シアノバクテリアにおける光化学系量比調節のシグナル伝達機構の解明
田森美緒
酸素発生型の光合成は、2つの光化学系を必要とする。その為、光環境の変化に応じて、2つの光化学系の励起バランスを適切に調節する必要がある。強光下では、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は、光化学系Iの量を選択的に減少させることにより、光化学系IとIIのバランスを保っている。これが、光化学系量比調節機構であり、長期の強光下において、量比調節欠損株の生育が著しく阻害されることから、重要な強光ストレス応答機構であると考えられている。これまでに、生理学的な研究から、栄養欠乏、光質の変化など、様々な生育条件下において光化学系量比が変化することがわかっている。また遺伝学的には、光化学系量比に異常を示す変異株は多数、強光下における光化学系量比調節に欠損のある変異株もいくつか報告されている。当研究室でみつかったsll1961変異株も、強光下の光化学系量比調節に欠損を示す変異株であり、その原因遺伝子は、GntR型の転写調節因子と高い相同性を示す。このSll1961は、既知の因子の中で、光化学系量比調節のシグナル伝達機構に関与する唯一の因子であると考えられる。 そこで、転写制御のターゲットとする遺伝子を探すべく、sll1961破壊株を用いた網羅的発現解析が行われた。その結果、いくつかの遺伝子が、sll1961の破壊により、転写産物量に影響を受けており、Sll1961が転写因子であることは確からしい。そこで、本研究では、Sll1961を介した光化学系量比調節のシグナル伝達機構を解明することを目的とした。
これまでに、Sll1961のターゲット候補遺伝子の転写産物量が、sll1961の遺伝子破壊により顕著に抑制されることがわかった。また、これらの遺伝子破壊株では、強光下における光化学系量比が野生株と有意に異なることを見いだした。しかし、sll1961変異株と同様のPSI/PSII比を示す株はなく、Sll1961のターゲットについて、今後さらに解析を進めていく予定である。