生化学I 第2回講義

生体物質と水

第2回の講義では、岩石と土壌の元素組成の比較から、土壌が生物の作用によって形成されたものであることにふれたのち、生命を支える基本物質である水が、物理化学的にどのような特徴を持っており、その特徴が生命の進化にどのように重要な役割を果たしたのかについて解説しました。最後にスノーボールアースについて触れたのですが、レポートは、その部分についてのものが8割程度を占めました。スノーボールアースについて書くことが悪いのではないのですが、この講義のレポートとしては、人とは異なる考え方が求められているという点を再度強調しておきます。以下に、5つだけレポートをピックアップして、この講義で求めているレポートの書き方について説明します。


Q:今回は水の特殊性について考察する講義だったが、水の密度が最大になる温度が4度となる理由について考察していく。まず、水の特殊な性質について述べると、
(1)分子量が小さいのに常温で液体、(2)個体の密度が液体の密度より小さい、(3)様々な物質を安定的に溶かす
などがある。(1)は、水素結合により水分子同士が引きつけられるからである。(2)は、氷になる際、非対称な水分子を秩序正しく並べようとすると隙間がたくさんでき、一方で液体の時には、水分子は自由に動けるため隙間が小さくなるからである。(3)は、水分子は極性を持っておりイオンを取り囲むからである。
 水が4度で密度が最大になる理由は、(2)と密接に関係していると考えられる。というのも、温度が下がると水素結合する部分が増え、水分子の塊ができる(クラスター構造)。そのため密度が小さくなる。逆に、温度が上がると激しくなった熱運動により分子同士の空間が大きくなる。そのため密度が小さくなる。この2つの影響が最も小さくなるのが4度であり、最も密度が大きくなったのだと考えられる。
参考文献 https://www.sidaiigakubu.com/examination-measure/chemistry/08/

A:前半の3つの特徴は、講義の中で紹介した話ですよね。また、後半の水が4℃で最大の密度を持つ理由は、参考文献の説明を繰り返しているにすぎません。この講義に求めているのは、自分なりの考え方です。中学・高等学校までによくあるいわゆる「調べもの学習」のようなレポートは、この講義では評価の対象になりません。


Q:授業では水が特殊な物質で、動物の体内の大部分を占めることを学んだ。体の大部分を占めるだけあって物質を溶かす、化学反応の場になる、恒常性の維持など水の役割は多様だ。このように水は生物が生存する上でなくてはならない存在であるにも関わらず、数日間も水を飲まなくても生き延びることができるラクダについて考える。livingthing.biz/archives/1364によると「ラクダは、水を飲むと、血液に水をためることができる」「食べるものがないときや水が飲めなくなるとこぶにためてある脂肪を代用している」と言われている。まず血液に水をためることができる理由として、ラクダの血管は伸縮性があることが考えられる。伸縮性があることで血液が流れる量を調節しやすくなるのだ。そして水中毒のような現象を防ぐため、血液の濃度が薄まらないように血球の数を調節する機能が発達している可能性がある。それでも水分が足りなくなったときはこぶにある脂肪を分解することで水を生じさせているのだろう。ラクダは昔から砂漠という常に水分を摂取できる環境でない場所で暮らしていたため、水分を体の中に長い間貯蔵できるように進化したのだ。

A:WEB上のサイトを参考にすることは構わないのですが、単にそこで紹介されている論理を引き写して文章を作っても、それは、この講義で求めているものにはなりません。例えば、サイトで上のような情報を得たとして、そこから自分で何を考えるかが重要です。血液に水を溜めるというのは、血液の主成分が水であることを考えればまあ良いとして、脂肪を分解して本当に必要な水が得られるでしょうか。それは、定量的に計算してみればわかることです。ラクダの代謝はよく知りませんが、ヒトで考えてみましょう。1日の消費カロリーを1800 kcalとすると、これは純粋な脂肪では200 gぐらいに相当します。これを燃焼させて生じる水は260 gぐらいでしょう。一方で、1日の水分の必要量は、脂肪を燃焼させてできるような代謝水を除いて1500 ml程度です。つまり、脂肪の分解によって得られる水が必要水分に占める割合は、260/(1500+260)となって15%程度という計算となります。これを多いとして議論するか、少ないとして議論するかは、人によって異なると思いますが、以上のような定量的な議論のベースとなる数値は、それこそWEB上の情報から簡単に手に入ります。「水を生じさせているのだろう」といったほんわかした議論に留めるのではなく、科学的なレポートを書くべく努力してください。


