植物生理生化学特論 第6回講義

光合成色素と光受容体

第6回の講義では、主に光合成色素と光受容体について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の授業で、光受容体の発色団の種類として、FADやフィトクロモビリンなど、共役系が長い共役結合をもつタンパク質が紹介されていた。共役系が長いことで、長波長の光を吸収することが可能であり、フィトクロムなど、発芽抑制に関わる波長域の光応答がなされている仕組みが分かった。ここで、発芽制御に用いられている光応答の波長域が、なぜ長波長であるのかについて注目すると、まず、植物において発芽という段階は植物体が土壌中に埋まっていることが多い。つまり、土壌中の植物体が光応答をするためには、赤外線のようにエネルギーが微弱な光に反応する必要がある。また、植物体が幼体であることから、エネルギーが小さい光の方が植物体は破壊されずに済む、という点が考えられた。

A:最初の文で「共役系が長い共役結合をもつタンパク質」とありますが、発色団はタンパク質ではありません。また「共役系が長い共役結合」もちょっと「女のおばあさん」っぽいですね。また、後半の土壌中の考察の所は、微弱な(光量の小さい)光と、光子1つあたりのエネルギーが小さい光をごっちゃにしているのではないかと思います。


Q:今回の講義の中で、「理論的にはクロロフィルdの吸収帯に吸収ピークを持つ植物が存在してもよいはずだが、未だにそのような植物は見つかっていない」という話があった。では、クロロフィルdの吸収帯に吸収ピークを持つ植物を見つけるためには、どのような実験系が組み立てられるだろうか。クロロフィルdは、紅藻から発見された赤外領域に吸収帯を持つ色素として知られているが、クロロフィルdが抽出できれば、質量分析法によって、クロロフィルdのアミノ酸配列を決定することができる。アミノ酸配列が分かると、ゲノムアノテーションを利用して、クロロフィルdを持つ紅藻のゲノムからクロロフィルdをコードする塩基配列を特定することも可能である。その後、ゲノムの塩基配列が明らかにされている植物の中から、目的の塩基配列を持つ植物を同定することができると考えられる。しかし、クロロフィルdの塩基配列が存在するからと言って、植物がクロロフィルdを利用しているとは言えない。仮にクロロフィルdのプロモーター領域がメチル化されていると、クロロフィルdの発現が抑制される可能性がある。従って、実際にクロロフィルdが発現しているかどうかを確認しなければならない。クロロフィルdのプロモーター領域がメチル化されているかを確かめるためには、メチル化解析としてバイサルファイトシーケンスが有用である。一方で、細胞にクロロフィルdが含まれるかを確かめるためには、ウェスタンブロッティングを利用することが考えられる。また、クロロフィルdが色素であることを考えると、薄層クロマトグラフィーを利用して、色素タンパク質を分離し、赤外光を吸収する色素が存在するかを確かめることも検討できる。
【参考文献】クロロフィルdを使う新型光合成生物アカリオクロリス,化学と生物,Vol.37,No.11,1999,p.758-763

A:「クロロフィルdは、紅藻から発見された」というのは、歴史的にはそうなのですが、実際には紅藻に付着してたシアノバクテリアがクロロフィルdを含んでいました。「クロロフィルdのアミノ酸配列」以下の記述は、色素と色素結合タンパク質を完全にごっちゃにしているようです。


