生物学通論 第9回講義
CAM植物、光合成の産物
第9回の講義では、先週の続きとしてC4植物と共通点のあるCAM植物について紹介したのち、光合成の産物であるショ糖やデンプン、セルロースの性質について説明しました。また、篩管の中を篩管液が移動する仕組み(圧流説)についても解説しました。
Q:栄養素や水分を十分含んだ土に根を張っている植物Aと、栄養や水分の薄い土に根を張り若干不健康な植物Bを用意する。AとBの師管、導管同士をバイパス的に繋いだ場合、AはBを救うことが出来るのか?師管でのソースからシンクへという向きが一定ではない栄養分の輸送は、物理現象ではなくエネルギーを使って意図的に行うため、生きた細胞の集合である管を使用する必要がある。そのため伴細胞を伴えば、バイパス化することも不可能ではないと考えられる。また、導管での水分の輸送は毛細管現象や浸透圧などの物理現象で行うため死細胞を用いることで十分であることから、バイパス化することが出来ると考えられる。問題となるのは自身の根や器官ではないところにある水分や栄養を吸引・吸収できるのか、また外部と自身の両方に供給できるのかという点にあると考えられる。仮にこのバイパスが上手くいったならば、過酷な状況にある植物、例えば一時期のみ高温で乾燥するが基本光呼吸の影響が少ないというC3植物とC4植物両方の長所短所が当てはまる場所では、互いを補うために他の植物に助けを求め、葉脈同士を絡ませ繋ぎ、生き残ろうとする、という進化も考えられる。
A:大胆な提案で興味深いと思います。進化という観点から考えた場合は、おそらく共生の形で実現するのだと思いますが、その共生が実現するまでの道のりを想像してみるのも非常に面白いと思います。
Q:ヒトの皮膚は代謝によって入れ替わる。植物の場合は表皮はセルロースでできている。しかし、表皮はヒトの皮膚のように入れ替わることはない。なぜならセルロースは不溶性であるから植物体内の輸送にてきしていないからだ。つまりエネルギーとして使われず、貯められる。ヒトの皮膚が損傷や腐敗した場合は新しい皮膚に替わるが、植物の葉の表皮が傷ついたとしたら上記の理由で修復されないと考えられる。もし葉の表皮が必要ならば、修復するのではなく、新しい葉を作ることになる。葉を作る目的が光合成にあると考えたとき、このシステムは効率が悪いのではないだろうか。なぜなら葉を増やすことで、影となり十分に光合成のできない葉も存在してくるからだ。必要なだけの葉が光合成をするうえで最適な配置をとり、損傷部分を修復するシステムの方が効率がよいのではないかと考えた。
A:これもよく考えていますね。細胞の外側にあるセルロースを修復することは確かにできないのですが、傷ついた樹皮の内側に新しい樹皮を作ることは可能です。外側の樹皮ははがれおちれば、事実上、ヒトの皮膚と同じような入れ替わりを実現することは可能です。むしろ問題は木の幹の内側です。内側の細胞は死んでいるので、新たにセルロースを作ることができません。年取った気によく「うろ」が見られるのは、そのような理由によるのです。
Q:多くの動物は心臓がポンプとなり、輸送したい物質を、血液を利用し血管を通して全身へ送り出す。植物では、水を利用し師管や導管を通して物質を輸送するが、ポンプとなるものがなく、浸透圧差を利用している。一見ポンプがあったほうが物質を効率よく輸送できるように思うが、なぜどちらの輸送方法の生物もそれぞれ繁栄しているのか、ということを、植物の物質輸送がどの点で有利なのかということを通して考えてみる。①ポンプが必要ないので、身軽②ポンプを動かすエネルギーが必要ない③師管と導管で、流れの向きを変える必要があるものと無いもので使い分けられるので、効率的、ということなどが考えられる。植物は動物と違い、筋肉で大量にエネルギーを消費して活動することが無いので、天敵から逃れるなどという点では不利かもしれないが、①や②といった点で有利になる。大木のようにとても身軽とは言えない植物もあるが、それらは食べられたり踏みつぶされたりといった天敵が少なく、また有機物生産も多いはずなので体の大きさは無駄とは言えないはずだ。③に関しては、動物では動脈と静脈があり、それぞれ流れの方向は一定であるため、必ずしも植物の効率が良いとは言えないが、たとえば葉のように、若いものと年をとったものの役割分担ができ、植物体全体としての成長の効率を上げることができるという点では有利といえるのではないか。
