生物学通論 第6回講義

光合成の初期反応

第6回の講義では、主に光合成の初期反応の仕組みについて解説しました。レポートでは、地球上の最初の生命がどのようなものだったのかという点と、光合成色素に関するものが多くを占めました。これらの点については、回を改めて話した方がよいかな、と考えました。


Q:色素が受け取る光エネルギーについて考えてみた。反応中心やその周囲にあるアンテナ色素が光子(フォトン)を受け取り、光合成の中での酸化還元電位に逆らうだけのエネルギーを得て、反応を進行させていくことはわかった。しかし、光には様々な波長があり、様々なエネルギーがあるため、そのエネルギーの連続性のある違いにはどのように対応しているのだろうと疑問に思った。量子力学についても、光子を受けてからそのエネルギーをどのように反応に使うかがわからないため、大した考察は出来ないが少し考えてみた。光の波長は飛び飛びではなく例えば可視光であっても紫から赤まで連続性のある波長の中で任意の波長をとる。しかし、光化学複合体などの中で進む反応で用いられるエネルギーが決まった量であるとすると、受け取った光のエネルギーとその量との差はどのようになるのだろうという疑問が生じた。全くの推測でしかないが、その差は、
1.差のエネルギーに等しい光を放出する。
2.熱エネルギーとなる。
3.蓄える。
などになるだろうと考えた。しかし、1は葉の色に変化が表れるように思うし、電子の励起などから考えにくいようにも思った。2だとしたら葉に熱が溜まってしまうように思った。3だとしたらどのような形でエネルギーを蓄えるのか考えにくいと思い、どの形も考えにくいように思って、なお疑問が深まってしまった。

A:正解は2です。実は、直接熱にならずにATPの形になる場合でも、それが生体内の反応に使われた場合には、最終的に熱になります。ですから、基本的には植物は葉からの水の蒸発による気化熱などによって熱を排出していることになります。なお、デンプンなどに変えた場合は、3のエネルギーを蓄える、に相当することになりますが、これも、そのデンプンを分解してエネルギーを取り出す際には、最終的に熱になります。


Q:昔の地球ではオゾン層がまだあまり発達していなかった時代がある。その時代は現在よりも紫外線が強く太陽光は短波長側に広かっただろう。そういう環境で光合成が誕生したわけだから光合成の過程で吸収する波長領域は現在のそれよりも短波長側にあった可能性はあるかもしれない。もしそうだったら光合成ではより大きいエネルギーの光を使える。そのために水から始まる酸化還元電位図は今のものと違っていたかもしれない。たとえばある過程をとばすことができたり、2段階にしなくても1段階ですんでしまうかもしれない。また、今の植物は赤領域の光を吸収するので緑色だが、青の光を吸収するものはオレンジ色ということになる。時がたつにつれ大気中に酸素が蓄積しオゾン層も厚くなったので、青の光を吸収することは効率が悪くなり次第に赤の方向へシフトしていったかもしれない。この一連の流れが正しければさまざまな吸収波長領域をもつクロロフィルがあるはずで、もしかしたら生き残りが特殊な環境(たとえば赤の光が吸収されてしまう深い海など)で生き残っているかもしれない。

A:確かに紫外線を使うことができれば、光子あたりに大きなエネルギーを使えることになります。ただ、紫外線は生物の遺伝物質であるDNAに吸収され、それを破壊してしまう効果があります。ですから、遺伝の仕組み自体を変化させないと紫外線を利用するのは難しいでしょうね。


Q:「独立栄養生物」と「従属栄養生物」というものがよくわからなかったので、これらについて調べつつ、どちらが地球最初の生物なのか考えたいと思います。「独立栄養生物」は光合成を行なって独立的に栄養を営むもの、従って、植物=独立栄養生物と考えられます。物質生産を行なうのは独立栄養生物であり、有機物の大部分が植物によって生産されているので、植物=生産者と考えます。一方、既に生産された有機物に依存して生きている生物を「従属栄養生物」といいます。 植物以外のほとんどの生物がこれに当たります。生産者である植物の作った有機物で生きているので、この場合「従属栄養生物」は消費者となります。しかし、「従属栄養生物」の中には有機物を最終的に無機物まで分解するものがいて、消費者から区別して分解者と呼びます。分解者に該当するものは有機物を完全に無機物に還元する働きを持つ細菌類などの微生物です。これらの役割を考えていくと、やっぱり地球最初の生物は生産者である「独立栄養生物」だと考えられます。動物が植物に依存して生活しているということは事実であり、豊かな生物相は豊かな植物相、特に植物生産量を前提として存在していると考えました。高校の時に生物を取っていなかったので、理解度も不十分だし、毎回レポートをどのように書けばいいのか悩んでいます。どういうことをどのくらいのレベルで求めるのか教えていただけると幸いです。

