動物は光合成によって生きている
人間は、息を吸っては吐き、呼吸をすることによって生きています。 人間が1回に吸う空気の量は 500 ml程度で、その中には21%に相当する 100 ml 程度の酸素が含まれています。 この酸素の量は、吐く息の中では 75 ml程度に減っていますから、一人の人が一回呼吸をするたびに、25 ml程度の酸素が減ってしまうことになります。地球上には数十億の人間がいますし、呼吸をするのは、人間だけではありません。人間以外の動物も呼吸をしますし、(吸ったり吐いたりはしないものの)細菌でも呼吸の反応は起こります。それらの呼吸による酸素の吸収を全て足し合わせると、ある教科書によれば、さしもの膨大な地球大気中の酸素も、三千年ぐらいでなくなる計算だそうです。
さて、その教科書は、アメリカの有名なSF作家アイザック・アシモフの書いたもので、生化学の准教授もしていたアシモフが書いた数多くの科学啓蒙書の中の一冊です。アシモフの初期のSF作品の一つに「宇宙の小石」という作品がありますが、この題名は地球のことを指しています。確かに、地球は、宇宙空間から見れば、真空に浮かぶ小石のようなもので、地球と宇宙の間では物質のやりとりはほとんどないと言ってもよいでしょう。ですから、呼吸によって減っていく酸素を宇宙から補充できる可能性は全くありません。物質的には地球は孤立していて、自らの内部で何とかしていかなければならないのです。上では、三千年で大気から酸素がなくなる計算でしたが、人類の文明だけでも、四千年以上の歴史があるわけですから、三千年で大気から酸素がなくなるはずはありません。そして、酸素がなくならない理由はもちろん、植物が光合成によって地球に酸素を供給しているからです。動物の呼吸と植物の光合成が釣り合うことによって酸素は地球上を循環し、いつまでもなくならないのです。酸素は、植物の光合成によっていわばリサイクルされていることになります。
植物の光合成と動物の呼吸が釣り合ってこそ、地球上の生態系が成り立つわけですから、ここでちょっと、人間一人の呼吸と釣り合う光合成に必要な植物の量を考えてみましょう。人間一人の呼吸といっても、じっとしている時と走っている時ではまるで違うでしょうし、植物にしても、種類や環境条件によってどのくらい光合成をするかは天と地ほどの差があります。いずれにせよ、おおざっぱな計算しかできません。そこで、ここでは、人間の呼吸については、上で述べた1回の呼吸で 25 mlの酸素を吸収すると仮定することにします。これは、まあ、安静時の呼吸と考えてよいのではないかと思います。植物の方は、光合成の能力が高い植物の一つであるトウモロコシが最適の条件で光合成をしている状態を考えます。人間は1分間に15回ぐらい呼吸をしますから、1時間に吸収する酸素量は 25 ml x 15 x 60 = 22500 ml となり、22.5 l、重さにして約 32 g になります。最適条件におかれた10 cm 四方のトウモロコシの葉っぱが、光合成により発生する酸素量は、1時間に40-45 mg でしょう。とすると、1時間に 32 g の酸素を発生するためには 10 cm 四方の葉っぱが 700 枚以上必要になります。7平方メートルと言うことですね。人間は1日中呼吸をしていますが、植物は昼間しか光合成をできません。また、明け方や夕方や雨の日に光が弱い時も光合成は遅くなりますし、温度が低いために光合成が十分にできないこともあるかもしれません。人間の方を考えても、走ったり飛んだりする時に呼吸はもっと激しくなるでしょう。それを考えると、人間一人を支えるために、場合によっては数十平方メートルの面積の葉っぱが必要でしょう。動物が生きていくためにはたくさんの緑が必要なのです。
植物とその光合成が動物に供給しているのは酸素だけではありません。人間は、食べ物を食べてエネルギーを得るわけですが、その食べ物は動物や植物などの生き物である必要があります。岩を食べて生きていくことはできません。もちろん、岩塩をおにぎりに振りかけて食べることはできますが、岩塩ではエネルギーにならないのです。全ての動物は、別の動物などを食べて生きていくわけですが、もし、この地球上に、動物しか存在しなかったなら、お互いに共食いをして、最後には、残った動物が、他に食べるものがなくなって餓死するでしょう。しかし、実際には、地球上には、植物が存在します。植物は、他の生物を食べることなく生きていくことができ、しかも、他の生物に食べられることによって地球上のほぼ全生命を支えているわけです。そして、植物が、なぜ、他の生物を食べなくても生きていけるかの秘密は、光合成にあるのです。植物は、光合成によって光をエネルギー源とすることができますから、他の生物を食べる必要はなく、いわば、太陽のエネルギーを他の動物などが利用できるようにする変換装置の役割を地球生態系の中で果たしているのです。
地球上のほぼ全ての生物は、動物植物によらず光合成に依存して生きており、直接間接に太陽のエネルギーを食べて生きているのだ、と言ってよいでしょう。