生物学通論 第12回講義

遺伝子の発現制御・遺伝子組換え生物

第12回の講義では、遺伝子の発現制御の仕組みについて解説したのち、遺伝子組換え生物について解説しました。


Q:大腸菌は通常グルコースを栄養源としているが、ラクトース培地で培養するとラクターゼを合成するようになる仕組みを習った。それはラクトースが増えてから新たにそれを分解する機能を作るのではなくもともとラクトースがリプレッサーと反応するとラクターゼができるような機能が存在しているとのことだ。しかし、ほかにも様々な種類の糖があるにも関わらず、なぜラクトースに対してだけそのような機能をもっているのだろうか。そこでラクトースには栄養源にするうえで大きなメリットがあると考えた。理由として①大腸菌はかつてラクトースを主に栄養源にして生息していたためそうした機能を持つようになったのではないか。②生育環境にグルコースが多く分布するとこにはラクトースが多く分布している。③他糖と比べて分解速度が速い。④少量で多くのエネルギーが得られる 等が考えられる。

A:まず、ラクトースだけではなく、アラビノースという別の糖ではアラビノースの分解に働く酵素が少し違った形の制御機構によって発現するようになります。ですから、ラクトースだけが特別なわけではありません。グルコースとラクトースとアラビノースが同時に存在する時には、ラクトースとアラビノースの分解酵素は発現せず、グルコースを使って生育します。その意味では、グルコースが特殊であるという言い方はできると思います。


Q:真核生物は原核生物に比べて非コード領域が多く、要するにDNAに無駄な部分が多い。生体膜の授業の時に考えたことと似ているが、なぜ無駄な部分が多い真核生物が繁栄してきたのだろうか。ここで、非コード領域について考えてみる。①非コード領域には何かしらの役割があり競争に有利に働いている、などといった理由が考えられるからだ。この部分については働きがわかっていない部分が多いと以前の授業であった。では、具体的にこの部分に働きがあるとすれば、どのようなものなのか考えてみる。非コード領域にも、一応転写される部分とそうでない繰り返し配列と偽遺伝子が存在することは以前の授業で触れたが、特に一応転写されるものについては何らかの役割があるのではないか。翻訳の効率を上げるような何らかの役割をしていると考えると、例えば花の蜜のようにリボソームRNAを呼び寄せるような働きをするようなことが考えられる。実はこの部分も翻訳されており、リボソームRNAをコード領域に結合しやすくするような働きをするタンパク質を作り出しているが、寿命が短くすぐに分解されてしまって今のところ観測できていないという仮説である。逆に、②非コード領域単体では本当に働きが無かったとしても、単にDNAが長い分、乗換えや組換えが起こりやすく、環境が変化した際に子孫を残すことに成功してきた、ということも考えられるだろう。①であることを確かめるには、まず転写されているコード領域が翻訳されるとき、その周辺を観察して非コード領域も翻訳の動きが無いか確かめる必要がある。①でなければ②が有力になってくるであろうが、「①でない」ことを証明することも難しいと思われる。

A:なかなかよく考えていますね。あるものが検出できないとしても、寿命が短いだけでないことにならないという点に着目したのは面白いと思います。また、「ない」ことを証明するのは非常に難しいという点は、科学の基本的な部分とも言えます。


Q:授業中に述べられていたラクトースとリプレッサーによる制御の話を聞いているときに、これは人間にも似たような機能が備わっていてもおかしくないのではないかと考えた。このラクトースの話が生存をかけた環境適応であると考えると人間にとってのそれは火事場の馬鹿力のようなものであろう。人間は普段筋肉など100%の力を出せないようにコントロールされている。それは100%の力を出すことによって身体に大きな負荷がかかってしまうからである。これと同様にラクトースの話においても普段リプレッサーが制御しているのは負荷を軽減するためなのではないかと考えた。

A:これについてよく言われるのは、飲み続けるとアルコールに強くなる、という話です。アルコール分解酵素、アルデヒド分解酵素がアルコールによって誘導されてくるとしたら、そのような現象を説明できます。ただ、遺伝的に効率のよい分解酵素を持っていない場合には、そもそも誘導されることはあり得ませんから、飲めない人に対して「修行が足りない」などというのは言語道断です。


Q:分裂時に細胞内で染色体が両極に移動する際の機構について非常に気になった。どのようにして染色体は細胞の両極に向かってはなれていくのか。染色体は押されているのか引かれているのか。それにかかるエネルギー、原動力はどのように供給されているのか。紡錘体とはいったいどんな器官なのか。弾性に飛んでいるのか。紡錘体に沿って染色体は移動しているように見えるがなぜ一糸乱れずきれいに各染色体が二分するように絡み合うことができるのか。さまざまな文献で見られる解説図をみると、最初の疑問に対しては、中心体と紡錘糸、ないし紡錘体極が染色体を“引っ張っている”ように感じられる。有糸分裂期の細胞に出現した紡錘糸や紡錘極を取り出して、構造的にどんな器官なのかどうか、物質的にどんな性質を持っているのかなどを精査したら、上に挙げた疑問に対して解明する手がかりをつかめるかもしれないと考えた。

A:この講義では取り上げませんが、細胞内には細胞骨格とも呼ばれる様々な繊維が縦横に走っており、これらを使ってATPのエネルギーを利用して物質を運搬することがなされます。染色体の分離もそのような観点からとらえることができます。


