生物学通論 第12回講義

転写と翻訳

第12回の講義では、転写と翻訳の基本的な部分について解説しました。


Q:ウイルスは核酸(DNA or RNA)とタンパク質の殻からできている。しかしウイルスは細胞構造がなく、固有の代謝機能を持っておらず無生物といわれている。宿主の細胞内では自己複製することができるが、宿主細胞外では自己複製することが出来ない。では、ウイルスの起源は何なのだろうか?まずは、生物の起源となったものが生物としての形をとらずにそのままウイルスとして存在していることが考えられる。しかし、ウイルスでも動物にだけ感染するもの、植物にだけ感染するもの、昆虫にだけ感染するものと多種多様である。上述の起源ではウイルスに多様性が生じにくい事から、ウイルスには他に起源がある可能性がある。考えられるものとしては、ウイルスが宿主細胞内でしか複製できないことから、生物内で突然変異を起こした細胞の核酸の一部が生物から分離しウイルスになったという事が考えられる。このような経路を辿るとするならば、様々な種類のウイルスが存在できると考えられる。つまり、ウイルスが生物細胞の突然変異とするならば、生物種の数以上のウイルスが存在する可能性があり、新たな種類のウイルスが突然発生することも説明できるのではないだろうか。

A:あるものが何らかの自己複製能を一度獲得すれば、そのものは存続し続けるでしょうから、ウイルスも含めた生き物の存在というものは、基本的に安定なのだと思います。逆にそうすると、きっかけは何であってもよいことになりますから、その起源を考えるのは難しいかもしれません。


Q:授業でDNAは放射線や紫外線を吸収して化学変化するという話を聞いた。それを聞いて最近見たニュースを思い出した。アメリカ軍の劣化ウラン弾の使用によって、イラクやアフガニスタンで障害を持った子が多く生まれているというニュースだ。劣化ウラン弾によって出た放射線がDNAを傷つけてしまうのだ。なぜアメリカ軍はこのような武器を使うのだろうか。武器を使う理由としては1つに威力があること。2つ目にコストが低いことが考えられる。実際はどうなのだろうか。1つ目の威力に関しては、ウランの比重は19.07と非常に密度が高いので、鉄などの金属でできたものも貫通することができる。また劣化ウラン弾は、標的に命中した時の摩擦熱で燃え上がるが、同時に微粒子の塵になって周囲に拡散する。これは一時的な放射線の放出ではなく、放射性物質そのものの飛散を意味している。この微粒子は、10万分の1~200分の1ミリという非常に小さいもので、空気だけでなく、土壌や水に入り込む。よって威力は十分である。2つ目のコストだが、劣化ウランは核燃料や核兵器を製造するために、天然ウランを濃縮する過程でできる副産物である。このためかなり安い値段で手に入れることができる。よってコストも低い。やはりコストパフォーマンスが高いためにこの武器を使用していることがうかがえるが、放射線を出す物質を使用することは道徳的に間違っていると感じた。

A:面白いレポートなのでここに載せましたが、生物学のレポートしてはちょっと物足りない気もします・・・


Q:今回の授業ではDNAの転写について扱ったが、特殊な例としてウイルスにはRNAからDNAという逆転写を行うものがあるということであった。ウイルスは自分でDNAを複製できないのでなにかの細胞に寄生することで自分のRNAを細胞の中に移し、寄生した細胞にRNAをもとにDNAを複製させる。つまり寄生された細胞内の染色体内にあるウイルスのDNAは寄生した細胞が死なない限りは生き続けるということだろう。そしてそのウイルスのDNAを元に通常のDNAの複製を行うということでウイルスは増加していくということになる。このような現象だけが行われているならばウイルスは死なないのではないかと思った。昨年の夏に新型インフルエンザにかかって2週間程度で完治したが、単純に考えたらインフルエンザはウイルスなので増え続けるのではないかと思った。この逆転写という仕組みを知ったらなぜインフルエンザが治るのかがよくわからなくなった。
 インフルエンザが治るということはインフルエンザウイルスの活動が抑えられたということだと思うのでその要因として、ウイルスの細胞膜への付着が抑えられた・RNAをひな型とする逆転写が抑えられた・逆転写によって作られたDNAのセントラルドグマ内への移動が抑えられた、の3つを考えた。最終的に感染した細胞は複製されずに全部死ぬのだと思うが、何らかの措置が体内でとられない限りウイルスは増殖し続けてしまうということになる。インフルエンザにかかると40度くらいの熱が出るのが、これには酵素の最適温度から外れるという意味で反応を抑えようという目的があると考えた。たぶんウイルスの増加にも何らかの酵素が働いているのではないかと思った。ウイルスのDNAを持った細胞が増える速さより死ぬ速さが上回れば一応インフルエンザが治ったことになるのだと考えた。

