植物生理生化学特論 第4回講義

クロロフィル蛍光測定

第4回の講義では、遅延蛍光などの特殊な発光現象について触れた後、主にクロロフィル蛍光測定について解説し、最後に光合成研究の方向性について述べました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の講義の中で、クロロフィル蛍光におけるエネルギー保存則は、光合成に利用されるエネルギーと熱放散されるエネルギーと蛍光になるエネルギーの和で構成されるという話があった。では、シアノバクテリアにおいて、熱放散に関与する遺伝子を破壊して、熱放散されるエネルギーをゼロに近づけると、破壊株の表現型はどのように変化するのだろうか。光合成に利用できる光エネルギーには限りがあるため、過剰な光エネルギーは熱放散によって消費される。つまり、破壊株を強光条件で培養すると、過剰な光エネルギーが光合成機構(光化学系)を損傷するため、野生型よりも顕著に生育が悪くなることが予測される。一方で、光エネルギーが適当である、あるいは少ない(弱光条件)場合、熱放散されるエネルギーの割合が少なくなるため、生育には大きな影響を受けないことが予測される。しかし、熱放散によって、その他の生存機能(ストレス応答機構など)が制御されていると、特定の条件下では、熱放散ができないことが律速段階となって、野生型よりも生育が悪くなることが予測される。これを調べるためには、野生型では生育に影響を及ぼさない程度のストレスを、破壊株に与えて、表現型を比較する必要がある。

A:一度レポートを書いた後に、読み返してその論理的な流れをチェックする習慣をつけた方がよいでしょう。まずは、考えたことを書き留めることが重要ですが、例えばこのレポートの場合、最初の問題設定は熱放散がゼロになったときの表現型の予想ですが、それを論じる展開がスムーズではないように思います。特に「特定の条件下では、熱放散ができないことが律速段階となって」の部分などはもう少し言葉を補って前後を続けるようにすると、それだけでも理解しやすくなると思います。


Q:衛星からのクロロフィル測定により、地球温暖化による経時的なサンゴ礁の白化状況をモニターすることが可能だと考えた。

A:「出すだけは出しました」というレポートですね……


Q:クロロフィル蛍光測定について学ぶ中で、そもそもなぜクロロフィルは蛍光色素なのか気になった。まず、蛍光を示さない普通の色素は光を吸収した後、反射したり、黒色のように反射せずに熱に変換させたりするものもある。クロロフィルは光を光合成のエネルギーとして用いるために光を吸収するため、すぐに反射してしまってはいけないだろう。また熱に変えてしまっても、あまりに多く熱が周囲に放出されてしまっては植物が生きていけないと思う。そのため、すぐに反射せず、熱にも変えずに光のエネルギーを一時的に保存するために蛍光する色素が選び取られたのではないかと考えた。
 もう1点、なぜクロロフィル蛍光は赤色を示すのかという疑問が生じた。吸収した波長よりも長い波長を蛍光を示すことは既知である。クロロフィル自体は緑色に見えることから、クロロフィルは赤色と青色の吸収に優れているだろう。しかし、青色の吸収に対して示される蛍光は赤色よりも波長が短いのではないかと思う。このことから、①赤色の方がクロロフィルに吸収されやすいのではないか、②赤色と青色が吸収されたときに青色の方が光合成に使われやすいのではないかという2つの推測をした。②に関して理由を検討したが、1つは波長が短いためにエネルギーが高いことである。エネルギーが高い青色光を優先的に使うことにしておくことで、少ない光量でも十分にエネルギーが使えるようにしているのではないかと考えた。もう1つは水中では青色光の方が深くまで伝わりやすいことから、水中で暮らしていた植物の起源となる生物が青色光を吸収することが多く、青色光を使って光合成をすることの方が得意になったのではないかと考えた。

A:まず前半ですが、「光のエネルギーを一時的に保存するために蛍光する色素が選び取られた」の部分が理解できませんでした。この保存というのは、もしかしたら励起状態にいる間のことを示しているのでしょうか。そうだとしたら、熱になる場合も同じ励起状態を経由します。後半については、この講義の中で蛍光測定の基礎を述べた時に「複数の吸収帯がみられる場合、その最も長波長の吸収帯よりも長波長側に蛍光発光がみられる」と言ったはずです。前提が間違っていますね。


