生物学通論 第7回講義
炭素同化
第7回の講義では、光合成において二酸化炭素が有機物に同化される仕組み、すなわち炭素同化の反応について解説しました。
Q:授業タイトルの炭素同化について考えてみた。我々人間など動物は、他の動植物などを食べることによって、栄養分である糖などの有機物を得ている。一方植物は、炭素同化という形で大気中や海中の二酸化炭素を糖などの有機物にして栄養を得ている。何故炭素同化という形をとるのかについて考えてみたが、炭化水素などの有機物は基本的に有機溶媒には溶けやすいが水には溶けにくい。すると、地中の水分を根から吸い上げることで有機物を得ることは困難であると考えられる。そのため水中や太古の地球大気に豊富に存在した二酸化炭素を利用する炭素同化という形をとるようになったのだろう。考えにくいことだが、もし、地球の表層が水ではなくジエチルエーテルなどの有機溶媒で覆われていたら、二酸化炭素を用いた炭素同化という形は取らず、根から有機溶媒ごと有機物を吸い上げる形を取ったのではないかと考えた。
A:面白い!が、独立栄養生物と従属栄養生物の違いという重要なポイントには、わざと目をつぶっているのかな?
Q:C3植物とC4植物について。C4植物に比べてC3植物のほうが最大光合成能力が低いというのを聞ききました。なぜでしょうか。C3植物ではカルビンベンソンサイクルに大気中から直接炭酸を取り入れています。しかし光をいくら強くしても二酸化炭素濃度は一定なので光合成速度は上がりません。C4植物では二酸化炭素を取り込んだ後、炭素数4の化合物にしてからカルビンベンソンサイクルに送ります。それによりカルビンベンソンサイクルに導入する物質の濃度をあげることが出来て、直接炭素を取り込んだときよりも、効率的に炭素を利用できるようになります。光の強さが同じ時には、ある濃度までは二酸化炭素濃度が高いほうが光合成の速度が上がります。なので、授業でも言っていたこの炭素濃縮によって、C4植物のほうが最大光合成能力は高いと考えられます。このレポートを書いてて思ったんですが、自分の足りないところを調べて補足しながらレポートを作り上げていくという作業は、サッカーのチームのキャプテンをしたときに、どう改善したらいいかわからないときにほかの人に意見を求めながらチームを作っていくことに似ていると感じて、自分に役立つレポートだと思いました。
A:このように書いてしまうと、なんとなく当り前な気がしてしまいますから、もう少し、重要なポイントに目を向けさせるような工夫があるといいですね。例えば、C3植物の説明のところで言っているのは、光合成の律速段階になっているのは光ではなくて二酸化炭素なのではないのか、ということですよね。そこをきっちり押さえれば、二酸化炭素の濃度が律速ー>二酸化炭素濃縮機構があれば光合成速度が上昇する、という論理を構築することができます。
Q:ルビスコは葉緑体の可溶性タンパク質の半分を占める酵素で、カルボキシラーゼ反応とオキシゲナーゼ反応の両方を行うことができる。このオキシゲナーゼ反応によって端的にいうとCO2を生成する光呼吸が行われる。この光呼吸の生理的意義として最有力なのが光阻害の回避ということだと説明があった。『光阻害の定義は長時間にわたる光合成効率の低下であり、植物が消費できるエネルギーに対して過剰な光エネルギーを照射された場合に生じるもの(森林総合研究所)。』反応だけをみるとエネルギーの無駄遣いにしか見えない光呼吸の存在は謎が多いと思った。
前回のレビューシートでなぜ光合成では可視光域の光をすべて活用しないのかを考えたが、光阻害という現象があるなら光をすべて活用しなくても十分なエネルギーを得ることができるからという説明ができる。光呼吸が光阻害の回避という目的であるのならば、可視光をすべて活用していないにもかかわらず今の光の吸収量でも光が過剰な状態であるということになる。それなら無理に可視光域のすべての光を使う必要はないと考えられる。
光が過剰な状態ということは必要以上のエネルギーを得ているということであり、カルビンベンソン回路における炭素固定の能力を上回る光があたっているということになる。前回の講義によると光合成は酸化・還元力を得る反応であるので、余剰エネルギーは不必要な電子の移動を引き起こしかねない。余剰エネルギーが光呼吸として固定能力の限界を超えた炭素をCO2として放出するために利用されるととらえれば、光呼吸は光阻害の回避という役割を持っているといえる。
