植物生理学I 第10回講義

植物の花の色素と花芽分化

第10回の講義では、植物の花の色の成り立ちや、花芽分化の時期の決定要因などについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回は花に関する内容であった。その中でも最も疑問に思ったのが、高校生の時にも学習した、長日植物が連続暗期が限界暗期未満だとかが形成し、短日植物がその逆であることに対して、なぜ植物が光合成に必要とする明るさではなく、暗さを感知しているのかという点である。まず明るさについてだが、これはどの程度の明るさ(光の強さ)で明るいと感じるかの基準を作る必要が生じる。光飽和点、補償点等,どこにおける光の強さなのか明確にする必要が生じる。たとえば曇りの日と晴天の日でも光の強さは異なる。日の動きによって、日陰になる地域に生育する植物もいるだろう。一方で暗さはそういった天候や生育場所等の差が生じにくい。この理由から植物はより安定な暗さを認識するようになったのではないかと考えた。

A:それほど悪くはないと思うのですが、それこそ、高校生でも同じように考えないでしょうか?もう少し大学生らしいレポートにして欲しいところです。


Q:多くの被子植物の花が目立つのは受粉を効率よく行う為だと学んだ。また、花の色は多種多様であり人間と犬の色認識が違うように色認識は昆虫の種によって異なるはずである。本当に花は色によって目立つのかについて考えた。花粉を運ぶミツバチを例に考えた。調べてみたところミツバチは「黄色、青緑、青、紫、紫外線そして黄色と紫外線の混合色の六つで、…中略… 赤い花は黒に見える」(1)ということが現在わかっている。とすればミツバチにとって赤い色の花は黒い花であり、茶や黒は木の幹や土の色と同じであり色によって花を見分けるとすれば花粉を運んでほしい植物に赤い花はあり得ないはずである。しかし日本に広く栽培されているツツジには赤色の花が多く存在し、ミツバチも共存している。このことから花を目立たせるには色以外の要因があると考えた。まずは蜜の匂いである。しかし蜜の香りは様々な植物が存在する中、際立って目立つとは考えにくい。次に考えたのは花の形だ。花が大きかったり、小さい花が集まって咲くことで目立つことができる。しかも花の形は視覚、つまり色認識も視覚によるものなので認識可能範囲は色による判別と同じことになる。したがって私は花が目立つ為に植物はまず形を変化させその後色による多様性を獲得したのだと考える。
参考文献(1)鈴木袈裟美,鈴木養蜂場はちみつ家のブログ,http://ameblo.jp/suzukiyohojo/entry-11287980748.html,参照2017-06-20

A:引用された部分ですが、そもそも、人間には紫外線は見えません。それなのに、「赤い花は黒に見える」と断言しているのは変だと思いませんか?人間には赤に見えても、ミツバチには紫外線が輝いて見えるかもしれませんよね。もう少し、人の話をうのみにしない姿勢が必要でしょう。人の話をすぐに信じることは、一般的には美点ですが、科学の世界では欠点と言ってよいかもしれません。


Q:今回の授業では植物の花について扱いました。花の特異的な色は、色素によって決定され、よりその色を好む動物によって種が繁栄することを目的としていると言えますが、なぜ我々人間という花の繁栄に自然的にはあまり関わりがない動物であっても花を美しいと感じる人がいるのか、と疑問に思いました。人間は虫よりも感知できる色素は少なく、紫外線などの色は視認することが出来ませんが、他の動物と比較すると類人猿は色を感知する能力が高いことが知られており、これがヒトが花を識別し、特徴づけて愛する一つの要因となっているのではないかと考えました。また、脳の発達した動物として、大脳辺縁系に影響を与える花の香りそのものにもある種の感情が結びつくことが多くなるのではないかということが予測でき、これからもヒトが花を好むことがあるという理由の一つになるのではないかと考えました。
参考文献:Seiko 快適視生活応援団 ホームページ、http://www.kaiteki-eye.jp/sp/、最終閲覧日:2017-6-25

