生物学通論 第5回講義
酵素とその働き
第5回の講義では、化学反応における触媒の働きと、生体内における酵素の働きとそのメカニズムについて解説しました。
Q:フィードバック阻害と、多量体のアロステリック効果について考える。「多かったら反応のペースを下げ、少なかったら上げる」というフィードバック阻害と、「多かったら反応のペースを上げ、少なかったら反応のペースを下げる」という多量体にみられるアロステリック効果は、相反するように見えるが、どちらも生体で使われている。では、この2つがどのように使い分けられているのか考えてみる。フィードバック阻害の代表例はインスリン分泌の調節による血糖量の調節で、アロステリック効果の上に述べたものの例はヘモグロビンと酸素の関係である。血糖も酸素も安定して全身に行きわたらせなければならないものであるが、その仕組みの違いが酵素反応の仕方の違いに現れているのだといえるのではないか。前者と違い、後者は肺胞と他の器官というように体の中での濃度差をつくるものであるといえる。こう考えると、例えば肺胞が各器官に存在するなどして酸素を運ぶ必要が無かった場合、酸素が多すぎたら血糖と同じように、何らかの仕組みで減らされ、逆の時は増やされるという反応ができていたかもしれない。
A:よいレポートだと思います。短い中で制御の二つの仕組みの違いに焦点を絞り、考察して結論を出しています。
Q:ヘモグロビンは酸素を肺から全身へ運ぶ役割を持っている。このとき酸素濃度によりヘモグロビンと酸素の結合量を調節し、酸素濃度が高くなると結合できる量が多くなり低くなると結合できる量は少なくなることによって各細胞へ酸素を渡している。このときの結合量はシグモイド曲線を示しておりより多くの酸素を運ぶことができる。しかしこの曲線よりも効率のよい酸素運搬方法がないか考えてみる。各細胞へ酸素を供給する方法には動物のように肺など特定な器官で酸素を取り込み血液など循環器官により各細胞へ運ばれる方法のほかに植物のように各細胞が直接空気や水から酸素を取り込む方法が考えられる。空気から直接酸素を取り込むためには各細胞に空気が送り込める管のような器官が必要になり、毛穴のように全身にその空気穴を作った場合汗や雨などで表面が濡れてしまうと機能できなくなってしまうため直接取り込む方法は難しいと思われる。それでは今よりもさらに効率よく酸素の結合と放出を肺と各細胞で分けてみるとどうなるかを考えてみる。効率よく運搬するためには酸素濃度によるヘモグロビンの機能の変化をより大きいものにする、ヘモグロビンの機能を酸素濃度ではなくヘモグロビンがどの器官に存在するかによって切り替える方法が考えられる。今よりもさらに効率良くするのは難しいと思われるので各器官によって機能を切り替える方法を考えてみる。この場合、肺では酸素と結合し各細胞では放出することになるがその判断を酸素ではなくほかの物質により行うことになる。しかし、酸素は各細胞の活動量によって消費量が変化するため酸素を必要以上に取り込んでしまう可能性があり、さらに肺から近い細胞には多量の酸素がいき遠い細胞にはあまり酸素がいかなくなってしまうとも考えられる。このことから酸素の運搬を行う際には酸素濃度によって機能を変化させる必要があると思われる。
A:これも非常によく考えたレポートだと思います。特に後半、酸素以外を検知するようにしたらどうなるかを考察した部分は独自性があると思います。前半は、植物型の気体取り込み方法には欠点があるという結論ですが、その場合、では植物はなぜそれで大丈夫なのか、という考察が必要かもしれません。
Q:ヘモグロビンの酸素との反応がシグモイド曲線になることが、酸素を効率よく運ぶのを可能にしているとわかって感心した。白い血液の生物が持つヘモシアニン(名前は聞いたことがあるが働きは知らなかった)についても調べメリット、デメリットを比較することにした。まず、ヘモグロビンには「酸素がユニットと結合すると、ほかユニットも結合しやすくなる」がヘモシアニンにも同様の性質がある。ただ、酸素1に対し鉄は1、銅は2であるためヘモグロビンのほうが効率がいいと分かった。pHが下がる(二酸化炭素濃度高い)と酸素を離しやすくする性質が双方にあるがその程度の違いはわからなかった。結局ヘモシアニンの方が長けていることがあるかはわからなかったが、軟体動物、甲殻類、一部の魚が持っているので、これらの生物に適した性質があるのだろうと思う。これを知るには単に銅、鉄の化学的性質の違いだけでなく分子の構造(特にヘモシアニン)の違いがどう影響するかを研究する必要があると思う。
A:生き物の違いによって、なぜヘモグロビンを使うもの、ヘモシアニンを使うものがあるか、という着眼点は面白いと思います。生物の違いによって自分なりにこれを説明できればベストですが、生物を専門としているわけではないので、これで十分です。強いて言えば、銅と鉄の化学的な性質の違いなどは、地球科学の学生ならばむしろ専門だと思います。そのあたり、なるべく自分の土俵で議論を進めるようにするともっとよいレポートになるでしょう。