A:そういえば、講義では免疫の反応などを取り上げていませんでしたね。基本的には、人間の防御機構として一番重要なのは免疫反応です。予防接種をすると、そのあと感染症にかからなくなるのは、免疫ができるからです。インフルエンザウイルスに対する場合も同じで、自分の体で免疫の反応がきちんと起これば、ウイルスの働きを抑え込むことができます。


Q:DNA、RNA、タンパク質の中で最初に地球上で主役となったのはどれなのかというトピックで、RNAであるという見解を持つ学者が少なからずいるという話があった。これはテトラヒメナのリボザイムが複製触媒の機能を有しているRNAであり、原始的な複製触媒のモデルとなり得るという根拠によるものであるらしい。私の中には、最初の有機物の起源は隕石の中にも見られるようにアミノ酸であり、それが重合して触媒機能や自己複製機能を有する複雑なタンパク質になったのではないかというイメージがあったのでRNAを最初とする説には若干抵抗があった。リボザイムについて調べると、重合活性はシトシンのみに限られるということである。これでは単一の塩基組成のヌクレオチド鎖しか出来ず、RNAのヌクレオチド鎖は作りえないだろう。この塩基の種類という点では、リボザイムを最初とする考えは可能性が低く、海底の熱水噴出孔の環境を真似た環境下でマリグラヌールのような物質が生成することなどからも、アミノ酸がつながったポリペプチド鎖がまず始めに無生物的にでき、それが複雑な構造を持つタンパク質へと変化し触媒機能を有する様になったのではないかと考える方が妥当なのではとも思う。
参考文献:分子遺伝学入門 東江昭夫 著 裳華房、DNAサイエンス Davia A.Micklos他 著 清水信義他 著

A:生命の起源については、それほど証拠があるわけではないですから、ある意味で自由にいろいろな方向性を考えればよいのだと思います。そのうえで、現在見られる様々な生物のあり方と一番矛盾がないのはどのような考え方か、という方向に考えるのでしょうか。


Q:コドンとは遺伝情報を伝達するRNAを構成する塩基配列のことでその配列によってアミノ酸を指定する。このコドンにはタンパク質の生合成の開始と終止を指定するものがある。開始コドンは主に一種が知られているが、終止コドンは三種が知られている。なぜわざわざ三種があるのか。これはやはりそれぞれ性質が違い状況によって使い分けることができるからなのかと思った。生物やそのまわりの環境、伝達したい遺伝情報によって使いわけるのかもしれない。情報を正確に細かく伝達するにはアミノ酸配列を自由に区切ることができた方がいいだろう。種類が複数なことで調整が楽なのだろう。またその終止コドンのもととなる塩基の存在度やつくりだされやすさもどの終止コドンが利用されるかの基準になるのかもしれない。

A:面白い。でも、せっかく面白い点に目を付けたのですから、もう少し、深く考えたいところです。「状況によって使い分ける」というような場合に、具体的にどのような損得があるのか、という点についての考察が欲しいところです。


Q:今回の授業ではRNAワールドについての話があったが、このことについて考察したいと思う。授業での話をまとめると、
1.RNAは、持っている遺伝情報は異なっても物質としては同じなので扱いやすく、また、酵素活性を持つものもあることから初期の生命の遺伝情報を担う物質として適切である。
2.RNAは進化の過程で、より遺伝情報を安定に保てるDNAへと、また、多様性のあるタンパク質へと役割が分かれていった。
ということであった。また、八杉ほか(1996)によると、RNAの構成要素のうち、核酸塩基はシアン化水素から、リボースはホルムアルデヒドから無生物的に合成可能であるという。初期の生命のことを考える上で、その遺伝情報を担う物質が生命の関与なしに合成されることは説を支える重要な証拠である。以上のことから考えると、RNAワールドの仮説は筋が通っていると思う。私は、RNAワールドを支える他の証拠として、セントラルドグマがRNAを経由していることを挙げられると思う。これは、昔RNAが主役であったことの名残ではないかと考えられ、そのように考えると、上に書いた授業での話とつながると思う。もし、RNAを経由しないDNA→タンパク質というルートが今後多数見つかるようなことがあれば、当初RNAが関与していなかった可能性も考えられるので、RNAワールドについては再考する必要も出てくると思う。
(参考文献)八杉龍一・小関治男・古谷雅樹・日高敏隆編(1996)「岩波 生物学辞典 第4版」岩波書店 2027p.

