生物学通論 第14回講義

物質とタンパク質の輸送

第14回の講義では、生体膜を隔てての物質の輸送と、細胞内におけるタンパク質の輸送について解説しました。


Q:細胞間のタンパク質の輸送には小胞が利用されている。この小胞により必要なものを必要な場所へ送っている。ではもし輸送しなければならない量がふえてしまったらどうするのだろうか。まず考えたのが小胞自体のサイズを大きくすることだ。こうすることで一度に輸送が可能だが、大きな小胞をつくるのには時間がかかるし、その小胞の輸送スピードも遅くなるのではないだろうか。その小胞自体の機能の低下が考えられる。では小胞自体の数を増やして対応するのはどうだろうか。これならば小胞をつくるスピードが上がれば対応できるだろう。このほうがサイズを変えるよりは楽に補えそうだ。ただその小胞生産の場と受け取りの場に広さや機能の制限があると難しいことなのかもしれない。

A:シンプルで、よく問題点を考慮していると思いました。


Q:今回の授業で疑問に思った事は、液胞の主な役割は浸透圧の調整と老廃物の貯蔵・分解ですが、なぜ老廃物の処理方法が分解であって排出ではないのか、ということです。動物のように尿や排泄物のように排出する方法であれば、仮に植物にとって有害な物質が体内に入ってしまっても直ちに排出でき、また大量に老廃物が出ても処理できるがその方法をなぜ取らなかったのか。植物と動物のもう一つの大きな違いは細胞壁があるかないかなので、おそらくそこが答えであると思いました。細胞が細胞壁で囲まれているためそもそも有害物質が体内に入ってくるような事が少ないのだと考えられます。ただ、その分有害物質が入ってきた時、処理に困ると思います。また、老廃物も多量に溜まったしまった時も処理に困ると思います。栄養の採取の方法は植物の方が賢いが、排出の方法は動物の方が賢いと感じました。採取法が植物のやり方で、排出法が動物のやり方である生物はいるのか、またその逆はあるのか、という事がまだ疑問であります。

A:老廃物の処理については、確かに外界とのやり取りの容易さが大きな要因になります。有名なのがアンモニアの処理で、人間は尿素にしますが、外に水が流れている魚の場合は、アンモニアを単に外に捨てるだけです。細胞壁原因説は面白いと思います。


Q:太古の原核細菌が好気性原核細胞をとりこんでミトコンドリアをもつようになったことを今回の授業で取り扱った。これはリン・マーギュリスが提唱した有名な共生説のことだろう。共生説についてはあまり詳しく知らないのでいくつかの疑問が思い浮かぶ。1つはもし好気性細菌をとりこんで後にミトコンドリアをもつ細胞として進化していったのなら、共生することに何か得があったはずである。ミトコンドリアはエネルギーを作り出せるので、そのエネルギーを利用できるようになる共生母体は共生をすることに対してメリットがある。しかし好気性細菌の方には何のメリットがあるのだろうか?
 次に共生体は自己複製する時に共生母体だけでなく取り込んだものも複製するはずである。ということは取り込んだもののDNAも複製するということである。ところがセントラルドグマではDNAは膜を突き抜けない。では共生体は膜に包まれた取り込んだ細胞のDNAをどうやって複製するのだろうか?この問題は初期の生命がRNAワールドを形成していたことを考慮することで一応の答えが得られる。セントラルドグマではRNAは膜をつきぬけてDNAの情報を伝達できる。これらの初期生命が遺伝情報の記録にRNAを使っていたならこの困難を解決できる。つまり母体のRNAが被共生体に入り込みその遺伝情報を転写して自分の遺伝子にコピーをすればいいわけである。

A:二つのテーマについて議論していますが、できればテーマは片方に絞って、その分深く考察してほしいところです。前半のテーマも、最後はオープンクエスチョンで終わっていますが、それこそ考察すべき点だと思います。


Q:今回の授業ではタンパク質輸送で膜を通る際に用いられるシグナルペプチドというアミノ酸配列について学んだ。タンパク質は特定の細胞小器官に認識されてその中に取り込まれるための固有のシグナルを持っており、それを利用してタンパク質のシグナルからある生物がどのような細胞を持っているかを推定することができるということであった。逆に言うとシグナルペプチドを改変することによって特定のタンパク質を本来運ばれる場所とは異なる場所に運ぶことが可能になる。 ここでタンパク質が細胞膜を通過するということについて考える。そもそもタンパク質は細胞膜を通過できるのか。シグナルペプチドを用いて膜を通過するということから、タンパク質をタンパク質全体として認識していないのでは考えた。少なくともシグナルペプチドの部分はアミノ酸または「シグナルペプチドの部分」として認識されシグナルペプチド以外のタンパク質の部分とは別の認識をされているならば、シグナルを識別する範囲が狭まるので効率がよさそうである。そしてシグナルペプチドがアミノ酸として認識されているのなら、タンパク質が膜を通る際にはその構造を分解してから膜を通過し、膜を通過した後にタンパク質を再構成するという可能性もあるのではないかと考えた。まずタンパク質の構造を持ったままだと大きいので膜を通過しにくいのではないかと考えられる。また、一度タンパク質の構造をほどくと細胞小器官内でタンパク質合成を行う必要がでてくるのが、本来特定のアミノ酸配列しか入ってこないはずなので限られた酵素しか必要性がなく、もし限られた酵素しか存在しないのであればシグナルペプチドの改変などによって間違って入ってきたアミノ酸は酵素が存在しないためにタンパク質を再構築することができないことになる。このようにタンパク質の再構築は防御機能としての役割を期待できるのではないかと考えた。シグナルぺプチドによって輸送されるタンパク質を指定することはこのように防衛機能によるものなのではないかと思った。