A:「他の動物と比較すると類人猿は色を感知する能力が高い」となっていますが、類人猿よりは魚類の方が上です。ここで言う「他の動物」というのは、夜行性の祖先種のことでしょう。また、「ある種の感情が結びつくことが多くなるのではないかということが予測でき」という部分もロジックが感じられません。もう少し、考えてロジカルに論理を展開するようにしてください。


Q:花色の決定因子は、色素、液胞のpH、金属錯体の形成であり、このうち液胞のpHと金属錯体の形成は制御することが難しいということを知った。おそらく、色素のように遺伝子組み換えを行っても、pHや金属イオンは花の色だけに作用するのではなく、植物全体の生育状況に影響を与えてしまうものであるため、制御が難しいということであると思う。そう考えると、色素に関わる遺伝子は花だけで働くことができるのに、pHと金属イオンの調節に関わる遺伝子は花以外にも作用してしまうと考えられる。よって、色素に関わる遺伝子には花だけで作用するように調節するメカニズムがあるのに対し、pHと金属イオンの調節に関わる遺伝子はそれを持っていないのではないかと思われる。例えば、色素に関わる遺伝子は、pHと金属イオンの調節に関わる遺伝子に比べ、突然変異の確率が高いという理由で、植物全体ではなく花だけで作用するように調節するメカニズムを獲得したのではないかと思った。それぞれの遺伝子の突然変異の確率を調べたら、何か分かるのではないかと思う。

A:組織・器官レベルでの遺伝子発現制御については、いろいろな講義で習っていませんか。植物生理学の分野の話ではありませんが、生物学の基本的なところだと思いますので、もう少し勉強したほうが良いと思います。


Q:今回の授業では植物の花の色や花成反応について学んだ。その中でソメイヨシノやツバキが開花より何か月も前に花芽分化しているという話を聞いた。ソメイヨシノは花の咲く時期に葉を持たないために早めに花芽を形成する理由はわかるが、葉と花を同時に持つツバキはなぜ早くに花芽を形成させるのだろうか。早めに花芽を形成することで強風によって取れてしまったり、動物に食べられたりといろいろな弊害が考えられる。考えられるのはやはり効率の問題である。常緑樹であっても葉の生え変わりはある。授業で見た写真では葉芽と花芽が同じ場所から出ていた。葉芽と花芽を同時に形成する方が効率がよくエネルギーの節約ができる。このことからツバキは葉芽に合わせて花芽を形成しているのではないかと考えられる。

A:「強風によって取れてしまったり、動物に食べられたり」というのは葉芽でも同じですよね。とすれば、葉芽も花芽も葉の展開時期により近い開花時期に作るのが良いはずではないでしょうか。もう少し論理を考える必要がありそうです。


Q:今回の講義冒頭で花が目立つ理由は目立たない花を見ればわかるといったことを扱った。確かに虫媒花は人間から見て目立つ色や形をしていることが多く逆にそれ以外の受粉形式、例えば風媒花や水媒花では虫媒花に比べて目立たない地味な色や形が一般的である。しかしここで虫媒花と風媒花の両立ができないのか気になった。例えば現在虫媒花であってもおしべの形状を変化させれば風にそれを乗せて他の花のめしべに届けたり今の風媒花が目立つ色になって蜜を分泌するようになれば虫が寄ってくるようになるということである。これは一見受粉方法の多様性を確保しており合理的であるかに思えた。だが現存するほとんどの花はどちらか一方に特化している。その理由について考察してみた。まず虫媒花が風を利用しない理由についてはおしべを花弁の外に出すことで飛来してくる昆虫との接触など外的ストレスを受けることを防止するため、といった理由が考えられ風媒花が虫を利用しない理由については花弁などを発達させることによる花粉の拡散効率の低下などが考えられた。いずれも物理的なシミュレーションを行わないことには立証はできないが必ずしも機能の多様性を確保することが良いことではないと思わされた。