Q:The lecture on chlorophyll fluorescence and various luminescence measurements helps me learn more about the mechanisms by which plants and other organisms emit light and the practical applications of these phenomena. From my perspective, chlorophyll fluorescence offers people a non-destructive method to have further study on photosynthesis, which is important for research on plant health and productivity. I found it interesting that fluorescence yield inversely correlates with photosynthetic efficiency, and this indicates a delicate balance plant in their energy use.
Pulse Amplitude Modulation: The discussion on Pulse Amplitude Modulation (PAM) was particularly refreshing to me. To be specific, the ability to measure photosynthesis without damaging the plant leads to numerous possibilities for research and agricultural production. Additionally, the precision of PAM ensures accurate data, which is significant for scientific analysis.
Koziro Effect: Learning about the Koziro effect, I raised questions about the adaptive strategies of plants and their efficiency in different light conditions. This effect also reminds me of the dynamic and everchanging nature of photosynthetic activity and its responsiveness to environmental changes.
Luminescence Techniques: During the lecture, I also conducted an exploration of various luminescence techniques, such as phosphorescence, delayed fluorescence, electroluminescence, and thermoluminescence. This has improved my understanding of how different materials and biological entities emit light. For example, the nature of phosphorescence makes it suitable for applications like glowing materials and also radiation monitoring.
Bioluminescent and Fluorescent Proteins: The segment on bioluminescent and fluorescent proteins proves their impact on imaging for biological study. The versatility and specificity of GFP have greatly influenced cellular and molecular biology, allowing scientists to visualize biological processes in real time. This innovation has undoubtedly resulted in advancements in medical research and biotechnology.

A:I could not understand what the "Koziro Effect"is. Misunderstanding of "Kautsky effect"? In any event, please discuss fewer topic deeper, instead of many simple discussions. The logic of the discussion is important for the reports of this lecuter, and it would be rather hard to make the very short report logical.


Q:光合成の研究の始まりは植物に水や光などの条件を与えることでどのような働きをするのか、というシンプルな実験から始まった。そこから現在では、X線結晶構造解析によって肉眼では見えない遺伝子レベルの非常に小さい物質を見られるようになった。酸素発生系の構造が明らかになったことで、酸素発生までのプロセスの詳細や系に関わる未知の複合体が理解されるようになり、光合成のメカニズム解明の終わりに近いと考えられた。しかし、構造解析のデメリットである動的な情報不足により、リアルタイムでの光合成の動的変化や、電子の移動経路や水分子の酸化過程など分子メカニズムの問題など様々な課題が残されている。では、今後様々な解析手法が進化することで光合成の研究がどのような方向に進んでいくのか、授業で扱った内容も交えながら考察していきたい。
 初めに、クライオ電子顕微鏡とX線自由電子レーザーによる高解像度構造解析である。クライオ電子顕微鏡は複合体を急速に凍結して観察することで構造が保存され、そのタイミングでの動的なプロセスや結晶化が困難な構造も解析することができる。また、X線自由電子レーザーはX線パル氏を短時間で生成することで、リアルタイムで観察できる。これらを用いることで、構造解析に時間の要素が加わり、X線構造解析で見られなかった分子の動的な変化、および電子や水の酸化などの分子機構の解析が可能である。
 また、ゲノム編集や合成生物学などの手法によって生物内での新しい光合成経路や装置を設計することで光合成の効率を上げる研究が進むことも考えられる。具体的には、光合成の速度はCO2に依存するのでCO2の反応に関与する酵素の遺伝子を編集することや、C3植物にC4型の光合成機構を導入する実験があげられる。光合成効率を向上させることで、バイオマス燃料の増加、農作物の厳しい気候条件の適応など持続可能なエネルギー源の開発につながると考える。
 このように、光合成の研究は時間を含めた4次元の解析によってメカニズムの解析が行われつつ、光合成を利用して持続可能な社会にむけた応用の実験など多方向での研究が行われると考察した。

