生化学I 第11回講義
細胞壁・吸収測定の方法
第11回の講義では、先週の続きで細胞壁について話したのち、吸収測定の基礎知識について解説しました。以下に、6つのレポートをピックアップしてコメントをつけて掲載しておきます。
Q:授業にてホヤにはセルロース合成酵素があり、一方人間にはそれが無いということを習った。ここからどうして人間の細胞はセルロースの外壁で囲まれていないのだろうか。ひとつ考えられることとして代謝について考えると、人間の細胞は絶えず死に、生まれ変わっている。だが、これも授業で習ったのだが、セルロースは分解するのにとても時間がかかるということだ。もし人間がセルロースを合成、分解できる酵素を持っていたとしても、細胞壁がセルロースでできていれば、それを分解する速度と細胞が生まれ変わる速度が釣り合わず、体内にセルロースがたまっていってしまい、毒素になってしまう。だから人間の細胞は代謝の関係から細胞はセルロースで囲まれていないことが分かる。
A:代謝回転から細胞壁の有無について論じたレポートはこれが初めてです。独創的な視点で非常に良いと思います。
Q:今回私が興味を抱いたのは、バイオ燃料についてである。現在も木材チップやトウモロコシなどを使ったエネルギーが使われているが、まだまだ普及には至っておらず、身近なものではない。しかし、将来的にはこれらが占めるエネルギーの割合が増えることが予想されており、このバイオ燃料にはどれほどのロマンがあるのか、というのを考えた。そこで私が着目したのは、木質バイオマスを利用した発電である。理由としては、現在のみならず、いつの時代でも安定的に利用することが可能であり、どのくらいの効果があるのかがはっきりとみられると考えたためである。木質バイオマスを用いた発電はすでに兵庫県朝来市において、平成28年より行われている。そこでは、燃料となるチップ約6.3万トン/年を用い、5600kWの発電、3700万kWhの電力をつくっている。この数字は、関西電力における平均的なモデルの家庭12000世帯の年間電気使用量にあたり、この施設だけでもかなりの発電能力があることがわかる。そして、2005年9月16日発行の「みずほレポート」によると、木質バイオマス資源利用の現状として建設発生木材は約480万トン発生し、利用率は約60%、間伐材・林地残材等は約390万トン発生し、驚くことにそのほとんどは未利用である。つまり、この利用されていない約582万トンを上記の施設でしっかりと燃料として活用することができれば、約110万世帯分の電力を補える計算になる。日本の総世帯数は約5332万であるので、割合的には小さいが大きな意義があると考える。なぜなら、バイオ燃料はこの木質バイオマスだけでなく、さまざまなものを利用でき、事実これ以外も発電に利用されている。これらをすべてあわせると、大きなエネルギーをつくることができるからだ。しかし、この木質バイオマスに関して言えば、木の種類が違っていると水分量が違っているため、燃焼効率が変わってくる。さらに、カットするチップの大きさも工夫しなければならないため、先ほどのような単純な計算にはならないはずであるが、現在使われていないもの、再利用できるものを有効活用し、これに技術改良などの工夫を凝らせば、バイオ燃料によるエネルギーの供給は今後の日本で大きな割合を占めることも大いに考えられる。よって、バイオ燃料には大きなロマンがあるのでは、と考えることができる。
参考:みずほレポート みずほ総合研究所 2005年9月16日発行、https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2016/pdf/1201_1j_01.pdf、兵庫県朝来市における木質バイオマス事業の概要
A:これは、レポートとして悪くはありませんし、勉強もしていますし、きちんと論理だてて文章が書かれてもいます。ただ、内容が常識的なので刺激がありませんね。別に刺激がよいというわけでもないのですが、この人でなければ思いつかない、というポイントがあると、ぐっと評価が上がります。