A:さすがに分解して合成しなおすことはしていませんが、タンパク質が膜を通過する際には、立体構造はいったん崩され、通過した後で、きちんとした立体構造に組み直されるということはあります。オルガネラの中には、組み直すためのシャペロンというタンパク質が存在しています。防衛機能という発想は面白いですね。


Q:オルガネラへのタンパク質の輸送について、シグナル配列が先端に付いたタンパク質前駆体があり、ミトコンドリアなどの膜にある受容体がそのシグナル配列を識別することで内部に輸送されるということであった。しかし塩基配列の転写ミスは確率は低いながらも起こるわけで、もしシグナル配列の部分にミスが生じた場合は、他の細胞小器官に受け入れられず、内部には輸送されなくなり、どこか細胞内で処分されるのだろうと思われる。一方、シグナル配列には問題が無く、そのあとのタンパク質本体にミスがあった場合はどうなるのだろう。シグナル配列は正しいため、細胞小器官に受け入れられ内部に輸送されてしまうか、もしくはシグナル配列は受け入れられてもタンパク質部分は内部に輸送されないという場合が考えられる。前者の場合は、内部に入ってしまった間違ったタンパク質によって何かその小器官自体に異常をきたすことも考えられ少し怖い。これが何か病気などの原因になっていたりするのだろうか。後者の場合は、ミスが生じたタンパク質は何かしら構造に無理などが生じている可能性が高いと考えられ、受容体にシグナル配列が識別されたあと複合体となる際に無理が生じ、その時点で内部への侵入を拒否されるのではないかと考えた。

A:これも面白い発想です。タンパク質は、たとえ一次構造上のミスがなくても、立体構造を組み上げる段階でうまくいかない場合もあり、そのようなタンパク質は、もう一度立体構造をほどいて組み直したり、あるいは分解したりされます。そのような品質管理システムについては講義では触れませんでしたが、面白いテーマの一つです。


Q:能動輸送は細胞外部と細胞内部においてATPを用い本来の移動方向(濃度勾配)に逆らう方向への物質の輸送である。講義で例として用いられた、Na+/K+ポンプで行われる能動輸送について考えてみようと思う。海の水のK+/Na+比に比べ、生体のK+ /Na+比のほうが高いため、本来ならK+は細胞外へ、Na+は細胞内へながれるところを、ATPを用い逆方向の物質の輸送を行っている。これは、細胞内での特定の活動を行うのに現在のK+/Na+比のほうが適しているからわざわざこのような作業を行っているわけだが、進化の過程でこのようなATPを無駄に消費するシステムをつくるより、細胞内の活動システムを周囲のK+/Na+比で行えるようにつまり濃度勾配に従う方向に適応するようにつくったほうが、効率がよかったのではないだろうか?実際には細胞内で行う作業は化学反応なので濃度比が変わると難しいと思うが…
 また、現在のシステムにおいて周囲のK+ /Na+比が変わると、Na+/K+ポンプの作業効率や細胞内のK+/Na+濃度比も変化するのだろうか?機構的に周囲のK+/Na+比が下がると作業効率が下がり、周囲のK+/Na+比が上がると作業効率が上がる気がする。周囲のK+/Na+比が細胞内より高くなれば濃度勾配が逆転するわけだから能動輸送を行う必要すらなくなる。
 後、先週の講義の最後のスライドの細胞内小器官の起源がよくわからなかったので、もし来週の講義時に時間があるようでしたら、軽くもう一度解説していただけると助かります。宜しくお願いします。

A:「ATPを無駄に消費する」点については、そのような濃度勾配を維持しておくと、その勾配を使って、別の物質を輸送することができますし、濃度勾配を一時的に解消して、それをシグナルとして使うこともできます。無駄に見えてもいろいろ使い道があるのです。周囲のイオン環境が違った場合については、個々のイオンによってその影響は様々だと思います。酸性(H+が多い)環境に生きている生物は、一般にATPを使って細胞内からH+を汲み出していますが、周囲が中性になったらATPを節約できて生育速度が上がるということはなく、かえって生育が阻害されることの方が多いようです。なお、最後のリクエストに答えることができませんでした。申し訳ありません。