生物学通論 第8回講義

炭素同化

第8回の講義では、光合成における炭素同化、すなわち二酸化炭素を有機物中に固定する代謝経路について、カルビン回路とその中のルビスコを中心に解説しました。また、光呼吸とC4光合成の仕組みについても触れました。


Q:光を与えなかった植物が白色で成長するのは何故か?二酸化炭素を固定し、有機化合物を合成する、複数の酵素反応で構成される複雑な回路反応過程であるカルビン・ベンソン回路は、暗所であっても働くため、直接の問題ではないと考えられる。またそのことについては、光がなくてもある程度の成長をみせることからも判断できる。そこで原因としては葉緑体自体を光がなければ作り出さない構造をとっていると言える。その理由は葉緑体を作り出すことに大きなエネルギーを必要とするからであると考えられる。でなければ、周囲の明るさに関わらず緑でないとメリットがないからである。或は、葉緑体を保持することだけでもエネルギーを消費するために、自らそれを捨てることが出来ると考えられる。これは光を長時間遮った雑草が黄色くなることから考えられる。

A:暗所ではカルビン・ベンソン回路は働かない、という話を今回の講義でしたはずですが・・・


Q:ルビスコが光呼吸を行うと酸素と反応して光合成を阻害してしまう物質を生み出す理由として太古の地球の大気構成についてふれていたが、現在では酸素と二酸化炭素の比率が大幅に変化したためそれに順応して植物の炭素固定を行うメカニズムがどのように変化してきたのか興味を持った。植物の中には二酸化炭素濃度を高めることで光呼吸をしないようにする働きを持つものもあるようだが、そもそも光呼吸をする働きをもつのが効率が悪いと考えた。なぜ進化の過程で効率の悪い光呼吸にかわる呼吸を身に付けはしなかったのだろうか。それには太古の大気構成の理由のほかに光呼吸にデメリットを上回るだけのメリットがあるのではないだろうか。そこで阻害剤のメリットについて考えてみたが、光合成に何かしらのデメリットがあり、過剰にしているときに光呼吸をすることでバランスをとるような状況があるのかもしれない。

A:光呼吸の意義については、講義の中で光阻害の回避のためである可能性を述べました。


Q:大気中の二酸化炭素濃度が上がることによって地球温暖化が進行していると言われている。森林破壊の問題とも関連付けてよく語られるが、植物の力を利用して二酸化炭素濃度を低くできないかと考えるのは自然なことである。では、どのような植物をどのように利用すれば効果的なのだろうか。ここで、C4植物に注目する。C4植物の、二酸化炭素を効率的に吸収して光合成を盛んに行いながら成長していく特徴と、光呼吸が二酸化炭素濃縮機構によって抑制されている特徴を考えると、C4植物をたくさん植えれば植えるほど大気中の二酸化炭素を減らすことができるように思う。しかし、光が弱い条件ではC4植物は生存に不利である。常夏の地域であればC4植物を積極的に植えれば良いかもしれないが、例えばC4植物が有利な気候的条件がそろう時期が限られてくる地域ではどうすればよいのだろうか。日本の本州のような地域では、例えば夏によく成長して寒くなる前に収穫できるものが良いといえる。具体的には、サトウキビやトウモロコシを本州でも適応できるように品種改良し、積極的に栽培するという方法がある。また、暖かい時期に花を咲かせて冬に枯れるような植物を観賞用にするという方法もある。それぞれの地域の気候条件を良く考慮し、C4植物を取り入れることができそうな地域では、①常にC4植物を植える②食用作物や観賞用などとして時期を決めて栽培する③C4植物を品種改良でその地域でも生育できるようにして栽培する、といった方法をとれば、地球温暖化防止に少しは役に立つのではないか。

A:光合成は確かに二酸化炭素を取り込むのですが、それは有機物の形(多くの場合セルロース)になります。これについてはまた触れる予定ですが、実際には栽培した「あと」が重要です。育てた植物体をそのまま放っておけば、分解されてもとの二酸化炭素に戻ってしまいますから。地球規模での炭素収支を考えるに当たっては、単に二酸化炭素の固定活性を考えるだけでは不足で、固定した有機物を長期にわたって維持することまで考えないといけないのです。


Q:C3植物とC4植物について授業で聞いて、このどちらの性質も持つ水草に興味を持った。水草は地上ではC4植物、水中ではC3植物の構造、機能を持つ。このように環境によって光合成のタイプを変えることができる植物というのは一見植物界において優位的であるようには見えるが、もし本当にそうならこの世の植物は全て水草のような構造をしているはずであるが現実は違う。逆に周りの環境に変化があった際に一番繁栄しにくいのは水草のような種なのではないだろうか。植物はそれぞれ生存競争に勝った者がその場で生きている。C4の機能は確かに効率的かもしれないが、その分だけコストもかかるであろう。例えばC3状態の水草がいる環境の水位が下がって水草が地上にだされたとする。この水草がC4状態に適応し繁栄するよりも、その環境に対してマッチした機能を持つC4植物がでてきて繁栄するのではないかと考える。このようにC3,C4,そしてその両者の機能をもつ植物はたくさんいるが、そのどれが一番優れているかは環境に依存し、優位性に関しては一概には言えないと思った。

