生物学通論 第12回講義

光合成の炭素同化

第12回の講義では、光合成において二酸化炭素が有機物に固定される仕組みである炭素同化系について解説しました。


Q:葉緑体の構造ということで、葉緑体の中でどんな反応が起こっているのか、後半は特にルビスコという触媒をはじめとした触媒や光呼吸の話題であった。ルビスコは、12Cのみを選択的に反応に使い、他の酸素同位体は使わないということだった。しかし、C4植物ではCO2を取り入れる場と反応に使ってPGAを作る場が異なるために13Cも入るため、炭素同位体を分析すればその植物がC3植物か、C4植物かがわかる。ここで私が疑問に思ったのは、なぜルビスコは炭素の選り好みをするのかということと、それならC4植物にはルビスコはないのか、ということだった。C4植物にルビスコがあるかどうかは、さすがにあるだろうと考えた。なぜならC4植物だけルビスコがないとなると、他の触媒を使う必要があるが、該当する反応の最大活性と反応性の比を今までの生物史の中で試行錯誤しているのに、いきなりC4植物で他の全く違う触媒がはたらきはじめるとは考えられなかったためだ。ではなぜ炭素の選り好みをしないのかというと、取り込むところにルビスコが関与していないのではないかと推測した。C3植物などでは取り込む場にルビスコがあって、13Cが入ってこようとすると、それを拒否するような働きかけをするが、C4植物では、CO2がすでに維管束鞘まで入ってきたところで反応の触媒をするため、13Cを拒否できないのかもしれない。そして12Cを好む理由は、炭素の認識方法に重さが関わっているからかもしれないと考えた。一般的(99%)な炭素のみを炭素と認識するようにすれば、間違ってほかの元素を炭素と認識してしまう確率が下がる、のではないだろうか。

A:C4植物にもルビスコがあることは、さらっとは説明したのですが説明不足だったかもしれません。最後の、間違って他の元素を認識しないようにしているために、いわば基質認識を厳しくした結果、13Cを取り込む比率が小さくなっている、という考え方は面白いと思います。実際には、それでも二酸化炭素の代わりに酸素とも反応してしまうのですが。


Q:講義中に扱ったRubiscoの進化のグラフの所で、C3植物や他の植物に比べて、C4植物が横軸(O2に対するCO2の比)に幅をもって分布しているのが気になった。かつ、全データを合わせて近似的に右上がりの直線が引けるが、C4植物はその直線より効率の悪い方向(左)へ広がって分布している。この点について考察する。C4植物は熱帯や亜熱帯の草原に適応した植物であり、強光・高温下での光合成能率が高い。一方で、ルビスコの働きを高めるためにCO2を濃縮する過程で多くのエネルギーを必要とするため、日射量が多い地域により適応しているともいえる。ここで、効率の悪いルビスコをもつC4植物が存在できる理由を考えるためには、C3植物とC4植物を、それぞれ適した環境下に置いた時の光合成の速度を比較する必要があると考えた。O2濃縮に使うエネルギーの量と、エネルギー効率の収支を比較する必要があるからである。調べたところ、C4植物の方が光飽和点が高い(ほとんどない)ことが分かった。よって、光の強度を上げていくと、C4植物の方が光合成速度は高くなる。すなわち、それぞれを適した環境下に置いたとき、C4植物の方がエネルギー効率が良いと言える。このために、同じ最大活性でもO2に対するCO2の比が低いものが存在できるのではないだろうか、と考えた。

A:エネルギーの損得からの議論で、よく考えていると思います。実際には、酸素と、および二酸化炭素とのルビスコの反応は、競争反応で、二酸化炭素濃度が上がれば、酸素とは反応しなくなります。ですから、二酸化炭素がC4回路によって濃縮された場合、それだけで酸素とは反応しなくなるので、酸素との反応性が多少高くても問題が起こらない、ということが大きく効いているのだと思います。