A:レポート内部での論理展開は悪くないと思いますが、講義では、散布様式によって花粉の形態が異なるという話をしましたよね。それを考えると、両立させるためには、花粉も二種類作らなくてはなりませんから、そもそも現実的な話にはならないでしょう。


Q:虫や鳥に花粉を媒介してもらう植物の花はたいていカラフルで、人の目を楽しませてくれる。しかし、たとえばチューリップの花の色が赤や黄、白、そして黒であるといったように、同じ種でも多種多様な花の色があると、色で花を見分けているはずの特定の媒介者が寄りにくくなるのではないかと考えた。同じ赤色でも、形状の違いによって例えばバラとチューリップを見分ける、といったことは虫にも可能であると思われる。では同じ形状での色の違いについてはどうだろう。私は、同じ種類の花であれば、可視光部分が異なっていても、紫外線領域や赤外線領域での色は同じなのではないかという推測を立てた。そうであるとすると、人間にはカラフルに見えているチューリップも虫から見ると同じ色なのではないだろうか。

A:これも、このレポートの中では論理が通っていますが、問題なのは、同じ種でも多種多様な色の花をもつ野生植物があるのかどうかです。チューリップは、人間が苦労して育種して様々な花を作り出しているわけですから、そもそも虫や鳥の花粉の媒介を必要としてさえいないでしょう。


Q:花芽の分化・形成と開花は別物だという話があった。ただ、花芽を作ってから長い間休眠させるというのは捕食や、開花前に病気に感染するリスクが高まるのではないだろうか。しかしながら現実にはそういった成長様式を取る植物は存在しているので、どうしてなのか考えることとした。まずメリットとして思いつくのは開花時期の統一、ということだ。花芽形成から休眠を挟む植物は椿や桜など木が多い。付近の環境によって広域での開花時期を統一することで受粉の効率を高めているのかもしれない。また、開花時期が統一されるということは、気候の一時的な変動によって花を付ける時期が個体によってまばらになることも避けられるので、捕食されるデメリット以上に生存戦略としては有効であるとも考えられる。病気に関しては一度形成した花芽が完成されたものであると考えた場合、感染時期が花芽形成後であれば植物全体が死んでしまう前であれば開花させることが可能なのではないかと考えられる。以上のことから、花芽形成を事前に行うことが生存的に不利にはならない可能性は高い。

A:これは、まあ論理的に考えていると思います。ただ、休眠を経ると開花がそろう理由を明示的説明していません。確かにそんな気はしますが、そこを論理できちんと説明することが必要だと思います。


Q:今回の講義は植物の花に関する話題であった。その中で花を咲かせるのに関わる暗期の長さを感知しているのは葉であり、葉から花芽形成を誘導する物質(フロリゲン)を茎頂へと伝達することで花が咲くという話があった。ここで、葉ではなく茎頂が直接暗期の長さを感知すればわざわざフロリゲンを合成し、茎頂まで届けるという面倒なプロセスを経なくてもよいのではないかと考えた。しかし、実際に植物がこのような戦略を取っていることから何かしらの理由があるのではないかと思い、考察した。まず、暗期の長さを感知する際に何をシグナルとするか考えると、当然それは光の強さだろう。葉には光合成を行うための光化学系がある。光を感知する装置として光化学系はうってつけである。ところで、一口に「花芽形成には暗期の長さが関わっている」といっても短日植物と長日植物がおり、暗期の長さの関わり方は真逆である。短日植物は一定時間以上の暗期を感知するとフロリゲンが合成され、長日植物では一定時間以下の暗期を感知するとフロリゲンが合成される。よって、フロリゲン合成のスイッチはそれぞれで真逆の制御を受けているのだろう。具体的に考えてみると、光化学系がセンサーとなっていることから酸素が制御に関わっているのではないかと考えた。短日植物では酸素濃度が高いときはフロリゲン合成は抑制的に制御されるが、逆に長日植物は酸素濃度が高くなるとフロリゲン合成が促進されるのではないかと考えた。以上のように、光化学系からの酸素をシグナルとしてフロリゲンの合成を制御しているために、葉が光を感知する役割を担っているのではないだろうか。