Q:細胞が持っているDNAはその生物全ての遺伝情報であり、どの遺伝情報を使うかを使い分けることにより様々な細胞を作り出している。DNAは短い方がDNAの複製時の誤りが生じにくい、DNAを管理しやすいなど生物としては有利になれると考えられる。その一つの方法として共生が考えられる。共生をすれば生命活動に必要な働きを他の生物が代わりに行ってくれることになる。人間の場合、体内に細菌が存在し人が必要な物質を生成するなど健康状態を維持するのに必要な存在になっている。しかし、その生物が共生している生物に依存しすぎてしまうとその生物がいなくなった時に生きていくことができなくなってしまう。このことから授業で取り上げていた害虫に強いが自然界に出てしまっても自然を破壊しないような植物について考えてみると、植物の働きごとにいくつもの生物に分けることができればたとえ自然界へいっても一つの生物では生きていけないため自然を破壊することはないのではないかと思われる。これはDNAを必要箇所だけ切り取り複製していくことで可能になると考えられる。

A:これは共生をリスク管理の方法として使おうという提案ですね。非常に面白いと思います。講義で話した2つの話題をつなげて考えているわけですが、このような情報の組み合わせによる発想の転換というのは科学的な思考にとって有益です。


Q:遺伝子組み換え植物について、異種生物の遺伝子導入以外は自然・または普通の品種改良でも起こりうること、また人工=危険というのは間違いであることを知った。そこで遺伝子組み換えそのものの問題ではなく、社会でどう対応していくべきかを考えた。まず拡散についてだが、農業の現場で防止するのは不可能であると思う。たとえばモンサント社は中南米に技術提供をしているが、途上国で拡散防止を徹底するのは無理がある。これには開発段階で、淘汰されるように作るしかない。ただし想定した環境で淘汰されても、想定外の環境で勝ち残ってしまうかもしれない。次に流通についてだが、現在禁止されていないし禁止する必要もないだろうと思う。ただ問題は遺伝子組み換えに不安を持つ人が、意に反して食べてしまうことであるから、表示を徹底し消費者が選べる環境をまもることが必要だろう。政治の話になってしまうが、以前石原都知事が「TPPに加入したら、アメリカがGM表示をなくすよう訴えてくる」と発言していたが、ISD条項(政府による規制などで、企業が不利益を被った場合、自由貿易を妨げたとして訴訟を起こせる制度)があるため用心しておいた方がいいかもしれない。最後に遺伝子組み換え産業そのものについてだが、少数の会社が独占体制で、農薬とセットで売ることで利益を上げているという構造ではなく、競争させて安全性の研究と情報開示を徹底していくようになってほしい。独占だとどうしても安全性が疎かになり情報開示を怠りがちだからである。後々健康被害が出ても因果関係がないと言われればそれまでで、消費者としては少し不安が残る。

A:最後に述べられている独占化・寡占化の問題は重要でしょうね。一部の企業だけが情報を握るようになると、どうしても情報公開には問題が生じるようになります。基本的には企業の責任について、消費者がきちんと注意を払って行くしかないように思います。


Q:真核生物はDNAの情報量に余裕があり、又分化後の細胞は情報の利用方法によって機能を異にするという事である。よってある発現をする遺伝子の後ろに別の遺伝子を配置して連鎖的に発現を引き起こす事やプロモーター領域を配置して発現をコントロールする事は資源的には可能である。その為人工的に遺伝子レベルで機能の発現を弄る事で、例えば環境の変化による促進や抑制機能を抑え利用するという事も可能となり、又DNAの複製効率や情報を弄る事で成長の速度をコントロールする事も可能といえる。しかし酵素等においても調整機能がある為、ある能力を変更したい際には複数の機能に干渉する必要があると考えられる。

A:悪くはないのですが、やや一般的な記述に留まっていますね。別に専門家としてのレポートを期待しているわけではないので、もっと自分なりの発想によるレポートを期待します。


Q:減数分裂は第一分裂と第二分裂にわかれているが、第一分裂のところでは、体細胞分裂のように核当たりのDNA量(相対値)が分裂前の1と変わらない分裂を起こしている。このことをふまえると、第一分裂は体細胞分裂と変わらないので、わざわざ第一分裂と名づける必要がなくなる。しかし、実際には区別がつけられているため、その理由を考えてみる。講義のスライドでは第一分裂と体細胞分裂の分裂期の長さが違ったので、このことが第一分裂の名称が必要になった理由と考えられる。

A:よいポイントだと思います。より本質的には、名称の問題というよりは、何のために第一分裂を行なっているのか、という点が重要でしょう。単に2nをnにするためだったら、第二分裂だけをすれば良さそうなものです。そこを考察できるとよかったですね。


Q:遺伝子組み換え商品について興味をもちました。新たな遺伝子を導入し発現させたり、すでにもっている遺伝子の発現を促進させたり抑制させるなどの遺伝子操作を行う、と聞くと、栽培作物に関しては生産者、消費者ともにメリットのあるものをつくり出すことが可能ですが、遺伝子をもっているのは当然植物だけではなく、動物ももっています。遺伝子操作によって、例えば除草剤耐性、病害虫耐性のように、アレルギー物質への耐性などを得られるなら良いと思います。ただ、これは植物の話になるが、アサガオは色素をつくるのに必要な酵素が正常に働かないため白い花ができるのに対し、キクは色素はつくっているがそれを分解して白くなるなど、表面上は同じでも遺伝子は違う働きをしているということがあるので、簡単には人には応用できないのだろうか。

A:ちょっと論理の流れが読めなかったのですが、一番最後の所は、ヒトを黄色人種から白色人種にする、といった意味合いですか?それはさすがに難しいと思いますが。ヒトの場合は、一つの形質が非常に多くの遺伝子の働きによって維持されていることがよくありますから。