A:僕自身、あまりきちんと考えたことはないのですが、DNAの情報から、直接タンパク質を合成する酵素を、例えば人工的にデザインすることが可能なのかどうか、考えてみる価値はあるかもしれませんね。


Q:今回の授業で狂牛病の原因物質であるプリオンが出てきて、それに興味を持った。異常なタンパク質が正常なタンパク質を異常に変えるという仕組みは何か癌に似ていると思った。いつかの講義で、牛や豚のコラーゲンを食べても人間の体内でコラーゲンになるかは実証されていないとあったが、狂牛病のタンパク質も同じ事が言えるのではないか。つまり、なぜ牛の異常なタンパク質を体内に摂取すると、人間にも異常なタンパク質が発生して狂牛病に感染する場合があるか疑問に思った。異常プリオンが消化器官で消化されて腸で体内に吸収された場合だと、タンパク質の情報は変質してしまうので、狂牛病に感染するルートとしては考えにくい。ただし、消化時に情報が変質しないまま、もしくは何かそのような因子が残ったまま体内に吸収されることもあるかもしれない。もう一つ体内に吸収されるルートとして、異常たんぱく質が消化されないまま腸まで辿り着いて、リンパ管に吸収されるというものがある。プリオンは酵素に分解されにくいという性質を持っているのでこちらの方が考えられる。もう一つ考えられるのはエイズのように血液感染で感染する場合だが、この場合は口などに何かしらの傷があったとしても体内に入る異常タンパク質は微量なので考えにくい。しかし、狂牛病がとても感染力の強いものであったらその場合もありえる。
参考文献:狂牛病と生物学 小野寺節子著 医学出版 (2008)

A:きちんと考えられていますね。狂牛病とプリオンの関係については、実は様々な議論がありました。試験管内で、異常プリオンが生じるメカニズムについては問題ないとしても、それが実際に狂牛病の原因かどうかについて厳密に証明するのは非常に難しいのです。


Q:狂牛病の話で触れたプリオンは、セントラルドグマの例外とは言い難いとされているようですが、授業を聞いた時点では私にとっては立派な例外なのではないかと思われました。そう考えた理由としては、タンパク質である異常プリオンが①ウイルスのようにDNA合成機構を乗っ取るわけではない、②DNAに直接作用したりしているわけでもない、などからタンパク質同士で情報をやり取りしているといえるからです。プリオンについて調べてみると、「正常型プリオンはその立体構造中にらせん状のα-へリックスを多く含むが、異常型プリオンではα構造の代わりに波型状のβ-シート構造が多く安定で、タンパク質分解酵素の作用を受けない。したがって、異常型プリオンは神経細胞中に蓄積しやすく、生理的に必要なタンパク質が減少し脳細胞が死滅する。」とあり、またプリオンの伝播・感染のメカニズムはよくわかってないこともわかりました。一般的な仮説「異常型のプリオンタンパク質が正常型のプリオンタンパク質と直接相互作用して、正常型の構造を異常型に変換する」というのが正しければ情報の流れが確かにタンパク質→タンパク質ということになると思います。今回、調査と考察を経て至った結論はプリオンがセントラルドグマの例外とするかどうかは人によってとらえ方が異なる、ということでした。私自身の考えとしては、プリオンはセントラルドグマの例外というよりはセントラルドグマの「修正」などというのがいいのかなと思いました。
参考文献:卜部吉庸 「化学Ⅰ・Ⅱの新研究」 三省堂、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3

A:「セントラルドグマ」というのが、そもそも何であるのか、ということが案外重要かもしれません。これが単に情報が流れる対象と方向を示したものであれば、ここで述べられた通りなのかもしれませんが、実際には「遺伝情報の流れにおいて」というのが重要なのだと思います。その場合、プリオンが運ぶ情報が、遺伝情報と言えるのかどうか、という見方が必要になってきます。