A:これは、一応論理的に考えていますが「光化学系がセンサーとなっていることから酸素が制御に関わっているのではないかと考えた。」という部分が弱いですね。ここが全体の中でも重要な仮定ですが、何の根拠も示されていません。関連するガスだけを考えても、酸素の他に二酸化炭素がありますし、最初から空気の21%を占める酸素より、0.04%しか含まれない二酸化炭素の方が濃度は大きく変化して見やすいはずです。


Q:青色の花を咲かせる植物を想像するとアジサイやアサガオが思いついた。しかし、ウメやツバキのように背丈のある木々で青い花を見たことがない。これはなぜなのだろうか。これは花の青と空の青が被ることを避けるためと考えられる。アジサイの背丈は高くても私の身長程度だが、ウメは私の何倍にもなる。このことから花粉を運ぶ虫は、アジサイ等の背丈では多くの植物が存在して緑も多いことから青い花の存在を認識することが出来るが、背丈が高くなるにつれて周りの植物も減っていき緑も減っていく。このことから、仮に青い花が高い所に咲いていても空の青と同化してしまい見つけにくくなってしまう。これを避けるために背の高い木々では青い花を咲かせないのではないかと考えられる。これまで述べてきたのは、私が青い花を咲かせる高い木を見たことがないということから始まったのだが、もしかしたら私も本来は見ていたのかもしれない。しかし、虫と同様に空の青と同化して確認できなかった、もしくは友達と話しながら歩いたり、歩きスマホ(よくないことだがたまにしてしまう...)をしていたことから上を見ることがなく確認出来ていなかったのかもしれない。今後は人に迷惑にならない程度に木に咲く花の色を確認してみようと思う。

A:考え自体は面白くてよいと思います。ものにもよりますが、桐の木は背が高く、花はかなり青いと思います。あと、下から人間が見上げると青空が背景になりますが、虫が横から見ても、別に空にはまぎれないのでは、という気がします。


Q:本講義において、桜は、8月ごろに花成ホルモンにより花芽分化し、休眠して冬の寒さを凌いだのちに、春の温かい気温を認識することによって開花すると紹介された。しかし、思い返してみると春先の桜の開花というものは枝の先から一輪、二輪、と徐々に咲いていくのが通例である。気温を認識しているのであれば、春に一定の気温になった時点で一斉に咲き始めるはずなので、他の理由があるものと考えられ、2つの仮説が立てられた。1つには、単純に木の先端部と内部では日照および気温に差があるということである。以前実習で葉の生い茂ったトマト苗を用いた際、その温度には確かに大きな差があった。しかし、春先の桜は葉が無く、枝のみの場合が多いのでこの差はトマトほど大きくない、もしくは殆ど無い可能性もあるので、あまり大きな影響があるとは考えにくい。もう1つには、枝の内部で何らかの開花抑制ホルモンがあり、その濃度勾配によるものであると考えた。虫媒花である桜の生存戦略として最も良く無いのは、まだ寒いはずの冬の時期に、数日温かい日が続いただけで開花してしまい、その後再び寒くなってしまう、ということであるはずであるので、冬の間は開花を抑制する必要がある。よって、花成の場合同様、枝以外の箇所で作られた開花抑制ホルモンが枝に濃度勾配を作り、その濃度が薄い所から開花していくものと考えられる。通常先から開花するので、先に行くほど濃度が薄い、つまり幹の方から濃度勾配が作られているものと考えられる。

A:これは、問題設定も、論理の展開もきちんとしていますね。ただ、一時的な温度上昇の危険を回避するためであれば、別に開花抑制ホルモンの存在を仮定せずとも、単に長い期間気温が上がったときだけに開花するようにすればすみませんかね。