生物学通論 第8回講義

炭素同化(続き)

第8回の講義では、先週に引き続き、光合成において二酸化炭素が有機物に同化される仕組み、すなわち炭素同化の反応についてC4光合成やCAM光合成を中心に解説しました。


Q:CAM植物はCAM型光合成を行う植物のことである。CAM型光合成はC4型光合成のように二酸化炭素の濃縮と還元を別々に行っている点では同様である。しかし、C4植物はC4回路、C3回路と場所を分けて行っているのに対し、CAM植物は昼・夜と時間的に分けて行っている。サボテンがCAM型光合成を行っていることから、CAM型光合成は砂漠のような昼夜の温度差が大きく、常に水が不足しているような気候に適した形であると考えられる。植物は気孔を開くことで二酸化炭素を取り込むが、それは同時に水分を失うことでもある。砂漠のような環境では極力水分の蒸散を抑えなければならない。しかし、二酸化炭素の取り込みは行わなければいけないので、CAM型光合成は役割を時間的に分化させたのだろう。CAM植物は夜に気孔を開き二酸化炭素を取り込みリンゴ酸を合成し、それを液胞のリンゴ酸プールに蓄え、昼にリンゴ酸を分解することで栄養分を得ている。砂漠のような気候では夜の方が極端に気温が低く飽和水蒸気量も低くなることから、気孔を開いても昼に比べ水分の蒸散を抑えることが出来る。また、普通の植物(C3植物、C4植物など)は昼に二酸化炭素のピークがあるが、CAM植物は夜にピークがくるので競争が少なく二酸化炭素を吸収しやすいといったメリットもあるのかもしれない。講義では、リンゴ酸の量の時間変化を調べたグラフが提示された。これによると、夜間にピークが来ているのは当然だが、リンゴ酸の分解が終わってしまうと日中であっても夜の光合成、つまり二酸化炭素の取り込みを行っているようだ。ここで疑問に思ったのは、何故リンゴ酸の合成を日中に行うのかという点である。CAM型光合成が水分の蒸散を抑えるのが目的なら、気温の高い日中に気孔を開いて二酸化炭素を取り込むより、二酸化炭素を取り込みリンゴ酸を合成する夜の光合成を、日中に比べまだ気温のあまり高くない明け方まで延長しリンゴ酸の蓄えを増やしたほうが効率的ではないのだろうか?それとも液胞に蓄えられるリンゴ酸の限界なのだろうか。また、季節によって昼夜の時間の長さは異なるので、季節によっての昼と夜の光合成の時間配分は変わるのだろうか?このことを調べることで、CAM植物の役割の昼夜の変化が何によるものなのか調べることができるだろう。季節によって変わらなければ時間的な要因によるもので、季節によって異なれば環境的な要因(日照時間の変化や気温の変化など)によるものだとわかる。環境適応が目的なのだからおそらく後者であろう。サボテン以外にCAM型光合成を行っている植物としてはラン科の植物があげられる。ラン科の植物全てがCAM型光合成を行っているわけではなく、胡蝶蘭のような比較的葉の厚いラン科の植物がCAM型光合成を採用しているようだ。胡蝶蘭は樹木や岩場に生息する着生ランであることから水不足に対処するために、サボテンのようにCAM型光合成を行っているのだろう。サボテンも他の植物に比べ厚い葉を持っていることから、CAM型植物が厚い葉を持っていることには意味があると考えられる。理由として考えられるのは、CAM型光合成の機能を行うためにはそれだけの葉の厚さが必要なのか、または気孔を開いたときの水分の蒸散を薄い葉に比べ抑えるために厚い葉を持っているといった理由が考えられる。

A:長い!一応400字程度が目安ですから3倍以上ですね。ここまで頑張らなくても大丈夫です。一点だけ気になった点を。リンゴ酸を使いきると日中でも二酸化炭素をとりこみ始めるのは確かですが、この際の光合成は普通のC3光合成です。ですから、リンゴ酸の合成を日中もやるわけではありません。


