生物学通論 第3回講義
酵素とその働き
第3回の講義では、生体内の化学反応を触媒する酵素の働きについて解説しました。
Q:授業の最後のほうにヘモグロビンの構造について触れていた。サブユニットの持つヘムに酸素が結合することでほかのサブユニットの酸素結合親和性があがるという。低酸素では酸素を離し、高酸素では酸素を取り入れるといういわゆるこれもアロステリック効果なのだが、ここに少し疑問に思った点がある。スポーツのトレーニングなどで高山トレーニングとして地上より酸素の薄い場所でトレーニングをしたり、あるいは酸素カプセルというものに入って、疲れをとるというようなことをする。しかし、体が低酸素、酸欠状態ではヘモグロビンが酸素を離してしまっては、活動がさえぎられてしまって本末転倒であるし、逆に高濃度状態で酸素を多量に取り入れても、いわゆる活性酸素になってしまえば多すぎても毒になるのに、ヘモグロビンは高酸素で酸素を取り込む。低酸素状態だからこそ少ない酸素を体に取り込む必要があるし、高濃度の場合はある程度量を抑えようとする負のフィードバックタイプが普通なのではないか。恒常性という観点からみたら実に不可解な点であると思う。
A:おそらく混乱の一つの原因は、普通の酵素とは違って、ヘモグロビンの酸素との結合は、それ自体がヘモグロビンの働きではない、という点にありそうです。例えば、非常に酸素との結びつきが強いヘモグロビンができたら有利かと考えてみましょう。酸素との結びつきが強すぎて酸素を組織で放出することができなくなり、かえって酸素輸送の能力は落ちます。つまり、ヘモグロビンの「活性」である酸素輸送能力は、酸素との親和性に依存して変わるのではなく、酸素との親和性の(低酸素状態と高酸素状態の間の)差に依存して変わるのです。その差を大きくするためには、高酸素状態では酸素との親和性を上げ、低い酸素状態では酸素との親和性を下げることが有効になるのです。
Q:酵素とは、タンパク質を基本とした高分子化合物のことで、生体内のほとんどの化学反応において触媒の役割を果たしている。そのため酵素は生体触媒と呼ばれ、金属化合物などの無機触媒と区別されている。酵素は反応速度において、基質濃度が低い時には濃度に比例し、高くなると飽和するというミカエリス・メンテンの式に従うことが知られている。一方、無機触媒と呼ばれる金属化合物は触媒の基質濃度が高ければ高いほど反応速度は比例的に上昇していく。この違いには、金属触媒と生体触媒の分子構造の違いが関係していると考えられる。金属触媒の方は、触媒の表面に金属原子が無数に配置されているため、基質はおのおのと触媒反応を起こすことができる。しかし生体触媒はタンパク質という高分子化合物でであるため基質に対する分子の大きさが大きく、また、基質特異性を持っているために基質結合部位以外の部位に結合することができないため、同一表面積に対する触媒活性部位が金属触媒と比べて少ない。以上のことから基質が飽和状態になってしまい、基質濃度と反応速度のグラフはVmaxに収束していくのである。
A:普通の酵素は、わずかな量で反応を触媒しますから、酵素が基質と全部結合してしまうことが当然起こりえます。酵素の数が問題になるという点は、まさにその通りだと思います。
Q:活性化エネルギーを与えて、それまでには起こりえない反応の方向へ導く触媒は非常に重要である。工業化できるような触媒を見つければ多額の金が入ってくるように、その存在の発見はほど遠いようにみえるが、触媒反応とは我々の体の中でも起こっている。授業ではほんの一例としてCO2→C+O2を挙げた。これは何気なく用いるべきではない。植物の体内ではこれは呼吸の一貫として行なわれているが、それが地球上の二酸化炭素を分解するほどの能率をもったらどうだろう。つまりCO2→C+O2には浪漫があるということだ。これの分解するための触媒の発見を本気で見つけたいと思ったほどだ。これは光触媒反応(e.g.TiO2)で分解させるのが理論的には考えられているが、その成果は全くである。このような状況の中で具体的な手法を思いつくのは難しいが、私はルテニウムやロジウムの使用も考えており、研究室配属になったら是非とも行なってみたいものである。
A:きちんと説明しませんでしたが、触媒というのは、反応の方向を変えることはできません。つまり、あくまである方向に進む反応について、その方向への速度を変化させるだけです。つまり、炭素の酸化のようにエネルギーを生み出す反応の場合は、反応の方向を逆転させるためには触媒(酵素)だけでは足りず、エネルギーをつぎ込む必要があるのです。植物の光合成の場合は、そのエネルギーとして光エネルギーを使っているわけです。「光触媒反応」と言っているので、そのあたりは理解しているようですが、念のために補足しておきます。