光合成の仕組み

光合成の仕組みを解説するためには、本を一冊書く必要があります。ですから、このようなホームページ上でその仕組みを全て紹介することは不可能なのですが、その「さわり」を少しだけ。

光合成の仕組み1:二酸化炭素を糖やデンプン(有機物)に変える

光合成では、空気中の二酸化炭素を取り込んで、有機物に変えます。この反応(炭酸固定反応)は、葉緑体の中のストロマという部分で起こり、カルビン回路(カルビン・ベンソン回路)という名前が付いています。カルビン回路では二酸化炭素をRuBPという炭素を5原子を含む物質にくっつけて、PGAという炭素を3原子を含む物質2分子を作ります。二酸化炭素は炭素1原子を含みますから、炭素の数で計算すると 1+5=3x2 ということになります。この反応はルビスコという酵素が触媒する反応です。PGAはトリオースリン酸という物質に変換され、トリオースリン酸の一部は糖やデンプンを作るために使われます。残りは、元のRuBPにもどされて、再び二酸化炭素をくっつけることになります。この元に戻る部分を考えると、反応がぐるぐる回っているので、「回路」という名前が付いているわけです。実際には、カルビン回路にはたくさんの酵素とたくさんの物質が関わっているのですが、その本質は、1)RuBPに二酸化炭素をくっつける反応、2)PGAからトリオースリン酸を作る反応、3)トリオースリン酸からRuBPを再生する反応、の3つの段階と考えることができます。これが炭酸固定の基本的な仕組みです。回路を1回転まわるたびに二酸化炭素がくっつけられて炭素1個分が回路に供給されますから、反応と共に、回路をまわる物質の量は増えていきます。そこで、その増えた分に相当するトリオースリン酸を糖やデンプンの合成に使えば、ちょうど反応が釣り合うことになります。

二酸化炭素の化学式はCO2で、炭素1原子に酸素が2原子結合したものです。一方で、代表的な有機物である炭水化物(糖は炭水化物ですし、デンプンは糖がたくさんつながったものです)は、Cn(H2O)nと書くことができます。名前の通り、炭素に水(H2O)がくっついた形をしています。ショ糖の場合、nは6になりますから、C6H12O6となります。二酸化炭素の化学式と炭水化物の化学式を比べると、炭素1個あたりでは、二酸化炭素から酸素を1個はずして、水素を2個くっつけると炭水化物になることになります。酸素をはずす反応、もしくは水素をくっつける反応は、どちらも還元反応ですから、二酸化炭素から有機物を作ろうとすると、還元剤が必要であることになります。また、多くの化学反応は、進めるためにエネルギーを必要とします。生物の体の中で還元剤の役割を果たすのは、NADPHという物質です。またエネルギー源としてはATPという物質が使われます。実際にカルビン回路の中でNADPHとATPがどこで働いているかを調べると、上記の2と3の反応に使われています。従って、NADPHとATPが存在しなければ、カルビン回路はまわりません。そして、カルビン回路にこのNADPHとATPを供給する役目を果たすのが、光エネルギーを使う光化学反応なのです。

光合成の仕組み2:光エネルギーの吸収と変換

光エネルギーを使うためには、まず光を吸収しなくてはなりません。それを行なうのが、光合成色素です。光合成色素には、クロロフィル、カロテノイド、フィコビリンなどがあります。たくさんの分子の光合成色素が集まってタンパク質に結合し、光を集めるアンテナを形成しています。アンテナのどれかの色素分子が光を吸収すると、色素はエネルギーを持った状態(励起状態といいます)となり、励起された色素は隣の色素にエネルギーを渡します。エネルギーはアンテナの中の色素をいわばぐるぐるめぐる形になりますが、最終的に反応中心という特別の光合成色素にエネルギーが渡ると、そこで、酸化還元の反応が起こります。逆に言うと、この酸化還元の反応を引き起こすエネルギーを得るために、アンテナで光エネルギーを集めている、という言い方もできるでしょう。

