生物学通論 第7回講義
ゲノムと遺伝子
第7回の講義では、様々な生物のゲノム決定の歩みとゲノム上の遺伝情報が転写・翻訳を経て発現するまでの仕組みについて解説しました。
Q:偽遺伝子はゲノム中に12000個以上あるが、通常の遺伝子のようにたんぱく質を作る機能を失っており、満足な働きをしていない。遺伝子の突然変異の一つに遺伝子重複があり、これによって二つの遺伝子コピーが出来上がる。片方が機能をなくし偽遺伝子となっても、もう片方が機能をしていれば生存に影響はない。では、その偽遺伝子はどうなるのか。偽遺伝子はたんぱく質を作るわけでもなく、ただ情報としてDNAの中に残される。仮に遺伝子内に変異があっても偽遺伝子自体に機能がなければ、生存に影響がない範囲で、偽遺伝子は変異を受け入れ続けるのだろうか。その変異自体も情報として、親から子へとDNAで受け継がれるのであれば、人の遺伝子内の偽遺伝子はさまざまな変異を持っていることになり、仮にその偽遺伝子の機能が再開されることがあれば、通常とは異なった何かがその個体に現れるのかもしれない。生物の進化はその状況に適応しながらのものであるが、もしかしたら、このような偶然的な産物による変異も考えられるのではないだろうか。
A:進化に関する理論の一つに中立説というのがあります。これは、極めて単純化して言えば、それ自体生存に有利でも不利でもない変異の積み重なりが、進化に大きな影響を与えるという説です。このレポートで議論している偽遺伝子の機能の再開なども、そのような考え方と合わせて考えてみると面白いかもしれません。
Q:RNA,DNAウイルスを通じてRNAからDNAへの逆転写を行う。しかしRNA,DNAウイルスが変異すると、DNAを修復する際にDNAへの逆転写することで本来とは異なるDNAの配列の変異をもたらすことになる。DNAの複製の「校正機能」「塩基ミスマッチ修復機能」などがあることは先々週に扱ったが、DNAの複製ミスの一番の痛手となるのは逆転写をするRNA,DNAウイルスではないだろうか。塩基ミスマッチ修復機能のような化学的な修正機能と異なり逆転写が生態的な機能であるため、修復機能をもってはいるもののRNAウイルスやDNAウイルスそのものが修復を阻害する要素となりうるのではないだろうか。正直DNAウイルスやRNAウイルスはかなり小さい機構なので、変異を止めるのが困難であるとは思うが、DNAウイルスの変異が明確に認められ癌細胞の増加などが見られる場合にはDNAの修復を行うよりも先に他のDNA複製ミスの修正機能が進行するように、DNAウイルスの活動を抑制する酵素・触媒を導入することが効果的ではないかと考える。
A:「逆転写が生態的な機能であるため」という部分など、ちょっと論理がわかりませんでした。
Q:遺伝子組み換えについての講義のあとだったので、染色体の移植はできるのかと疑問に思いました。体の各部分で役割が違うだけで持っている46本の染色体の数は同じなのでできるのではないかと思いました。仮に体の一部の染色体が傷ついてしまったとしても体の別の部分のなくても大差のないような場所の染色体を移植することで遺伝による病に効用をもたらしてくれることになるのではと推測しています。
A:あと、もう少し自分なりの考察がほしい所ですね。
Q:「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉がある。これはヘッケルが生物進化の分野において述べた反復説を示したものである。言い換えると、ある動物の発生過程は、その動物の進化の過程と同じ形態変化をする、ということである。例えばヒトの場合、受精卵が分裂して胎児になるまで、魚類に似た形→両生類に似た形→胎児、とヒトの進化の過程をそのまま繰り返している。この説をはじめて聞いたときはとても不思議に思ったが、遺伝子学上で考えてみると、ヒトの遺伝子の中には魚類のえらを作る遺伝子なども残っていて、単に発現されていないだけであるという事実から、進化の段階をひとつひとつたどっていかないとヒトという生命体は作ることができないということがいえる。
A:ヘッケルの考え方も、それが完全な真理であるかのように扱うのは難しいと思いますが、面白いことは確かですね。