Q:炭素と窒素の同位体比を用いることで縄文人の食生活が推測できるという研究の紹介があったと思うが、その同位体比について考えてみた。地域ごとにコラーゲン内の炭素および窒素の同位体比から、草食動物と同じような値が出ることで植物中心の食生活をしていたと考えられる集団と、海生哺乳類や海生魚類などに近い値が出ることで魚類など中心の食生活をしていたと考えられる集団があった。以上のように食生活で同位体比に変化があらわれたと考えると、コラーゲン内の炭素および窒素同位体比(特に窒素同位体比)は、遺伝によって受け継がれ種の中で同じような値をとるというよりは、生後の食生活によって変化するような後天性のものであるということになる。すると、食べれば食べるほど例えば窒素15の割合が高くなっていくことになり、老人の方が若いヒトより窒素15の割合が高くなるのではないかと思った。そうなると、授業中に示された研究結果は、調査した遺骨をとった遺体の年齢が近くないと正しいとは言えないだろうと思った。年齢の違いが大きいと食事の回数の影響が大きく出てしまうのではないかと思った。

A:なかなか、目の付けどころがよいですね。僕が専門のところではありませんが、そのような傾向はあるかもしれません。講義の中でも少し触れましたが、代謝回転の速度が問題になってきます。その速度が非常に遅ければ、年齢の効果が大きく表れてしまうでしょうね。


Q:CAM植物は昼間は水分の放出を恐れて気孔をあまり開けないというのは分かりました。昼間に光合成をするなら酸素が放出されるはずですが、気孔を開いていなかったら放出できないのではないでしょうか。そこで2つのことが考えられます。
1.放出している
2.放出せずにため込んでいる
1.について:まずはごく僅かに放出しているということが考えられます。そもそも光合成の反応自体が少なければ産出する酸素も少ないということになれば、ほとんど気孔が開いていなくても問題ありません。しかしこの仮説だと栄養もあまり作られないという問題が生じてしまいます。その解決策は思いつきませんでした。
また、昼の間は酸素としてためておいて、気孔が開く夜に放出するということも考えられます。この仮説が一番自然な気がします。
2.について:酸素は放出されずに他のものに置き換えられてためられているのではないでしょうか。多肉植物は葉や茎が分厚いので、それを構成するために酸素が使われるか、水分が多く蓄えられているのでH2Oとして蓄えられているのかもしれません。もしこの仕組みを解明したらノーベル賞も夢じゃない気もしますが。
また、1と2の両方が行われているということも考えられます。今回は仮説の根拠がはっきりしておらず、あまり深みのないレポートになってしまいました。

A:深みがないと卑下するほどでもありませんが、空気中の濃度との関係を考える必要があるかもしれません。光合成では、二酸化炭素の吸収と酸素の発生が1対1で起こります。空気中の二酸化炭素濃度は0.04%ですから、それが全部酸素になると、もともと21%ある酸素が21.04%になります。これは、「放出する」というほど大げさな変化ではありませんよね。CAM植物の場合は、夜の間に空気を循環させることができますから、0.04%分だけではなく、もっと多くの酸素を発生させることができるでしょう。それでも、元から空気中にある酸素濃度と比べて非常に多くなることはなさそうです。あと、一般的にはCAM植物は生育が非常に遅いものが多いようです。


