生物学通論 第2回講義

生体物質

第2回の講義では、生体を構成する物質について解説しました。以下にピックアップしたレポートのほか、色々きちんと調べたことを書いてくれたものもありました。ただ、レポートに要求されているのは、調べたことを書くことではなくて、自分の考えたことを書くことであることなので、その点を注意してください。


Q:生物の構成元素(重量%)は、人体の場合O,C,Hで93%を占めており、マツの場合はC,O,Hでほぼ100%を占めている。また、人体はN,Ca,P,S,Kなどの微量元素を含み、その重量%が1%以上のものもあるのに対し、マツはこのような元素はごく微量であり、人体と比べると含有率が少ないと思われる。このことから次の2つのことが考えられる。
 1つ目はこのような微量元素は運動する際に必要なのではないかということである。人体とマツの最大の違いは動物であるか植物であるかということだと思う。植物は運動することはないが、動物は運動するので、どうしても運動機能の発達が不可欠であると思う。例えば、Caは筋収縮や神経伝達に必要な酵素の活動に役立ち、細胞外では神経から筋への刺激伝達に役立つ(化学大辞典編集委員会、1997a)。また、Pは骨格を形成するという(化学大辞典編集委員会、1997b)。よって、微量元素の含有率の違いは動物/植物の違いが反映されているのだと思う。
 2つ目はヒトはさまざまな食物を食べてエネルギーを得ているので、その食物中にこれらの元素が含まれているのではないかということである。一方、植物の栄養は有機物であり、上に挙げたような元素(特に金属元素)はあまり含まれていないのではないかと思われる。よって、この栄養源の違いが元素の重量%の違いに反映されているのではないかと思う。
(引用文献)
・化学大辞典編集委員会編(1997a)「化学大辞典2 縮刷版」共立出版 929p.
・化学大辞典編集委員会編(1997b)「化学大辞典9 縮刷版」共立出版 1026p.

A:自分で考えるという姿勢は感じられますから、レポートとして合格だと思います。「植物の栄養は有機物であり」というのは、ちょっと違います。植物は、動物と違って有機物を摂取しなくても、二酸化炭素から自分で有機物を合成できるのです。ただ、それでも「この栄養源の違いが」反映されているという推測自体は有効だと思います。


Q:今週の授業で取り上げた、人体と植物(マツ)を構成する元素の存在比の違いについて、授業では主に炭素の存在比の違いについて取り上げられていましたが、私はカルシウム、リン、カリウムなどの無機物質の存在の割合の違いにも興味がわきました。 これらの元素だけに注目すると、人体は植物の大体100倍もの量を含んでいるからです。その最大の理由は骨格の存在だと思いますが、それを抜きにした場合では(体液中にイオンなどとして存在する場合)これらも元素がどのような役割を果たすのかということも知りたくなったので、調べてみると、カリウムは電荷担体、浸透圧バランスに、カルシウムは構造、生体反応の開始剤、電荷担体などの働きをしていることがわかりました。また、ほかの金属では酸化酵素、酸素の輸送と貯蔵、電子移動などに使われていることがわかりました。マンガンは光合成にも使われているようで、これらの元素は生体にとってなくてはならないものであると思いました。
 金属元素は主に配位子やへリックス中にクラスターという形で存在するといいますが、このように存在する金属が生体機能のさまざまな制御をおこなっていることがわかりました。タンパク質中にミクロに存在する金属について知るにはX線による分析が実験の一つとして考えられます。タンパク質がらせん状構造をしていてそのなかが規則的な構造をしていれば構造解析は可能だと考えられます。 もっと簡単で身近な方法だと、植物の苗に特定の金属の濃度が異なる溶液を定期的に与えて成長速度や植物の形状、光合成の量を観察、測定するという方法で金属の役割を知ることができるかもしれません。
参考文献:Stephen J.Lipard/Jeremy M.Berg著、松本和子監訳、「無機生物化学」東京化学同人

A:これも、上と同じような話題ですが、ある程度考えていることがわかりますね。ただ、講義では、観察される変化が、特定のものが多くなった結果なのか、それとも別のものが少なくなった結果なのかを見分ける方法についても話したと思います。そのあたりと関連させて議論できるとよかったですね。