A:高校で生物をやっていないと、そもそも従属栄養などの言葉が分からないのですね。すみません。さて、レポートですが、僕がレポートに求めるのは、自分の頭で考えた論理です。もちろん、その論理が事実に基づいていれば、それに越したことはありませんが、別に一定の基礎知識を要求しているわけではありません。別に「植物の多くが根っこで歩いて移動できるようになったら」など現実にはあり得ない課程に基づいて論理を展開してもかまいませんし、知識不足によって間違った仮定を置いたレポートであっても、論理がしっかりしていれば高く評価します。今回のこのレポートについて言えば、生産者、消費者、分解者にわけてその役割を考え、そこから論理的に地球最初の生物を考察していますからレポートとしての最低ラインはクリアしています。ただ、ここに示された論理は、おそらく非常に多くの人が同じように考えると思います。可能であれば、他の人とは違った、何か特徴のある論理、あるいは独創性をもったテーマ設定をレポートの中で展開すれば、さらに高く評価します。技術は他の人の真似でも結果がうまくいけばよいのですが、科学では独創性が必要不可欠です。


Q:光合成の酸化還元電位では、反応中心で光のエネルギーを利用して電位をマイナス側に移行させるということを学びました。しかし、光のエネルギーがどのようにして電子伝達のためのエネルギーに変換されるのかわからなかったのでそれについて考えたいと思います。光子が受容体に当たると受容体の電子が活性化して盛んに動き回り、分子同士を移動して電子伝達が行われるものと考えられます(量子化学などに弱い私では、かなり定性的な考察しかできませんでした)。文献で調べてみると、「光の粒子がクロロフィル分子に当たると電子が活性化される(すなわち電子はエネルギーを獲得する)。活性化された電子は少量ずつのエネルギーを放出しながら一連の電子受容体の間を受け渡されていく。電子伝達の際に放出されたエネルギーはこれに共役しているATP合成にとらわれる。シトクロムやフェレドキシンのような一群の複雑な金属たんぱく質が、基本的にはミトコンドリアの中で電子伝達/酸化的リン酸化系に類似した反応で電子受容体としてはたらいている。」とあり、私の考察は非常にレベルは低いながら、おおよそ正しかったことがわかりました。光合成は太陽光という半無限のエネルギーを利用できるというてんで、昨今のエネルギー資源問題の解決に非常に魅力的だと思いますが、クロロフィルを使って光合成を人工的に行わせることができないのかという考えが昔から私にありました。今週の内容(正確には先週の復習ですが)と踏まえて考えたいと思います。光合成では、電子伝達の際にプロトンが電子とくっついて膜の内側に浸透すると、膜の外にプロトンを戻そうとする力が働き(プロトンの濃度勾配)、その力を利用してATP合成酵素にプロトンを通してATPを合成するというメカニズムがあることを学びました。光合成をするためにはこのうように複雑な反応系が複数働いて起るものであり、単にクロロフィルを使うだけでは光合成をおこなわせることはできないと考えられます。

A:20世紀の前半に、クロロフィルなどの光合成色素の構造決定が盛んに行われ、ノーベル賞受賞者を何人も出しています。それは、クロロフィルの構造が分かれば光合成の秘密が解けるのではないか、という空気があったからです。ただ、現実にはクロロフィルの構造というのは、光合成という極めて複雑なシステムのほんの一部でしかない、ということが分かったわけです。


Q:光合成に葉緑体を用いることは一般常識として知られている。しかし、なぜ葉緑体は緑色であるのか、可視光全ての波長の光を吸収すれば効率がよいのではないか、と疑問に思った。葉緑体が緑色をしているということはつまり緑色の波長の光を反射しており、他の波長の可視光は吸収して光合成に用いているということである。葉緑体の起源はシアノバクテリアであるとされており、27億年前から葉緑体が存在していた。つまり、葉緑体自身が誕生した当時は海の中で光合成をしていたことになる。水は青い光を透過し赤い光を吸収するため、海の中に届きにくい赤い光や緑色の光を用いるのは不効率であると考えられる。その後陸に植物が上がってきた時にさらに効率を上げるために青い光と波長のずれが大きい赤い光を用いて、緑色の光まで吸収するとエネルギーが高くなりすぎて枯れてしまうため緑色の光は反射して捨てたと考えられる。

A:実は緑の光を捨てている、というのは誤解です。葉が反射する光の中で緑が多い、というのは事実ですが、葉の緑色の光の吸収率は70-80%に達します。その意味では、木の葉っぱなどの場合、かなり「黒に近い」という言い方もできるかもしれません。


Q:今回の授業では光合成の電子伝達経路などについて学んだ。大山ほか(2008)を利用して調べてみると、光化学系Iからフェレドキシン(Fd)を経て、シトクロムb6/f複合体のプラストキノン(PQ)に戻る回路(循環的電子伝達系)があることが分かった。ここで、なぜNADPHをつくらずに戻る回路が存在するのかという疑問が生じた。市川・福岡(2003)によると、この過程においてはNADPHを生産する代わりに電子がチラコイド膜を横切ってさらにプロトンをくみ上げるため、さらにATP分子が合成される。よって、ATP分子を合成するためにこの回路が存在すると考えることができる。このメカニズムは前回の授業で扱った発酵のメカニズムに似ていると思われる。発酵の場合はピルビン酸やNADHを消費し、様々な反応で必要となるATPの合成を促進している。一方、循環的電子伝達系の場合は、発酵の場合のように何らかの物質を消費しているわけではないが、NADPHを生産する場合よりもATPの合成量を増加させている。このように、最終的にATP合成の促進に役立っているという点において、発酵と循環的電子伝達系は似ていると考えることができる。前回の授業で植物には基本的に発酵がないことを扱ったが、それは循環的電子伝達系によりATP分子の合成をより多く行うことができるということも一因であると考えられる。
(参考文献)1.市川厚監修、福岡伸一監訳(2003)「マッキー 生化学(第3版)−分子から解き明かす生命」化学同人 722p.、2.大山匁S峠ぁ∪樟邂貳・・郷絽・以圈ハ2008)「ベーシックマスター 生化学」オーム社 414p.

