生物学通論 第6回講義

基本代謝

第6回の講義では、生物の基本的な代謝回路である、解糖系、クエン酸回路、脂肪酸酸化回路などについて、なぜそのような複雑な反応を組み合わせているのか、という側面から解説しました。


Q:体内における酵素反応は、意識的に行うことが出来るのか?酵素は主に体内でタンパク質から生成され、消化や代謝を効率的に行う手助けをしている。その消化や代謝という生体における活動は反射による行動であり、無意識に行っている。そのため、酵素は反射的に仕事をしていると考えられる。しかし、求愛行動や威嚇行動と言われる発光を行うホタルや、仲間に危険を知らせる発光を行うウミホタルは自らの意思で光っているとも考えられる。つまり、消化や代謝という活動から離れた役割を担う酵素を意識的に反応させているとも予想できる。ホタルは明るい時には光らないこと、またウミホタルは危険に対して光ることから、発光行動も条件に対する反射的な行動ともとれるが、仮にホタルを明るい状況でも光らせることが出来れば、意識的に酵素反応を起こしていると言えると考えられる。

A:意識の問題はどのように定義するのかにもよりますから難しいですね。また、どのような行動を見て判断するのかも難しいように思います。明るい所で光ることは、ホタルにとってエネルギーの無駄遣いですから、それをしょっちゅうやるホタルは進化の過程で排除されるでしょう。もう少し損得に関係ない行動を選ばないといけないかもしれませんが、そのような行動は、どちらかに決まっていない可能性も高いように思います。


Q:効率よくエネルギーを生体内で作り出す時なぜクエン酸回路では分解を始める物質がアセチルcoaである必要があるのか,他にどのような構造をとりうるか考えてみた。授業であったようにアセチルcoaを一度に分解するには活性化エネルギーが大きいので高温が必要なため生体内では複数の段階で分解して反応しているようだ。しかし、エネルギーの取り出しは各段階ごとに行われてないならば最後にエネルギーを取り出す段階の物質だけを取り入れるのが効率がよいと考えた。そのような構造をとらないのはエネルギーを取り出す前段階の物質が自然界にはほとんど存在していないからではないだろう。アセチルcoaは糖を分解して得られるが 、加えて初期の物資が分解されたあとに生体内の反応で生成物がまた初期の物質となるような回路が存在すると効率がよくなると考えられる。

A:最後の1文の意味がよくわかりませんでした。クエン酸回路からは、NADHといった還元力の形でエネルギーが取り出されています。その箇所は複数ありますから、どちらかといえば、各段階ごとに行なわれているといってよいでしょう。だからこそ、効率的にエネルギーを取り出すことができるのです。


Q:代謝の過程では、複雑な反応を繰り返し、とても小さな単位まで分解してから、自分の体をつくる材料とする。吸収したものをそのまま使うことはできなくても、使える程度の大きさまでで分解をやめることはしないのだろうか。例えばタンパク質で言えば、摂取した肉と自分の体で共通するものがあれば、アミノ酸まで分解する必要はないのではないか。ここで、アミノ酸や単糖、脂肪酸に分解するメリットを考えると、①分子が小さいため、運びやすい②単糖と脂肪酸は相互変換ができるため、どちらかが足りなくなったときにどちらかで補える③できるだけ小さくした方が、色々な物質の材料になれる、ということが考えられる。①に関しては、高等な生物は食物として摂取する入り口の数が限られていることが多いので、そこから、ある程度分解した物質を全身に存在するであろう必要な場所に運ぶためには、その大きさは小さくなければ不便と言える点で、説得力がある。②に関しては、効率を考えると普段はもう少し大きい単位で利用して、どちらかが足りなくなったときだけ小さい単位まで分解すればよいとも言える点では説得力に欠ける。しかし、効率という点で、分解の際にエネルギーを取り出すことができることを考えると、小さい単位まで分解する場合でも、エネルギー損失はそれほど大きくないとも考えられる。よって、③も合わせると、できるだけ小さくしてから組み立てる方が、材料として幅広く、扱いやすい上、効率も悪くないので生物にとってメリットが大きいと言える。