Q:マツは人間に比べて炭素の比率が多いという話があった。その理由は樹木の内側のほとんどは死んでいるからだという。では樹木の生きている部分だけの元素比と比べたらどうなるか。両者は体の器官が全く違うから比も違ってくるか。あるいは両者とも細胞レベルまで分解すれば基本的に同じなので比も同じになるか。
 もうひとつ注目すべきことはその元素の有用性もさることながら、その存在量が多いほど生物にとっては利用しやすいということだ。元素にも合成のしやすさがある。水素とヘリウムはビッグバンのときに大量につくられ、その後星の中で炭素、窒素、酸素、ケイ素が大量に作られる。よって水素や炭素、酸素が生物の中に多いことは何ら不思議でもない。しかしこのなかでヘリウムとケイ素が生物にあらわれてこないということは、この2者は生物にとって使いにくいということだ。このような観点から生物の中の元素比を宇宙の元素比に対して規格化してやれば、存在比にとらわれない比率がでてくる。あるいは生物内の元素比をその元素の中性子捕獲断面積などの宇宙存在度の指標になるパラメーターで割れば「便利さ」ともいうべき元素の指標がつくれる。こうしてやるとおそらくカルシウムやリンもかなり上位に入ってくるだろう。

A:一番最初の部分、「死んでいる」こと自体が重要なのではなくて、その部分がほぼセルロースでできている点が重要なのです。宇宙の元素存在量比や、地殻の元素存在量比と比べてデータを解釈するというのは重要です。それは、ちょっと調べれば分かるはずですから、できたらレポートを書く際には、調べた結果に基づいた議論をいれるとよいでしょう。


Q:今回の授業を聞いて、アミノ酸にはL型とD型があり、これらは宇宙空間ではほぼ半分半分の安定した状態で存在すると知ったが、現在の地球上の生物にはL型しか存在しておらず、それは宇宙起源のL型とD型両方のアミノ酸が小惑星によって原始の地球に飛来する以前に、高エネルギーの放射線である宇宙線のある種のものによってD型のみが破壊もしくは変形されてL型のみが地球にやってきて生物の素となった、という話をされた気がする。しかし、ちゃんと話を聞いていない、理解をしていないだけなのかもしれないが、調べてみるとL型は宇宙線によって形が変わってD型になり、これによって宇宙空間で安定して存在しているようだ。それではなぜ、D型は存在しているのか。L型は生命の素とある物質であるがD型にはそれができない。しかし、タンパク質が老化するとL型からD型に変わることがあるという。つまりこれはどういうことか。アミノ基とカルボキシル基の位置の入れ替えが宇宙線の作用と老化の作用とで一致することではないだろうか。非常に興味がある。と妄想してみました。

A:「調べてみると」というときには、必ず出典を書くようにしましょう。また、疑問を提出するのは科学の第一歩ですが、そこで、必ず自分で何らかの解答を考えてみることが重要です。自分なりの仮説を考えずに疑問だけを羅列しても進歩しません。


Q:生物を構成するアミノ酸がすべてL型であるということは、生物は体内にD型を分解するような能力を持った酵素を有しているとも考えられる。化学的に合成するとL型とD型が半々の確率で生成されるということは、体内でもおそらくD型が生成されることがあるのではないか。しかしD型は生物に有害な影響を及ぼす可能性を持っていることから、生物自らが体内のD型アミノ酸をある程度分解する能力を持っているのではないかと考えられる。サリドマイド事件のように大量にD型を摂取してしまった場合は、この分解能力を超えてしまい、D型アミノ酸の人体への影響を抑えることができなくなってしまうものと考えられる。 しかし、もしアミノ酸が生物の体内では生成できないものだったとしたら、D型アミノ酸を分解する能力はないものと考えられるので、D型アミノ酸の生物への影響を抑えることはできないと考えられる。

A:もし、「D型を分解するような能力を持った酵素」を作るのが可能であれば、酵素はD型とL型を区別できることになりますよね(そしてそれは事実です)。そうであれば、最初からL型だけを合成する酵素も作れることになります(そしてこれも事実です)。化学反応では難しい異性体の区別も、酵素反応では可能なのです。あと、サリドマイドはアミノ酸ではありませんので念のため。