Q:森林の上側と内側で光子量は異なるが、光合成に使われない赤外光の光子量は上側でも内側でも大差ないと習った。ここで森林形成を思い出した。強い光でよく育つ陽樹と弱い光でよく育つ陰樹があり、初めは陽樹がよく育つ。弱い光でも育つ陰樹は、成長はゆっくりだが陽樹の陰になってしまっていても育つことができるため、最終的には陰樹に置き換わる。参考文献によると、陰樹は弱い光を有効に利用するための光合成の仕組みを備えている一方で、強い光に対する耐性が弱い(強い光にやられて枯れてしまう)。陰樹の中でも大きく育つものは、成長すると強い光に対する耐性が強くなり、弱い光での成長には適応しなくなるとのことだった。そこで私は、陰樹ではこの切り替わりの仕組みにも、フィトクロムが関わるのではないかと考えた。その理由は、切り替わりの仕組みにフィトクロムが関わった方が効率的であると思うからである。授業では、葉に遮られているのか、暗いのかを見分けるために植物がフィトクロムを利用していると習った。陰樹も葉に遮られていて暗いのか、葉に遮られてはいないが光が遮断されている時(例えば夜)なのかを見分ける必要があると思う。そうすることによって夜だから暗いのであれば、次には昼が来るので強い光に対する耐性をもつフェーズに切り替えておけば良いし、葉に遮られているから暗いのであれば、弱い光で成長するフェーズであれば良いと、事前に判断することができる。事前に判断することができれば、効率よく成長もしくは環境に適応することができ、生存率が上がるだろう。
参考文献:日本植物生理学会.「強光下での陰生植物」.みんなのひろば.2022-02-13, https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=5335&key=&target=(参照2024-05-31)

A:これはきちんと考えられていてよいと思います。


Q:今回の授業で、植物の芽生えに対する光の影響について学び、植物を暗所で育てたとき光を求めるためにもやしになることに興味をもった。これについてシクラメンではもやしと同様に光所と暗所で葉柄の長さや体節が大きく異なっていたが、花は特に変化がないことに疑問をもった。私なりにこれはシクラメンにとって自身の生存よりも生殖機能を残す方が重要だからではないかと考えた。また、暗所で育てた時、光合成が行わなくなり、生育に悪いことは明確だが、昼夜問わず明るい場所で育てたらどのようになるのだろうか。私はいつでも光合成ができるため、日照時間が長ければ長いほど生育が早まると考えた。しかし、2020年のシクラメンの生育を研究した実験では、シクラメンの種子を長い日照時間と短い日照時間で比較した所、短い日照時間で保たれた種子の方が早く発芽することができた。このことから、植物にとって最適な日照時間は種によって異なるだろうが、主に決定つけるのはその植物の生息地域に依存しやすいのではないかと思った。また、生育速度を研究する場合連続明で実験を行ってしまうとストレスがかかってしまい、求めている結果がでない可能性があると懸念した。
参考文献:Cornea-Cipcigan, M.; Pamfil, D.; Sisea, C.R.; M?rg?oan, R. Gibberellic Acid Can Improve Seed Germination and Ornamental Quality of Selected Cyclamen Species Grown Under Short and Long Days. Agronomy 2020, 10, 516. https://doi.org/10.3390/agronomy10040516

A:考えようとする方向性はよいと思うのですが、推論がやや雑な気がします。例えば「自身の生存よりも生殖機能を残す方が重要だから」という部分は、あまり考えないとなんとなくそれらしいフレーズですが、実際には、シクラメンは葉柄を伸ばして少しでも光合成をする可能性を高めて生存できるようにしているわけですよね。つまり生存が重要だから葉柄を伸ばしているので、議論の方向性が逆になっています。また、花の場合も明るい場所では虫が来てくれると仮定すれば、生殖機能を残すためには花茎を伸ばした方が得になるはずです。また、後半の種子の発芽の話も、発芽するかどうかと光合成できるかどうかは異なる生理現象ですから、それらを一緒に議論することは適切ではありません。サイエンスにおいては、なんとなくふわっと考えるのではなく、論理を一つ一つ追っていくことが重要です。


Q:今回の植物の光受容体についての講義を受け、なぜ青色光受容体が2種類存在するのかという部分に疑問を持った。講義資料で示されていたスペクトルを見るとフォトトロピンとクリプトクロムはともに、紫外線領域とそれよりも少し波長の長い青色光領域の両方にピークがあったことから、それぞれ異なる領域を主に受容している可能性を考えた。しかしフォトトロピンは細胞膜、クリプトクロムは核内と存在する場所が異なること、またフォトトロピンは植物特有である一方クリプトクロムは動物の持つ光回復酵素と相同性を持つことから、受容する光の波長に違いがあるわけではなく、細胞膜でフォトトロピンが後発的に進化した結果なのではないかというように考えられた。