A:よく考えていると思います。ただ、「周りの環境に変化があった際に一番繁栄しにくいのは水草」という部分だけは逆でしょう。環境が大きく変動するときは、複数の環境に馴化できる生物の方が有利であり、環境が一定の場合は、その一定の環境に適応した生物が有利になる、というのが普通の考え方です。


Q:ルビスコは二酸化炭素を固定する非常に重要な酵素(カルボキシラーゼ)であるにもかかわらず、反応効率が非常に悪く、「地球上で一番多く存在する酵素である」と言われていることを学んだ。ルビスコの存在を歴史的に考えてみると、なぜ昨今に至るまでここまで多くこの酵素が生き残っているのかというところが疑問として浮かぶ。地球大気の二酸化炭素の分圧が圧倒的に高かった時代は、ルビスコにとって不利なオキシゲナーゼ作用は無視できる程度の話だったが、現在では酸素の濃度が二酸化炭素の約500倍もあり、ルビスコの生存にとっては、明らかに無視できないマイナス要因でしかないように思えてくる。 しかしルビスコのルーツを辿ると、太古の昔、別の代謝系に使われていた酵素が進化の過程で二酸化炭素固定能力を獲得したらしいことが明らかにされているし、ルビスコにはさまざまなタイプものが存在することが確認されている。そうしたことを踏まえると、ルビスコ生存の理由としては、ルビスコ自身の進化がそれを助けた可能性が高いと私は考えている。

A:一番最後、「ルビスコ自身の進化がそれを助けた」という部分の意味がよくわかりませんでした。ここが結論なのだと思いますから、できるだけ具体的に説明するとよいでしょう。


Q:C3植物とC4植物を比べてみるとC4植物の方が光呼吸は起こりにくく、乾燥にも強く、強い光を浴びてもエネルギーを無駄なく生産することができるため植物として優れていると思われる。しかし、実際にはC3植物、C4植物さらにほかのタイプの光合成を行う植物も存在している。なぜ一つのタイプだけにならないのかを考えてみる。考えられることはそれぞれに長所と短所が存在することである。C4植物は一見長所が多いように見えるがC4回路で二酸化炭素を濃縮するにはそれだけエネルギーを必要とし、十分な日光が得られなければ無駄に濃縮していることになりC3植物の方が効率は良いということになる。さらに、C4植物は乾燥に強いとされているが、砂漠ほどの乾燥地にまでなってしまうとC4植物でも存在できなくなりサボテンなどCAM植物と呼ばれるさらに乾燥に強い植物である必要がある。しかしながらCAM植物も水分が多い環境で育てたからといって大きく育つわけではない。砂漠などではほかに生存競争する植物がいないため大きく成長する必要がなく水や日光など材料があってもそこまで成長しないような機能になっていると考えられる。つまり、それぞれの植物がそれぞれの環境に適するように進化してきたためにほかの環境に置かれたときに必ずしもうまく成長できるとは限らないと考えられる。もし光合成のタイプが同じになることがあるとすれば、それは砂漠のような乾燥地など植物にとって極度に厳しい環境下でとても多くの種類の植物が育っていったときに生き残る手段としてさらに効率のよい光合成を生み出し、その光合成がどの環境でもほかの光合成よりもすぐれていた時ではないかと考えられる。

A:生命40億年の歴史の中で、最後に述べられているような「どんな条件でも効率のよい光合成」が実現しなかったということは、やはり無理なのでしょうね。生物を観察する限りにおいて、「どんな条件でも勝てる」といった形質は存在しないようです。そして、そのことこそが、現在みられる生命の多様性を保証しているのでしょう。


Q:C4植物の進化について。光呼吸が少ないため低CO2環境で進化したという説(CO2?濃度の低かった白亜紀にC4植物が出現したという説が主流)や水の利用効率が良いため乾燥への適応で進化したという説があることが分かった。酸素濃度と肺機能の進化に関係があるとする説を聞いたことがあったので、植物も動物も都合の悪い環境で進化するという考え方が主流だとわかった。C4植物が出現したとされる白亜紀は低CO2・高温であったが、湿潤気候と考えられており「乾燥への適応で進化」と矛盾することに疑問をもった。当時の環境がすべての条件を満たしていなくとも、結果的に乾燥に強い性質がついてきたとも考えられるし、白亜紀でも地域的に乾燥地帯がありそこで出現したとも考えられる。またCO2濃度でいえば白亜紀より現在の方がかなり低いため、現在の高温地域ほどC4植物にとって有利な環境はないと考えた。長い目で見れば同地域で淘汰が進みC4植物の割合が増えてくるのではないか。

A:生物の進化の場合「長い目」というのがどのくらいのことなのかは、案外難しい問題です。生物同士の競争が絡む場合は、1つの点に進化の結果落ちつくこと自体がないようですし。


