生物学通論 第11回講義

呼吸と光合成

第11回の講義では、呼吸と光合成によって生物がエネルギーを得る仕組みを電子伝達と、電子伝達によって形成されるプロトンの濃度勾配を利用したATP合成を中心に紹介しました。


Q:講義の最後の方で、呼吸に伴う電子伝達は酸化還元電位に基づいているが、光合成に伴う電子伝達は自然な方向ではないため、光エネルギーを用いる、という話があった。高校生物を習ったときに、「生き物の体は理にかなっていて決して無駄な仕組みはない」と教わった。光合成の反応だけを見ると、化学反応の方向は自然ではなく、わざわざ光エネルギーを用いて逆行した反応を起こしている。もちろんそれをしないと体内での反応のサイクルを作れないので理にかなってはいるが、そもそもどうしてこのような反応ができるようになったのだろうと疑問に思った。光エネルギーを使えるようになるまでの過程はどんなものだったのだろうか。徐々に現在の形に近づいたのだとすると、逆行の反応は、電位差が少ないところからはじまって、いろんな段階のバージョンの反応ができるようになってから、一番効率のよい、今の二段階の形になったのでは、と思った。そう考えると、将来的には一段階でH2OからNADPHまで持っていけるような反応が出来上がるかもしれない。

A:光を使えるようになるまでの過程、というのは面白い話題ですね。電位差の小さいところから始めたとすると、必要なエネルギーは少ないので、光の波長は長くなります。色素は、吸収する光の波長が決まっているので、電位差を変えるたびに、色素を取り換えなくてはいけないので、実際上はなかなか大変かもしれません。


Q:生物の代謝の中ではATP、アデノシン三リン酸が重要な役割を果たすが、なぜリンを用いたのだろうか。第2回目の講義で、リンは水に溶けにくく、植物は体内に取り入れにくい、と扱った。にもかかわらず、植物もATPを用いている。なぜリンなのか、考察する。まず、地殻中の存在度が大きいのかもしれない、と思い、インターネットで調べてみた。他の元素に比べて存在度が大きければ、それは利用する理由になるからだ。すると、リンの存在度は酸素、ケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、チタン、水素に次ぐ大きさであり、特に大きい、というわけではなかった。ただし、性質が似ている15族の中では最も存在度は大きいことがわかる。しかし、これはリンを代謝に用いる大きな理由にはならなそうである。ここで、リン酸の緩衝溶液の存在を思いついた。体内で元素を輸送するときに、pHが大きく変化してしまっては、タンパク質の変成を引き起こしてしまう。緩衝溶液が作れるような元素でないと、体内で使うには不都合ではないだろうか。これを実証するためには、少なくとも、上の元素存在度がリンより大きい元素について、緩衝溶液が作れないことを確かめる必要がある。また、緩衝溶液が作れても、平衡時のpHが中性に近いことが望ましい。また、リンを代謝に用いる理由について、これ以外にもATPの結合エネルギーについても言及する必要があると思うので、ここで結論づけることはできない。

A:これに関しては、ちょっと前に、リンではなくヒ素を使える生物がいる、というニュースが駆け巡りました。アメリカの高濃度のヒ素を含む湖の生物の中から見つかったという触れ込みでした。ただ、これは、どうも眉唾だったようですね。


Q:アルコールを摂取した後に、アミノ酸を含んだ飲料を飲むことで分解酵素を還元するという糖新生は難しいのではないかと思われる。なぜなら、直接アミノ酸ではなく炭水化物等の糖を摂取して体の中で分解した後のアミノ酸もこの還元力として働くはずであり、効果は変わらない。もちろん分解する時間があるので効き目が出るまでの時間には差があるが、食前に炭水化物を十分に摂取しておけばよさそうである。鶏卵などはそもそも必須アミノ酸がたくさん含まれていると言われている食物であるため、これも同じような効果が期待できそうである。しかし実際に酒を摂取するときには大体、炭水化物等も一緒に摂取するものであり、そう考えると体にあるアミノ酸は十分にあるのではないかと思われる。NADHを還元するには十分の量があるはずである。