A:よく考えていると思います。「自分の体で共通するものがあれば」というのは面白い考え方ですが、実際にやるとなるとどうやって見分けるか難しいですね。アミノ酸のつながりを一つ一つ確認するわけにはいかないでしょうし。また、特定のものを食べた時だけ材料が手に入るというのも、あまり好ましくない状況のように思いました。


Q:今回の授業の冒頭で話題にあがった狂牛病について興味をもったので、それについて調べてみた。狂牛病の原因は異常プリオンである。異常プリオンはタンパク質であるが、消化されない。正常プリオンはα-ヘリックスが主体であるのに対し、異常プリオンはβ-シートをたくさん含む構造になっており、このために消化酵素や変性剤に強いものと考えられる。しかし、異常プリオンの詳しい立体構造は未だにわかっていない。異常プリオンは通常の細菌やウィルスなら完全に死滅するはずの、240度での乾熱滅菌という操作でさえ感染力は消滅しなかったというデータがあった。アルコールやフェノールなどの消毒薬、タンパク質を分解する消化酵素、さらにはホルマリンで処理しても病原性は消えなかったとあった。現在ではプリオンの増殖方法としては体内の正常プリオンが病原性の異常プリオンに出会うとこれによって変形され、異常型に化けてしまうという説が広く受け入れられている。こうしてたまっていった異常プリオンは水に溶けにくいためそれ同士でくっつき合って沈着し、これが脳細胞を破壊すると考えられている。異常プリオンは自己増殖を行っているのではなく、元から生体にある正常プリオンを自分と同じ形に変形させることによって増殖していたということである。狂牛病の話と一緒にとりあげられていたコラーゲンについても消化酵素や変性剤に強いものと考えられるβ-シート構造を応用すれば、真に意味のあるサプリメントができるのではないかと思った。

A:一般的な意味では別に悪くはないのですが、この講義のレポートとして評価されるのは最後の1行だけですし、それだけでは「応用する」「真に意味のある」といった言葉が何をそれこそ意味しているのかがあいまいです。何度も言っていますが、この講義のレポートで求めているのは、調べ物ではなく、自分の頭で考えた論理ですので・・・


Q:ATP合成酵素F1のγサブユニットの回転が、この酵素の触媒機構の本質であることなどが、生物の緻密な反応機構の精密さを感じさせる。ATP合成酵素の分子構造は、バクテリアから高等動物のミトコンドリア、高等植物葉緑体に至るまで非常によく保存されているらしい。実際にさまざまな生物の各細胞内で、授業内で見させてもらったビデオクリップのような合成酵素の回転の反応によってエネルギーが合成されていると考えると、この反応機構を詳しく解明することは、多くの生物の細胞内で起きている現象を幅広く捉えることにつながると考える。シアノバクテリアと葉緑体のATP合成酵素の配列の違いを調べることで、この酵素がどのように分子進化を遂げたのかという光合成生物の進化の問題にも、切り込むことができるだろう。

A:悪くはないのですが、論理が表面的ですね。「幅広く捉えることにつながる」「進化の問題にも切り込むことができる」というのはいわゆる評論家口調で具体性を持っていません。それらしいことをそれらしいタイミングでコメントすることはテレビなどでは重要ですが、この講義のレポートでは、自分の頭で考えた独自の論理を打ち出してください。別に専門家ではないわけですから、考えたことが事実とは異なるのではないか、ということを心配することはありません。評価は自分なりの論理の独自性をもとに下しています。