Q:今回の講義で、酵素の働きとして、リゾチームがウイルスや細胞壁についている糖鎖を切ることで活性化エネルギーを下げることを風邪薬に利用していると知った。また、最近癌の治療も酵素の働きの研究によって進歩したという話を聞いた。このように酵素が人体に多く利用されているから、酵素はダイエットにも利用できるのではないかと考えた。酵素によって活性化エネルギーを下げれば、栄養が吸収されすぎず、ダイエットにもなり、また肝臓や胃にも負担になり過ぎないといえる。しかし、酵素の働きが過剰になり、吸収しなければならない量の栄養素まで消化されてしまったら、命の危険にさらされる可能性が大いにあると考えた。また、上記のような異常事態が自然の状態で人間に起こらないことから、酵素の触媒機能は生命活動の維持に都合がいいように調整されていると強く感じた。
A:活性化エネルギーと消化の関係が、ちょっとよくわかりませんね。あと、消化と分解は違います。栄養は、消化することによって初めて利用できるようになるのです。完全に分解されてしまったらもちろん吸収できませんが、ある程度分解する消化は、むしろ栄養の吸収を助けるのです。
Q:触媒を入れることによって、活性化エネルギーを下げ化学反応を促進させるっていうことは触媒の役割として以前から認識していたが、逆に反応を抑制させてしまうものもあるという。Wikipediaによると、そのような化学反応を遅らせる物質をかつては“負触媒”と呼び、今では阻害剤と呼ばれている。では、阻害剤とはどのような時に効果を発揮するのだろうか。化学反応を遅くしてしまうというのは、触媒として意味を為さないように思えてしまう。しかし阻害剤は、実は体内にもあり、全体の代謝による生成物の量を調節している。もし、体内で良くない反応が進んでしまったとき、阻害剤がなければ、体内に悪影響を及ぼしてしまうだろう。このようなことからも阻害剤は、“調整役”として必要であることが分かる。
参考文献:酵素についてhttp://vitamine.jp/bitat/colam14.html(2012、5月20日閲覧)、触媒—wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%A6%E5%AA%92(2012、5月20日閲覧)
A:レポートしてそれほど悪いわけではありませんが、講義の中ではフィードバック制御の話をしましたよね。あれはまさに反応の産物が、その反応を触媒する酵素の活性を阻害することにより反応を調整するという話でした。同じことならば、Wikipediaではなく、講義の内容をベースにレポートを書くようにしてください。
Q:酵素のアロステリック効果はタンパク質のはたらきに影響を与えるもので、それが結果的に負の制御を与える場合安定した出力が、正の制御を与える場合二極化した出力が得られる。この内前者は周辺環境によって出力が調整されるものである為、効率性を求める事がなければこちらの機能だけで事足りると考えられる。又後者は極端な変化を生じる為に利用可能な場所は限られる。ただ体内環境に何かしらの異常が生じた場合にそれをトリガーとして対応する事が出来るのならば、それは前者にはない独自な機能といえるだろう。又前者が対応するのに時間を要する急激な変化によって、つまり一定以上の振れ幅になった時のみ後者が反応するといった二段構えの機構が存在するならば、重要な機能の保持能力というのはより高まると考えられる。
A:これも一番上のレポートと同じ路線できちんと考えていると思います。これでよいと思いますが、欲を言えば、他の人が考えつかないような発想がどこかに欲しいですね。
Q:酵素の中でも制限酵素のダブルダイジェストできないものに関して、その実験方法について考えてみた。ダブルダイジェストは制限酵素処理であるが、その手法にフェノールクロロホルムでと反応させ、エタノール沈殿させるが、ここに疑問を持った。これは、酵素を失活動させるために行っているが、大抵の酵素はエタノール沈殿させることで、失活させることができる。よって、フェノールクロロホルムでの反応は短縮でこるのではないかと考えられる。
A:これは、講義内容とのマッチングにやや問題がありますね。第2回のタンパク質の構造の講義において、タンパク質の熱による変性などについて解説をしていますから、その時の講義へのレポートであればまだ理解できます。レポートを書くためには、講義の内容をよく把握することが重要です。
Q:ヘモグロビンは、赤血球内の主要な構成物質であり、全身へ酸素を運搬する役割を担っているタンパク質である。ヒトのヘモグロビンはポルフィリン核に鉄をもつ4つのへムと4つのグロビンからなり、へムは中心にある1つの鉄原子により、1つの酸素原子と結合することができる。つまり、ヘモグロビン1分子で4つの酸素原子と結合することができる。これが呼吸であり、ヒトは呼吸ができなくなると、死にいたる。どういうことか。それは、ただ、呼吸を止めているだけでは酸素が体内に取り込まれないでけで、ヘモグロビンに酸素を運搬する力は残っているが、もし、ヘモグロビンが酸素よりも強固にほかの物質とむすびついてしまった場合、酸素を運搬する力を失い、命にかかわるのでないだろうか。
A:これは、「呼吸ができなくなると」というケースと「ヘモグロビンが酸素よりも強固にほかの物質とむすびついてしまった場合」というケースの関係が整理されていません。例えば、一酸化炭素の中毒の場合などはその2つのケースがたまたま一致しますから、論理がつながりますが、一般的には呼吸が止まるのは何か物質が結びつくせいではありません。化学的なレポートでは、論理をきちんとたどることが重要です。