A:一つ見落としていますね。そもそもアミノ酸がよいとされるのは、糖新生の際に酸化力を作るからです。ところが、炭水化物を取り込んだら、それを分解するのに解糖系が働いて酸化力が使われます。解糖系は糖新生の逆ですから、炭水化物を分解してまた糖に戻しても、差し引きゼロになって役に立たないことになります。糖新生の材料を直接供給する点に意味があるのです。


Q:今回の講義では、代謝とエネルギーについて学んだ。人間は摂取した栄養分をATPという有機化合物に変えて生命活動に必要なエネルギーを得るということを理解した。以前テレビ番組で武井壮さんが、自分は足が速くなりたい時は鶏肉を、持久力をつけたい時は牛肉か馬肉を食べると発言していた。調べてみると、瞬発力を必要とする運動の時は解糖系で、持久力を必要とする運動の時は酸化的リン酸化で作られたATPが利用されるがわかった。確かに自然界において鳥は短距離を全力で行動することが多く、牛や馬は長距離を休まずに行動することができるため、鳥は解糖系、牛や馬はリン酸化で作られたATPを偏って使用しているだろう。こう見ると何となく関係性があると思われるが、筋肉になる物質のもとはタンパク質であるためどの肉を食べても関係ないように思える。関係あるとすれば、それぞれの肉のタンパク質がアミノ酸になったときどの経路で運搬されやすいなどの理由があるのだろう。

A:「何となく関係性があると思われる」というのは、昔の呪術と同じですね。ニューギニアの高地では、戦いで倒した勇敢な敵の肉を食べることで、その勇敢さを取り入れようとしていたようです。その頃のニューギニア人に聞けば「実際に効果があるのだ」と主張したでしょう。大学で科学を学んでいる以上、そのような「何となく」をきちんと批判できるようになってほしいと思います。


Q:代謝の反応はすべてATPを作るところが最終目的だと思っていたが、反応の回路によっては必ずしもATPが最終生成物ではなくて、酸素を還元するための還元剤や、水素イオンの濃度勾配を作り出すなど、さまざまな回路があることを知った。また、あえて複雑な物質を反応にいれることで常に反応回路のバックアップがある状態にしていることを学んだ。疑問に思ったのは、代謝回路は自分で選ぶことができるのだろうかということである。たとえば、とる食物や環境によってより効率よくATPを生産できる代謝回路に変化させることはできるのだろうか。ここで効率が良いとは、同じ量の食物の摂取でもより素早くより多くのエネルギーを得ることができる、というようなことと考えている。このような代謝回路を自分で選ぶことができたら、成長の早い植物や動物、人間なら疲れにくいからだや運動能力の高いからだが得られるのではないだろうか。これを調べるためには、反応経路によってエネルギー生産について何か差があるのかどうかという点と、差があるとしたら、その変化が生じるためには何が必要なのかを知る必要がある。

A:今回の講義でも紹介した発酵は酸素がない条件で、酵母などが行ないます。しかし、酵母は発酵だけしかできないのではなく、酸素がある条件では普通の呼吸も行なうことができます。これなどは、酸素濃度という環境に応じて、自分の代謝経路を切り替える典型的な例でしょう。


Q:呼吸をする際には,酸化還元電位の変化が酸化方向へ単調増加していく一方であることを学んだ.しかし,光合成を行う際には,光エネルギーによって電位が減少することが起きる(図では上向きの変化)ために,呼吸と光合成は異なる部分を持つとも学んだ.では,光エネルギーが起因して結局,酸化剤が還元剤へと電子を渡すという本来自然には進行しない反応をしている,すなわち,電子を渡す反応が光エネルギーにより起こるならば,そもそも還元剤(たとえば,シュウ酸)を細胞周辺に満たしておけば,より電子の受け渡しが活発になり,光エネルギーによる酸化還元電位上昇よりも効率的に電位が上昇するのではないか.(酸化剤を散らばせないのは,有機物が酸化される可能性があるからだ.)もし,光エネルギーよりも効率的に電位減少(図では上向きの変化)が起こるならば,人工的に光合成を行えるのかと思った.

