量子進化 -脳と進化の謎を量子力学が解く!-
ジョンジョー・マクファデン著、共立出版、2003年、468頁、1,800円
本書は、生物の進化を量子力学的な観点から説明できるのではないかというアイデアを展開した本で、著者は生物学者でありながら、その量子力学の説明も比較的きちんとしており、量子力学の通俗的な入門書としても、なかなかのものである。しかし、肝心の量子力学の生物への応用となると、あまり説得力があるとは言えない。科学の本でありながら、意識の説明の部分の説明などで通奏低音のように感じられるのはキリスト教的世界観である。人間は万物の霊長であり、非生物と違うのはもちろん、ただの動物とは違い自由意志をもっている、という考え方が前提としてある。「その他の電磁場に意識があるのか、という質問には答えることが出来ない。」と言いつつ、すぐに「だが私は、無生物の電気装置には意識はない、と強く感じている」と続け、また、「われわれはみんな、頭の中には思考があり、そこにはわれわれの行動に対する意志の力があると強く感じている。」と「感じる」ことが重視される。得られたデータから結論を考えるのではなく、自分が正しいと感じる結論に合うデータを探している、という印象すら受ける。また、生物の進化の説明として、中立説が全く無視されているのも問題である。むしろ生物学的側面については、一種のエッセーと思って読んだ方がよいかも知れない。翻訳は、物理と生物の言葉が両方出てくるので大変だったことは予想されるが、やはりもう少し専門家に聞くなりして改善できたのではないかと思う。核磁気共鳴の説明の中に「弛緩」という言葉が出てくるが、これは「緩和」のことを言いたいのだろう。「加水分解反応と結合させる」とある「結合」は、おそらく「共役」だろうし、「電子はミトコンドリアに差し込まれ」とか「陽子勾配を受ける」など、日本語になっていない記述も多い。このあたりは、再版の際に改善を期待したい。