Q:人の筋肉は酸素が不足すると酸素なしでエネルギーを作りその過程で乳酸ができる。つまり筋肉は酸素がなくてもエネルギーを生み出すことができる。なぜ筋肉は基本的には酸素を使ってエネルギーを作るのかを考えてみる。筋肉が酸素を使ってエネルギーを生み出す理由には効率がいい、筋肉の機能に影響がないなどが考えられる。乳酸が作られてしまうと疲労がたまり運動機能に悪影響が出るというイメージがあるように乳酸ができると筋肉の運動機能が低下するということが考えられる。効率という面から考えると酸素を使う場合は呼吸をすれば酸素はいつでも取り込むことができるが、乳酸を使う場合は糖分が分解されることでできるため蓄積された糖分が必要になる。糖分は酸素のようにいつでも補給できるものではないため糖分を必要とし、乳酸ができるエネルギーの作り方は普段からはできないと考えられる。このことから普段の生活で筋肉は酸素を使ってエネルギーを生み出し、激しい運動などを行ったときなど酸素が不足した場合に酸素を使わず乳酸を生み出しながらエネルギーを作り出していると考えられる。

A:酸素呼吸も糖分を使うことには変わりありません。ただ、同じ量の糖を出発材料にしたときに得られるエネルギーの量は、酸素呼吸の時の方が圧倒的に多いので、結果的に必要エネルギーあたりの糖の消費量は酸素呼吸の方が少なくなるわけです。


Q:熱水鉱床などに棲む嫌気性生物の代謝はどうなっているのか気になった。まず我々の場合は酸素がある場合の好気的解糖、酸素不足の場合の嫌気的解糖(乳酸発酵)がある。前者は後者に比べATP合成の効率がよく乳酸を生じない。熱水鉱床生物(バクテリア)は発酵ではなく、硫酸イオンを還元する硫酸塩呼吸をおこなっているとわかった。(他にも硝酸塩呼吸、炭酸塩呼吸も存在する)しかし、熱水鉱床には他にもエビ、カニ、ワームなどもいるが自身は嫌気呼吸をせずバクテリアを餌とするが体内に寄生させて生きている。このように嫌気呼吸をする生物はバクテリアサイズだけだ。多くのエネルギーを必要とする生物にとっては効率が悪いということだろう。硫酸塩呼吸をする生物は(硫酸イオン還元の際、H2Sが発生するため)環境に悪いが少数派なので影響は少ないだろう。 (調べてもわからなかったこと)高温環境生物の酵素は高温に耐え、作用するのか?

A:硫酸塩呼吸もあるとは思いますが、実際には酸素を酸化剤としている例も多いようです。深海は確かに酸素濃度が低いのですが、ゼロではないので、使える時はそれを使うのでしょう。高温環境にいる生物の酵素は、アミノ酸を工夫して、いわば構造を硬くすることによって熱に対して安定になっています。熱に対して安定な酵素は、室温においても構造が安定であることが多いので、「酵素入り」何とか、といって宣伝されているような商品に入れる酵素は、高熱環境の生物の酵素を利用する例が多く見られます。


Q:呼吸における糖の分解によって得られるエネルギーは、普通の化学反応のように一気に進行して得るのではなく、反応を多段階的に起こして少しずつ得るということであったが、多段階で小分けに反応した場合と一気に反応を起こした場合とで、そんなにもエネルギーの損失量に差が出るものなのかと思った。結局生体内でどれだけのエネルギーをATPとして保存できるのかは、ATP合成の処理能力によるのだろうと考えられるが、それはすなわちATP合成酵素による反応速度の変化が影響すると言うことになる。よって、糖の分解自体が一気に行われたとしても、多段階で行われたとしても、発生したエネルギーをATPにできるかどうかはATP合成酵素にかかっていて、分解の過程に関係なく頭打ちになってしまうのではないだろうか。

A:なるほど。講義の内容を鵜呑みにしないという点で評価できますね。実際には一段階で大きな変化をもたらすような反応は、不可逆的な反応になり、その際には、放出されるエネルギーの多くの部分が熱になってしまうのです。熱エネルギーは、エネルギーの中でも生物にとっては使いづらいエネルギーなので、結局無駄になるというのが多段階の反応が必要である一つの理由です。