A:電子伝達には、酸化剤と還元剤が必要です。細胞に酸化剤が十分に供給された状態で還元剤が同時に存在すれば、還元剤(例えばシュウ酸)から酸化剤(例えば酸素)への電子伝達が起こって、有機物を食べなくても、光合成をしなくても、エネルギーを得ることができます。実際にそのような形でエネルギーを得ている生物を独立栄養化学合成生物といいます。ただ、そのためには、環境に酸化剤と還元剤が共存しなくてはなりません。長い間酸化剤と還元剤が共存していれば、お互いに反応してしまうでしょうから、そのような条件は、酸化的な環境に還元物質が噴き出している場所などに限られます。その意味では、有機物も一種の還元剤で、酸化的な環境の中に光合成の働きによって還元物質が作られているから、動物は有機物を使って呼吸によりエネルギーを得ることができるのです。


Q:今回の授業では代謝とエネルギーについて学んだ。その中で呼吸と光合成のメカニズムは似ているという話があった。双方のメカニズムの相似とはよく理解できなかったが、植物は根っこから呼吸をするためプランターの裏には穴があいていることを思い出した。植物が光合成と呼吸をするということは二酸化炭素を吸収しながら二酸化炭素を排出していることになる。植物が二酸化炭素を吸収し酸素を排出することが多く知られていることから、光合成のほうが呼吸よりもかなり活発であることは推測できATPの合成には呼吸をする必要はないように思える。植物の呼吸は生命活動にどのような影響を与えているのだろうか。

A:これは当然の疑問ですが、講義の最初に言ったように、この講義のレポートでは、疑問を投げかけただけのレポートは評価しません。どんなことでもよいので、自分で考えた結果を書いてください。例えば、この場合だったら、光合成をしない場所(根)、光合成ができない時間(夜)などについて考えてみればよいでしょう。


Q:ミトコンドリアの内膜では呼吸の電子伝達が行われていると知った。電子伝達は、物理学的用語では電流とも言われる。ここで、この膜を利用して電池を作ることはできないだろうかと考え、以下で検証してみる。水素を利用する電池にニッケル水素電池というものがある。これは正極にニッケル水酸化物、負極に水素貯蔵合金を使用することで、この間の水素(プロトン)のやり取りが起電力を生じるといった仕組みになっている。これをミトコンドリア内膜のマトリクス側を正極、内外膜間側を負極となるように分断し、シトクロムおよび必要量の酸素、NADH+、ADPを投入し、正極側にプロトン濃度勾配が高い状態をつくる。すると電子伝達の働きにより、負極側に徐々にプロトンが移動する。ここまでは電池として機能しているように見える。しかしまず問題となるのは、ATP合成酵素と水素貯蔵合金の水素受容度である。ATP合成酵素の方が高かった場合、これは電池として機能することは不可能である。では仮に水素貯蔵合金のほうが受容度が高かったとして電池が機能したとする。次に問題となるのは、電子伝達が電池として使用される以前に働いてしまうことである。すなわち電池として使う前にATPが合成されることにエネルギーが使われてしまっているため、使用時に電池としての電圧が得られないことが考えられるのである。さらには、水素および酸素は期待であるため、電池が破裂してしまう危険性が潜んでいるところも考えなくてはならない。 したがって、電池にはならないのである。

A:面白い考えですが、電子伝達=電流という話から出発したにもかかわらず、実際にはプロトン濃度勾配の利用の話に変わっていますね。電子の流れを直接利用した方が、話が早い気もしますが。