A:これもよく考えていますね。面白いと思います。流れの向きを変えるというのは、ポンプでも実現可能かもしれませんが、血管系は循環しているわけですから、あまり流れの向きは関係ないのかもしれません。その意味では流れの向きというより、流れが循環型なのか、それとも直線状なのか、という点の違いの方が大きいのかもしれません。
Q:今回の授業で水草がC3とC4を行き来する植物として挙げられ、空気中ではC4、水中ではC3の状態であることを学んだ。水草は折り畳み傘のようなものだと先生が例えているのを聞いて、水草はC3とC4を行き来できる分、エネルギーコストの他にも他のC3やC4の植物に対して不都合な点があるのではないかと考えた。折り畳み傘は確かに便利だが大雨のときには持っていてもあまり使いものにならない。それと同じように水草は他の植物に対して光合成能が劣っているのではないかと考えた。例えばC3状態の水草はC3しか状態を持たない植物よりも光合成能が低いのではないか、C4状態の水草はC4状態しか持たない植物よりも光合成能が低いのではないか。この疑問を解決するためにネットで植物の光合成能を調べてみようとしたが、なかなかヒットしなかった。その中で異なる植物の光合成について比較するのは難しい事なのかもしれないと思った。植物には明るいところで成長する植物もいれば暗いところで成長する植物もいて、例えば暗いところで生活している植物は光合成をあまり行えない環境にあるため、光合成能があまりよくないと考えてしまうかもしれないが、もし明るいところに出せばもしかしたら大変な光合成能を示すかもしれない。逆にこの世の中、数え切れないほどいる植物が生存競争で生き残っている中で光や水、温度環境を満足に満たし光合成を行えているものはほとんどいないのではないだろうかと考えた。
A:これも非常によく考えています。最初の論点は、専門選手と万能選手を比べた時に、特定の競技だけに注目すれば、専門選手の方が有利ではないか、ということですよね。また、異なる植物の光合成を比較するのは難しい、という点もまさにその通りだと思います。英語の得意な子どもと、数学の得意な子どもはどちらが頭がよいか、という議論をしてもしょうがないのと同じかもしれません。
Q:植物は光合成によって糖を作り、糖は師管を通ってシンクと呼ばれる光合成生産物を貯蔵する組織へとためられる。光合成を行うために必要な水は根から吸収され、道管を通り葉へと送られている。このことを利用すると植物の成長を制御することができるのではないかと考えた。まず植物の茎の師管、道管部分に管を通しその管を通して糖や水を送り、送る量を調節することで植物の成長の変化を観察することができると思われる。こうすることで管を抜いた後の植物も観察することができる。師管へ送る糖の量を多くし道管へ送る水の量を減らすことで植物は普通に育てた場合よりも大きく成長していき、光合成がうまくできないため成長過程で光合成能力が低下していくのではないかと思われる。もしこうなると管を抜いて普通の植物のように育てていくと必要な糖の量は多いが光合成能力が下がっているため必要量作れずに枯れてしまうのではないかと思われる。逆に糖の量を少なくし水の量を多くすると光合成能力を高めようと成長していき管を抜いた後は普通の植物よりも大きく成長できるのではないかと思われる。この実験では植物の成長の変化を様々な方法で試すことで植物の成長についてさらにわかることができるのではないかと考えられる。この実験で問題点があるとすれば道管と師管に正確に管を入れることである。道管や師管に正確に管を通すことはまだできないと聞いたのでこの実験はまだ行えないのではないかと思われる。
A:ふーむ。これも面白い。植物に糖を送り込むという点からすると、導管と篩管を分けてはいませんが、いわゆる切り花鮮度保持剤、というのがそれに近いかもしれません。切り花を花瓶に挿すときに水に溶かしておくと切り花が長持ちするというもので、主成分は糖と殺菌剤です。殺菌剤により、雑菌が繁殖して導管篩管がつまらないようにした上で、糖を植物体に供給することにより鮮度を保っています。これはまさに人工的な糖の供給ですよね。