Q:授業でC4植物もC3植物も存在するのは、それぞれに良い面・悪い面があるから多様性があるという話を聞いた。また、カルビン・ベンソン回路は化学反応であるから温度によって強い影響を受けると考えられる。よって、もし環境に合わせて自在にC4⇔C3植物に変化できるのであれば、気温の高い夏に二酸化炭素の補償点の低いC4植物になり炭素同化を進めるなどして、効率よく生きていけると考えられえる。また、そのような植物が多く存在すると、夏などに気温が高くなると、C3植物が減り、C4植物が増えるという現象が起こると考えられる。

A:せっかくここまで考えたのだったら、「環境に合わせて自在にC4⇔C3植物に変化できる」植物の悪い面まで考察するとさらによいレポートになったと思います。


Q:ルビスコの進化(?)に興味を持った。二酸化炭素の反応性と活性がともに高くなることはなく、効率の悪い酵素だということだったが、これがなぜ現在まで使用されているのかは疑問だ。ひとつの種の平均的な存続期間、すなわち種の入れ替えの平均年数は275万年と見積もられている。動植物含めてなので植物のみにあてはまるものではないが、この期間の中でも常に新たな種が既存の種から次々と分化していくことを考えると、いずれにしてもルビスコを使用する中でこの入れ替え年数であれば構造的な問題が要因と考えられている効率の悪さを改善することや、あるいはそもそもルビスコにとって代わる別の効率の良い酵素を使用するという方向性に進化しようとしなかったというのは不思議であると思う。植物がここまでしてルビスコにこだわり続けるというのは、他に適当な酵素がないのか、さもなければルビスコでなければならない何か重要な理由があるのではないだろうか。

A:できたら、最後は「だろうか」とオープンクエスチョンで終わらずに、自分なりの結論を下してしまってください。この講義のレポートでは、事実について間違ってもそれは問題にしません。自分なりの論理をしっかり展開しているかどうかが採点の基準ですから。


Q:今回の講義がよくわからなかったので https://www.photosynthesis.jp/faq/faq3-3.htmlより引用してまず整理したいと思う。葉の葉脈の維管束は維管束鞘と呼ばれる1層の細胞層に取り囲まれている。C3型植物の場合、この維管束鞘細胞の中に葉緑体が存在しないのに対して、C4型植物では維管束鞘細胞内にも葉緑体が多数存在している。また、C4型植物の場合、更に維管束鞘の外側を葉肉細胞が取り囲んでいて、その様子が花環の様である事からKranz(クランツ)構造と呼ばれる構造が見られるが、C3型植物には、その様な構造はみられない。C3型植物とC4型植物の双方共、光合成(炭酸同化作用)においては、カルビン・ベンソン回路と呼ばれる一連の化学反応によって、二酸化炭素と水から糖を合成している。C4型植物の最大の特徴は、葉肉細胞内でエネルギー(二酸化炭素1分子あたりATP2分子分)を消費して、ハッチ・スラック回路と呼ばれる一連の化学反応を行う事で、大気中には0.038%しか含まれていない二酸化炭素を濃縮してから、維管束鞘細胞内で行われるカルビン回路(C3型植物では葉肉細胞内で行われる)に送り込むというてんである。反応に使われる二酸化炭素(炭酸)の濃度を高める事で、化学反応の速度が速くなるため、C4型植物はC3型植物と比べて、二酸化炭素から糖を合成する速度が向上する。(2倍になると言う説もある)
 これをみてて不思議に思ったことは、生物生存競争的に明らかにC4型光合成のほうがすぐれているのにも関わらず、現生植物の9割がC3型植物であるということである。講義中の大気組成の変動とルビスコのスライドから、ルビスコは約35億年まえに出現している・二酸化炭素分圧が0barに近づくあたりでC4植物が出現ていることが読み取れたが、このふたつをふまえると以下のことが考えられる。C3植物はC4植物のまえに出現していて、C4植物は近年の二酸化炭素分圧が低下している環境に適応するために進化した種であるのではなかろうか。現生植物の9割がC3植物なのは、自然淘汰の選択圧がC3植物が生存できない程のものではなく、古くから生存していたためC4植物より割合が大きいだけではなかろうか。

A:上のレポートにもありますが、講義の中ではC4植物のデメリットとして、二酸化炭素の濃縮のためにエネルギーを費やす、という点を挙げました。


Q:C4植物はC3植物と異なり、実に効率よくCO2を固定することができる。他の植物は高温時、CO2を集めづらくなるのだが、そうはならないばかりか、水が少なくても十分に光合成が行え、高温、乾燥、低CO2、貧窒素土壌でも対応できる。そういったことから、C4植物がもっているこのCO2を濃縮するための経路は過酷な環境を生き抜くために獲得した経路といえるのではないだろうか。その根拠となるのが、C3植物には人の手によってその植物が育つように恵まれた環境を与えられてきた小麦や稲などが属しており、C4植物には夏に育つ雑草が多いということです。これから地球温暖化が進み、暖かくなっていくのであれば、C4植物も増えていくのではないだろうか。

A:考え方としてはよいと思います。ただ、世界的に見て重要な作物であるトウモロコシはC4植物ですから、一概に議論するのは難しいかもしれませんね。