Q:タンパク質はアミノ酸に分解(消化)され、体内に吸収される。しかし、狂牛病の原因とされる、異常型プリオン(タンパク質)は分解されず、体内にある正常なプリオンを異常型のプリオンに変化させてしまう。異常型プリオンについて、興味をもったので以下考察する。異常型プリオンは無生物であり、そのため熱にも強く、紫外線を当てても分解することはできない。また、1500℃で加熱しても壊れず、感染性を失わなかったとする、イギリスの論文があると言われている。ここまでくると、もはや異常型プリオンをタンパク質と位置付けてよいのか少し疑問に感じた。
参考文献:狂牛病 http://www.geocities.co.jp/Foodpia/9637/MCD.htm(2012、5月27日閲覧)、プリオン‐通信用語の基礎知識http://www.wdic.org/w/SCI/%E3%83%97%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3(2012、5月27日閲覧)

A:これも、上の方のレポートと同じです。調べた結果を述べただけのレポートは評価の対象になりません。最後の「感じた」だけが調べた結果ではありませんが、「感じる」のはこの講義のレポートの評価対象である「論理」とは無関係です。


Q:代謝経路は酵素によって化学反応が方向づけられるというもので、ある酵素のはたらきが失われても結果的には変化がない事もあるという。つまりは体内の反応が完全に計画的に行われているという訳ではないが、幾つか不具合が生じても結果はある程度収束し得るものであるという事である。そして生物はそういった反応の振れ幅に対応するだけの余裕があると考えられ、その一つとして貯蓄が挙げられる。貯蓄をする為にはある物質として保存するという例が挙げられるが、その物質を利用する時に別の物質に変化させて利用可能な状態にするといった過程がある場合、その物質が安定的である事等からこれに関わる化学反応は少ないと考えられる。その為その物質自体に外部から干渉した場合にはそれに対する自浄的な反応が起こる事は少ないと考えられ、干渉による一方向的な経路の追加は生物に有害な影響を与えると推測出来る。

A:よく考えていると思うのですが、言葉の使い方が独特ですね。細かいことですが、「貯蓄」というとお金の感じなので、「貯蔵」でしょうか。「自浄的」という意味がよくわからないのですが「自発的」と言いたいのかな?少し日本語を推敲すると素晴らしいレポートになると思います。


Q:激しい運動をすると、乳酸がたまって筋肉が固まって痛くなるのは経験的にわかる。この乳酸は代謝経路によってピルビン酸から生成されているが、なぜわざわざ乳酸を生成するのか疑問に思った。まず、乳酸が生成される条件を考えてみる。これは、激しい運動をすると生成されることから“ATPが不足している”ことと“酸素が不足している”ことが考えられる。ATPはグルコースなどの糖から解糖系、クエン酸回路で分解され各々生産されている。ここで、解糖系とクエン酸回路の違いについて考えると、この場では酸素の必要の有無が重要になってくると考えられる。すなわち、解糖系は酸素が不要なのに対して、クエン酸回路は酸素が必要な経路である。これより、激しい運動をしているときは酸素不足より、解糖系までしか反応が進まなくなると考えられる。では次に、解糖系からクエン酸回路に移るときはピルビン酸の形で入るが、どうしてここでピルビン酸が乳酸に変わるかを考えてみる。ピルビン酸から乳酸までを生成する反応を見てみると、NADH+H+(NADPH)がNAD+になっていることがわかる。これを踏まえて、グルコースからピルビン酸までを生成する反応を見てみると、グリセルアルデヒド-3-リン酸から1,3-ビスホスホグリセリン酸への変化でNAD+からNADPHになっていることが分かった。以上より、ピルビン酸をまでを生成する解糖系ではNAD+が不足、もしくはNADPHが過剰に生成される状態になり、ATPを生成できなくなる可能性が出てくると考えられる。よって、ピルビン酸から乳酸の反応をさせることによりこの問題を解消していると結論づけられた。
参考HP:http://kusuri-jouhou.com/creature1/kaitoukei.html

A:発酵の基本的な考え方としてきちんとしています。ただ、ぜいたくを言えば、あまりにもまっとうなので、どこかで独自の視点、自分なりの論理を入れられるとよいでしょうね。なお、乳酸自体が痛みの原因であるという点については現在では異論があるようです。