生物学通論 第13回講義
DNAの損傷と修復
第13回の講義では、DNAの損傷と修復について、クローニングやPCRなど遺伝子工学的な手法を絡めながら解説しました。
Q:今回の授業ではDNAリガーゼについて気になったので、DNAリガーゼについて書きます。DNAリガーゼは途切れた共有結合を復活させ、2つのDNA鎖をつなぐ酵素であるということで、組み換えDNA実験で制限酵素を用いて切断した部分をつなぐときやDNAの複製の際にラギング鎖の方に生じる岡崎フラグメントをつなぐときにはたらくということであった。まず思ったのが、共有結合を復活させるというはたらきになにかすごさを感じたということなのだが、その共有結合を復活させるとしても、DNA鎖には少なくとも4種類の塩基があり、4種類のヌクレオチドがあるわけで、制限酵素によって切断のされ方はことなるだろうし、DNAの複製においては、岡崎フラグメントの生じる場所によってAとGをつなぐのかGとTをつなぐのかと様々な種類があるはずであるから、DNAリガーゼはどのようにその種類を判断し適応しているのだろうと疑問に思った。DNAリガーゼにいくつかの種類があるのではないかと思った。しかし、よく考えてみると復活させる共有結合は塩基と塩基の間ではなく、ヌクレオチドとヌクレオチドの間の、リン酸基と糖のヒドロキシ基の間をつなぐわけで、つなぐヌクレオチドの塩基の種類に依らないわけである。よってDNAリガーゼは1種類しかないものなのではないかと推定した。ただ、DNAリガーゼがヌクレオチド間のリン酸基とヒドロキシ基をどんどんつないでしまうとすると、分子の大きさや角度から考えにくいことかもしれないが、関係ないヌクレオチド同士をつないでしまうことがあるのではないかと思った。例えば岡崎フラグメント間を飛ばしてつないでしまうとか、あとは岡崎フラグメントと関係のないRNAなどをつないでしまったりするのではないかとも思った。
A:考えようという姿勢は伝わりますね。僕の講義のレポートでは、単に調べたことを書くのではなく、自分の論理を書くようにと繰り返し言ってきましたが、その意味では合格点のレポートです。
Q:今回の授業ではDNAの特定の配列を認識して切断する制限酵素という酵素を扱った。制限酵素は外来遺伝子を切断することによる防御機能を担っていると考えられている。しかしこの機能は裏返すと外来遺伝子由来のDNAが細胞本来のDNA配列に組み込まれているということになる。授業ではDNAリガーゼという3'ヒドロキシ基と5'リン酸基をつなぐ酵素が存在するという話があったので、細胞本来が持っているDNAに異物が結合されてしまうという可能性はあり得る。異物が結合されるためには結合される部分が必ず必要になるが、通常存在する2本鎖が途中で切れて異物が結合されるとは考えにくい。なぜなら制限酵素が外来遺伝子を切断するという目的で存在するならば、自らのDNAを切断することはないだろうと考えられるからである。その他に自らのDNAの先端に異物が結合するという可能性はありそうだが、RNAプライマーが存在しないので複製されずあまり影響を与えないと考えられる。そうなると結合部位として考えられるのはDNAの複製をおこなっている際のリーディング鎖およびラギング鎖である。特にラギング鎖は岡崎断片の集合体なので結合の頻度は多いと考えられる。結合のチャンスはあれど、異物が結合するためには複製されるために1本にほどけた元のDNAの塩基とうまく対にならないといけないので結局結合できないのではと考えた。つまり結局は外来遺伝子の結合はありえないのではないかと思った。しかしノートを見ていて外来遺伝子の結合可能性が思い浮かんだ。異物がRNAのクローバーリーフモデルのようなでっぱりをつくって結合されれば複製される可能性もあるのではないかと考えた。つまり異物の遺伝子が対の塩基を必要としない形で存在していれば、複製の際にうまくほどけることで複製されるのではないかと考えた。外来遺伝子を切断するといっても案外奥が深いのかもしれない。
A:これもいろいろ考えているレポートです。相同組換えの話や、外来遺伝子に対する防御機構の話は、講義で取り上げなかったので考えるのが難しかったかもしれませんね。
Q:DNAの損傷と修復では損傷した個所を直接修復しようとするのではなく、その個所を切断、除去しそこから合成を始め結合することにより修復をしている。なぜこのような手順をわざわざ踏んでいるのかを考えてみた。損傷にたいして修復をする際、直接その個所を修復するとなるとその損傷の仕方や種類、程度によって修復の仕方を対応させ変えていかなければならないため、一度切断してしまったほうが決まったかたちで修復をすることができるのだろう。そのほうが楽に修復可能なのだろう。切断することでその分多くのエネルギーが必要になるのではないかとも思ったが、直接修復するのに対応させるにはその分多くの器官も必要になるためむしろ切断をするようにしたほうが効率も良いのだろう。
A:これも、ポイントを絞ってよく考えていると思います。
Q:今回の授業でDNAのうちエキソンの部分だけがmRNAに転写されることを学んだ。これについて東中川ほか(2006)を用いて調べてみると、遺伝子はすべてが転写され、長い前駆体RNAが生成するが、イントロン由来のRNA部分は切り落とされ、エキソン由来のRNA部分どうしが連結されることが分かった。ここで疑問に思ったのは、最終的にmRNAに転写されるのはエキソン由来の部分なのに、どうしてDNAにはイントロンも存在しているのかということである。最終的に切り落としてしまうものをなぜわざわざ持っているのだろうかと思った。最近の授業で扱ったDNAの損傷と合わせて考えてみると、タンパク質合成に関わる重要な部分であるエキソンをDNA中に連続させていると、仮にその部分が損傷を受けた場合、いくら修復機能があったとしても受ける影響は少なくないのではないかと思う。そこで、エキソンを連続させるのではなく、イントロンを挟んでおけば、エキソンが損傷する可能性が減り、また、1か所のエキソンが損傷を受けても他のエキソンの部分には影響が少なくなり、イントロンがなくエキソンのみの場合と比べたとき、修復が容易になるのではないかと考えられる。よって、DNAを守るための仕組みとしてイントロンが存在していると考えられる。東中川ほか(2006)によると、DNA中のエキソンとイントロンの割合はそれぞれ1.1%と24%であるから、上に書いた考察が合っていれば、DNAを守るために多くのイントロンが存在しているということができる。
参考文献:東中川徹・大山隆・清水光弘編著(2006)「ベーシックマスター 分子生物学」オーム社 384p.