Q:今回の授業ではCAM植物に特有なCAM型光合成を扱った。CAM型光合成は気孔の開閉によって蒸散抑制とCO2取り込みを両立させることのできる光合成であり、C3・C4植物が昼間の光合成によってCO2を取り込むのに対し、夜間にCO2を取り込むという特徴をもっている。夜間にCO2を取り込む時には葉内にリンゴ酸を生成し、昼間は夜間に作られたリンゴ酸を利用してカルビン回路をまわすことによってデンプンなどの炭水化物を生成する。つまり昼間の間はCO2を吸収する必要がないので気孔を閉めることができ、それによって蒸散抑制といった効果が期待されるというものであった。
 授業で扱ったCAM植物のCO2固定量と気孔の開いている量のグラフを見て気になったことがあった。このグラフから読み取れるものは、昼間にカルビン回路をまわすためのCO2源は夜間に作られたリンゴ酸であるが、リンゴ酸の蓄積量には限界があるため夜に近くなると気孔を開放して大気からのCO2取り込みを行うことでCO2固定を行うということであった。
 まず、なぜリンゴ酸の蓄積量を越えてまでCO2を取り込む必要があるのかを考えた。これはたぶん単純で、太陽光が当たっているうちはなるべく多くカルビン回路をまわしたほうが植物がより成長するからだと考えられる。加えてリンゴ酸が消費されているということは葉のpHがより中性に近づいているということなので、より効率のいい反応を行うことができるのではないかとも考えた。
 するとなぜリンゴ酸の蓄積量は昼間の間カルビン回路をまわし続けるだけの量をとらないのか気になるところである。リンゴ酸の蓄積量が十分であれば蒸散というリスクをおかしてまでCO2を吸収する必要はないはずである。CAM植物が登場がいつ誕生したのかはわからないが、リンゴ酸の蓄積量を十分にするほどの進化はできなかったのかと疑問に思う。
 ここで考え方を逆転させると、進化的に十分な時間がとれていたとすれば、なぜ昼間の間カルビン回路をまわし続けるだけのリンゴ酸を蓄積することができない(あえて蓄積しない)のかという疑問が生じる。単純に考えられる要因は容器としての植物の容量の限界だが、それだけなら進化の過程でなんとかなったのではないかと思う(進化がそんなに万能なのかはわかりませんが…)。
 容量以外の要因を考えたところ、pHが関係あるのではという考えに至った。授業でC3・C4植物がCAM型光合成をとらない理由としてpHの問題があると説明を受けた。CAM植物はリンゴ酸を蓄積するので、葉のpHを測ると朝方が酸性(表だと確かpH3)程度で時間がたつと中性に近づいていくというものであった。植物に限らず生物の行う様々な反応には酵素が欠かせないが、酵素には最適pHや最適温度があるので酸性という環境は様々な悪影響を与えるということである。これをふまえ、pH3を下回らないリンゴ酸の限界ラインまでしかあえて蓄積しないのではないかと考えた。リンゴ酸はpH調整剤に使われるくらいなのでpHに与える影響は小さくないと思うし、逆に言うとpHを調整しやすいという点でリンゴ酸がCO2を葉内に保存する物質に選ばれたのかもしれない。
朝の段階でpH2のCAM植物とかが発見されればすごい発見になるのでは?

A:これも長い。でも面白いですね。リンゴ酸は細胞の中で液胞にためられます。細胞質は、基本的な代謝の反応を行なう部分ですから、pHがあまり酸性になっていると必要な反応が進みませんから、pHは基本的にはいつも中性付近です。そうすると、液胞をすごく酸性にしようとしても漏れ出てくる部分があるので、一定以上に酸性にするのは難しいのだと思います。


Q:CAM植物の光合成は時間的な分化をしていて、夜と昼では働きが違う。これは気孔の開閉により調整されていて、夜は気孔をあけ昼は閉じている。では植物はこの気孔の開閉を何を元にして夜や昼を判断しているのだろうか。昼や夜などの区分はあいまいなものでその地域や季節によって時間は変わってしまう。なので気孔の開閉の基準は光の当たり具合によるものだろう。もちろんこれが光合成という光を利用する反応であることも関係している。これは実際に昼に光を当てないで、その気孔の様子を観察することで確認することができると思われる。また利用する光が太陽光でなければいけないのかどうかも様々な光を利用した対照実験により判断できると思われる。

A:ここは、本当は非常に面白いところです。CAM植物は気孔を夜に開けますが、C3植物、C4植物では昼間に開けるわけです。もし、光によってその調節をしているとすれば、植物の種類によって全く反対の制御をする必要がありますね。でも、二酸化炭素の濃度を考えるとすればどうでしょう。そのあたり、色々考える種があるところだと思います。


Q:文献によると「夜間に気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、リンゴ酸を蓄積する。昼間日光の当たっているときには気孔を閉じ、リンゴ酸の脱炭酸によって生じた二酸化炭素とピルビン酸(またはホスホエノルピルビン酸)のうち前者は還元的ペントースリン酸回路に入り、光合成的に還元されて糖になる。後者も糖の代謝経路に組み込まれていく。この型の炭素代謝をする植物をCAM植物という。」とあります。夜間にリンゴ酸が蓄積されるということは朝方にpHが低くなるということであり、pHの変動が起こるといえます。授業の「簡単なCAM植物のチェック」では低いものでpH3になる植物も存在することが分かりました。このようにpHが変動してもどうして植物が生きていけるのか不思議に思いました。おそらく、植物の体全体がpH変動するのではなく一部がpH変動するのではないかと思います。授業の第2週目では生体膜について学びましたが、真核生物である植物はオルガネラによってpHごとに空間を隔てていると考えられます。
参考文献 西村光雄著 「光合成」岩波書店

A:最初の文献の引用の部分は必要ないでしょう。「夜間に・・・」という自分の考えを述べた部分だけで立派なレポートです。レポートの最後の結論はその通りでしょう。