高等植物では、この反応中心には二種類あり、それぞれ光化学系I、光化学系IIと呼ばれています。この二つの光化学系は一連の酸化還元反応(これを電子伝達反応といいます)のいわばモーターとして働きます。中学で酸化と還元を習う時は、酸素とくっつく反応が酸化と習いますが、実際には、水素が取り除かれる反応も酸化ですし、電子を放出する反応も酸化です。そのため、酸化還元反応のことを電子伝達反応というのです。酸化還元反応の始まりは、水が酸化されて電子を放出して酸素になる反応です。放出された電子は、光化学系IIを通り、次にシトクロムb/f複合体という酸化還元成分を通り、さらに光化学系Iを通って、最終的にNADP+という物質に渡されてNADPHが生成します。これが、先ほど、生体内で還元剤として働いているといったNADPHです。NADPHは還元剤ですから、還元剤とは言えない普通の水から酸化還元反応によって作ることは本来できません。しかし、間にモーターの役割を果たす光化学系Iと光化学系IIが入り、ここで光のエネルギーを投入することにより、普通には進まない反応を進めているのです。つまり、光のエネルギーを還元力という化学的エネルギーに変換している、という言い方もできます。この一連の反応は、葉緑体の中のチラコイド膜という膜上で起こります。光化学系Iや光化学系IIはタンパク質にクロロフィルやその他の酸化還元成分などが結合した巨大な複合体ですが、これらの複合体はチラコイド膜の脂質の中に埋め込まれた状態で機能しています。下に、これらの構造を示した図を載せておきます。図をクリックするともっと解像度のよい画像を見ることができます。

チラコイド膜の光合成装置

光合成の仕組み3:ATPの合成

炭酸固定反応に必要なNADPHがどのように作られるかはこれでわかりました。では、残るATPを作る仕組みはどのようなものでしょうか。実は、上に述べた電子伝達反応自体が、ATPの合成に一役買っているのです。一連の電子伝達反応を担う成分の1つであるプラストキノンは還元される(電子を受け取る)ときに水素イオン(プロトン)をくっつける性質があります。プラストキノンは光化学系IIから電子を受け取り、次のシトクロムb/f複合体という成分に電子を渡すのですが、電子を受け取る時はチラコイド膜の外側で、渡す時は内側になるようになっています。これがどのような仕組みによるかというと、光化学系IIのプラストキノンを結合する場所が外側にあって、シトクロムb/f複合体のプラストキノンを結合する場所は内側にあるという立体構造の特徴によって実現しているのです。そうると、電子が流れるに従って、プロトンがチラコイド膜の外側から内側へと取り込まれることになります。当然、内側のプロトン濃度は高くなり、外側のプロトン濃度は低くなります。水は低きに流れるといいますが、プロトンも同じで、そのような状態では、内側から外側にプロトンは流れようとします。そのエネルギーを使ってATPを作るのが、プロトンATP合成酵素という酵素です。このATP合成酵素は膜に埋まっていて、膜に埋まった部分はプロトンの通る一種の穴になっています。膜の外側の方には酵素の突き出た部分があり、プロトンが穴を通ると、膜に埋まった部分と、外側に突き出た部分が相対的に回転し、その際にATPが合成されるのです。このような仕組みによって、電子伝達反応は、一挙両得という感じで、NADPHという還元力を作ると同時に、ATPまで合成することができるのです。

ここで述べられていないこと

以上が、光合成の基本的な仕組みです。ただ、ここで述べた仕組みは、陸上植物の光合成のものであり、例えば光合成細菌などには当てはまりません。動物といっても、ヒトとライオンでは大きく異なりますが、陸上植物と光合成細菌と藻類では、お互いにそれ以上の大きな違いを持っていますから、本当は、それぞれについて光合成の仕組みを考えていかなくてはなりません。また、基本的な光合成の仕組みはこれでよいとしても、実際には、この仕組みを実現するためにきわめて多くのタンパク質、色素、金属、脂質などが働いています。さらには、光合成の反応そのものも、周囲の環境の変化に応じて常に調節を受けて変化しています。そのような点については、「光合成の教科書」のページをご覧になり、さらに調べて頂ければと思います。