A:これは、最後に「考察した」とはなっていますが、どちらかというと現状を調べた報告ですね。現状を調べた後、そこから自分なりに考える部分がこの講義のレポートに求められるポイントです。あと、調べた点については、必ず出典をつけるようにしてください。


Q:今回の講義ではパルス変調測定法による蛍光測定を学んだ。この測定法を用いることで、励起光照射による蛍光収率の変動を測定できるとのことだった。またパルス光を用いることで細胞の損傷を抑えられるということから、蛍光照射による損傷を受けやすいGFPの観察などに用いることはできないのかと考えた。もしパルス光による測定や観察が可能になれば、損傷や褪色を最小限にでき正確な測定が可能になると考えられる。

A:クロロフィル蛍光測定にパルス変調が取り入れられて成功したという話を聞いて、それをGFP測定に応用できないか、と考えるところまでは良いのですが、そこで終わってしまったら、論理ではなく、ただのアイデアです。そこで、クロロフィル蛍光とGFP蛍光の何が同じで何が違うかを考えて、それらの点がパルス変調によりどのように改善(もしくは改悪)されるかを考察できると、きちんとしたレポートになります。


Q:クロロフィル蛍光が光化学系Ⅰを基本的に反映できていない点について考える。光化学系Ⅰでは680 nm, 光化学系Ⅱでは700 nmの光で励起されて光合成が始まると調べた(参考文献)。そのため、700 nmの光のみを当てれば、光化学系Ⅱのみが進み、細胞全体の光合成速度をより正確に算出できるのではないかと考えた。そのようにすれば、非侵襲的に光合成速度をより正確に測定したいときに活かせるのではないかと考えた。
 参考:東邦大学 生物分子科学科、光合成色素、https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/bio/photosynthetic_dye.html#:~:text=%E5%85%89%E5%8C%96%E5%AD%A6%E7%B3%BB%E2%85%A1%E3%81%A7%E3%81%AF680,%E5%AD%98%E5%9C%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82 閲覧日 2024年5月18日

A:まず単純ミスですが、波長と光化学系の関係は逆ですね。「光化学系Ⅱのみが進み、細胞全体の光合成速度をより正確に算出できる」の部分がおそらくこのレポートの中で肝の所だと思いますので、なぜそうなるのか、省略せずにきちんと論理を展開して説明することが必要です。この講義のレポートで求められているのはロジックなので、それをきちんと追えるようにしてください。


Q:最近の電子機器は有機ELディスプレイが普及している。これは、電圧がかけられ電子と正孔が再結合したことにより、電気によって発光する有機物質に電気が通り発光する仕組みである。特徴としては有機物を使用していることであり、多種多様にある有機物の種類や組み合わせを変えることで光の色を変えることができる。これまで使われていた液晶のように光の前に色違いのフィルタを置くのではなく有機物自身が色つきで発光できるため、バックライトが必要なくシンプルかつ消費電力を抑えられる。基板や電極の素材によってはディスプレイを曲げたり透明にできることから広く使われるようになってきている。有機ELは名前を聞いたことがあったが調べたことがなかったので、発光に有機物が使えることに驚いた。ただ、元々生物でも発光できる種がいることから有機物で構成されたもので発光できるということは理解しやすく、生活に応用できるように研究されていることが素晴らしいと感じた。

A:これは、やはり調べたことを書いて、それについての感想が述べられているだけなので、この講義のレポートとしては物足りません。大げさに言えば、何か仮説を立てて、それについて情報を集めて考えて、論理を構築して結論に至るという論文を書くようなつもりでレポートを書いて欲しいところです。また、調べたことについては出典をつけるようにしてください。