A:問題設定はよいと思いますが、なぜ「細胞膜でフォトトロピンが後発的に進化」しなくてはいけないのかが結局よくわかりません。波長が同じなら、クリプトクロムを細胞膜に使うことはできないのか、という点を考える必要があると思います。


Q:成川礼博士のシアノバクテリオクロムの変換について、赤色光を吸収したあとに緑色光を吸収する光受容体に変化する理由について考察する。光受容体を2種類持つことのメリットとしては光環境に合わせて光を吸収できる点である。緑色光は他の植物や光合成細菌も使用するため、光量は少ないと考えられる。しかし、波長が短いためエネルギーが多い。一方で赤色光を用いる光合成生物は少ないため、光量は比較的多いが、エネルギーがすくない。これらの緑色光と赤色光を切り替えられることはメリットである。しかし、その切替のシグナルが赤色光を吸収すると緑色光吸収型になるという環境に適応するという意味では真逆の反応をしている。この理由について考える。これは、光が十分に当たると予測される場所ではメリットになると考える。光が十分に当たるところではエネルギーを吸収しすぎることによる光阻害を避ける仕組みとして有効である可能性が考えられる。

A:まず、前半では、光の色と吸収の関係を誤解しているように思えます。葉は一般に綠色ですが、緑色の光を吸収しないからです。後半では、同じように2種類の色によって相互変化するフィトクロームがどのような機能を果たしているのかを述べたうえで議論する必要があるでしょう。


Q:今回の授業の中で、オーロラに関する先生の経験談があった。「人間の眼では白色に見えるオーロラが、精度の良いカメラを通して見ると緑色に見える」という現象である。先生の話によると、人間の眼の感度には限界があり、弱いオーロラでは白く見えてしまうということである。私はその話を受けて、人間の眼の感度の限界を突破するメガネを作成することが出来るのではないかと考えた。
 前提として、現在既に、色覚異常をもっている人のためのメガネは存在しているという(参考文献1)。それに倣って、多少暗いところでも、「白黒の世界ではなく、色が見える世界」を作れるのではないかと考えた。そこで、このレポートの目標としては、「人間の眼では白色に見えるオーロラが、精度の良いメガネを通して見ると緑色に見える」ということにしたいと思う。精度の良いカメラを通して可能なのであれば、そのカメラを両目につければそれで目標達成なのだが、両目にカメラをつけるのは重すぎるという問題がある。そこで、カメラの構造に着目した。カメラの仕組みのうち、欠かせないものは、以下の3点であるという(参考文献2)。①光を集めて像をつくる部品=レンズ、②光を感じ取って記録する部品=感光材料(フィルムやセンサ)、③感光材料に光を当てる時に開く部品=シャッター。このうち、②は、記録をする部分なので、不要であると考えられる。よって、①③を自分の眼の前に装着することが出来れば、裸眼では色が見えないオーロラでも、色が見えるようになるのではないかと考えられる。
参考文献:1.メガネスーパー,「色覚補助メガネとは」,https://www.meganesuper.co.jp/glasses/service/shikikaku3/,参照2024年6月1日、2.キヤノングローバル,「カメラのしくみって?|キヤノンサイエンスラボ・キッズ」,https://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_03_03.html,参照2024年6月1日

A:「精度の良いカメラ」とありますが、僕としては「感度がよいカメラ」と言ったつもりでした。いずれにしても、なぜ、カメラだとオーロラの色が見えるのか、という点が議論の中で曖昧である気がします。また、それと関係しますが、後半の議論も、もし、フィルムやセンサがない状態で、レンズがどこに光を集めるのか、という点を考えると、ロジックが成り立たない気がします。