Q:分光器の対照セルにおける透過率に関して疑問に思ったことがある。それは、セル内に水を入れて白色光で透過率を測定した場合、透過率はしっかり1(I0/I0)になることはないのではないか、ということである。厳密に言えば、水中を光が通った時点で、一部吸収され一部散乱するため、I/I0になると考えた。例えば、海や湖が青いのは、水による光の吸収と散乱によるものである。水中に入った太陽光(白色光)は、赤色から先に吸収され青色が残っていく。そして、青色の光はよく散乱するため、海や湖が青く見えるのである。また、水中では深くなれば深くなるほど光は吸収され、暗くなっていく。少量かもしれないが、水中という媒体を一度通っている以上、入射光と透過光は限りなく等しくなるかもしれないが、完全に等しいとは言えないだろう。したがって、対照セルに水を入れても、透過率が1(I0/I0)なることはないと考える。
A:これは、よいポイントに目をつけたと思います。これに加えて、あと一歩があると完璧です。「対照セルに水を入れても、透過率が1(I0/I0)なることはない」場合に、例えば試料セルに入れた硫酸銅の水溶液の吸収の測定にどのような影響があるでしょうか。硫酸銅の正確な吸収測定ができなくなるでしょうか。そこを考えてみることが非常に重要です。
Q:ホヤはセルロース合成酵素をバクテリアから遺伝子の水平電波で獲得した。http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~sasakura/research_cellulose.htmlによると、セルロース合成酵素を獲得した理由として、固着生活を開始し維持するために必要なことが推察される。そこで、セルロース合成酵素を体に取り込んでまで固着生活にこだわる理由を考えた。私は、ホヤは自分がどこにいるかがわからない、いわゆる方向感覚がない生物なのではないかと考えた。人間が山に遭難した時などに動かないほうが良いのと同様に、動くべき正しい方向がわからない場合、むやみに動くと正しい位置とより離れてしまう確率が圧倒的に高い。360度どの方向にも動くことができるが、正しい方向は1度だけに過ぎないため、正しい方向に動ける確率は1/360と、とても低いのだ。固着生活には、自分の目の前に餌がやってこない限り餌を食べることができない、また、天敵に遭遇した場合に逃げることができないといった欠点がある。しかし、餌がいる環境というのは限られているため、ホヤは餌がある場所から離れないことを優先したことが考えられる。
参考文献:http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~sasakura/research_cellulose.html
A:これは、自分の考えを論理的に進めていて評価できます。ただ、おそらくホヤの生活環を知らずに書いているのではないでしょうか。「固着生活を開始し」というからには、固着していない生活があるわけです。その際にどのように生きているのか、という点も考察する上では重要でしょう。固着する前には、まさに動く段階があるわけですから。
Q:私の家の近くには、大きな公園があり、桜やイチョウなどの落葉樹が多く植えられている。秋になると、地面にはたくさんの落ち葉が広がり、とても素敵な風景になる。この落葉という現象と今日の授業で扱ったセルロースや細胞壁について考えるにあたり、私は次のような疑問・仮説を設定した。
疑問:なぜ、落葉樹は落葉したときに導管や師管の中の水分養分が染み出さないのか
仮説1:落葉樹は葉を落とす前に幹と枝から葉につながっている導管や師管の流れを仕切りのようなもので遮ってから葉を落としているのではないか
仮説2:もし仕切りのようなもので区切っていたとすると、まだ枝にくっ付いている落ち葉は死んでいるということが出来る。
まず、私が昆虫を飼育するときに使っている落ち葉を観察してみた。落ち葉になってからかなりの時間がたっているので、水分は全くない。落ち葉の中には単に楕円形の物だけではなくて、茎や枝にくっ付いていたであろう、細い茎のようなものがついていて、その細い茎のような部分の断面を見てみると、断面は落ち葉と全く同じ色をしているが、その茎のような部分の真ん中に比べて若干断面のほうが直径は長いように感じられた。つまり、枝との接合部分から、葉の部分にかけての茎のようなところのどこか一か所がランダムに切れたというよりは、何かしらの切れる場所のような特定の領域があってそこが枝から離れたことで落葉したというような印象を受ける。このことを確かめるため、近くの公園の桜の樹から数枚の緑色の異なる大きさの葉5種類計10枚を採取して同じように断面を比べてみた。また採取するときに、1種類あたり2枚なので、1枚は枝や木の幹と接合している箇所にできるだけ近いところから取り、またもう1枚はハサミを用いて葉の茎のような部分の中央部分を切って採取した。そして、この10枚を観察した結果次のようなことが言えた。まず茎の中央部分を切って採取した葉からは落ち葉の時に見られた断面はなかった。そして幹や枝と接合している部分を取った葉では落ち葉のものほどはっきりとは分からないが、似たような断面を確認することが出来た。落ち葉ほどはっきり見られなかったのは手で無理やり取っていることと、まだ紅葉の時期を迎えていないため、その部分があまり発達していないのではないかと推測する。
