組みなのかと疑問に思った。調べてみるとシュウ酸と呼ばれる、ぼうれんそうなどに含まれている物質がカルシウムと結合することにより結石は生成される。タンパク質(動物性)自体はその生成を促進させるだけなので、直接的には関係がないことがわかった。つまり上記で述べられているようにタンパク質の凝集による結果で起こることではなかった。
参考文献:http://www.lares.dti.ne.jp/~obsidian/kesseki.html、 http://www.healthcare.omron.co.jp/resource/life/47 閲覧日2013年4月27日

A:タンパク質の凝集の話を聞いて、結石との関係を調べてみた、というレポートなので、自分の考えた論理という面からみるとやや不満です。単に調べて答えがわかったというだけではなく、何でもよいので自分なりの論理を構築するように努力してみてください。


Q:一般に地球上における生物はL-アミノ酸を保有するという事実があるが、この事実には疑問な点が存在する。なぜL型であるのか。また、どの段階からL型に固定されたのか。先人たちはこの疑問に対し様々な合理的な説明を唱えてきた。しかしながら、他の説を圧倒するほどに有力視される説は未だ無く、また疑問に対し手掛かりとなる物証も不足している。私はこの物証の不足を逆手にとり、自由な発想のもとこの問いに一つの説を唱えたい。ユーリー・ミラーの実験で明らかになったアミノ酸の無生物的合成を生命の起源とするならば、①落雷によるエネルギーの供給の仕方に特殊性があった、もしくは②D-アミノ酸が淘汰されたなどが考えられる。仮に原因を①であるとした場合、この特殊性を有するものは自転の方向やそれに伴うコリオリの力ではないだろうか。コリオリの力とは見かけ上の力であり、回転体上にのみ働くものである。現在の自転速度よりも圧倒的に速かったとされる原始地球ではコリオリの力も非常に大きかったとされ、落雷に微小なりとも方向性を与えたとすれば、このような偏りがあった可能性も十分に考えられる。しかし、コリオリの力とは赤道を挟んで逆向きに働くものであり、北および南半球では互いに異なるアミノ酸が生成されるはずであるため完全に説明し得るものではない。ここで、補足的に説明をするものが②である。自転によって発生する大気の流れの一つである赤道上を通る偏東風ジェット気流によって、海洋が極方向に向かう力を受け輸送されるエクマン輸送というものがあるが、現在よりも自転速度が非常に速かった事を考慮すると、このエクマン輸送も大きく働いていたと考えられる。また生命誕生時には大陸地殻も殆ど無く、地球内部温度が高かった事から、現在とは異なり鉛直方向の海流が主体であった事が想定されるため、これらの理由から両半球の海洋は互いに混じり合いづらいことが予想され、初期海洋生物は各半球ごとに栄えたと考えられる。したがって、地球外部由来のラセミ体を考慮したとしてもL型とD型がよく分離された状態が形成されることで、どちらかに集中した大量絶滅イベントに対して鏡像異性体の均衡がとりづらくなったと考えられるのである。この理論によれば、例外であるD-アミノ酸を大量に保有する水産生物の存在(以下の参考文献)や地球外由来のアミノ酸比率の違いが説明できるが、過去の地球がこれらの物理的作用が働く条件下にあったのか検証が必要である。
参考文献 :水産生物のD-アミノ酸に関する研究、北里大学海洋生命学部食品科学研究室ホームページhttp://www.kitasato-u.ac.jp/fish/contents/lab/l31/mfc.project-Daa.html

A:この講義は、生物を専門としない学生向けの講義ですから、講義で述べたことは別として、それ以上の生物学の知識を持っているかどうかは評価の対象としません。ですから、「物証の不足を逆手にとり」とありますが、物証が不足していることを知らなくても一向に構いません。自分がこのような論理に基づいてこう結論した、という部分があり、それが論理的には整合性が取れて入れば、実際には間違いであっても評価されますので。この場合で言えば、実際にはコリオリの力がアミノ酸の不斉合成に働かなくても、このレポートのアイデアは評価できると思います。