A:イントロンとエキソンの存在は、真核生物の中では普遍的ですが、原核生物には見られません。おそらく、そこを考えると、イントロンの意義に関してさらに面白い考察ができるのではないかと思います。
Q:6/22にルイセンコ学説を初めて知り、それが現在では否定されていることも知りました。獲得形質というものは誰しも信じたくなるものと思われますし、私自身、なんとなく信じていたころがありました。しかしながら、ここで疑問に浮かんだのは、獲得した形質が子孫に伝えることができないのにどうして生物が進化をするのかということです。第10回講義のレビューシートでは「どんな生物でも、色に限らずいろいろな要素で、同じ種の生物にある程度の多様性を持たせることによって、環境に適応した性質を持つ個体が生き残っていくということが言えると思います。」と論じました。これも生物の進化に寄与していると考えられますが、もう一つの理由として、今回学んだDNA複製の際のミスが考えられます。DNA複製のミスが世代を経ていくうちに蓄積され、形質が変わっていくのではないかと考えたからです。この現象が起こると仮定して、ヒトを例に考えたいと思います。塩基対の対応ミスの確率が10^(‐11)~10^(‐10)であるのに対して、ヒトが一日に合成する塩基対の数は6×10^9(一つの細胞の持つ塩基対の数)× 10^12 (1日に分裂する細胞の数)=6×10^20~21 ですので、一日に起こる塩基対合成のミスは 10^(‐11)~10^(‐10) × 6×10^20~21 = 6×10^9~11 個となります。人が1世代で平均して20歳で子孫を残したとすると、20歳のときには 6×10^9~11 × 365 ×20 =4.38 × 10^13~15 となります。ヒトのもつ細胞の数は約60兆個(6×10^13)なので、一回子孫を残すたびに一つの細胞あたりだいたい1~100個の塩基対が合成ミスを起こしていることになります。生物の長い歴史の中で何回も子孫が残されていくと、一つの細胞あたりでもかなりの数のミスが蓄積されていくので、これは形質を変えていくには十分な理由になりうると思います。環境に適応するために行われたのが進化であるのに対して、遺伝のミスは偶然の産物であるので進化と関連付けられるかは疑問ですが、何らかの点で進化に寄与したとはいえるかもしれません。
A:この講義では、発生についてはあまり取り上げませんでしたから、難しいとは思いますが、体の部分部分を作る体細胞と、子孫を残すための生殖細胞は、かなり分けて考える必要があります。「ヒトの持つ細胞の数」という時の細胞は、体細胞ですね。では、生殖細胞はどのように計算すべきなのか、という点は、面白いパズルになると思います。
Q:<DNA複製の正確さ>の項で、DNA複製に異常が起こる可能性もあり、病気は遺伝だけによるもの、という考えは誤りであるということを習いましたが、アフリカで鎌形赤血球の人が多いのはマラリアにかかりにくいからその遺伝子を持つ人が生き残ったということを考えると、やはり突然変異だけじゃなくて遺伝ももちろん病気には関係しているんじゃないかなと思いました。鎌形赤血球を持つ人が生き残って子供を産む際、子供に鎌形赤血球のDNAが複製されて引き継がれるんじゃないかと考えました。一度異常が起きてしまうと異常なDNAがどんどん複製されていってしまう、ということでいいのでしょうか・・?これを考えたら、ガンを発病した後に子供ができたとしたらその子供にもガン遺伝子が遺伝してしまうのかなぁ?とも思いました。
A:「DNA異常による病気は遺伝だけで起こる」の否定は「病気は遺伝だけで起こるわけではない」ですから、「病気はDNA複製ミスだけで起こる」ではありませんよね。あと、がんについては、DNAの変異と一対一の関係にあるわけではありませんし、生殖細胞ががん細胞から分化するわけではないので、ちょっと論理に飛躍があるかと。