光呼吸が光阻害の回避という役割を持っているのなら、光呼吸の度合いは光の吸収量に依存するはずである。ということはある植物があったとして、その植物の葉の一枚ごとに光呼吸の度合いが変わっていてもおかしくないのではないか。影になってしまう葉もあれば葉の一枚一枚で光を受ける角度も異なるのだから、上の方にあって光をより多く吸収する葉ほど光呼吸の度合いが大きくなると考えられる。これは光呼吸の度合いを測る指標があれば実験できるはずである。葉の一枚ごとに光呼吸の度合いが異なれば光呼吸が光阻害の役割を担っていると考えることができると思う。
A:考え方としてユニークなのは最後の段落の部分だと思います。レポートとして評価するのは自分なりの考え方ですから、この部分だけでも十分でしょう。面白い考え方だと思います。
Q:今週の授業でルビスコという酵素について初めて知りました。二酸化炭素の固定反応に使われる酵素ということで、非常に重要な役割を担っており、なくてはならない酵素であるとともに、生物の専修如何を問わず知っておくべき酵素であると思いました。しかし、ルビスコは重要であると同時に効率の悪い酵素でもあることを学びました。そのような酵素がどうして使われているのか疑問に思いました。ルビスコの存在を歴史的に考えてみると、地球大気の二酸化炭素の分圧が圧倒的に高かった時代は、ルビスコのオキシゲナーゼ作用は無視できる欠点であったと思われます。しかし現在では酸素の濃度が二酸化炭素の約500倍もあり、明らかに非効率であると思われます(酸素に対する二酸化炭素の反応性の比が100倍もある酵素でも、酸素が二酸化炭素の5倍反応してしまう計算になる)。それでもルビスコが生き残った理由としては
1)ルビスコが現在の環境に適応するように進化した
2)ほかに適当な酵素が存在しない、または作れない
3)実はほかに有用な反応を促進している
などが考えられます。1)は、授業でルビスコに最大活性の違いなどが挙げられたので、同じルビスコでも様々なタイプが存在する、ということでありルビスコ自身が進化した可能性は高いと思います。2)に関してはルビスコが巨大な分子であること、すでにカルビンサイクルの一部として役割が確立して生体中に大量に存在していることなどから、別の酵素を新たに作り出すのは容易なことではないと考えられ、やはり可能性のある理由であると思います。3)に関しては酵素の特異性に反するのでおそらく理由にはならないと思います。光呼吸のような「副作用」が存在し、「効率の悪い酵素」であるにもかかわらずルビスコが生き残ったのは、私は2)が最大の理由であると思います。
A:しっかり考えていると思います。レポートとしては合格点でしょう。ただ、論理自体は、他にも似たようなレポートがありました。これで、考え方にその人ではないと思い浮かばないのではないか、という独自性が加われば素晴らしいものになるでしょう。
Q:C3植物とC4植物というのがあって、光合成の仕方が違うため、それぞれ適所がある(C3植物は高地、C4植物は乾燥・低地に多いなど)と習いました。具体的にどんな植物がC3、C4なのかを調べてみました。
C3植物…イネ、小麦などの主要作物、ほとんどの木、植物
C4植物…ヒユ科、イネ科(トウモコロコシ、サトウキビ等)
同じイネ科でもトウモロコシはC4なのに、イネはC3なことに驚きました。でも、確かにイネは水田をはって十分な水分の下育てることから、C3植物の光合成機構に適しているのに対し、トウモロコシはアンデスの山地が原産ということやアメリカで沢山栽培されていることを考えると、C4植物の光合成機構に適していると納得できました。ですが、少し疑問があります。C3植物は高地、C4植物は低地と授業で習いましたが、C3植物であるイネは低地、C4植物であるトウモロコシは山岳地帯で育てているように思います。これはどうしてなのでしょうか?反応機構から考えると
・C4植物は気孔を閉じても生きていけるから乾燥地に適している
・ただし、C4植物は光合成に余分なエネルギーが必要
ということから、関係があるのは水分と日光だと思うのですが、C3が高地、とC4が高地に多いといえるのはどうしてなのでしょうか?