Q:今回は、スノーボールアースという現象について考えました。通常の氷河期と、その特殊例であるスノーボールアースという現象について、どんなことが起こった場合にスノーボールアースの状態にまで氷河が広がってしまうのかということです。氷河期になる原因として私が知っているのは、大きな火山噴火による火山灰の影響で太陽の光が長い間遮断されるというものです。これが原因だとしたら、地球全体の表面を凍らせるためにはそれだけ長い期間太陽光を遮るものが必要なのではないか、果たしてそれは何かと思いました。そこでスノーボールアースの原因について調べてみると、「全面凍結。アーススノーボールになぜなったのか?」というwebの記事で「全球凍結する前は、火山活動が停滞してCO2の供給量がそれ以前の四分の一以下に下がっていたのではないかと考えられています。」と書いてありました。この記事から、地球凍結の背景にあったのは、私の考えていた太陽光の長期間の遮断という外的な要因ではなく、地球内部の大気によるものとわかりました。この結果からどの様にして大気中の二酸化炭素の量が減少したのかについても調べる必要があると思いました。
参考文献:「全面凍結。アーススノーボールになぜなったのか?」https://blog.goo.ne.jp/maccn99/e/2ac64e812093cc54df4c127fd1f09aef

A:最初に「考えました」とあり、確かに問題点を考えてはいます。しかし、その答えは、単に他のWEBの記事を引き写しているだけです。これでは、この講義の求めるレポートにはなっていません。


Q:生命における水の重要性という観点から、私は一つの疑問を持った。それは、砂漠などの、水がほとんどない場所でも生き物が存在し、維持することができているのはなぜかということである。私の予想では、人間のような発汗機能とは別の体内の水分を逃がさずに熱放散をする工夫しているのではないかと考えた。例えば、地中に潜って、体温上昇を根本から防ぐことである。では、実際の砂漠にいる生物はどのような戦略をとっているのか。砂漠の生き物と聞くと、真っ先にラクダが例としてあげられるが、今回はモロクトカゲに注目したい。ネイチャーテック研究会は、「モロクトカゲは、乾燥地帯で生き抜くために、自動供給装置を備えている。モロクトカゲの体には、とげがあり、そのとげの先端からさらに微細なとげを持っている。これを利用して毛管現象が起こされることによって、水を自動的に、かつ無駄なく供給する工夫をとっている。」と述べている。毛管現象は、エネルギーの節約になるため、砂漠という過酷な地域では理にかなっていると考えて良いだろう。最後にこれらを利用し、自動くみ上げ式ポンプや山やサバイバル用の自動給水装置として応用することを提案したい。
参考文献 ネイチャーテック研究会、すごい自然のショールーム、作成日 2013年10月20日、〈http://nature-sr.com/index.php?Page=11&Item=127〉、閲覧日 2020年5月19日

A:これも、砂漠で生き物が存在できるのはなぜか、という問題設定まではできていますが、その自分なりの答えは、地中に潜るという点が挙げられるだけであって、あまり論理的な文章になっていません。その後は調べたことが書いてあって、それに対して、理にかなっていて、応用できそうだという感想が述べられているにすぎません。この講義に求めているのは論理的な思考です。


Q:今回の講義では水の特殊性について学んだ。この特殊性についての理由を講義では深く学んだが、その他の特殊性についてあげようと思う。それは固体である水を加圧すると液体の水になるということである。二酸化炭素など多くの物質では固体を加圧しても液体にはならず、ずっと固体のままである。その理由を講義での説明をもとにして考察する。私は講義で説明を受けた、水では固体の密度が液体の密度より小さいということが関係していると考えた。つまり、液体から固体になるときの、分子がパックされる様子の違いが関係していると考えたのである。水分子以外の多くの物質では固体の密度が液体の密度より大きいことから、イメージとして箱の中に分子がパック詰めされて規則正しく並べられていく様子が考えられる。しかし水では固体の密度が液体の密度より小さいことから折れ線形の分子が広い空間を持って並べられている。ここで加圧した場合を考える。水以外の物質では分子がパック詰めされている結果、圧縮されてもより分子同士がくっつきあい、固体の状態が保たれると思われる。しかし氷では分子が折れ線形であり、パック詰めのように空間なく詰められているわけではないため、圧縮されたときに分子同士がぐちゃぐちゃに分かれて液体の水になってしまうと考えられる。

A:これはちょっと不思議なレポートで、水の特殊性として「加圧すると液体になる」という事実は知識として知っていたが、その理由は知らなかったので考えてみたという論理展開になっています。もし、高校で、理由は教えずに知識だけ詰め込むような教育をしているのだとすると、教育方法としてはあまり評価できませんが、その理由を大学に入って自分で考えて明らかにしたのであれば、この講義のレポートとしては評価できると思います。