Q:ルビスコの進化において酸素に対する二酸化炭素の反応性と、酵素の活性は両立しているものはいないという話があったが、これについて少し考えてみたい。反応性と活性の関係をまとめると、酸素に対する二酸化炭素の反応性をあげると活性が下がり、逆に反応性を下げると活性が上がるとのことだった。進化の過程を考えると、まずいたのは二酸化炭素との反応性が低い植物ではないかと考えられる。なぜなら、生物の進化史が始まって以来、二酸化炭素分圧は下がり続けているからである。二酸化炭素分圧が今よりもずっと高い時代に陸上に植物が進出してきたことによって大気中の酸素は増え二酸化炭素は減っていった。こう考えると、ルビスコが酸素と二酸化炭素両方に活性を持っていたとしても、より多い二酸化炭素への反応の方が容易に行われていたであろうし、そのことで酵素の活性にエネルギーを使うこと方がより効率が良かったと考えることができる。海底の植物と同様であることが、この考えを支持してくれるものと思う。では、二酸化炭素との反応性を高くしてかつ活性も大きいものがいないのはなぜだろうか。現在の植物体では、二酸化炭素との反応性を上げることで、酵素の活性を阻害する仕組みがあると考えるのが自然である。しかし、だからといって両立できないと結論づけるのは間違いであると思う。なぜなら、先ほどのルビスコの進化史からわかるように、先にあったのは二酸化炭素の供給に困っていない植物である。時代が進むにつれて二酸化炭素が減り、酸素が増えたものの、この反応性と活性の関係は、種のターンオーバーを引き起こすまでには生存にとって不利ではない性質なのだと思う。つまり、より二酸化炭素分圧が下がるなどの環境変動が起こった場合には、二酸化炭素との反応性も高く、酵素の活性も高いという植物が現れる可能性はあるだろうと考える。

A:これもよく考えています。ただ、講義でも触れたように、地球上の二酸化炭素濃度が下がってきたときに、植物はC4光合成による二酸化炭素濃縮を発明しました。従って、生存にとって不利ではない、ということはないように思います。ただ、考え方としては、C4光合成を発明できたので、ルビスコを根本的に改良する必要がなくなった、という可能性は否定できないかもしれません。


Q:C4植物は気孔が閉じがちになる高温や乾燥した環境の中でも気孔を開きCO2を固定しておくことができる。すなわち、高温や乾燥、低CO2、貧窒素土壌といった過酷な環境にも適応することができる。しかしCO2を固定しておくためにC3植物よりエネルギーが多く必要になる。中にはC3植物とC4植物を行き来する植物も存在する。一見するとC3植物とC4植物のお互いのデメリットを補ってよりあらゆる環境に適応していけるように思えるが、そのような植物が現在あまり多くいないということから、すべての植物がそのような特徴を持つには不利な理由があるように思われる。C3植物とC4植物では維管束鞘細胞の構造が違う。つまり一度構造が出来上がったものを細胞分裂により変化させることは多大な負担を伴うはずである。今までの講義で植物は、あらゆる環境変化に対応できるよう進化してきたと学んでいたので、このC3植物とC4植物を行き来する構造になるのは限られた植物しかできない究極の方法のように思える。

A:これもよく考えていますね。構造的な制約が大きいので、なかなか万能選手は作りづらいのでしょう。


Q:C4植物はC3植物に比べて高い光合成能力を示すことが知られているようですが、光合成能力が高いという事は二酸化炭素を多く消費し、大気中に多くの酸素を供給するという事でもとらえていいのでしょうか?もしそうだとすれば、日本などでも東京の交通量が多い場所や、工場が多い場所では積極的なC4植物を育てることが必要であると思う。またC4植物のサトウキビはバイオエタノールともなるため広大な土地での栽培だけでなく東京のような狭い土地の中でも積極的に栽培を行っていくことで将来的に光合成による二酸化炭素の消費・酸素の供給、またバイオエタノールへの活用が出来ればいいのではと思いました。それが総合的にプラス方向へ働くかどうかは分かりません。しかし、都の取り組みとして、小学校・高層ビル・高速道路の脇などでC4植物を植えるということも検討してみる価値はあるのではないかと感じました。