参考文献:光合成の科学 東京大学光合成教育研究会 (編集)、早稲田大学 新鐘70(2004.7.7) 太田俊二, http://www.waseda.jp/student/shinsho/html/70/7010.html、京都大学 ニュースリリース(2005.11.1), http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/documents/051101_2.htm
A:まず、実際にはC4植物も、極めて広い範囲の植物種に認められます。ヒユ科、イネ科だけを取り出すのは、やや誤解を招きます。また、講義の中で取りあげた高度によるC3/C4植物の分布の変化は、ケニアのデータで、低地が乾燥地、標高が高くなると湿潤になる、という地理的な要因があるので、あのようになるのです。ですから、植物の分布に直接影響を与えるのは、標高そのものではなく、土壌の水分係数である、ということになります。
Q:光呼吸が植物の進化の過程で捨てられることがなく、さらに光呼吸をおさえる商業上の試みがことごとく失敗していることから考えると、光呼吸はまったく無駄な反応に見えるものの、植物にとって何か重要な役割をもっているに違いない。光呼吸は植物の成長を、ことに熱帯地方においては40%も妨げる。授業では光呼吸のご利益は主に強すぎる光の影響を緩和するためだとしていたが、このようなお荷物がそんなちっぽけなご利益のために維持されているとすると、強い光はそうとう植物にとって致命的らしい。しかし「生と死の自然史」という本によると、光呼吸の割合は酸素濃度と温度の上昇とともに大きくなるそうだ。太陽光の強さが大きいところでは温度が高いことは容易に想像がつくが、光の強さと酸素濃度には何の関係もない。もし光呼吸が光を緩和するためのものであるとしたいならば、酸素濃度との相関も説明できなければならない。私は光呼吸が光を緩和することを主たる目的として機能しているという考えに否定的である。となると私も同様に光呼吸の存在理由を酸素濃度と関連付けて説明できるモデルを考えなければならない。(このモデルは純粋に私の考えではなく、この本が間接的に意味していることだが、)そのモデルとは酸素は毒であるので、光呼吸によって酸素を消費して解毒するというものである。このモデルなら強い光の問題よりも、自らの成長を犠牲にするのもうなづける。さらにここからが私の独自の考えであるが、強い光も高い酸素濃度と同じような働きをする可能性がある。なぜならば紫外線は水分子を分解し反応性の高いオキシドラジカルを形成するからだ。このラジカルの形成こそ、酸素が毒であるゆえんである。この考えが正しいとすると、結局光呼吸の理由は酸素の毒から身を守るためとなる。
参考文献:ニック・レーン(2006)「生と死の自然史 進化を統べる酸素」東海大学出版会
A:光合成では、大気中に0.04%しか含まれない二酸化炭素を苦労して有機物に変え、その際に同じモル数の酸素を放出します。一方で、大気は21%もの酸素を含んでいます。つまり、酸素が毒だからそれを何らかの代謝によって消費しようと思ったら、光合成(これは地球における最大規模の代謝反応です)の500倍もの反応を進行させないといけない計算になりますよね。それを考えるとなかなか厳しいのでは?