生物学通論 第4回講義
タンパク質と酵素
第4回の講義では、タンパク質と酵素の働きについて酵素の化学反応速度論とともに解説しました。以下、今後どのようにレポートを書いてほしいかという点に重きを置いてコメントしておきます。
Q:酵素の役割として、生体内では温度を上げて反応を促進することはできない、ということがありましたが、例えば人間が風邪をひいたときなどに発熱を起こすことがありますが、これは体内で何らかの反応(おそらく風邪の原因と戦っていると思われますが)が過剰に起こってしまっているため、ということなのでしょうか。また、酵素の特異性として、特定の基質、そして特定の反応でしかその役割を果たさないとのことでしたが、当然ながら生体内にはたくさんの基質が存在しますし、反応もたくさんあると思います。この状況において、特定のものにしか働かないととてもたくさんの酵素が必要になってしまうと思ったのですが、それよりも何か」に特化することによって反応の促進の度合いを上げるほうを優先した、ということなのでしょうか。
A:疑問で終わってしまうとレポートにはなりません。最初のガイダンスで説明しましたが、疑問に対してはそれにこたえる論理・もしくはそれを証明する実験系を考えるようにしましょう。
Q:酵素は生体内の化学反応の触媒であることから生体触媒と言われている。
体内で起こる何千もの化学反応を、それぞれ別の酵素が対応している。今回は酵素のはたらきについて考えてみたいと思う。
○酵素の役割とは?:1つの酵素は1つの基質に専属であり、このことを酵素の特異性という。生体内では温度をあげて反応を促進することができないため触媒(酵素)が必要である。酵素は活性化エネルギーを下げることにより、反応速度を高め、生体内において実用的な速さにしている。
○酵素の分類:酵素は反応する様式により大きく下記の6つに分類される。
・酸化還元酵素
・転移酵素
・加水分解酵素
・脱離酵素
・異性化酵素
・合成酵素
○生体内では大きく温度を調整することはできないが、すべての酵素が触媒として機能する(活性)のに最適な温度は同じなのだろうか?また、酵素の活性に影響するのは温度以外にどのような要因があげられるのだろうか?温度によって酵素の活性が変わることを、酵素の温度依存性という。ほとんどの酵素の最適温度は45℃程度であるが、これより高くなるとタンパク質の熱変性により急激に活性を失ってしまう。例外として、温泉に存在する好熱細菌は最適温度が100℃近い耐熱性酵素を持っている。他にも酵素の活性はpHによって変わる。このことを酵素のpH依存性という。ほとんどの酵素は中性付近で最も高い活性を持ち、これを最適pHという。これは、極端なpHではタンパク質である酵素の立体構造が壊れてしまうからである。例外として、胃内部の酵素ペプシンやリソソーム中の酵素は酸性の最適pHを持ち、洗剤中のタンパク質分解酵素はアルカリ性の最適pHを持っている。
A:最初に「酵素のはたらきについて考えてみたい」とありますが、実際には、調べたことで終わっていますね。これも最初のガイダンスで言ったと思いますが、単に調べたことを書いたレポートは評価しません。調べたことに自分の論理を加えて、何か結論を導く、という方向性が重要です。
Q:授業で血液型の話が出ましたが、僕の仲のいい友達で自分の血液型を知らない人がいます。彼はなぜ知らないのでしょうか。いくつか理由を考えてみました。
1.血液型がない、2.血液型を調べたことがない、3.諸事情により親が教えてくれない、
4.諸事情により他の人には言えない
親が知っているかどうかで12と34に分けることができます。親が知っているほうの34ですが、これは僕の友達が養子であるなどの理由が考えられます。親が知っている12の方はインターネットで調べた結果、1に該当する人は見当たりませんでした。血液型システムがABO式だけでなく100種類以上あるということは分かりましたが。驚いたことに2に該当する人はけっこう存在します。大きな事故を起こして輸血が必要な時や、献血をしない限り自分の血液型を知る必要がないから、医者も親も調べません。また血液が都の検査は基本的に出生時にはしなません。理由は出生直後は母親の抗体がまだ移行していることや、血球を固める成分が少ないこともあり、不正確なことが多いからです。また少量の血液でも身体の小さな赤ちゃんにとって、採血をするということは身体の負担にもなります。考察の結果、友達が自分の血液型を知らない理由は2だと思い確認するために恐る恐る聞いてみたらやはり2でした。34でなくてよかったです。このレポートは先生が求める論理なのでしょうか。不安です。
A:まず、1−4の分類がきちんと排他的になっていません。親が知っているかどうかで分かれるわけではなく、血液型を調べたことがない場合にまず2が分かれ、調べたことがある場合に1,3,4の場合があるのでしょう。また、レポート中では単に1の可能性が否定されているだけです。残る可能性については2の可能性があることが言及されているだけで、3,4の可能性については考慮されていません。また、1の可能性についても、「該当する人は見当たりません」ということではあいまいで、その可能性がどこまで否定されたのかを判断できません。残念ながら論理としては不十分だと思います。
Q:酵素は温度やpHなど周りの環境によって最適な状態が存在する。これはほかの無期触媒などとちがってたんぱく質(有機物)であるために、たとえばpHの変化で反応が起こってしまうためであると考えられる。また、酵素には基質特異性がある。ある特定の基質に対して決まった酵素が反応するというものである。もちろん生体内の基質は数多くある。これに対してたんぱく質はアミノ酸の配列により多くの種類が存在する。たんぱく質が酵素になっているのはこのように数多くの基質に対応するため、酵素自身も数多くある必要があるためであるということも考えられる。
A:これは、別におかしなことが書いてあるわけではないのですが、結局何が言いたいのかがわかりません。レポートとしては、単に頭に思い浮かんだよしなしごとを書きつけるのではなく、自分の主張を論理に従って展開することが必要です。
Q:生体で生成される酵素は触媒として活性化エネルギーを下げる働きがあると習いましたが、それに関連のある興味のあることがあるのでそれを考察したいと思います。生体では、現在そのメカニズムを解明出来ない物質が生み出されていると言う話を聞きました。例えば、真珠はアラゴナイトと言う物質で出来ていますが、これは炭酸カルシウムを高温高圧の条件にしないと作ること出来ないそうです。普通はカルサイトと言う硬度がアラゴナイトより低い物質が出来てしまうそうです。それでも真珠がアラゴナイトで出来ているのは酵素が関与しているのが原因の一つとして考えられます。酵素がアラゴナイトの中間体を作る受容体となって、低温や低圧でも作り出すことが出来ると考えることが出来ると思います。他にも貝殻など、生成のメカニズムがわかっていない生体物質はたくさんあり、それには酵素が関与している可能性があると思います。
A:これは、テーマとしては非常に面白いですが、酵素とアラゴナイト生成の関連があいまいなので、レポートとしての迫力に欠けます。「酵素がアラゴナイトの中間体を作る受容体となって」という部分をもう少し詳しく調べて実際に酵素がどのように働いているのかを書くか、もしくはそのメカニズムを自分なりに想像するか、具体性を持たせるとよいレポートになります。