まだ小さな子供だった頃、祖父の手の甲の皮膚をつまむと、放してもしばらくの間はつままれた形のままになるのが面白くて、しばらくそれで遊ばせてもらったことがありました。自分の手の甲の皮膚の場合は、手を離したとたんにピッと戻ります。当時、祖父は八十代だったのではないかと思います。年を取ると皮膚の弾力がこれほど変わるのか、とかなり印象深く記憶に残りました。五十代になったとはいえ、さすがに、自分の手の甲の皮膚が戻らなくなるまでには、まだもう少しあるとは思いますが、そろそろ皮膚の弾力が気になるお年頃になってきました。八十まで待たずとも、もう少し若い段階での皮膚の弾力を試す方法が何かないかなと試行錯誤を繰り返していたところ、面白い方法を一つ見つけました。
手のひらを広げて、指を甲の側にぐっとそらすようにした状態で、指の第二関節のしわになったあたりをもう一方の手の指でつまむと、放してもしばらくの間まさにつままれた形のままになるのです。息子に同じことをやらせてみると、手を離すとすぐに元に戻ります。妻にやらせてみるとなかなか元に戻りません。境い目は二十代か三十代にあることになります。科学者たるもの、これはサンプルの数を増やしてきちんと検証しなくてはと思い、講義で聞いてみることにしました。植物生理学 I の受講者約五十名にやらせてみると、すぐに元に戻るという学生が90%ぐらいで、残りの数名は元に戻らない、という結果となりました。どうも二十代の大半はこの方法でも弾力があるようです。三十代以降のサンプル数がもう少し欲しい所ですが、教授会ですっくと立ち上がって出席者の弾力検査をする勇気は出なかったのでそのままになっています。妻に言わせると、そこで躊躇するようでは、まだ科学者として一人前ではないそうですが、それなら自分の所の教授会でやって欲しいものです。
自分の指で実験した限りにおいては、親指がすぐに戻るのに対して、中指と薬指は戻りづらいようです。小指と薬指はその中間ぐらいになります。とすれば、指の種類を考慮することにより、さらに細かい弾力の評価ができるかもしれません。「指の関節のしわ利用式皮膚の弾力判定法」というわけです。読者の皆様にも、是非試していただき、年齢と結果をお知らせいただければと思います。十分なサンプル数が集まったら、結果を光合成学会にポスター発表することにでも致しましょう。皮膚の弾力と光合成を結び付けるうまい論理を思いついた暁には、ということですが。
2013.09.09(文:園池公毅/イラスト:立川有佳)