Q:今回の授業でシアノバクテリアのヘテロシストの時間分化について講義で聞いた時に人為的にヘテロシストの制御を誘導できるのではないかと考えた。ヘテロシストを時間的に制御しているシアノバクテリアでは、光合成ができない夜に窒素固定を行っている。自然界では昼夜でヘテロシストをしているが、実験室では光の照射を自由に変えられる。それを利用してヘテロシストの制御できる。明転時12時間、暗転時12時間をコントロールとして用意する。それとは別に光の照射リズムを1時間置きに変えて飼育する個体を用意する。光に対する応答でヘテロシストを制御しているならば、1時間おきに変化するはずだ。しかしそれでは変化するだけのコストがかかりあまりに効率が悪いので、どこかのタイミングで明転時にも窒素固定を継続すると考えられる。さらにこの明暗の切り替えるサイクルを30分ごと、10分ごとなどさらに短くすることで、明暗とヘテロシストの適応度を測ることができると考えられる。

A:これは悪くはないのですが、最後の結論が「明暗とヘテロシストの適応度を測ることができる」ということであれば、最初にそれを仮説として明示すると、論理の見通しがよくなります。現状では「制御できる」という点から出発しているので、その点が何の役に立つのかがわからずに読者は文章を読み進めることになりますから、あまり親切ではありません。あと、論理構成としては、窒素固定が明暗(だけ)ではなく、概日リズムによって制御されている可能性も考慮に入れた方が、よりしっかりした考察になると思います。


Q:講義の中で、ネンジュモが空間的に窒素固定をする細胞を隔てている例が挙げられたが、空間的に隔てる以外にも、海の中には単細胞ながら時間的に区別することで、窒素固定をするものも複数いる。これについて、どのような進化により機能を獲得したのかについて興味を持った。具体的には、複数回に分けて進化したのが、適応放散したのか?ということである。調べてみると、熱帯地方ではシアノバクテリアが、北極圏では嫌気性細菌が窒素固定を行っている、とのことで、結論から言うと複数の系統で何度も独自に窒素固定を行う仕組みの進化(機能獲得)が行われてきたと考えられる。シアノバクテリアと嫌気性細菌は酸素を生成する者、忌避する者と、真逆の立場であるにも関わらず、結果的に窒素固定を獲得したというのは非常に興味深い現象であると言える。当然ながら、窒素固定で働く系も大きく異なっていることが想像されるが、これを紐解くことは、即ちその生物がどのように進化して来たか、ということは勿論のこと、その環境の生態体系の歴史と生物相を大いに反映するものとして研究対象として大きな価値があると考えられる。特に、最近の海の水温上昇など環境の変化が目まぐるしいため、進化速度の速いmtDNAを用いて、進化の最先端が見られるのではないかと考えている。
 引用文献:https://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2018/20180523.html

A:前半は議論の入り口としてよいと思うのですが、後半は抽象論になってしまっていて、科学エッセイとしては良いのかもしれませんが、この講義のレポートとしてはロジックが弱いように思います。例えば、最後の進化速度の速いmtDNAの部分に話を絞ってより具体的に考察すると、よいレポートになるでしょう。


Q:今回の講義で、光合成の今後の研究において時間スケールを見てみるとスケールが小さく時間スケールも小さいものと、スケールが大きく時間スケールが大きいものが必要になるというお話があった。私の専門分野は生態学であるので、スケールが大きく時間スケールが大きいものを調べていることになる。一方、スケール自体が小さいものの時間スケールが大きいものはなかなか調べられていないということになる。こういった分野にはどういったものがあるのかを考えてみる。生態学の分野では、しばし植物のフェノロジーの問題が大きくなる場合がある。そのことから考えると、例えば季節ごとにおける光合成の活性を制御している分子や、タンパク質などの構造を、年間を通して変化を見ることができれば面白いのでないかと考えた。また、より大きいものであれば個体サイズで、開花のタイミングなどを司る遺伝子がどういった環境を感知して、どのように反応することで開花まで至るのかを調べられればかなりニッチであり、画期的な発見ができるのではないだろうか。

A:方向性としては悪くないと思います。後半の二つのアイデアも面白いので(ただし開花のタイミングを司る遺伝子については、かなり詳しく調べられていると思いますが)、あと少しだけより具体性をもって議論できるとよりよいレポートになるでしょう。アイデアを思いつくことも重要ですが、そのアイデアを実際に実験に落とし込めるかどうかは、研究にとって非常に重要なポイントです。