Q:私が知っているコナラという樹種が優占して生えているとある場所では、地表面がアズマネザサで覆われている。このアズマネザサは地下茎を伸ばすことで広い範囲に密生するため、厄介者として扱われることがある。それは、密生すると地表面に光が届かなくなるため他の植物の芽生えや成長を妨害してしまうからである。ここで疑問に思うのが、アズマネザサは自身が密生することに加え元々コナラが優占している場所であることから光を受け取りづらい環境にあるのにも関わらず、なぜ広い範囲に植生できるのかということである。このことについて、まず成長した植物は光が当たらない場合は茎や葉柄を外側に伸ばすためアズマネザサも広い範囲で生えようとしていることに加え、地下茎をもつ植物はその中に養分を蓄えて必要なときに使うことができるため光が当たらなくても成長に必要な養分を確保できるからだと考える。植物が成長するのに光は必須であるが、アズマネザサのように光がほとんどなくても意外と成長できる植物もいるのかもしれない。
参考文献:https://global.honda/jp/philanthropy/hondawoods/forest/specialist/042/

A:これもロジックに難があります。なぜ広い範囲に生えられるのかという問題設定はよいと思いますが、「広い範囲で生えようとしている」からだという最初の回答は、サイエンスというより、意志の力で事実を乗り越える宗教のように感じられます。また、その次の「養分を蓄えて必要なときに使うことができるため光が当たらなくても成長に必要な養分を確保できる」という部分も、最初に養分を蓄えるためには光合成が必要なわけですよね。「光が当たらなくても成長に必要な養分を確保できる」という結論には全くつながらないように思います。


Q:今回の授業のもやしの実験とシクラメンの実験から光の当て方で植物の形態に影響がでることを学んだ。植物は足りない栄養分を効率よく手に入れるために形状を変化させる。これに近い話として、乾燥している地域では植物の根が伸びるという話を聞いたことがある。これも水を手に入れるために根を伸ばしている。これらのことから仮に植物が必要な栄養要因が二つ以上欠けている場合はどのような形状になるのか考えた。
 考えられるパターンは3パターンである。一つ目は栄養不足で発芽または成長しない。二つ目は足りない栄養分を獲得しようとそれぞれ形状を変化させる。仮に水と光が不足していれば、葉と根の両方が変化するという説である。そして3つ目はどちらか片方だけ成長させる。栄養状況によって3つともあり得る。そこでそれぞれの制限具合を変化させることで変曲点を見つけることができる。日光と水分を制限した例で実験を考える。十分な栄養を与えている植物をコントロールとし、日光及び水分の制限度を変えた植物を複数用意する。それぞれの環境条件での根の変化、葉の変化を定量化し、それぞれの変化量を比で表した時に、比率が変化する点が存在する。その点がその栄養素に対しての補償点と考えられる。形質と栄養制限を比較することで補償点を求められると考える。

A:考えていることはわかりますが、複数の栄養要因が成長に与える影響と言えば、誰しもリービッヒの最小律を思い出すでしょう。そのような場合、もちろん独自の考察が求められているわけですが、やはり前提としては、既に確立した考え方から出発する必要があると思います。


Q:今回の授業で植物体の地上部や芽生えなどは光を感じ葉柄や茎などを光の方向に伸長していくことについて学んだ。では、もう一つの生長点を持っている根ではどうなのだろうか。根が感受するものとして可能性があるのが、水分と土壌中にN、P、Kなどであろう。光が不足している状態で発芽した植物が光を求めて長く伸びていくのと同様に土壌中に水分、N、P、Kなどが減少をしている状態であればやはり長く伸長していくことだろう。しかし、根は茎などとは違いターンオーバーが早い器官である。すなわち、様々な場所に広く根を伸ばし、生産と枯死を多数繰り返しながら必要な水分もしくは栄養を探索していると考えられる。これを確認するには経時的に根を観察する必要がある。しかし、根は土壌中に埋まっているためなかなか確認する方法がないという問題点がある。

A:これは、考え方としてはよいと思います。おそらく「根は茎などとは違いターンオーバーが早い器官である」という部分がレポートの骨格になる部分孔ので、そこをもう少し正面に押し出すと、立派なレポートになると思います。