この観察結果から、実際のメカニズムや仮説の「仕切り」は存在するのか気になったので、調べてみた。調べた結果、落葉樹は葉を落とす前に、「離層」という構造を形成していることがわかった。この離層は柔細胞で構成されており、葉柄の付け根で形成される。この時、離層は葉と幹を完全には隔てず、維管束内に仮導管という構造を作ることがわかった。この実験や観察、調査の結果から、仮説1はほとんど正しいが、仮導管が形成されるという点では祭があり、仮説2に関しては理想と仮導管の結果から、落葉直前までは、たとえ離層によって区切られていたとしても、その葉は死んでいるわけではないということがわかった。
参考文献:https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2442&target=number&key=2442(2020年7月18日閲覧)、http://www.tanigawadake-eco.com/knowledge/post_771/(2020年7月18日閲覧)、https://buna.info/article/1929/(2020年7月19日閲覧)
A:原則的には、きちんとした問題設定、観察、調査、考察がレポートに含まれていて非常に評価できるのですが、高校で生物を習っていれば「離層」は知っているはずなので、多くの人にはずいぶん初歩的なことを大掛かりなレポートに仕立てている、という印象を与えるかもしれません。生物を選択してなくてそれを知らなかった場合、調べて高校レベルだとわかった時点で方針を変えて、調べた結果を先にもってきて(もしくはそれをすでに知っていることにして)、そこからそれが正しいかどうかを実験を通して確認する、という順序にするとだいぶ印象が違います。レポートを書く上で事実と違うことを記載するのは不正ですが、論理構成や説明の順序を変えることには、大きな問題はありません。
Q:今回の講義の中でセルロースについての話があった。そこで高校の生物の授業で扱った、白アリがセルロースを栄養源として生存しているという話を思い出した。またそれとは別に、通常昆虫は寿命が半年~1年程度なのに対し、白アリは働きアリで2年程度、生殖を担当しているメス(いわゆる女王アリ)は10~15年と、とても長い寿命をもつということも聞いたことがある。この珍しい二つの特徴には何か関係があるのではないだろうか。実際、セルロースを白アリ自身が消化しているわけではなく、腸内にセルロースの分解が可能な微生物群を飼うことで栄養を補給しているということだが、いずれにせよセルロースを栄養にして生存できるということは、昆虫界において非常に有利に働くと考えられる。他の同じようなニッチを占める生物が利用できないセルロースを、独占して利用することで競争に勝ち、繁殖してきたことが、一個体の寿命を延ばしてより繁殖する、という進化につながったのではないだろうか。山口大学の井内教授によると、「白アリは老化の原因となる活性酸素を制御できるため、寿命が長い」という仮説があるそうだが、そのような、一見生存には直接的な効果がないように感じられる進化を遂げるには、ある程度の繁殖的な余裕が必要だと考えられる。以上より、進化の一つの前段階として白アリはセルロースを利用するようになり、その後寿命を延ばすという進化をしたのだと私は考える。
(参考文献)・夢ナビ 「シロアリに学ぶ長寿の秘訣?」、https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g007235 閲覧日:2020.07.24
A:「余裕が重要である」という点がこのレポートの肝であり、面白いところなのですが、老化の話の比重が高いので、若干インパクトが薄れています。老化の話は所詮他の人の受け売りなので、その部分をもっと減らして自分の考えをくっきり浮かび上がらせた方がよいレポートになるでしょう。