A:光合成の速度が高いということは、確かに二酸化炭素の吸収量が多いということです。ただ、最適条件での光合成速度と、ライフサイクルを通しての光合成速度が、同じかどうかは一概には言えません。ただし、都市部での緑化の推進は、二酸化炭素の吸収という面だけでなく、ヒートアイランド現象の緩和のためにも重要だと思います。


Q:ルビスコという炭素固定酵素についての話が面白かった。ルビスコは葉緑体の可溶性たんぱく質の半分を占め、分子量の大きい酵素である。触媒としての効率は悪いうえ、酸素との反応を起こして光合成を阻害することもある酵素だそうだ。ところで、植物は進化の過程でルビスコの改良は行ってきたが、ルビスコとは別の炭素固定酵素を作るには至らなかった。これはなぜだろうか。それはルビスコありきのシステムをすでに作ってしまっていたから、と考えられる。つまり、ルビスコだけを差し替えるのは、例えば家を建ててから基礎の工事をするような困難さがあるのではないかと思われる。そして、このことから全ての植物がルビスコを用いていることは、葉緑体の祖先は1つであったことの証拠の一つになると考えられる。つまり光合成のルーツは1つしかない、ということだ。いままでにルビスコより効率のよい炭素固定酵素を用いる光合成の方法がもし現れていたとしたら、葉緑体がバクテリアだった時にすでに、その方法が主流になっていたはずである。あるいは存在していたかもしれないが、他の生命体の中に入って光合成をするようになった葉緑体の先祖(ルビスコを用いる)は生き残ったけれども、ルビスコを用いない光合成をしていたバクテリアは死滅してしまうような出来事があったのかもしれない。

A:植物がいまもルビスコを使っている、という事実から、光合成の単一起源を論じる手際には感心しました。ユニークで素晴らしい考察だと思います。


Q:Rubiscoは炭素同化を可能にする唯一の酵素である。SageによるとRubiscoの出現はおよそ33億年前であることが示されている。ところで、地史学的見解ではこれとほぼ同時期に光エネルギーを取り込むことのできる生物が出現したと考えられている。すなわち、光合成とRubiscoはともに出現したと考えるのが普通である。では、これ以前の生物はどのようにエネルギーを得ていたのであろうか。生体がエネルギーを得る機構として光合成と並んで挙げられるのが、呼吸である。呼吸の方法には大きく分けて好気呼吸、嫌気呼吸の2通りが存在する。当時の大気組成および海洋に溶存する物質組成はともに酸素よりも二酸化炭素の方が多いため、好気呼吸では効率が悪く、嫌気呼吸による機構の方が環境との関係性をよく説明する。しかしながら、好気呼吸による電子伝達系を有する古細菌も存在していたことが分かっている。以上よりこれらの条件から考察すると、地球の火成作用によって熱水噴出孔から噴出した二酸化炭素や硫酸イオン、硝酸塩を最終電子受容体として呼吸を行う嫌気性生物が出現し、繁栄した。当時は地磁気が微弱であったと考えられており、上空では二酸化炭素が酸素に分解されていたことが考えられ、この酸素を呼吸に使う好気性生物も少ないながら出現したと考えられる。この後に呼吸以上にエネルギーを得ることのできる機構、すなわちRubiscoによる光合成を獲得したことにより光合成生物が繁栄、酸化性の強い有毒な気体、酸素も大量に放出された。これによって、大気・海洋中の酸素濃度が増加したために嫌気性生物は減少し、一方好気性生物は増加していった。という矛盾しないシナリオが出来上がり、光合成以前の生物は呼吸をしていたと考える事を許している。また、光合成とRubiscoはともに出現したと考えられることおよび、酸素分圧が非常に低いことから、光合成以前に光呼吸が行われていたことは考えにくいとも言える。

A:エネルギーの獲得と、炭素同化の仕組みは、必ずしも対応して変化するとは限りません。確かに、光合成の出現とルビスコの獲得の年代は同じぐらいかもしれませんが、ルビスコ自体は、硝酸塩などを最終電子受容体として用いる化学合成独立栄養細菌も使っていますから、光合成生物に特有のものではないのです。その意味では、ルビスコの起源は、少なくとも酸素発生型の光合成生物よりは古いのではないかと思います。