A:なるほど。循環的電子伝達がATPを作るので、というのは面白いアイデアですね。少なくとも、僕はそのような方向を考えてみたことがありませんでした。


Q:光合成は太陽の光以外でも、蛍光灯の光でも行われると聞きました。調べてみると波長に関係しているようでした。その波長を調べようとするときに、実験することなく絞り込む一つの考え方を思いついたので述べます。光合成は葉緑体(クロロフィル)で行われますが、その葉緑体の色は緑色です。ということは、人間の目には緑色の光が入ってくるということであり、葉緑体では緑色の光の波長以外の波長を使って光合成をしていると考えられます。緑色の波長は500-580nmであり、実際に光合成で使われる波長は400-500nmと650-700nmなので、この考え方はあたっていると考えます。しかし可視光線の波長は400-800nmなので700-800nmの赤~赤紫色の波長は見えてもいいはずです。この光はどのように説明すればいいでしょうか。これは、クロロフィルの色は緑と赤の光を合わせた色だと考えるか、赤色の光はどこかで吸収されてしまったと考えられます。

A:考え方は面白いと思います。ただ、「可視光線の波長は400-800nmなので」という部分が、むしろ事実に反するのではないでしょうか。700 nmというと目に見えるかどうかの境ですし、800 nmの光を見ることのできる人はいないと思いますよ。


Q: 光合成はアンテナ色素によって吸収された光エネルギーが反応中心で電荷を分離するエネルギーとなることによって外部からのエネルギーがない状態では起こりえない電子の移動を可能にし、酸化・還元力を得るという反応であった。アンテナ色素による太陽光の吸収が光合成の開始という役割を持っていることになるが、例えばクロロフィルなどのアンテナ色素が緑色を呈するということは太陽光のうち緑色の可視光域の光を利用せずに反射しているということになる。アンテナ色素の目的が光を吸収するものであるなら、緑の光を活用した方が効率がいいのではないかと考えるのは容易である。
 まず、なぜ緑の光を利用しないのか考えてみた。もし緑の光を活用することになると可視光ではすべての領域の光を吸収するため植物は黒くなる。第一に目立たなくなるので昆虫や鳥などが花粉を運んでくれる機会が減るのではないかと考えた。第二にすべての光を吸収するということはそれだけエネルギーを多く得るということなので、処理しきれないエネルギー分が熱エネルギーに変換されてしまい植物内の水分を消費してしまうのではないかと考えた。第一の目立たなくなるというのは黒で塗りつぶせば実験できるのではないだろうか。第二の水分を消費するというのは黒で塗りつぶして気孔などを観察すればなにかしらの結果が出るかもしれない。
 次に興味を持ったのは、もし実験室などで緑色の光だけを当て続けて植物を育てたらどうなるのかということである。授業中に見た光の吸収のグラフだと緑色の吸収量は0ではなかったので植物が枯れてしまうことはないだろうが、緑の光の吸収量が多くなるような色素を多く合成するように変化すれば葉や茎が緑ではない植物ができることになる。このような変化が瞬間的に(実験する一世代だけで)生じることが可能なのかはわからないが、どうなるのかは興味がある。
 最後に今までの二つを組み合わせて合成色素をもった植物が生存可能なのか(合成色素を持たせることは可能なのか)ということに興味がわいた。可視光では光の吸収量が0になる領域はなかったように記憶しているので、一応光エネルギーを吸収することはできるのだと思う。もし合成色素を持たせた植物が生存可能なら葉1枚ごとに色が異なるカラフルな植物ができるかもしれない。
 ここからは蛇足になるが、恐竜は本当はカラフルだったのではないかという説があったなとふと思った。ヒトは3つの色領域を認識できるが恐竜は4つの色領域を認識することができる構造を持っていたのではないかという説だと思う。そのため多くの色を持っていたのではないかという考えである。植物も実はカラフルで、虫や鳥などが花粉を運んでくれる動物つまり植物を見る動物が退化したからカラフルでなくなったとかだったら面白い。想像の域は出ませんが…。

A:非常によく考えていますね。ただ、葉を黒く塗ったら単に光を吸収できなくなるだけでなく、光合成もできなくなるわけですから、その影響を切り離すことができないのがつらいですね。このレポートのように、一定の論理の範囲内で色々な想像をめぐらすことは、科学者として極めて重要な資質です。