Q:講義でアイスプラントが塩分を吸収すると聞いて、すぐに塩害のことを考えた。そして塩害の土地で栽培し大きくなったら収穫というのをを繰り返せば土壌は回復するのではないかと思った。調べてみると、やはり塩害対策の研究として使われていた。しかし実用化はまだのようだ。アイスプラントは海水ほどの塩分濃度に耐え、乾燥にも強いと分かった。南アフリカ原産ということから寒いところでは育たないのかもしれない。実用化するには、塩分濃度を変えて実験する必要があると考えた。どの程度まで耐えられるのか(海水以上は無理なのか)・どの程度からC3からCAMに切り替わるのかを調べてみたい。あとは気温と水分、日射の条件を満たすところで試すことができると思う。
A:CAM植物は非常に面白い植物なのですが、残念ながら生育速度が遅いのです。塩害対策などに使おうと思うと、どんどん成長してくれないとなかなかうまく使えない、という点が問題になると思います。もし、塩ストレスにも強いし、生育も速い、という植物が存在したら、世の中の植物は皆それに置き換わるでしょうから、そうなっていないということは、どちらか方一方しか実現できないようになっているのでしょう。
Q:私は今まで、植物が土から芽を出し、少しずつ大きく育っていくことに何の疑問も抱いていなかった。少しずつ大きく育つ理由は色々あるがしかし、師管の輸送メカニズムを学習した事で一つの考えが浮かんだ。人間のようにある程度大きくなった赤ちゃんがいきなり生まれてくるように、土からいきなり大きな植物が生えないのは、この輸送メカニズムにも関係があると考えられた。もし、いきなり大きな植物が生えてきたら、全ての葉が若い葉になってしまい、養分を使うだけの葉しかないことになる。そうなったら師管のメカニズムは機能しない。だから徐々に植物が地上で育っていくようになったということも考えられる。
A:これも発想がユニークでよいですね。実は、世の中には、若い葉が一度にパッと出るという植物も存在します。ただ、その場合は、栄養がどこかに貯められていて、最初の時にはその場所(根、イモ、茎など)から養分が送られることになります。でもそれには限度があるでしょうから、徐々に育っていくことには十分意味があるのかもしれません。
Q:導管と師管を束ねる、維管束の構造は双子葉類と単子葉類では異なっている。各々の維管束構造についてどういう特徴があるのか疑問に思ったので、自分なりに考えてみた。単子葉類では散在維管束が茎のなかに散在して存在してる。形成層がないため茎全体に水と養分を分散して与えることができ、全体で大きくなっていくことができると考えられる。双子葉類は環状維管束で、環状の形成層を作り外側が篩管、内側が導管となっている。形成層があることもふまえると、新しい細胞をどんどん作り成長していくことができると考えられる。
A:せっかくここまで考えたら、ではその2つの成長の仕方を比べた時に、損得はどうなるだろうと考えてみると面白いと思います。2つのタイプがあるということは、一方が完全に優れているはずはなくて、それぞれ一長一短があるはずです。どういう時には双子葉型が得になって、どういう時には単子葉型が特になるのかというのは興味深い点だと思います。
Q:今回授業で一番興味をもったのはアイスプラントです。一度食べたことがあり、そのときの特異な外見もあいまってすごく印象に残っていたからです。授業中の説明では、ふつうの植物は塩を含む土壌では浸透圧で水を吸えなくなるなどの理由で枯れてしまうが、塩を水泡に含ませて細胞から排出できる、ということでした。なにか特殊な環境がそうさせたと考えられます。まずCAM植物ということで、昼間は気孔を閉じた状態でデンプンやショ糖を生成する必要があった。これは原生が南アフリカの砂漠地帯ということで説明されます。問題は塩を細胞から排出できる、ひいては塩分以外の様々な物質を吸収、蓄積する性質です。この性質を獲得するに至ったのも降雨量が少なく、日中は50℃をこえ、ますます土壌の劣化が進んでいる砂漠という環境は決して無関係ではないだろう。水分が蒸発し、土壌中の塩分濃度が濃くなった。またカンラン石、輝石、角閃石、長石などが風化し、土壌に溶けこんだなどが考えられる。ただ、この様々な物質を吸収、蓄積する性質をもっている植物を食用とする以上、人体に有害な物質までも保有する可能性を秘めており、細心の注意が必要であると思われる。
A:地球科学っぽいレポートで面白いですね。最後の部分、実は、アイスプラントに限らず多くの植物に当てはまります。例のセシウム騒動でもわかりますよね。広い範囲の土壌が一度汚染されてしまうと、簡単には元に戻すことはできません。