Q:ALDH2遺伝子上の1塩基変異(SNP)はお酒の強さに関係している。アルコールがアセトアルデヒドに分解され、生成したアセトアルデヒドをALDH(アルデヒド脱水酵素)が酢酸と水に分解する。遺伝子配列中でGAAというグルタミン酸の配列を持つ人が酒に強く、AAAというリシンの配列を持つ人は酒に弱い。酵素はが効力を持つにはそれぞれ反応条件が存在するが、これは人間の体内でしか働かないのだろうか。私が考えていることは、ALDHを外服できないのかということ。酒を飲み過ぎたとき、キャベジンなどの薬があるがいかんせんまずいらしい。また、クエン酸がATPの中に吸収されることにより、アルコールが分解されやすくなるという話を聞いたことがある。そこでALDHやクエン酸を、粘土鉱物にインターカレートしたものを体内に摂取してみるのはどうだろうか。すでにモンモリロナイトは食品への応用はされている(例えばパン)。それがどのような効果を発揮するにもよるが、まずい薬を飲むことなく、また2日酔で苦しむことなく体内の酒を分解することができるのではないだろうか。
A:クエン酸に関しては、有機酸とアミノ酸を配合したものが味の素から製品化されています。味は知りませんが。ただ、薬は少しまずい方が効く感じがする、という話もありますから、一概においしい方がよいというわけでもないかもしれません。
Q:今回の講義で偽遺伝子について少し扱った。偽遺伝子は、タンパク質を作る機能を失い、転写や翻訳が出来ない遺伝子である。以前に授業で扱ったが、DNAは元より、複製の段階で一定の割合で間違いを起こす。そのため、偽遺伝子もその一部なのではないかと思った。しかし、調べてみると偽遺伝子にも役割があるようだ。ある偽遺伝子の発現が、本来の遺伝子の発現を安定化させる機能があることがわかった。おそらく、偽遺伝子が持つ役割は他にもあるのだろうと思う。生物のつくりで、一見無駄なものに見えてもそれらが役割を持つことは多いのではないだろうか。ドーパミン受容体の繰り返し配列についても「新し物好き」の他に影響がある気がしてならない。
BioBEAT(HP)http://www.appliedbiosystems.jp/website/jp/biobeat/contents.jsp?BIOCONTENTSCD=82781&TYPE=B
A:「偽遺伝子の役割」というよりは、「遺伝子をコードしていない部分の役割」ということだと思います。以前は、DNAはタンパク質の発現を通してのみ生物学的な働きを発揮するというイメージを持たれていましたが、今では、機能を様々な形で実現していることがわかってきました。
Q:授業時に生命の起源はRNAであるという「RNAワールド」があったが、RNAだけが火星から降ってくるとはどういうことなのか。RNAを持つ媒体が当時の火星上のバクテリアやウィルスであったなら、DNAやタンパク質は持ち得ないのか。男性は女性に比べてドーパミンを多くセロトニンを少なく持つから不安や攻撃性を女性より多くもつだとか、授業中でもドーパミン受容子である遺伝子のくりかえし回数がアメリカ人と日本人で異なるために新しいもの好きか否かが異なるのではないかとか、あくまで統計上の話であるとは言え、上記のように地球生命起源は一つの物質であるのだから、ここまで異なるのは不思議である。ヒトゲノムの個人差0.1%という数字も大きいのか小さいのか分からない。
A:火星の話の部分はちんぷんかんぷんです。レポートは、考えたことをそのまま書き連ねるのではなく、一つの論理をまず自分の中でまとめて、それを相手に伝えるためにはどのような表現を使うのが一番よいかを考えて書くようにすると、わかりやすくなります。
Q:DNA,RNA,タンパク質について、ニワトリが先か卵が先かと同じような考え方でRNAが先ではないかと考えられている。その理由はRNAだけで完結した世界を作りうるためである。だが、このRNAワールドがDNA→RNA→タンパク質という順になるためには、どこかでRNA→DNAや、タンパク質→DNAとなったことがあったのではないかと考えた。そして今例外だと考えられているRNA→DNA(ウイルスの例)のものはこの名残なのではないかと考えた。
A:面白い所に目をつけてはいるのですが、やや説明不足ですね。「タンパク質→DNAとなったことがあった」というのを具体的なイメージとして提示できるとよいレポートになります。